「はぁ…。また、おまえなのか…」
溜息混じりの男の前には、雄々しい声を轟かせ、赤く輝く龍がいた。
今は夢の中。男自身も目の前の光景が夢の中だという事を把握している。その赤龍を何度見たのか、もう数え切れない。
でも、決まってこの赤龍を見ると、起きることが一つある。
「…そう。おまえを見る次の日には、俺が人助けをする予兆なんだよな」
男は知人の男性に、いつもお人好しだと呼ばれながら、持ち前の明るさを武器に十年以上もの間、OREジャーナルというニュース配信会社で一人の記者として働いてきた。男の名は、城戸真司。
「あー、わかった!わかったから! おい! ドラゴン野郎! 毎度毎度、おまえもしつこいよな!」
いつも一方的な予告ではあったが、なぜか憎めなかった。赤龍が夢の中に現れた次の日には自分も怪我をしたり、危険が及ぶ事があった。でも、彼は彼自身の持つ運の良さにも助けられながら、苦難を乗り越えてきた。
「…だけどよ! おまえってカッコいいんだよな。名前があるなら、教えて欲しいもんだよ、まったく!」
笑いながら、赤龍に対して真司が叫ぶと龍の身体に異変が生じた。赤龍の身体から炎が出たのだ。それは紅蓮に燃えさかる炎そのものだった。
「お、おい! ドラゴン野郎!! おまえの身体、燃えてるぞ!」
赤龍は動じない。むしろ心地良いように口を開け、身体に炎をまとって、こちらに吐いてきそうな、そんな印象を受ける。
「…そっか、おまえは火の龍でもあるんだな。だけど、あんまし火遊びは程々にしとけよ!」
夢の中の相方に対して、アドバイスを告げると、真司の身体が徐々に透けてきた。これは、夢が終わる合図だ。
「さぁて、明日会う助けを呼ぶ人は、誰なんだろうなぁ…」
そんな想いを馳せて、真司は目覚めていくのだった。
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「ねむ…」
真司は移動用のバックを片手に持ち、高知空港の玄関ロビーにいた。
「ふわぁぁああっ…」
真司は大きいあくびをしながら伸びをし、移動していた。すると…。
「っ!? おい…おまえ」
今回は運が悪かったのか、誰かとぶつかった。不機嫌そうな声をかけられる。
「…へ? あ! す、すみません!」
「………」
男性とぶつかったことを認識すると、男からは真司を睨み殺すかのような鋭い目線が注がれていた。
男性は五十代後半といったところだろうか、黒い革ジャンパーに赤いシャツ、首に白いマフラー、頭には黒いシルクハット。そして、ギターケースを持っていた。まるで渡り鳥のようなイメージだ。
「おい…、寝不足なのは構わんが、少しは周りを注意したらどうだ?」
「なっ! 人が下手に出てれば、なんなんだよ、アンタ!」
「…ほう。オレをアンタ呼ばわりとは、な。面白いじゃないか、ひよっこ」
真司も男もお互いを挑発し合っていく。
(なんだよ、このオッサン! まるで蓮みたいに絡んできやがって!)
真司は内心で、親友の秋山蓮のことを思い出していた。
「聞いているのか? 仕方ない、もう一度言うぞ? くれぐれも周りには気をつけろよ? ひよっこ」
男は睨みを更にきかせ、真司をまたあおってきた。
「へっ! あぁ、次は気をつけるよ!」
「ちょっと待て! 両者そこまでだ!!」
その時、すぐ近くで別の男性が一喝した。
「風見、それくらいにしたらどうだ?」
「む。結城か? オレは別に…」
「そこの君もほどほどにな。コイツを怒らせると、これくらいじゃすまないぞ?」
風見と呼ばれた男性を止めに入った結城という男性の眼差しも風見と同様に鋭かった。でも、どことなく優しさを帯びていた。
「あー、いや、俺も大人気なかったです…。すんません。あ、俺こういうもんです」
真司はポケットからOREジャーナルの名刺を差し出した。
「OREジャーナル? すると、まさかキミは…」
「あれ? OREジャーナルをご存知なんですか!?」
「あ、あぁ。ちょっと気になる記事があってね…」
結城の目線が泳いでいる。
「…結城、そろそろ行くぞ」
「おい、風見! ええっと、城戸君だったか、それじゃあ!」
風見はすぐにその場から離れていった。そして、結城も風見を追いかけて出てってしまった。
「結城さんか…。あ! いけねぇ! 約束の時間に遅れちゃうよ!」
これが風見こと風見志郎。結城こと結城丈二との遭遇になったことを真司が気づくのは、もう少し先の話である。