マザークラスタ襲撃から1週間が過ぎた
私は今模擬戦用の特別な空間にいる
シャオの提案通り三英雄と戦うことになったのだ
私が先に待機しており、後から三英雄が来た
「君が件のアウルか。まずは先のアークスシップへの襲撃より皆を守ってくれたこと、礼を言わせて欲しい」
「そうですね。我々アークスはフォトンを扱えないと何も出来ませんから、あの場に貴方が居て下さらなければどうなっていたことか」
「何でも大量の幻創種を相手に1人で戦ったそうだな!その強さ、素直に賞賛に値するぞ!」
白い装甲が栄えるキャスト、レギアス
高身長で細身のニューマン、カスラ
しかしもう1人は…筋骨逞しい漢?
三英雄のクラリスクレイスはまだ年端もいかない少女だと聞いていたのだが
「ん?どうした、俺の顔に何かついているか」
「大方貴方が誰か分からないのでしょう。すみません、本来ならクラリスクレイスが来るはずだったのですが、今彼女は任務で遠征していましてね。今日ここに来ることは出来なかったので代わりに彼に、ヒューイに来ていただきました」
「なるほど、そういうことでしたか」
「疑問は晴れたかね。では―」
レギアスは何やら小さな端末のようなものを取り出す
そしてその中に手を入れたかと思うと…なんとそこからカタナが出てきた
その刀身はまるで銀河のように美しい
カスラも宙空からオウム貝のような武装を取り出す
ヒューイはその両手に燃え盛るナックルを装着した
…終刀・創世、燐具フローレンベルク、破拳ワルフラーン
六芒の持つ特殊な武装、創世器か
詳しくは知らないが、これを出すということは本気ということか
それに対し私は生身
フォトンもなければ武器の1つもない
誰もが圧倒的不利…だと思うだろう
しかし私に取ってはそれこそが最も得意とするスタイルなのだ
拳銃とナイフを使うのも良いが、やはり私は徒手空拳が合う
それに私はここオラクルのアークスが取る戦い方を知っている
だが彼らは地球の、何より私の本来の戦い方は何一つ知らないはずだ
そこに勝機はある
そこにシャオの放送が入る
『双方、準備は良いかな。この模擬戦は全アークスシップへ生中継されている。アークスの皆はアウルの動きを良く見て、生身での戦い方の参考にしてくれ。そして君達は…相手が死なない範囲でなら何をしても良いよ。それじゃあ、そろそろ始めようか。アウル、頼んだよ』
私はポケットからコインを取り出し、指で弾いた
戦闘開始の合図はこの地球式ですることになっていたのだ
私はシラットの構えを取る
これなら絶対に見たことはないだろうから不意を突けるだろう
コインがゆっくりと落ちていき、段々と地面へ迫っている
彼らも構えており、開始と同時に攻撃する意思が感じられた
そしてコインが、地面に触れた
その瞬間私はレギアスの眼前に移動し、関節を取って破壊を試みる
レギアスは当然逃れようとするが、アークスは関節技などほとんど使わないので対処の仕方が分からないのだろう
逃げるどころか余計に極めやすくなった
そしてレギアスの右腕の破壊に成功した
一瞬の出来事であったのと私の技法、力量を彼らが測りかねている初撃だからこそ出来ることだ
そのまま左腕も破壊したかったのだが、流石にそこまで甘くはないようだ
ヒューイが突進しながら拳を突き出してきた
かなりのスピードだ
ギリギリで躱したが、拳圧により発生した風で切り裂かれるかと思うほど鋭い
「大丈夫か、レギアス!?」
「問題ない、とは言えぬな。少なくとも右腕はもう使えないだろう」
「これは回復テクニックでも直せそうにないですね…あの一瞬でここまで破壊するとは、恐ろしいですね」
「そんな会話する余裕があるのですか?」
「なっ!?」
私は話しているカスラの後ろに周り込んでいた
そのまま後ろから心臓の位置目掛けて貫手を放つ
カスラはフォトンを利用してミラージュステップと言われる回避行動をとった
1秒ほど姿が完全に消え、離れた位置にまた現れる
避けられた…が、完璧ではなかったようだ
「ぐっ…」
カスラの背中から血が流れる
私の左手の指にも血が付着している
「素手でフォトンの壁を突き破り、肉を抉ったですって?何をどうしたらその様なことが…」
「皆よ、バラバラに戦ってもまず勝てないであろう。力を合わせるぞ」
レギアスがそう言うと3人が固まる
カスラは回復テクニックを使い、もう傷を治してしまっている
どうやら一定以上のダメージを与えないと容易く回復されてしまうようだ
ならば蓄積させるのではなく一撃で大きなダメージを与えれば良いか
「しかしさっきカスラに傷を負わせた時、確かにアウルは俺達の正面にいたよな。それが何故後ろにいたんだ?」
「分かりません、まるで分身したように感じました。フォトンを使ってもあんなことは出来ないはず…」
「恐らくは地球に伝わる秘技であろう。今ここで詮議しても無意味だ。今はただ、彼女を倒すのみ」
レギアスが左腕で創世を構える
ヒューイとカスラもそれに倣う
暫くお互いに静止した
このままでは勝負は決さない
…動くしかないか
私はわざと大袈裟に真っ直ぐ突っ込んだ
当然それを見逃す彼らではない
レギアスがカタナを振り、ヒューイが拳を撃ち込む
そしてカスラもテクニックを放ってきた
誰の目にも明らかに当たると思われた
しかし、彼らの攻撃は空を切る
私は途中から突っ込むように見せかけて全力で後ろに下がる、という体捌きをしていたのだ
その結果私の目の前にそれぞれの攻撃が放たれ、一瞬だが彼らに隙が出来る
まずはダメージを与えているレギアスを行動不能に追い込むのが先決だろう
数を減らせばそれだけでかなり楽になる
私はレギアスのカタナを右足で踏み、そのまま勢いをつけて顔面に回し蹴りを放った
だが直前で脱力し、姿勢を崩すことでレギアスはそれを避けた
こうなるとむしろ私に隙が出来てしまう
その隙を突いてヒューイが攻撃を仕掛けてきた
裂帛の気合と共に放たれた拳が唸りをあげて迫ってくる
この体勢からでは避けるのは不可能だ
私は全身を勢いのついた独楽のように回転させる
この回転力で衝撃を弾いたり、力の方向をずらしてダメージを緩和するのだ
ヒューイの攻撃の威力は凄まじく、弾くことは出来なかったが、それ故に力の流れをずらすのは容易である
更に私はその拳を脱力したレギアスの方へ向けた
ヒューイが私を一撃で仕留めようとした攻撃が、負傷した上に力を抜いたレギアスの身体にマトモに当たれば…行動不能に出来るだろう
しかしそれはカスラによって邪魔された
炎テクニックの小さな爆発を起こしてヒューイの拳の向かう先をずらしたのだ
威力だけでなくこの様な繊細な技術も使える、だからこその三英雄なのか
ともかくこのまま接近したままでは私が危ない
安全を確保するためには離れなくてはならないが、それはあちらも分かっているだろう
だから私は敢えてそのまま攻撃に転じた
今体勢が1番崩れているのはヒューイだ
私に力の流れを変えられた上にカスラのテクニックで更にずらされている
その隙を逃す手はない
私はヒューイに向けて貫手を連続で放つ
ヒューイはその連撃を防ぐので手一杯になっている
一切の加減なく放っているのだが、これを受けきれるのか
どうやら思っていたよりも素の身体能力にも秀でているようだ
そんな私のガラ空きの背中へレギアスがカタナを振り下ろそうとした
かかった
私はヒューイの方を向いたまま半歩下がり両腕を真後ろに向けて突き出し、レギアスへ手首の裏を当てた
私の攻撃をマトモに受けたレギアスは後ろへ吹っ飛び、場外へと落ちた
そのままではヒューイから反撃をされかねないのでまた連撃を叩き込む
カスラも攻撃をしようとしてはいるのだが、私とヒューイの距離が近いために下手にテクニックを使えないでいる
例え座標系のテクニックであっても物凄く近くにいるものには当たってしまう
今の私とヒューイの距離はほぼゼロである
私の腕の半分より短い距離しか空いていない
こうしてテクニックを使えなくしてやればカスラは封じたも同然…だと思っていたのだが
視界の端でカスラが武装を変えるのが見えた
次の瞬間私へ射撃が飛んでくる
予期せぬ攻撃に体勢を崩しかけたが、なんとか回避して距離をとった
躱しきることが出来ず、腕にかすってしまった
「確かにそこまで接近されていれば私はテクニックを使えません、それで私の行動を防ごうとしたのはお見事です。中々目の付け所が良い。しかし残念ながら私はテクター/レンジャーなんですよ。サブクラスとしてレンジャーを設定している、つまりはこういうことも出来るということです」
カスラの手にあるのはテクニック用のタリスではない、ガンスラッシュと呼ばれる斬撃と射撃が両方可能な特殊な武装だ
カスラはどちらかと言うと事務方であまり表に出てこないので情報があまり入らない上にフローレンベルクのせいで完全にテクニック一曲型だと思っていた
私もまだ油断することがあるのか…精進しなければ
そこからは激戦となった
どうやら彼らも私のスピードに慣れてきたようだし、技法も少し分かってきたみたいだ
だからこそ慣れていないうちにレギアスを退場させられたのは大きい
彼も健在で慣れられていてはかなり厄介であったろう
やはり最初に1番厄介な者を狙って良かった
ヒューイと直接撃ち合っていればカスラの邪魔が飛んでくるしカスラを狙えばヒューイが間に入ってくる
ヒューイに超接近した場合はガンスラッシュの射撃が、少し離れればテクニックが飛んでくるしでやりづらくてかなわない
…そろそろだろうか
私はここまで敢えてシラットというトリッキーな動きをする武術を使ってきた
これは目が慣れていないうちに1人を倒す以外にも目的がある
私は地球の古今東西、様々な武を教わっている
そのことを利用し、彼らがある程度慣れたところでいきなり全く違う動きをするものへ切り替えれば新たな隙を作ることが出来るだろう
私はヒューイへ急接近し、また貫手の連打を放つ
「またそれか、いい加減慣れてしまったぞ!」
本人の言う通り完璧に防御されてるし反撃までしてきた
だがそれでいい、慣れてもらわなくては困るのだ
カスラが銃を放つ姿勢を取る
ここだ!
私は唐突に動きを変えてヒューイの腕を掴んで私の方へ引っ張り、同時に足を引っ掛けて身体を反転させる
私の狙い通りヒューイは体勢を崩した上にカスラの銃撃を喰ら…うことはなくワルフラーンで防いだ
この瞬時の対応力は流石だ
しかし体勢を崩していることに変わりはないし、私は腕を掴んでいる
となればすることは1つ
私はそのままヒューイの身体を持ち上げ床に何度も叩きつける
毎回力の方向や投げ方を変えているので対応することが出来ず連続で投げることに成功した
カスラが射撃をしてきたがそれを逆に利用し、ヒューイの身体で防ぐと同時にダメージを与えさせた
テクニックを使っても同じようにしてヒューイにのみダメージを蓄積させるつもりだ
それを察したのかカスラは攻撃をやめ、ヒューイに回復テクニックを使用してなるべくダメージが蓄積しないようにしている
私も何度か使ったことがあるので分かるが、テクニックの使用にはかなりの集中力が必要だ
そのためどうしても隙が生じる
その隙を突き、私はヒューイを遠心力で放り投げてカスラへと当てた
2人は吹っ飛び、壁へと激突する
カスラは割とすぐに立ち上がったが、ヒューイは立てないでいる
いくら回復テクニックで傷を癒していたとは言え、何度も投げられ叩きつけられたことによる身体内部へのダメージは回復しきれなかったのだろう
それに加えて私が蹴りなどによって脳を揺らしていたのでそのダメージが非常に大きい
立ち上がろうとするも、途中で倒れてしまうのを繰り返している
カスラはヒューイのことが気になるようだが私から目を離せば一瞬の内に接近されてやられると予想したからか私の方しか見ていない
「ヒューイ、大丈夫ですか!?」
「ぅ…ぐ、お…ぉぉ………」
ヒューイはマトモに喋ることも出来ないほどのダメージを負っている
流石に少しやりすぎただろうか?
あれでも加減はしたのだが、加減をし過ぎても今度はダメージが通らなくなるので調整が難しい
特にヒューイはかなり頑丈な肉体を持っていたし、フォトンによる防御も厚かった
だからそれなりに手加減を弱めたのだが…まぁ立ち上がろうとすることは出来ているし、大丈夫だろう
これでヒューイも戦闘不能、残るはカスラだけだ
私は彼に問いかける
「まだ戦いますか?正直これ以上傷つけたくはないのですが」
「これだけやっておいて良く言えますね、随分と残酷な手段を取っているように思えますが」
「それが本来の私のやり方ですからね。殺さず、後遺症も残らないように手加減するのも難しいんです。今までは上手く行きましたが次も上手くいくとは限りませんよ。殺しはしないでしょうが、後遺症が残るかもしれません」
「くっ…」
「どうしますか?」
「…分かりました、降参しましょう。私は2人のように白兵戦をすることは出来ませんし、貴女が相手では不利です。おまけに最近事務作業ばかりしていたせいか鈍ってしまったようです。たまには運動もしないといけませんね」
「ありがとうございます。シャオ、聞いての通りです」
『そうだね、これ以上続けてもあまり意味はなさそうだしここらで終わりにしようか。勝者はアウルだ、これにて三英雄対地球人の模擬戦を終了する』
私はヒューイの元へ駆け付け、様子を見る
呼吸、脈拍ともに異常はない
瞳孔の拡大は見られるが、これはじきに治まるだろう
しかし万が一がないとは言えない
私はヒューイの身体を抱え、カスラに頼む
「すみませんが、医務室への案内と取り計らいをお願いできませんか?」
「お安い御用ですよ、こちらです。それにこの模擬戦では怪我人が出ると予想されていましたから既に準備は整っているはずです。手配しておきましたからね」
流石だ
事務作業では彼の足元にも及ばないだろうな、私は
レギアスの機体は場外へ吹っ飛んだあとすぐに待機していた技術スタッフが運んでいる
これもカスラの手配によるものだ
ヒューイを医務室へと運んだので帰ろうとしたら呼び止められた
「貴女も一応検査だけでもしていかれては?ヒューイの拳が何発か入っていたでしょう」
「見えていたんですか…本当に鈍っているか、怪しいですね」
カスラの言う通り、実はヒューイと白兵戦を行っている時に数発受けているのだ
全て軸をズラしたのでほとんどダメージは残っていないが、マトモに当たっていれば一撃で私は沈んでいただろう
見抜かれてしまったし、私も万が一があるかもしれないので今日は世話になることにした
異常がないか完璧に調べ上げるのでここで泊まっていかなければならないらしい
今日はユカミの料理を食べることは出来ないのか、残念だ…
そんなことを考えながらベッドに横になると、流石に疲れたのかすぐに眠気がきた
明日はヒューイとレギアスの様子を見に行かないといけないだろう
それに新しいクラスをどうするかも考えなければ…ダメだ、眠い
色々と考えなければならないことはあるが、取り敢えず今は寝よう
明日のことは明日になってからやればいい
そう決めて私は意識を眠の中へと落としていった