「新兵だけの部隊を俺が、ですか?」
ある日の朝、炎蓮様に呼び出された俺は執務室で炎蓮様からそんな事を言われていた。
「おぅ、お前が調練した蓮華の隊。ありゃあ中々見事な仕上がりだった」
「お褒めに預かり光栄です」
『江東の虎』『狂虎』、何れもその武勇を以て周辺諸侯に知れ渡っている異名。そんな炎蓮様から『武』や『軍』に関して褒められる、と言うのは至極光栄な事だと俺は思っている。
「だがあくまで蓮華のための、隊だからな。だから今度は貴様の直属部隊を一から作って見せろ、副官候補も二人つけてやる。蓮華の直衛、と言う立場は変わらんが一武官から将にも格上げだ。貴様はそれだけの実力がある、ガタガタ抜かすヤツがいたら力で黙らせろ」
「・・・・御意」
『武官』から『将』へ、その差異は大きい。持つ権限、それに伴う責任は段違いだ。異論の一つも唱えたかったが、それすらも封殺するように言い募られた。最早覚悟を決めてやるしかあるまい。
「風央!」
「ハッ」
炎蓮様の呼びかけに、風央殿が竹簡を差し出しながら口を開く。
「兵数は五百、副官候補として朱桓、董襲の二名を付ける」
朱桓と董襲、名は聞いている。それぞれ祭殿、粋怜殿に師事していたが、その能力の偏重具合が原因で既存の部隊に入る事が出来ずにいたと。要するに、そのクセが強い二人を俺の下に配属すると言う事は俺の技量がかなり試される事になるだろう。
「既に第三練兵場に集まらせている、今後どうするかはお前が好きにすると良い」
「部隊の特色、方向性、人員、全部テメェの好きにしな」
疼く。
軍を率いるようになって僅か数ヶ月、
「全身全霊にて」
静かに拱手し、俺はそう答えていた。
―――――――――
「俺がこの隊を率いる事になった蒋欽だ」
一刻後、俺は炎蓮様に宛てがわれた兵たちを目の前に挨拶をしていた。だが・・・・まぁ、アレだ。ただ新兵を預けられて、ハイ終わり、で済むとは思っていなかった。思ってはいなかったが、一目で見て分かる。明らかにカタギでは無いような、何らかの修羅場をくぐったのだろうと思われるヤツばかり。
朱桓は如何にもお嬢様と言う感じだが、それ故に、融通の効かなさと言うのを感じた。うん、蓮華様に近い感じだろうか。
董襲は・・・・俺に近い。元賊か、ゴロツキか。まともな人生を送らず、喧嘩に明け暮れ、相当の場数を踏んだ。そう言う風格を兼ね備えている。
「先ずは・・・・戦ってみるか、お前ら。俺一人とお前ら全員、あぁ武器は模造品だけだぞ?」
俺の宣言にザワつき始めると、朱桓が挙手をするので、俺は頷いて発言を許可する。
「何故、そのような事をする必要があるのでしょうか?」
「正直・・・・お前らからの視線で『ナメられてる』と感じた、だから先ずは俺がお前らの上に立てる『武』があるのだと納得させる事にする」
あの後、風央殿からこっそりと忠告されていた。『お前に預けるヤツらはクセが強すぎるぞ』と。恐らくは、気性の荒さ故に周囲とソリが合わなかったり、凶相であるが故に避けられてそれが原因でもめたり、そんな感じなのだろう。そう言った連中を従わせるには、一も二もなく、力を見せつける事だ。
「逆に俺を打ち倒す事が出来たヤツは孫権様に推薦してやってもいい」
更に響めきが大きくなる。俺の実力はともかくとして、俺が蓮華様付きの武官だと言う事は世間一般にも知られている事実だ。その俺が、推薦をするといった。その途端、一気に熱量が上がった。中には殺気すら滲ませている者もいた。
「そうだな・・・・開始は四半刻後、制限時間は一刻。その間に俺を倒せればお前らの勝ち、以上だ」
SIDE 董襲
『儂は古い人間だからなぁ・・・・故に、お前には同世代にも傑物がいる。と言う事を知ってほしいと思う』
そう言って風央様に送り出されたのは近頃、頭角をあらわしてきた蒋欽に任されると言う新設部隊。元賊であり、風央様に敗北し孫家に降った男。確かに、風央様と数合でも撃ち合えると言うだけでも相当な腕前だと言う事は分かる。だが、俺から見れば『その程度』だ。故に孫堅様や黄蓋様、程普様、張昭様、張紘様の宿老方、孫策様、周瑜殿と言った次代を担う存在が評価し、目をかける意味が分からない。最近では不仲であったハズの孫権様までもが、重用し始めている。俺には見えていないだけで何かがあるのだろうか?
「俺がこの隊を率いる事になった蒋欽だ」
風央様との戦いから数ヶ月、今のところは別段。あの頃と変わった様子は見受けられない。新参である上に、極端に目立った武功を挙げているわけでもない。だからこそ、他隊で上手く行かず弾かれてここに来た連中からすればそんなヤツに率いられるのは気に入らない。そんな雰囲気がアリアリと感じられる。
「先ずは・・・・戦ってみるか、お前ら。俺一人とお前ら全員、あぁ武器は模造品だけだぞ?」
正気を疑う言葉だ。五百人、まともに調練を受けていないから新兵扱いはされているが、単純な戦闘力、経験で言うならば下手な新兵よりも上なのがコイツらだ。そのぐらい、見て分からないものだろうか?それとも自らの力量すら測れないような愚物だったか?
「何故、そのような事をする必要があるのでしょうか?」
そう異論を唱えたのは朱桓だ。呉家四姓、朱家の一人娘。本来ならば陸遜殿のように、即幹部格として迎え入れられてもおかしくないだけの実力を備えているらしい、のだが当人の希望により一士官としての道を選んだらしいと言うもの好きだ。第一印象としては生真面目、が服を着て歩いているようなヤツだと思っている。
「正直・・・・お前らからの視線で『ナメられてる』と感じた、だから先ずは俺がお前らの上に立てる『武』があるのだと納得させる事にする」
・・・・成る程道理だ。力こそ正義の世界で生きてきた連中を従えるには力を見せつけるしか無い。だからこそ、それだけの力量があるか否か。
「逆に俺を打ち倒す事が出来たヤツは孫権様に推薦してやってもいい」
その一言に兵たちの発する気が一回りか二回り、大きくなる。当然といえば当然、孫権様直属武官からの推薦。ともなれば即出世と言う事、そこにやる気を出すのは一般的な考え方だろう。
「そうだな・・・・開始は四半刻後、制限時間は一刻。その間に俺を倒せればお前らの勝ち、以上だ」
蒋欽は既に準備をしていたようで、その場で仁王立ちしたままに兵たちが武器を選び、準備をする様子を眺めている。
「蒋欽殿」
「どうした?」
手空きだったようなので、問いかけをする事にしてみた。
「勝てるのか?」
それなりに素地が出来ている、しかも士気が跳ね上がっている五百名を相手だ。孫堅様や風央様、孫策様あたりならば、難なくして遂せそうではあるが・・・・
「勝たなければならないだろう、でなくば孫堅様や韓当殿の期待を裏切る事になる」
「――――――」
思わず、絶句した。勝たなければならない、そう断言した蒋欽の目を見たから。
「・・・・アンタが率いる隊、楽しみになってきた。武運を祈るよ、『蒋欽将軍』」
『鷹の目』。甘寧らをはじめとした揚州領内の賊出身の者たちが口を揃える蒋欽『殿』の異名、俺は弓術が巧みだと聞いていたのでその事を称えての異名だと思っていた。だが、今その思い込みに対する勘違いを是正するに至った。
「刻限だ。始めるぞ」
正しく『鷹』、大空を舞う猛禽の王者。その風格を感じさせる眼光を俺は垣間見た。
「では、不肖この朱休穆の合図にて開始とさせていただきます」
結果は見えた。
「始めっ!!!」
先を見据えるように大空を舞う『鷹』と、甘言に惑わされ目先の利に囚われた『井の中の蛙』。どちらが勝つかなど・・・・
分かりきった結末だろう。
第七話でした。
正直・・・・主人公なのに口調がやや定まらないっ!
まぁ、それはそれとして。部下として朱桓、董襲が登場。まぁ、呉のオリキャラはあと一人だけ追加して打ち止めにしようかと思っています。