最後の扉を開けた先にアーデムはいた
魔法陣のようなものが光を放ち、その中心で彼は片膝を付いて祈りを捧げているように見える
「アーデム!!」
その姿を認めた瞬間、炎雅が発砲した
しかしその銃弾はアーデムに届くことは無く、何かの力によって弾かれる
「来られましたか。存外オフィエルも役に立たないなぁ」
アーデムは普段と何一つ変わらない調子でそう言った
「てめぇには聞きたいことが山ほどある…けどな、まずは1発ぶん殴ってからだ!!」
「わぁ、凄い剣幕だね炎雅。君とは長いこと一緒にいるけど、そんな顔初めて見るよ」
「落ち着きなさい、炎雅」
私は彼を宥めて前に進み出た
そして少しだけ怒気を孕んだ声で問う
「アーデム、一つだけ質問があります。答えてくれますね?」
「えぇ、良いですよ。なんです?」
「ここに来るまでに見たことも聞いたこともない幻創種が何体も居ました。それと同時にここに居たはずの職員が一人残らず消えていた…貴方はまさか……」
「あぁ、そうですよ。私がやりました。新たなる世界に耐え得る身体へと進化させたのです。最初は器が持たずにすぐに瓦解してしまいましたが、実験を繰り返す内に―っ!」
アーデムは最後まで言葉を続けることが出来なかった
アウルの姿が一瞬消えたかと思うと次の瞬間にはアーデムの目の前へと迫っており、頭の上まで上げた脚を振り下ろそうとしていたのだ
アーデムは後ろに跳ぶことで何とか回避に成功する
振り下ろされた脚が放つ風圧で倒れそうになるのをなんとか踏ん張って耐えた後に目にしたのは…
「なっ…」
先程までアーデムが立っていた場所は大きくヒビ割れ、アウルの踵の直下には窪みが出来ていた
アーデムに取ってこの場所は最重要だ
故に例え大型地震が発生しても絶対に壊れないほどの強度を持たせている、はずだ
そんな場所を踵落としで叩き割り、剰え陥没させるとなると…つまりはそういうことだ
直接当たればどうなるかは明白、エーテル等による防御で防ぎ切れる保証はない
「い、いきなり殺そうとするなんて意外と乱暴なんですね。貴女はもっと落ち着いた女性かと思っていましたよ」
「黙れこの外道が、五体満足で死ねると思うなよ」
恐ろしく低い声でアウルが言った
その言葉にその場にいた全員が、樒でさえも恐怖に僅かに震えた
殺意を隠すことをやめ、完全に殺す気になっている
その殺気は周辺の気温を下げているのではないかと思うほど研ぎ澄まされていた
足元からじわじわと這いよって脚に絡みつくような殺気
火継達は武器を落としてしまった
平和な日本で育った彼女達は物を掴む力すら保てなくなっている
産まれた頃から20年以上人を殺し続けてきた本物の殺し屋の殺気を浴びたのだ、仕方がなかった
「問答無用ということですか…覚悟を決めないとあっさり殺されてしまいそうだ」
アーデムはそう言って中空より華美な装飾が施されたレイピアを取り出した
その顔からは普段の飄々とした感じは一切なく、油断など微塵もないことが窺える
程なくして、戦いの火蓋は切って落とされた
アーデムは防戦を強いられていた
彼はアークスのことを調べ尽くしており、現在の全てのクラス、スキル、PAのことを知り尽くしている
故にアウルがどんな攻撃をしてきても予め知っているため、防いで反撃をすることは十分可能なはずだった…のだが
アウルの戦い方はアークスのものとは全く違ったものであったのだ
新たなクラスの開発をしていると噂に聞いてはいたが、これがそうだと言うのか
「くっ…!」
アウルの放ってきた蹴りをレイピアで去なすが、その威力は凄まじく腕を通り越して足の先まで全身に痺れが走る
その隙を逃さず去なされた蹴りの威力を利用して身体を回転させそのまま肘を繰り出してくる
何とか腕をクロスさせて防御するが後ろに大きく吹き飛ばされる
エーテルのみならず魔法まで使って身体を守っているにも関わらず、腕がへし折れそうなその威力にアーデムは疑問を持った
単なる身体能力だけでは決してない
如何にアウルが身体を鍛え、技を磨いているとはいえここまでの威力を出すことは物理的に不可能だ
今では失われたとされる武術の数々まで知っているアーデムだからこそ分かる事だった
フォトンによる強化を行っているにしてもそれだけでは説明が付かない
アウルが使っているのは地球に太古より伝わる武術である
それにアークスから学んだフォトンを加え、スキルやPAの要領でそれらの速度と威力を極限まで高めたもの
そしてそこにアウルが、アウル以外にはあと1人しか使えない力を用いている
アウルがこの力を用いるのは完全に本気の時だけだ
つまりアウルはアーデムを完璧にこの世から消し去ろうとしている
しかしアーデムもやられてばかりではない
「いい加減こちらからいかせて貰いますよ!」
そう言ってアーデムはアウルが接近してくるより前に魔法を用いて5人に分身した
これより繰り出すのはアーデムの最終奥義
アウルを相手に小技など出しても無意味、一番強力な技をぶつけるしかない
これが効かないのなら最早打つ手は、ない
アーデムが何か大技を仕掛けてくることを察知したアウルはそれを阻止しようとしたが、不思議な力によってアーデムに近づくことが出来ない
バリアのようなものでも張ってるのかと思い、それを打ち砕こうとしても手足は空を切るばかりだ
この部屋はある程度の広さはあるがかなり広いと言うほどではない
もしも広範囲攻撃でもされれば避ける道がないかもしれない
後ろにいる皆のことも守らなければならないし避けるという選択肢は端からないも同然だった
5人のアーデムは1人を中心として東西南北に位置取る
そして中心のアーデムがレイピアを指揮者のように振りながら宙へ浮かぶ
四方のアーデムも同じように浮き、詠唱を行う
「かつて賢き女ども座せり。此は万象を砕く力なり!」
中心のアーデムが一際高く浮かんだ
「テトラグラマトン!!」
強烈な光が辺りを埋めつくし、誰にも、何も見えなくなった