「…っててて。ここは…」
雫のしたたる音で起きた真司だったが、身体の自由が利かない。落下の衝撃に身体が耐えられなかったのか、暗がりの中では、右手一本しか動かせられない。
「ははは…やっぱ俺、ここでリタイヤなのかな…?」
諦めかけていたその時、ポケットが光り出した。
「これって、さっきの指輪か?」
ゆっくりと右手で指輪を取り出すと、なぜか指輪がカードへと切り替わった。
カードは何も描かれていない。ブランクカードのようだった。すると、自分のいる世界が暗闇から、鏡の世界へと変わっていく。
『城戸、大丈夫か』
「蓮!? どうしてここに!? それにおまえどうしたんだ、その格好!
懐かしいじゃないか!」
黒いロングコートを着た親友の秋山蓮がそこにいた。よく見ると、自分が知っている姿ではなく、出会った時の頃まで若返っているように見えた。
『俺の事はいい。それよりも一つ質問がある。そんな身体になっても、おまえは人助けしたいのか?』
普段の蓮なら言わないようなそんな質問を投げてきた。真司は即答した。
「へへっ…。あぁ! 人助けするよ! 夢の中で赤龍を見る時はよ、決まって人助けをしなきゃいけないんだ。目の前で苦しんでいる人を見過ごすのは、俺自身を否定しちまう気がしてさ…。出来るなら足掻きたい。必死に足掻いて助けを呼ぶ人を助けたい。大事な人が死ぬのを見るのは、もう沢山なんだ!」
自分が今言った大事な人は誰だったのか、またフラッシュバックが発生し、頭を抱える真司。
「くっ…【優衣ちゃん】のような悲劇は繰り返させちゃいけない! だから、だから力を貸してくれ!」
優衣ちゃんとは、誰だったのか。苦しみながらも蓮に向けられた熱い視線。その視線が力を持っていたのか、蓮自身に亀裂が生じていく。さながら鏡が割れたそんな風にも見えた。
『…よかろう。ならば力をくれてやる』
目の前の秋山蓮だった人は、別の誰かに変わった。
「あんたは………神崎士郎!?」
『先程の優衣といい、記憶を取り戻してきたのか。一度リセットされた世界でも、おまえは戦い続ける運命にあるのか、はたまた、そういう天命なのか…』
確かになんで目の前の相手が蓮ではなく、神崎士郎だと言ったのか、まだ記憶が曖昧だ。
「それでも…俺は戦わなきゃいけない!」
『この世界では、既にオレが作り上げたシステムはないが、おまえが望むなら力を貸そう』
ずっと持っていたカードが熱を帯びていき、龍のマークが描かれたカードデッキへと変化する。
「………思い出した。俺、何度もあの世界で死んでいたんだな」
真司はリセットされる前の世界を思い出した。それも一度だけじゃない。何度も破れるたびに抗い、結果的に世界そのものをリセットされるに至ったという事を。
「後悔なんてもうくそ食らえだ。今はあの子を、そして、俺を助けてくれた風見さんを助ける番だ!」
真司はゆっくりと立ち上がる。
『…そうだ、戦え! おまえは優衣が選んだ男なのだから』
「わかったよ! 神崎、おまえそっちでも優衣ちゃんと幸せにしてるんだよな?」
『………あぁ、無論だ』
神崎士郎は消えた。彼の顔が消える間際、笑顔だったようにも見えた。真相は、わからない。
「それじゃあな、神崎!」
天井に見える穴へ移動するには、やはりアレしかなかった。
「いくぜ、相棒…」
真司は呼吸を整え、持っていたカードデッキを見つめ、そして、叫んだ。
「変身ッ!」