私達はオフィエルに対して優勢を保っていた
それもそのはず、まず人数差が酷いことになっている
こちらはアウル、樒、ユカミ、火継、氷莉、炎雅の6人でオフィエル一人に襲いかかっているのだ
オフィエルは領域展開の能力をフル活用し、なんとか凌いではいる
火継達の3人だけなら或いは勝てたかもしれないが…私と樒がいることでバランスが崩れたようだ
基本的には私と氷莉が突撃してオフィエルの意識を集め、樒と火継が不意打ちをする
炎雅とユカミが銃撃でオフィエルの動きの阻害、牽制を行う形で戦闘を有利に運んでいた
それでもオフィエルの能力は厄介なもので…
「きゃっ!?」
「ヒツギちゃん!大丈夫?」
「意識を敵から離すな、氷莉!」
「え?ってきゃああぁぁ!」
氷莉の意識が逸れた一瞬を狙ってオフィエルが隔離領域を展開して氷莉を捕らえる
そのまま領域内で何かしらの施術を施すつもりのようだ
「コオリ!!このっ」
「取り乱すな、火継」
「でも!」
「既に手は打った、私に合わせろ」
「わ、わかった」
火継はそのまま突進していく樒に付いて行き、オフィエルに真正面から接近戦をする
先程まで不意打ちに徹していたのにいきなり180度違うことをすることに火継は違和感を感じた
それはオフィエルも同じようでしきりに周囲を警戒…しようとしているが樒が裂帛の気合いと共に全力で攻撃を仕掛けているので出来ていないようだ
「あ、あああぁァァァ!?」
隔離領域内に捕えられた氷莉が叫ぶ
早く助け出さないとどうなるか分からない
それなのにアウルの姿は見えないし、何処で何を…
そこまで考えて火継は気が付いた
アウルが、何処にも見当たらない
ここはちょっとした広場のようになってるとはいえそこまで広くはない
隠れられるような場所もないのに…いったいどこに行ったというのか
その時だった
「なっ…が、あぁ………」
オフィエルが苦しみだした
それと同時に氷莉を捕らえていた領域が霧散する
「コオリ、大丈夫!?」
「うっ…うん、大丈夫だよヒツギちゃん」
「でもなんで突然…あ」
見ると、オフィエルの身体が地面から少し浮いている
彼の能力で浮いている訳では無いようだ
苦しそうに首を押さえて…いや、何かを取り払おうとしているように見える
やがてオフィエルの後ろに、誰もいなかったはずのその空間に
アウルが現れた
まるで透明化の術を解除するかのように少しずつその姿が見えてくる
どうやらオフィエルの首を後ろから片手で締め上げ、身体を持ち上げているようだ
それによってオフィエルは氷莉を捕らえていた領域を展開し続けるだけの負担に耐えられなくなっているのだ
そのままアウルは後ろに振り返ると同時にオフィエルをこの場に展開していた領域に向けて投げ飛ばし、叩きつけた
「がはっ、あ…」
オフィエルはなんとか立ち上がった
それだけの力は残っている…いや、残されたと言う方が正しいのだろうか
「オフィエル、それだけはさせませんよ。人の存在を歪ませることだけは、絶対に」
珍しくアウルが怒りを顕にしている
オフィエルのやろうとしたことは外道の行いで、アウルが最も嫌う行為であった
「くそ…最早領域を出す力もないか。だが、君達をこの場に捕らえることが出来た時点で私の目的は達されている」
「やはりこの領域だけは元より準備していたものか」
「どういうことだよ、樒さん」
炎雅が樒の呟きに反応して聞く
「先の戦闘中で具現していた領域はやつがその場で能力を発動して作っていたものだ。しかし私達を捕らえているこの大きな領域だけは、やつが前々から準備をして…分かりやすく言うなら儀式を行って展開したもの。故に最早やつの管理下にはなく、例えやつを殺したとしてもこの領域だけは残り続ける可能性すらある」
「おいおい、どうすりゃ良いんだよ…!」
「やつに儀式をやり直させて解除するしかあるまい。それこそ…拷問をしてでもな」
「拷問……」
火継が難色を示す
しかしそれ以外に出来ることもない
だからこそアウルもオフィエルの意識を残したし、立てるだけの力も残したのだ
アウルとてもうやりたくないことだが…ここで躊躇えば地球が、宇宙が無くなる
その時だった
派手な音を立てて隔離領域が、割れた
「なっ!?馬鹿な…私の領域が……!」
全員が驚く中領域を割った主が優雅に歩いてきた
「存外脆いものですね、ノックしただけで割れてしまうだなんて」
「魔人…!」
オフィエルが怒りとも悔しさとも恐怖とも付かない声と表情をして招かれざる来訪者を睨む
ファレグだった
ファレグはそのまま領域を手で撫でる
「ふむ…エーテルを薄く展開し、空間を具現しているといったところですか。面白い手品ですね。しかし脆い、まるで術者のよう」
そう言ってファレグはオフィエルを睨んだ
「くっ…」
「何をしているのです?こんなものとっとと壊して先に進んでしまいなさいな」
「…良いのかよ、あんた」
「ええ、アーデムを殺すのはあなた方が失敗した後でも可能ですからね。それに私には丁度今やりたいことが出来てしまいましたので」
ファレグはオフィエルの方を見ると僅かに目を開く
「この勝手に人類に絶望している痴れ者に人類の素晴らしさを教え込む…再教育というやつですね」
「…わかった、行こうアウルさん!」
「そうですね…感謝しますよ、ファレグ」
「おや、ではこれは貸しと言うことで…そのうち私と闘って下さいね?」
「…良いでしょう。考えておきます」
「あらあら…楽しみにしておきますわ。では、道をお開けしますね」
「や、やめっ…!」
オフィエルの嘆願虚しくオフィエルの領域は割られた
闘気で空間そのものを歪めてエーテルを叩き割ったのか
やはりファレグは私よりも相当戦闘経験が長い
本当に何者なのだ…
ファレグのおかげで隔離領域から脱出出来た私達は更に下層へと進んでいた
しかし本当に助かった
領域からの脱出もそうだが、それ以上に…昔のようなことをしなくて済んだのが1番ありがたい
だから彼女の望む通りきちんと闘うつもりだ
フォトンも使って、それ以外の…まだ隠してる力も……
「おい、アウルさんよ!聞いてるのか?」
「っ!! すいません、少し考え事をしていました」
「…あんだけのスピードで走りながら考え事出来んのかよ」
「それで、どうしました?」
「いや、流石に早いからもう少しゆっくりして欲しいってのと…もう一つは、オフィエルの野郎を吹っ飛ばした時あんたは何も無い空間から現れたように見えた。ありゃなんだ?」
「あぁ、あれですか…あれはアークスの技術と私の技術を統合したものですね。フォトンによる空間認識疎外領域を私の今着ているスニーキングスーツから発生させて私の身体を包みます。それと同時に私が気配を完全に殺し、更に周囲の人間の死角を取り続けることで完璧に姿を眩ました…ということなんですが、分かりました?」
「あ〜まぁ…なんとなくは」
「取り敢えずアウルさんが化物だってことは分かったわ…」
「常に相手の死角に入り続ける…か。流石姉上だな、勉強になる」
「技を盗むのは勝手ですが…それはアーデムを止めてからですし、そう悠長に話してる場合でもなさそうです」
辺りを見渡すとあの新型幻創種が大挙して押し寄せようとしていた
「わわわ、あんなに沢山…流石にしんどいよぉ」
氷莉が弱音を吐いた
しっかりしろと言いたいが、確かにあの量はきつい
さて…どうするか
その時であった
「ぬりゃあぁぁぁぁぁぁ!!」
雄叫びと共に凄まじい衝撃が辺りに迸る
それによって接近してきていた幻創種達が散っていく
舞った土煙が消えたそこにいたのは
「アラトロンさん!」
氷莉がその姿を認めて声を掛けた
「ほほっ久しぶりじゃのう、娘っ子よ」
「アラトロン殿…何故ここに?」
私は問うた
「なあに、決まっておろう。お主に助けられた礼をしに来たのよ。ここは儂に任せて主らは先へと往くが良い」
「じいさん一人でやるなんて無茶だ!」
「そうなのです、私達もやるのです!」
炎雅とユカミが反対する
しかし
「誰が一人じゃと言った?」
「え?」
「ラプラス、マクスウェル!」
新たな幻創種が現れたかと思うとその幻創種は敵を砕いていく
「遅刻じゃよ、オークゥ」
「うっさい、たったの数秒くらいでしょうが!そんなので非難されるの100%納得出来ない」
「落ち着いて、オークゥ。その数秒で地球が終わるのかもしれないんだし、仕方ないよ」
「それは…そうだけど!」
あれは、世界的な数学者のオークゥ=ミラーと世界的な言語学者のフル=ジャニース=ラスヴィッツ…?
マザークラスタの使徒達がなぜここに
「生きてたのか、お前達!」
炎雅が驚きの声を上げる
「当ったり前でしょ!あたしとフルが、あんな無様な死に方してたまるもんですか」
「ファレグが来てくれなかったら確実に死んでたけどね」
「そういうことじゃ。義により助太刀させてもらうぞ」
「あたしは別に助太刀しに来たわけじゃないし、マザーの仇を取りに来ただけだし!」
「でも私達はまだ怪我治ってないし、本調子とはいかない。クゥっぽく言うなら50%がいいとこ?」
「ぐっ…あたしは身体関係ないし、戦うのはラプラスとマクスウェルだし」
「無意味に強がるでない、オークゥよ。誰が為そうと結果は変わらぬ、過程よりも結果を重んじよ」
「わーかってるわよ、もう!」
オークゥが炎雅に向き直る
「そういうことだから、10%色男!あんたたちは先に進みなさい!」
「…何事も適材適所。私の能力は時間稼ぎにうってつけ」
話に聞いた限りではフルの能力は時間遡行する空間を具現すること
確かに時間稼ぎするのにピッタリだ
「マザーの仇に目にもの見せてやれぬのはちと癪じゃが…なに、こうして協力に現れただけでも十分に想定外であろう?」
話を聞いた炎雅は
「…死ぬなよ」
その一言だけを言った
それで十分だった
「はん、そっくりそのまま言葉を返すわよ!10%色男」
その言葉を最後に私達は下層へと走り出した
アーデムを止めて、地球を救うために……
最下層に位置する祭壇、そこでアーデムは儀式を行っていた
その様子はとても美しく、厳かで…まるで一枚の絵画のようだった
その場に通じる唯一の扉
その扉が開かれた
それが意味することはただ一つ
彼女らが、来たのだ
「来られましたか、オフィエルも存外役に立たないなぁ」