…ん?
眠りに落ちていた私の意識は急速に覚醒する
誰かの動く気配、ユカミだろうか
私は目を開けることなく耳に意識を集中させる
筋肉の摩擦音や骨の軋む音は聞こえない
代わりにほんの僅かな機械の駆動音と金属の擦れる音が聞こえる
普通のキャストであればここまで音を抑えることは出来ない
となればこれはやはりユカミのものだろう
私は身を起こした
隣を見るとユカミが身体を起こしていた
が、何やら眠そうでポケーっとしている
ハイキャストは寝ぼける機能すら付いてるのか…?
何故そんな機能を付けたのかは謎だが、可愛らしいので良しとしよう
私はベッドから下りて整え直す
「ほら、ユカミ。起きて下さい」
「ふぁ〜い…」
ユカミは欠伸をしながらベッドから下りた
私は身支度をする為にもシャワーを浴びに行く
私は身長も高いし髪も長いので少し大変である
シャワーを終えて襦袢を着た私は髪を乾かす
その間にユカミは目も覚めたようで、装甲の代わりに人間と何ら変わらない服を着ていた
白いワンピースでレースがあしらわれている
とてもよく似合っていて、彼女の魅力を引き出している
可愛らしい服が似合うのは…正直少し羨ましい
そんなことを考えていても仕方ないか
髪を乾かし終えた私は着替えるため箪笥を開ける
思ったよりも様々な服が入っている
和服もあるが洋服もある
昨日は寝る時も襦袢だったため、1日を和服で過ごしていた
後で聞くと昨日私が着ていたのは戦闘用に設計されたものらしい
だからあんなにも動きやすかったのか
今日は戦闘に出るわけでもないし、多少動き辛くても構わない
だが私はまだこのギョーフ(私が滞在する船の名前)の中を全て歩いた訳では無い
今日は色々な場所へと行くので少なくとも足回りは動きやすくするべきだろう
そんなことを考えながら私は無地の白Tシャツにストレッチの効いたデニムパンツ、そしてダブルライダースジャケットを着た
「わぁ、格好良くて素敵なのですマスター!」
「ありがとうございます。貴女も可愛くて素敵ですよ」
「えへへ、ありがとうございます!」
私達は部屋から出るため靴を履く
私はデニムパンツの裾を少し折り返し、ブラウンのショートブーツを履いた
対してユカミは花の意匠があしらわれたミュールを履いていた
「マスター、何処か行きたいところはありますか?」
「んー…じゃあまずはアークスとして必要な、装備に関する場所に案内してくれますか?」
「分かりました、ではショップエリアに行きましょう!」
「ええ、お願いしますね」
私はユカミに案内して貰いショップエリアへと着いた
ここは普段賑やかなそうだが、今は朝早いため流石に人通りも疎らだ
「ここではお買い物が出来たり物々交換が出来たりする他に装備の強化が出来ますよ」
「なるほど…とても重要な場所ですね」
「そうなのです。ちなみにここと昨日任務に出る時に集まったゲートエリアはこの3つの直通エレベーターで気軽に行き来出来ます!」
「それは便利ですね」
これはとてもありがたい
重要な場所同士をこうして繋げてくれれば楽だし、何よりも時間を短縮できる
緊急の際にはとても重宝するだろう
「あとここには…エステがあります」
少し歯切れが悪い
どうしたのだろう
「どうかしたのですか?」
「いえ、その…ここのエステは普通のエステではないのです」
「普通のエステではない?」
どういうことだろうか
エステと言えば美容のために女性が通うもので、オイル等を用いてマッサージなどをする店…という印象だが
「ここのエステはですね…その、特殊なパスやポイントを使えば体型すら弄れるのです」
「ふむ…最早手術、ですね」
「そういう感じなのです」
とんでもないな…
まぁそれを行うには特殊なものが必要であるらしいからそうそう気軽には出来ないのだろうが
話題を変えるため、私はユカミに問う
「他にはどんな施設があるのですか?」
「ここには今言った以外の施設はありません。ですがここからカフェとカジノに行くことが出来ます。あ、あとあとジグさんという刀匠の方が良く来てます!」
「刀匠?」
「はい、とても凄腕の方で特別な武器を制作されています!その方に認められればその特別な武器を貰えるかもしれません」
「なるほど…」
それは有難い話だ
しかしその人物に認められなければならないというのは…それほど扱いが困難なのか量産出来るものではないので限られた者にしか渡せないのか
若しくは単にその刀匠が頑固なだけなのか
まぁ少なくとも今の私では無理だろう
まだ関係ない
「これからカフェとカジノに行こうと思うのですが、どちらから行きますか?」
「そうですね…カフェと言うことはご飯が食べられるんですよね?」
「はい、勿論です!」
「ではまだ時間も早いですし、先にカジノへ行ってそれからご飯も兼ねてカフェに行きましょうか」
「分かりました、そうしましょう!」
私達はカジノへと移動した
とても賑やかな音楽が大きな音量で流れている
私はこう言う人工的なうるささは好きではない
「ここはカジノエリアで娯楽施設となります」
「私がいた地球でもカジノはありましたし、多少馴染みはありますね」
「地球にもあるんですか、1度行ってみたいです!」
「私がもっとアークスとして成長すれば行けるかもしれませんね」
「なるほど…楽しみにしてますね♪」
「ええ、期待していて下さい」
ここには2種類のスロットにルーレット、ブラック・ジャックがあるようだ
あともう1つあるのだが…この中央にあるのはなんと言えばいいのだろうか
砲台のついた機械に乗り、左右に移動しながらある程度離れた位置にあるステージを横切る様々なものを撃つゲームだ
一通りやらせてもらったがほぼほぼ運にのみ左右されるので結果はあまり芳しくなかった
ブラック・ジャックでは心理戦でどうとでもなると思ったが、対戦相手が人ではなくコンピューターでは通用しない
それでも傾向が分かればある程度読めたりもするがこのコンピューター、パターンをコロコロと変えるせいでそれも出来なかった
それにやはりこの場所は騒々しい
ここで手に入れたコインは特別な景品と交換も出来るので、上手く行けば良いものが入手可能だ
結構時間も経ったので私達はカフェへ行くことにした
「へぇ〜ここがカフェですか。程よく静かで、とても落ち着きますね」
「はい、私もここは好きです!」
店内を見回し、どの席に座ろうか考えていると後ろから声がかかった
「よう、あんたらも早めの昼食か?」
声のした方を向くと、頭に2本の角が生えた小柄な女の子がいた
髪も短く、言葉遣いなどからボーイッシュな子であることが分かる
「ええ、そうですけど…貴女は?」
「あぁ、すまない。オレはイオ、一応アンタの先輩ってことになるのかな」
なるほど、ということはアークスなのか
「そうでしたか。私はアウル、こちらはユカミといいます。よろしくお願いしますね」
「よろしくなのです!」
「ユカミは元気が良いな。それで、良かったら一緒に食わないか?」
「ユカミ、良いですか?」
「私は大丈夫なのです!」
「分かりました。では、ご一緒させていただきますね」
「その…なんだ。敬語とか、要らないぞ?」
「そうですか…でもこれは癖みたいなものなので、少し崩すくらいで良いですか?」
「あぁ、それで良いよ」
「ありがとうございます」
私とユカミ、そしてイオは席につき、注文を済ませた
水を1口飲んだあと私はイオに気になっていることを聞いた
「そう言えばイオ、どうして私達に声をかけてくれたのですか?」
「あぁ、それか…噂で聞いたんだけどさ、ロックベアを初陣で、しかもスキルもPA(フォトンアーツ)も使わずに倒した新人がいるって聞いてさ。どんな奴なのか気になったんだ」
昨日のことなのに随分と早く噂になったものだ
しかし噂で聞いただけなのに何故迷いなく私達だと分かったのだろうか
聞いてみると、どうやら私がユカミと待ち合わせているあの時ゲートエリアにイオもいたそうだ
それに地球人がアークスになったのは前々から皆知っていたし、特別にハイキャストがつくことも広まっていた
だから私を見た時に今まで見たことがないから新人だろうと思っていたら、また見たことの無いキャストが来たので『あぁ、あの2人がそうなのか』と思ったらしい
「なるほど、それで私達に」
「あぁ、1度話してみたいと思ってさ」
「何か聞きたいことでも?」
「そうだな…アウルはクラス何にしたんだ?」
「まだ決めていませんよ」
「決めてないって…それじゃ今はクラス設定してないのか?」
「ええ、そうです。まぁハンターかブレイバーになるとは思いますけどね」
「てことは…カタナを使うのか?」
「えぇ」
「ブレイバーになったら俺と同じだな」
「そうなのですか?」
「あぁ、とは言っても俺はバレットボウしか使わないけどな」
「バレットボウ?」
「ブレイバーの武装の1つでいわゆる弓のことです、マスター」
なるほど
ちなみにクラスと言うのは…どう説明したものか
これを設定することにより対応するスキルやPAを使うことが出来るようになる
ハンターであれば攻守のバランスに優れていて、ファイターだと攻撃に特化する代わりに防御が薄くなる、といった具合だ
本人のフォトン傾向とは別に、どのように戦うかを決めるものと言えば良いだろうか…どうにも上手く説明が出来ない
「しかし弓となると射撃武器ですし、私が使うことはなさそうですね」
「そうなのか?」
「ええ、どうやら私のフォトン傾向は打撃に特化していて射撃や法撃には一切向かないようなんです」
「そっか、それは残念だな」
「いえ、それはどうでしょう」
ユカミが異を唱える
「どういうことですか?」
「確かにマスターのフォトンは打撃向きなのです、それは間違いありません。しかし他を扱えないかと言うとそれは少し違うのです。マスターに射撃や法撃が一切出来ないというのは『今はまだ』という前置きがあります。今はアークスになったばかり…いえ、オラクルに来て日が浅いのでフォトンが身体に馴染み切っていないから出来ないのです。フォトンを自在に扱えるようになれば射撃も法撃も使えるようになる可能性は高いです」
「そうだったんですね…じゃあ私が弓を使うのも」
「将来的には十分有り得ます」
「なるほどな…それならバレットボウ仲間が増えるかもな♪」
イオはどこか嬉しそうだ
「いや、実はさ…バレットボウ使うやつって少ないんだよ」
「そうなんですか」
「あぁ、なんか他のやつが言うには扱いが難しいらしいんだ。俺はそうは思わないんだけどな…」
「適正があったんですかね」
「多分そうだと思う。だからさ、もしアウルがバレットボウ使えるようになったら一考してみてくれよや」
「えぇ、その時はぜひ」
「それなら私もツインマシンガンを使ってみて欲しいのです!」
「なら、早いことフォトンを馴染ませないとですね」
談笑していると料理が来たので私達は食べ始める
ユカミは燃料オイルを補給している
私はエビピラフ、イオはリゾットを食べる
その後も私達はしばらく話した後別れた
イオと別れた私達はその後も色々と見て回った
オラクルではお金はメセタ、という
私はまだメセタに余裕はないのであまり買えないが色々なお店もあり、見て回るだけでも楽しかった
任務をこなし、メセタに余裕が出れば色々と買おう
そして今日1番有意義だったのは、色々なアークスと話が出来たことだ
特にイオともう1人、アザナミという女性と会えたのが大きい
アザナミもクラスをブレイバーとしている、それどころかブレイバーというクラスを創設したのがアザナミらしい
実のところ私はカタナを扱う関係でブレイバーというクラスにしようと思っている
カタナを使うのにブレイバーでなければならないわけではない
だがブレイバーであればカタナの性能を最大限引き出すことが出来るのでブレイバーにするのが得策だ
だからこの2人と出会え、話が出来たのは良かった
今後もこの2人には何かと世話になることになりそうだ
関係は良好にしておくべきだろう
今日1日歩き回ったのとマップ情報を併用して、このギョーフの構造は把握した
過去には船の中までダーカーが攻め入ってきたこともあったようだし、もしもの時に備えて迷わずに移動出来るようにしておくに越したことはない
しかし私が打撃以外にも扱える可能性があるとは…その気になれば私にも新たなクラスを作ることが可能なのだろうか
もしそれが出来れば…私が最も得意としていた戦闘方法も……いや、やめておこう
あれはもう、使いたくない
どうしても使わなければならない時は仕方がないが、それ以外では使わないでおくべきだろう
それに私にはやることがあるのだ、そんなことに時間を費やすべきではない
あの子を早く見付けなければ
私の、たった1人の…妹を