真・恋姫†無双 呉史『神弓の章』   作:軍団長

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孫家の日常其の一

「休暇・・・・ですか?」

「えぇ」

 

新設する隊の各種準備を俺は進めていた。用意された宿舎がボロボロで寂れていたため、修繕と清掃。配給する装備の確認、正式な転属の届け出、蓮華様の近衛兵の指揮権を後任へ移譲し引き継ぎ。と、せわしなく動き回り、一通りの事が完了しさて調練、と思ったところに蓮華様からの待った、が入った。

 

「貴方、ここに来てから一度もまともに休みをとっていないでしょう?聞いたわよ、休暇を与えた日も思春や明命、悠那、陽たちを相手に報告書の書式や書類仕事に関連する指導をしていた、って」

 

事実だ。冥琳殿や穏を除けば、若手側で書類仕事を他人に教えられる程度に出来るのは俺だけ。だが自分の仕事中に他人に教えながらやる程の器用さは無い、故に休暇を利用し教えていた。思春たちも、未だに遠慮と先達への隔意があるのか直接指導を仰ぐ事を躊躇う事のほうが多いが故だ。

 

「貴方の隊の兵たちの転属届けが正式に完了するまで残り二日、その間は貴方と貴方の隊の者は休暇よ飛鷹」

 

上官命令、ともなれば否とも言えない。何より本格的に始動すれば俺基準ではあるが、厳しい鍛錬を課すつもりでもある。その前の骨休めを部下たちにさせられる、とも思えば悪い提案では無い。

 

「ありがたく受け取らせて頂きます」

 

部下たちには、恐らく既に連絡は行っているはずだ。俺は・・・・どうしようか。弓の手入れついでに久しぶりに狩りにでも行こうか、それとも・・・・

 

「そ、それで・・・・ね?」

 

と、考えを巡らせていると、蓮華様がどこか落ち着きの無い様子でいる。

 

「もし・・・・もし良かったらなのだけれど、私も明日は休みなの。だから、本当にもし良かったらなのだけれど・・・・私の買い物に、付き合って貰えない・・・・かしら?」

「構いませんが」

 

二日あるのだ。何をするべきか迷っていると、気が付けばまた仕事のことに手をつけてしまいそうな気がする。それならば、蓮華様の誘いに乗って見るのも良いだろう。最初の頃よりも打ち解けてきたとは言え、まだ俺と蓮華様の間はどこかぎこちなさが残る。微妙な距離を詰めるなり空けるなり、見極めるためにも良い機会だと思う。

 

「そう、ありがとう飛鷹」

 

そう言って微笑む蓮華様、その笑顔を見た途端に、心の臓が一際大きく鼓動した気がする。・・・・が、すぐに治まる。今のはいったい・・・・?

 

 

SIDE 一刀

 

「一刀、ちょっと良いかしら?」

 

ある日、蓮華に呼び出された俺は思わぬ相談を受けてしまう事になる。

 

「その・・・・ね、飛鷹を・・・・あ、逢引に誘いたいのだけれどもどうやって誘えばいいのかしら?」

 

一瞬。意識が飛びかけて、それを何とか持ちこたえながら俺は口を開く。

 

「なんで急にそんな事を?」

 

『友情』の感情からもっと仲良くなりたい、と言うのであれば良い。だがもし蓮華の中に芽生えた感情が『恋愛』であったならば、何が起きるか想像出来てしまう。思春や風央さんをはじめとした一部の『蓮華至上主義』派が暴走し、炎蓮さんや雪蓮さん、祭さんら『面白ければなんでもいい』派が状況を片っ端から引っ掻き回し、俺や冥琳、雷火さんをはじめとしたどちらでもない面々が後始末に追われる事になるんだろう。だからこそ、仔細までを聞き出し、ゲームで見た諸葛孔明のような的確なアドバイスを蓮華にしなければならない。

 

「自分の中の感情の意味を知りたい、とでもいえば良いのかしら?」

 

んー!黒に近い灰色?拙い、扱いにかなり困る。もしだ、もし蓮華の中での再確認が終わった時、それが『友情』だったならそれはそれで問題無い。だが『恋愛』だったら?今後、鈴の音に怯えながら暮らさなければならなくなるかもしれない。

 

でも、蓮華とは最初こそ確執があったけど今では良い友達だ。飛鷹も、少し取っ付き難い印象はあったが今では最も信頼している相棒のように思っている。だからこそ、その二人がそう言う関係になるかも知れないと思うなら俺は応援してやりたいと思ってる。粋怜さんや悠那や柚杏、明命あたりは味方になってくれるだろうし、穏と祭さんも条件次第では引き込めるハズ。

 

「分かった、それなら・・・・」

 

むしろ燃えて来た。将として俺よりも圧倒的格上な風央さんと思春、韓当に甘寧と史実でも名将として語られる二人を相手にしての戦い。場合によってはもっと相手は増えるかも知れない、だが上等だ。もし飛鷹と蓮華が、そう言う関係になることを望むのであれば・・・・俺は全力でその手助けをしよう。

 

―――――――――

 

『明日の朝食の後、北門で待ち合わせましょう』

 

普段着に袖を通したのは久しぶりな気がする。思えば、武官としてか文官としてか、休日であっても動き回っていたからか仕事着の確率が高かった。解れたりしているところがなく、助かったといえば助かったが。

 

「?」

 

視線を感じた気がした。一つだけではない、二つ、三つ・・・・もっと多いか?だが城門前に、仮初にも将軍職に就いている者が見慣れぬ普段着でここにいるのだ。自意識過剰と思われるかもしれないが、道行く兵士たちからの視線なのかも知れない。

 

「飛鷹!」

 

呼び声に、振り向けばそこには蓮華様。急いできたのか、頬を上気させながら駆け寄ってくる。

 

「待たせてしまってごめんなさい」

「・・・・いえ、俺も今来たばかりですので」

 

・・・・何故だろうか?蓮華様の事は元から綺麗だと思っていた、が今日は何時もより割増でそう見える。化粧をしている様子もなく、服装、髪型も平時と変わらない。

 

「?どうか・・・・したの?」

「いえ、行きましょう」

「そうね」

 

蓮華様が微笑む、と俺の心の臓がまたしても跳ねる。本当に・・・・何なんだ、いったい。

 

SIDE 翔馬(董襲)

 

「・・・・何をしておられるのですか?」

 

兵士たちの転属手続きが終わる明日までは休暇、そう伝えられた俺は朝食を済ませ城内を散策していた。風央様以外の上官に仕えるのも初めて、風央様以外の上官に興味を持ったのも初めて。今後の己の立ち位置をどう模索すべきか、共に副官に就く休穆との付き合い方。そんなことを考えていたら、ありえない光景を目にした。

 

「翔馬、静かにせよ」

 

風央様が、何かを覗き込むように隠れていた。それだけではない、孫堅様、孫策様、尚香様に黄将軍、程将軍、北郷殿、甘寧、徐盛、周泰、凌操、顧雍と孫家の今と次代の基幹を担うであろう人々が、同じように門を挟んで覗き込んでいる。北郷殿に手招きされ、歩み寄ってから指差す方向を見れば連れ立って歩く飛鷹殿と孫権様。

 

「まさかとは思われますが・・・・要職の方が揃いも揃って出歯亀行為を成している、と?」

「まぁね」

 

頭の痛くなる返答だった。孫堅様、孫策様、尚香様は分かる、娘や妹や姉の恋愛ごとだ、心配半分、おもしろ半分なのだろう。風央様と甘寧は心配全部、なのだろう。北郷殿もお二人とは友人関係にある、孫家の方々よりも心配側に寄っているだろう。だが残りは間違いなく、黄将軍をはじめとして面白全部だろう。

 

「蓮華はクソ真面目だからなぁ・・・・もしかしたら嫁にも行かず、一生独身とかそんな未来も想像しちまったが・・・・飛鷹が貰ってくれるってんなら願ったりだ。いざとなれば北郷に無理矢理襲わせる事も考えたからなぁ」

「・・・・頼む頼む頼む頼む頼む飛鷹飛鷹飛鷹飛鷹」

 

孫堅様の爆弾発言に、北郷殿が顔を真っ青にしながらブツブツと呪詛のようにつぶやいている。種馬、だの女誑しだのと言われてはいるが北郷殿は女性との付き合いに対して真摯に、段階を踏んで歩み寄る人だ。暴力的な手段を嫌うし、よもやすれば幹部格の中でも別の国の出身と言う事もあってか最も常識人であるとも言える人だ。

 

「ふむ・・・・」

 

だが、だ。存外にお似合いの二人であるのかも知れない。孫家のお姫様と元賊の棟梁、まるっきり正反対な身分の二人だが思いのほか『しっくりくる』。恋が人を変えると言う事もある、風央様が仰っていた孫権様が幾つか抱える『課題』も、切り開けるのかも知れない。

 

「北郷殿、微力ながら手助けしよう」

「本当に!?」

「あぁ」

 

北郷殿は頭は切れるが腕っ節は期待出来ない。俺は腕っ節にはそれなりに自信があるが、さほど頭が良い訳では無い。だが、二人が組めば何とかなるかも知れない。

 

「成し遂げよう、北郷殿」

「あぁ!」

 

さて、参ろうか。




第八話でした。

蓮華様ルートに入りました。基本、蓮華様一筋で行くつもりです。どこかで気がかわって複数ヒロインのハーレムルートに移行する可能性も微レ存ですが。

そして、気が付けばお気に入り登録数が五百を突破していましたね。本当に皆さん、ありがとうございます。そして今後共よろしくお願いします。

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