新人アークス、アウル【完結】   作:フォルカー・シュッツェン

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終わりと始まり

あれから40分程が経った

私は未だにアラトロンと対峙している

具現によって強化されているのか私の知っているアラトロンとは比べ物にならないほど強い

だが私もフォトンを身に付け、かなり強化されている

守護輝士達を待たせているので、これ以上長引かせるわけにもいかない

私は勝負に出ることにした

1度距離を離し、呼吸を整える

 

「なんじゃ、疲れたのか?」

「多少は。それは貴方も同じなのでは?」

「まぁの…お互いそろそろ決着を付けたいといったところか。儂もマザーのところへ援護に行きたいのでな」

 

どうやらアラトロンも同じ腹づもりのようだ

これは都合が良い、わざわざ誘う手間が省けた

 

「では…勝負といきますか」

「望むところよ!」

 

私達は武器を構える

そのままじりじりと近づいていく

互いが互いの間合いに入った時、私達は同時に動いた

私が突進するのに対してアラトロンは大槌で薙ぎ払う

私はそれを跳躍で避けるとアラトロンへ刀を振り下ろそうとした

しかしアラトロンは手首を上手く使い、薙ぎ払った勢いそのままに私の方へ大槌を返してきた

これを受ければ私の負けだし、これを躱せば彼に大きな隙が出来る

まさに一か八かの勝負だ

私も跳躍したばかりのためここから位置を大きく変えることは難しい

更に彼の大槌はかなりの速度でこちらに迫っている

一瞬の判断ミスが命取りだ

ここは私も一か八かの勝負に出なければなるまい

私は左手に全身のフォトンを集中させ、それをすぐさま解放して軽い爆発を起こす

その爆風と反作用の力を用いて身体を急速に下へ落とした

その場で考えた即興の技だ

上手くいく保証などなかったが、どうにか出来たようだ

そのまま私は生身で床に強く打ち付けられる

一応受け身はとったが、衝撃を完全に吸収することは出来なかった

 

「くっ…」

 

一瞬息が詰まる

アラトロンは大槌で自らの巨体を強く叩いてしまい、かなりのダメージを受けた

 

「ぬぅ…」

 

お互いに傷を負ったが、私の方が遥かに軽傷だ

当然次の動きを取るのも私が先だった

私は再びフォトンをその身に取り込むとその全てを刀に流し、怯んでいるアラトロンの真芯へと突き立てた

 

「ぐおおおぉぉぉぉ!」

 

コアを砕かれたアラトロンは雄叫びをあげ苦しむ

その時適当に振り回された彼の腕が私に当たり、後ろへ大きく吹き飛ばされた

直前で気づいてガードはしたのでそれほどのダメージはない

アラトロンの方を見るとその巨体は白く輝き、本来の彼の形へと戻った

輝きが消えて彼の姿が見える

アラトロンは肩で息をしており、苦しそうに胸を抑えていた

 

「がはっぁ…よもやあれを躱すとはの、やりおるわぃ」

「かなり、ギリギリでしたけどね…」

「儂の負けじゃ、アウルよ。主はこの先へ行くが良い…儂は、少しばかり休ませてもらうぞ」

 

そう言ってアラトロンは床に崩れ落ちた

意識は失っていないが、もう戦う力は残されていないのだろう

 

「では失礼します、アラトロン殿」

「あぁ、行くが良い」

 

ここに放置したままだとエスカダーカーに襲われるかもしれない

本当なら助けたいが、これ以上守護輝士達を待たせる訳にはいかない

私は皆が待つ場所へと急ぐ

 

私が着くと、そこには床に座りこむマザーと息も絶え絶えな皆の姿があった

1人見覚えのない少年がいるが、それは帰還してから聞こう

どうやらマザーを撃破することに成功はしたらしい

しかし、様子がおかしい

口論しているのか?

マトイがこちらに気付いた

 

「あ、アウルさん。無事だったんだね…良かった」

「ええ、私は大丈夫です。それより遅くなってすいません。皆さんは大丈夫ですか?」

「大丈夫、とも言い難いかな…流石に私もかなり疲れたし、火継ちゃん達も」

 

彼女の示す先には火継と氷莉が座り込み、肩で息をしていた

話をすることも出来ないほど疲労しているようだ

炎雅も座り込んでいるが、まだ話をする力は残っているようである

 

「いやぁただでさえマザー強いのにさ、そこから色々あってダークファルスにまでなっちゃってね…本当に大変だったよぉ」

 

ミシャーが教えてくれる

ダークファルスとは簡単に言うと、深遠なる闇が生み出す超強力なダーカーのことだ

今回は深遠なる闇関係なく生まれたというかなり特殊なケースのようだが

しかしその場に間に合わなかったのが悔しい

そしたら少しは彼女達の負担も軽かったろうに…

だがそんなことを気にしている場合ではない

どうやらマザーとユカミが口論しているようだ

 

「復讐なんてやめましょうよ!」

「うるさい!貴様に何が分かる、失敗作としてゴミのように捨てられた私の気持ちが分かるとでも言うのか!」

「それでも…それでも復讐なんてダメです!」

「ええい、黙れ!」

 

なるほど…素直なユカミらしい

だがあれでは火に油を注ぐだけで逆効果だ

守護輝士達はどうすれば丸く収まるかを考えてはいるものの戦いで疲弊したのもあって、いい考えが浮かばないのだろう

ならせめてここでマザーを宥め、遅れた分を取り戻さねばなるまい

幸い…なのか分からないが私には彼女の気持ちが少し分かる

私は前へと出た

 

「久しぶりですね、マザー」

「アウル?久しぶりだな、何をしに来た?」

「勿論、貴女の蛮行を止めにです」

「…貴様も復讐など下らないことはやめろと言うつもりか」

「いいえ。復讐したければすればいい、それは誰かに許可を貰わなければならないことではないのですから」

「なに?」

「しかし復讐される側から抵抗されるのは当然です。そして今は私もアークス、貴女を止めにくるのは当然のこと。ですが…」

 

一呼吸置いて私は続ける

 

「例えアークスでなくとも貴女の復讐は止めに来たでしょうけどね」

「なぜだ」

「復讐したって、どうにもならないからですよ。貴女の気持ちが晴れることもなく、ただただ孤独が残るだけ…」

「知ったような口を聞くな!」

「知っているから言ってるんです!」

「!?」

 

一瞬辺りに静寂が訪れる

普段大声など上げることがない私がしたのだ

穏やかに振る舞う私しか知らない者にとってそれは衝撃的であろう

 

「知っている、だと?」

 

マザーが問う

 

「ええ、私は復讐を成し遂げた後に何があるのかを知っています」

「まさか…」

「そう…私は復讐の名の元に、ただの怒りと恨みで人を殺したことがあります。だからこそ、声を大にして言います。復讐はするなと」

「…」

「貴女は復讐すれば気が晴れると思っているでしょう?復讐すれば楽になれると…そんなことは決してありません。復讐した先にあるのは」

「あるのは、なんだ?」

「絶望です」

「なっ…」

「意外、ですよね。私もまさかそうなるとは思っていませんでしたから。でもこれは事実なんですよ。復讐を成し遂げると、復讐する前よりもより深い絶望が待ち受けています」

「なぜそうなる?」

「復讐心は、いわば自己防衛本能なんですよ。心が壊れないための。苦しくて悲しくて寂しくて辛くて恨めしくて憎くて…そうした感情が自分を殺してしまうのを防ぐ為に『復讐』という目的を掲げ、それらの向かう矛先を変える、もしくはそれらから逃れようとするのです。復讐の為に動いていれば一時的に心を守ることが出来ますからね。しかし次第にそれだけの為に生きるようになってしまいます。心を守る為の手段がそのまま目的になってしまうのです。そして目的を達成してしまうと…全てがなくなります。今更違う目的なんて出来ない。その先にあるのはただの空虚。何も無い。光もなければ闇もない、そんな空虚の中に突然放り込まれることになります。復讐を成し遂げた達成感すらも皆無です。そしてそんな空っぽになった自分に今まで忘れていた負の感情が一気に押し寄せ、止めどなく溢れてくるんです。涙も枯れて自分を慰める術を全て無くし、ただただ言い様のない苦しみだけが永遠に続く。記憶を全て失うか、死ぬ以外に解放される手段はありません。絶望に打ちひしがれ、何を呪うことも出来ずに時間だけを消費していくだけのあんな思いを貴女に味合わせたくありません」

「…そう、なのか。しかしそれが本当だとしても今更どうにも」

「どうにもならないなんてこと、ないよマザー」

 

息を整えることが出来たのか、火継が話に入ってきた

 

「マザーはさ、ただ寂しかっただけなんだ。誰かと繋がりたかったんだよ」

「いきなりなんだ?そんな世迷言を」

「世迷言なんじゃないよ、ちゃんとした根拠があるんだから」

「なに」

「エーテルはマザーから発生した。話を聞けば、元々はアークスの人達が使ってるフォトンと同じものらしいじゃない。それなのにエーテルは通信技術に、繋がることに特化した。それはその発生源であるマザーが、誰よりも繋がりを求めたから!違う?」

「酷い論理だな、もはや邪推だぞ」

 

そう言いつつもマザーの顔はかなり穏やかになってきている

 

「まぁ私も根拠があるとは言ったけど、正直穴だらけだなって思うよ。でもさ、マザークラスタにいたから分かることもある。マザークラスタにいる人は皆独りぼっちで誰かとの繋がりを求めている人だった。あたしも…そうだったしね。それもマザーが自分と同じような人を放っておけなかったのが理由なんじゃないかなって思うよ」

「それもまた邪推だ…と言いたいところだが、よく分からない。君達の話を聞いている内に何をしたいのかも分からなくなってしまった」

「それなら1度心をリセットして、ゆっくり考えましょう?それでもやっぱり復讐したいのならして良いと思います。もっとも、何度だって止めに来ますけどね」

「そうよ、何度だってぶん殴ってやるんだから!」

 

これでもうマザーは大丈夫だろう

戦闘には間に合わなかったが、やれることはやれた

私は置き去りにしてしまったアラトロンの無事を確かめるためにマザーを彼女らに任せ、1度戻ることにした

 

アラトロンと戦った場所まで戻ってみるとアラトロンは疲れからか眠っていた

発生源であるマザーを撃破したことでエスカダーカーの出現がほとんどなくなったのだろうか

ともかく無事で良かった

このまま放置しておくのも忍びないのでアークスシップに連れていこう

私は彼の身体を抱え、また彼女達のいる場所へと戻った

 

戻ってみると状況が一変していた

アースガイド最高責任者のアーデムが突如現れ、マザーを殺してその力を奪ったらしい

疲弊し切った彼女達ではアーデムに勝つことは不可能だったのだが、マザークラスタのファレグが加勢したおかげでアーデムは撤退

皆が深刻な面持ちをしている

私はまたもや大切な場面に居合わせることが出来なかったのか…だが今考えていても仕方がない

考え事をするには疲れすぎている

私達は1度帰還することにした

 

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