双嵐   作:文月りんと

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高知市 郊外


3.鏡中

「やっぱりさっきのヤツ、なんだか腹が立つな!」

真司はまだ先程の風見とのやりとりが頭から離れなかった。真司の年齢も現在は三十代半ばとはいえ、二十代の頃に比べ無鉄砲さは多少残っていた。

「…でも、まぁ。これ以上、怒っていてもしょうがないか」

以前の自分では、ズルズルと気持ちの整理が長引いていたが、これまでの経験からか、怒った後で冷静な気持ちへの切り替えがすぐにできるようになっていた。

「よし、んじゃ、改めて状況整理だ」

今回の事件の情報提供者は、女子高生。彼女とはこの場所で落ち合う事になっていた。

真司は自分の仕事であるニュース記事の調査として、高知市にやってきたのだった。事件の詳細は、この地域に住む人々が集団で神隠しにあっているというのだ。

噂では、人々が消える前に必ず目撃される鏡があり、その鏡に吸い込まれるようにして、消えていく者がいるという事件が多発していた。

あくまでも噂だったが、日に日に行方不明の人数が増えていた。

「なんせ、ここ三日で八人だもんなぁ…」

 事件の発生時刻はバラバラだったが、行方不明になった彼らが共通して口にしていた事があった。それは、【鏡の中から自分を呼ぶ声がする】のと、【鏡の中に光の玉が見える】ことだった。

「しっかし、光の玉ねぇ~?」

にわかに信じがたいものではあったが、今は真相を探るべく動くしかない。こういうとき、データではなく、足で調べるのが一番なのを自分の経験から導き出していた。

「にしても、遅いな…」

情報提供者との約束の時間を過ぎたのだが、一向に現れない。

「ちょっと連絡してみるか。なんか嫌な気分するし…」

スマートフォンを取りだした次の瞬間。昔聞いたような耳鳴りが真司の脳内に木霊した。

「っつ! なんだ、これ!!!」

頭を抑えながら、辺りをキョロキョロと見渡すが何もない。

「キャーッ!!」

「!? 今のって…」

情報提供者の女子高生の声が確かにした。

「耳鳴りなんて知るかッ!」

自分が助けるべきは彼女なのか、まだそれはわからない。でも、自分の身体は留まることなく、声のした方向へ動き出す。

耳鳴りが大きくなる方向があった。真司は耳鳴りを頼りに移動を開始した。

 

「ここか…」

そこは見るからに閉店しているブティックだった。店内もがら空きになっている状態で、玄関のドアも開きっぱなしだ。室内へと進んだ真司はそこで不思議な鏡を発見した。

「これって、例の鏡ってやつか?」

鏡をまじまじと見ていると、鏡の近くにストラップ付きのカバンを見つけた。

「…まさかこの鏡の中に?」

鏡を凝視していると、鏡の中に光り輝く玉を見つけた。

「あっ! 光の玉!!」

件の光の玉なのだろうか。でも、現実には見えなくて、鏡の中には光の玉がある。おかしな状態だった。

「…オカルトじみてきたけど、これどーすりゃあいいんだ?」

 すると、急に鏡が光り出した。

「うわっ、まぶしっ…!!」

真司を光が包んでいく。真司は目蓋を閉じると、周りが真っ白に染まっていく。次の瞬間、真司は鏡の中に吸い込まれてしまった。

真司が目を開くと、そこはさっきまでいたブティックだった。

「…おいおい、マジかよ」

でも、文字や看板が反転していた。

「ん? なんなんだこりゃ?」

真司は自分の足下に転がっていた不思議な顔が描かれた指輪を拾う。

「ヘンな形の指輪だな…」

そう言いながらも、真司は指輪をポケットに入れた。ふと自分の手を見ると、さらさらと手の細胞が蒸発するかのように消えていく。その様子を見た真司の脳内に、不思議な光景がフラッシュバックした。

「っ!!」

それは自分が何者かに変身し、化物達と戦う光景。次に見えたのは危険にさらされた女の子をかばい、自分自身が死んでしまう光景だった。

「………なんだよ、今の。…でも、とりあえずは!」

そう、真司は自分が今起きている状況を判断するよりも、人助けを優先する事に決めた。

「やめて! こないで!!」

先程の女子高生の声が店の外で聞こえた。真司は、勢いよく店を飛び出した。

 

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