新人アークス、アウル【完結】   作:フォルカー・シュッツェン

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初めての死闘

私は胸が地面に付きそうなほど低い姿勢で走る

ロックベアは顔の周辺に体毛や結晶体のようなものがある為視界が狭いことは聞いた

しかしこの個体は顔の下の体毛が濃く、更にダーカーに侵食された際に出来る「侵食核」と呼ばれる突起物も顔の下にある

つまり下への視界は他の個体のそれよりも更に狭い

それを利用し、可能な限り低い姿勢で突進しているのだ

 

銃声が響く

ユカミがロックベアの侵食核に向けて射撃したのだ

当然ロックベアはユカミに気付き、怒りの雄叫びを上げて攻撃しようと近づく

そのおかげで下にいる私にはより一層気付かなくなるだろう

それだけではない

ロックベアはダーカー侵食の影響か暴れ回っているため下手に近づくと巻き込まれてしまう可能性がある

しかし今の射撃により攻撃対象をユカミに定めたロックベアは無造作に暴れるのをやめた

それにより私への危険度がかなり減る

更に言えばその場に立っているより、歩いたり走ったりしている方が足が浮く関係で転倒させやすい

あの一瞬でそこまでの判断をし、行動に移したのだ

流石だ

私は心の中で感謝しながらロックベアの脚を斬り払う

思った通り私には気付いていなかったようで、不意を付かれたロックベアは転倒した

その隙にユカミは頭へ連続で撃ち込む

この巨体にもさすがに堪えたのか悲鳴が上がる

私も姿勢を戻し、ロックベアの側面へと周り込み、そのまま脇の下を斬り上げる

私のいた地球の生物と体の構造がそこまで違っていなければここの血管を切断すると多量出血するはずである

鮮血が舞った

しかし、量が思ったより少ない

…筋肉の壁が厚すぎて血管まで届かなかったのか?

それともこちらの生物は体の構造が全く異なっているのだろうか?

頭の中を疑問が走ったが今は考えている場合ではない

ロックベアは私を認識し、倒れたまま腕をこちらに振るってきた

まともに受けてはひとたまりもないだろう

私は後ろに跳びつつ腰から鞘を引き抜き、身を護る

ロックベアの腕は鞘に当たり、私の腕に衝撃が伝わる

そのまま後ろに吹っ飛ばされはしたが、先に跳んでいたことと鞘で緩和したことによりダメージは殆どない

―そう、僅かではあるがダメージを受けたのだ

その事実に私は驚愕する

通常ここまですれば私の身体にダメージを負わせるなど並大抵のことではない

それなのにロックベアは倒れた姿勢から、それに脚と脇を斬られ頭に弾丸を撃ち込まれている状態からそれをやってのけたのだ

もしも相手が万全の状態であればこの程度の防御では最低でも腕の骨折か…それで済めばいい方だ

これは早急にフォトンの扱いに熟知する必要があるようだ

 

その一方ユカミもロックベアから攻撃を受けていた

あの状況で更に両腕を別々に動かし、それぞれに攻撃を仕掛けたと言うのか

なるほど、ユカミが不安がるのも分かる

ここに来るまでに相手にしてきた小型種とは桁違いだ

ユカミはロックベアの腕撃を跳躍で躱す

かなり高い

足に装着されているブースターを上手く使ったのだろう

そのまま身体を反転させ下にいるロックベアに向けてまた連射する

ロックベアも転倒したままでは一方的に攻撃されると思ったのかその発達した腕を用いて立ち上がろうとする

私はユカミがヘイトを取ってくれている間に腕の痺れを回復させ、カタナを構え直して接近した

するとロックベアはそれを読んでいたのか身体を反転させながら裏拳を放ってきた

―甘い

狙いは悪くないがそうして反撃してくることも想定していた私はスピードを上げて一気に肉薄した

ロックベアは体高が高いのでこうすると脇の下の大きなスペースに逃げ込むことが出来る

そのまま私はカタナをロックベアの腕にそっと当てて、裏拳の方向とは真逆に刃を滑らせた

私の力だけで断ち斬ることが出来ないのならロックベア自身の剛力を使うだけだ

私の作戦は成功し、かなりの痛手を負わせることが出来た

少なくとも当分の間あの腕は使えまい

それはだらりと力なく垂れ下がる腕を見ても明らかだ

これで奴の攻撃力も防御力も大幅に下がった

いつ傷が癒えるかも分からないので勝負をかけるなら今しかない

 

「ユカミ、今のうちに畳み掛けます!全力でいきますよ!」

「了解です、マスター!!」

 

私はロックベアに向かって突進する

痛みに苦しむロックベアは私の攻撃を防ごうとしたのか拳を打ち下ろすが、思うように狙いも定められておらず避けるのに難はなかった

おそらくはダーカーの侵食も関係しているのだろう、既に正常な思考どころかこちらを正しく認識することすら出来ていないようである

その呪縛から解き放つのに手段など選んではいられない

私はその腹に思いっきり刃を突き立てた

ロックベアが怯んだ隙にユカミはその身体を駆け上がり、頭の上へと到達すると銃を顔に向け零距離から射撃する姿勢を見せた

しかしそれは今までのそれとは全くの別物であった

銃口から現れたのは弾丸ではなく、明らかに中に収まるとは思えないほど大きな丸い何かの塊であった

それがロックベアの顔面目掛けて破裂し、ロックベアは大きく咆哮した後身体をその場に横たえた

起き上がるどころか動く気配すらしない

…どうやら、死に絶えたようである

勝った

私達は勝ち、生き残り、アークスとしての使命を果たした

だが私の胸中に達成感や喜びといったものは浮かんでこない

どんな大義名分があっても、例えそれを相手が望んだとしても…私がしたのはただの殺しなのだ

決して褒められることではなく、誇れるものでもない

しかしそれでもこのロックベアを救うことは出来ただろうし、正気を失ったこの個体によって殺されるかもしれなかった他の原生種を護ることは出来た

周囲の木々への被害も食い止めることが出来た

それもまた事実であり、忘れてはいけないことだ

 

「本当に、やってのけてしまうとは…マスターは凄すぎなのです」

「そんなことはありませんよ、ユカミがいなければ絶対に無理でしたから。貴女こそ私の想像以上に凄かったです」

 

これは心の底から思う

実は今回、ユカミの兵装はかなり簡素にしてある

私がアークスとして戦闘に慣れなければいけないのにユカミの兵装が強すぎると私が戦う必要がなくなり、経験を積むことが出来ないからだ

それに初陣でここまで来るとも想定されておらず、剰え大型種相手に戦うとは誰も思っていなかったようなのだ

その為今回装備しているのは初期武装の2丁の銃のみ

にも関わらずあれだけ戦え、更にはトドメさえ刺せたのは間違いなくユカミの元々の性能が良いからである

武装に頼った強さではない

 

「ともかく、これで任務は終了ってことで良いのかな?」

「そうですね、それで良いと思います。というか本来今回の任務はフィールドに出てマスターに色々と慣れてもらうのが目的なんですよ?何でしたら散歩して適当に動いてみて帰ったって良かったですのに…」

「まぁまぁ、良いじゃないですか。頑張るのは悪いことではありませんしね」

「マスターは頑張りすぎな気がするのです( ˘・A・)」

 

そうして私達は帰還し、報告を終えて今に至る

丁度よく眠気も来たし、このまま眠るとしよう

そして私は眠りについた

 

 

 

 

 

艦橋で2つの人影が会話をしている

「ふ〜ん、そうなんだ…なんかまた大変なことになりそうな予感がするよ〜」

「そうだね、そうなる確率はとても高いと思うよ」

「貴方が言うと洒落にならないんだって…馬鹿みたいに正確な演算能力あるんだからさ」

「褒めてもらえて嬉しいよ」

「褒めてな〜い!…それで、そっちは任せちゃって良いの?」

「ああ、問題ないよ。君に役目を継いでもらって、今僕はフリーみたいなものなんだ。彼女はとても興味深いし、これからのアークスに新たな風を吹かせてくれる気がする」

「それは確かにそうかもね。それにしてもPAもスキルも使わずに侵食された大型種を仕留めるほどの使い手、か…ちょっと、羨ましいかな」

「ほんと、末恐ろしいよね」

誰に聞かれることもない会話はいつ終わるとも知れず、続く

 

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