「ねぇ、ユカミ」
「何でしょう、マスター?」
「あれも…原生種なのですか?」
「はい、そうなのです」
私達はかなり奥深くまで来た
ここは行き止まりとなっており、先へは進めない
道があったとしても"アレ"を倒さないと進めそうにはないが…
私の目は、とても大きな…熊?ゴリラ?のような骨格をした原生種を捉えた
その四肢は緑色で局所的に体毛があり、腕が異常に発達している
何よりの特徴は顔の周辺や拳に琥珀色の結晶体のようなものがあることだ
私の直感が告げている、こいつと戦うのはまだ早いと
しかし…
「あの突起物があるということは、あの原生種もダーカーに侵食されているのですね?」
「はい…ですがっ」
「分かっています。未だフォトンに慣れきっていない今の私では危険なんですよね」
「そういうことなのです。ですからここは退いて、ベテランの方をお呼びしましょう」
ユカミの言う通り今ここで戦えば私が負ける可能性が高い
だが、あの原生種はダーカーに侵されて苦しんでいる
それに1度侵食されれば敵味方など関係なく襲いかかって生態系を崩すかもしれぬし、あの巨体が森の中を暴れることで環境が破壊される恐れもある
そして何よりあの原生種もそんなこと望んではいないだろう
私はカタナを構える
それを見てユカミは驚いたようで、目を丸くした
「まさか、やるつもりなのですか!?」
「ええ。危険なのは承知の上です」
「けど…」
「あの原生種をこのまま放っておくのも危険でしょう?それに」
「それに?」
「ここで退くのは私の信念に反します」
そう、私は決めたのだ
救える存在は救い、護れるものは護ると
その為ならこの命、喜んで危険に晒す
それが私に出来る唯一の贖罪なのだ
「分かりました…では、まずはあの原生種のことを教えます。何の情報もなしに戦うよりは安全なはずです」
「そうですね…ではひとまず隠れられる場所に移動しましょうか」
幸いまだあちらは私たちに気付いていない
今のうちに詳しい説明の聞ける所へ行くべきだろう
移動した先でユカミからあの原生種について色々と聞いた
あれは「ロックベア」というらしい
その両腕から繰り出される攻撃は非常に強力で、フォトンで身を守っていないと形容しがたいほどに身体が潰れるようだ
更にはその剛力を用いて自らを宙へ飛ばし、ボディプレスすら放ってくるのだという
しかし上半身と腕が強力な代わりに下半身は貧弱なようで、腕を振るった後に体勢を崩し、転倒することが多い
更に自分の足元へ攻撃することが苦手なので距離を離した方が危険らしい
だからと言って無闇に足元へ行けばあの巨体で視界が遮られるしこちらも攻撃しにくいだろう
後は視界が狭いのでそれを利用して死角に入るのも手のようだ
「なるほど…大体のことは分かりました。ありがとうございます」
「いえ…しかし本当にやるのですか?マスターはまだフォトンアーツもスキルも使えないのですよ」
フォトンアーツ(PA)とは、フォトンを使った攻撃技である
多量のフォトンを武器に通わせ、一気に解き放つことによって発動できる
アークスの基本的な攻撃手段で、普通に武器を振るうよりも圧倒的に威力があるのだ
対してスキルはフォトンを扱うのは同じだが、こちらは武器ではなく自身にフォトンを取り込み発動する
己の肉体を強化したり脳のリミッターを外したりなども出来るようで、攻撃のみならず防御にもなる
どちらも様々な種類があり、それらを使うことによりアークスは戦闘を行う
しかし私はそのどちらもまだ使えない
フォトンがあることが当たり前であるオラクルの人とは違い、私には馴染みのないものだった為である
通常であればそれらを使えない者を実戦に出すことは無いが、私は素の身体能力がずば抜けて高いので特別に許可されたらしい
アークスはフォトンで補う者がほとんどなので素の状態で戦える者は数えるほどしかいない
つまり私はフォトンを扱えない状況下であれば最強のアークスと言っても過言ではないのだ
だからこそ監視されているのだが…それより今はロックベアだ
ともかく私はPAもスキルも使えない状態、更には初の実戦で大型種との戦闘になる
ダーカー侵食もあってより凶暴かつ強力になっているというおまけ付きだ
苦戦すること必至である
それでも私はあのロックベアを救いたいし、救わなければならない
それにこちらにはユカミがいる
ここに来るまでに彼女の戦闘能力の高さは散々見てきた
私はその性能の高さを信じている
「では、いきましょうか」
「はい…」
ユカミは不安そうだ
「大丈夫ですよ。安全重視の戦い方をしますし、何よりこんなところで死ねませんからね」
そう、私は命を危険に晒すことに抵抗はないが死ぬわけにはいかない
矛盾しているように聞こえるかもしれないがどれだけ死ぬ危険性があっても死んではいけないのだ
私にはやらねばならぬこと、やりたいことがまだまだ残っている
私達は再びロックベアのいるところへと来た
既に結構暴れており、周囲の木々がなぎ倒されている
ダーカーに侵食されて苦しんでいるのだろうか、咆哮がまるで悲鳴のように聞こえる
早く解放してやらねば…
私はカタナを強く握る
ロックベアはまだこちらには気付いていないので、このまま一気に接近して足元を斬り払うつもりだ
それで転倒すれば大きな隙も生じるし、足に怪我を負わせることが出来ればかなり戦闘を優位に運ぶことが可能だ
私は息を整え、タイミングを図る
そして地を強く蹴り、カタナを抜き放つ―