「また此処に来ちまった…」
男が一人、海岸で黄昏れていた。男は何も告げず、時間だけが過ぎていく。
「海を見てたって、何も変わりゃしないのにな。それでも俺は…」
さざなみの音が心地いい。まるで、自分の気持ちを洗い流してくれるような気分さえ覚える。彼の名は乾巧。
その正体は、人間の進化形態と呼ばれるオルフェノクだった。
十年前、オルフェノクの王との決戦に勝利する前に巧は敵に捕まり、人体実験の影響などからオルフェノクとしての力が維持できなくなっていた。
自分は近いうちに死ぬものだと感じていた。だが、まだ生きている。
生きながらえている。
あれからずっと、【自分の目が黒いうちは、他人の夢を守る】という誓いを胸に、ファイズドライバーの力を借り、仮面ライダー555(ファイズ)として、困っている人々を助けながら、旅を続けていた。
だが、彼も心は疲弊しきっていた。
「おいおい、巧。おまえ、まーたそんな所で、黄昏れてるのか?」
後ろから近づいてきた中年男性が巧に声をかける。
「なんだ、神さんか…。久しぶりの再会とはいえ、アンタもしつこいな。俺の事は気にしないでくれって言っただろ」
男性の名は、神敬介。またの名を仮面ライダーX(エックス)その人だった。
彼は今、結城丈二から連絡を受け、財団Xの関係者と、あるモノを追ってこの海岸まで足を運んでいた。
「おまえと昔会った時に俺は言ったよな? 辛かったら海を見ろって…」
「………」
「あまり過去に囚われるなよ。こう見えても今じゃ、オレだって医者の端くれなんだからな」
「………」
巧は会話を無視し続けている。
「ま、いいか。それよりも、遂に見つかったぞ。オルフェノクの王の血が」
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オルフェノクの王の血。
それは、普通の人間がその血液を体内に取り込んだだけで、死に至るとされていた。しかし、一部の人間だけは血の力に耐え、オルフェノクとして覚醒する事が判明していた。
だが、王自身はファイズ達との戦いに破れてからというもの、ずっと眠りについており、ある者の手によって、今もその存在が不明となっていた。
敬介と出会う”あの事件”と遭遇するまでは。
巧は自分の夢の中で、過去の記憶を呼び覚ます。あの時、もう少し早く辿り着いていれば、救えたかもしれない男の事を。
命が潰えてしまった男の名前は草加雅人。彼はカイザドライバーの適合者で、仮面ライダー913(カイザ)として、オルフェノクに対して、巧と一緒に戦ってきた仲間だった。いけ好かない所や園田真理に対して、あそこまで人を愛するなんてことは巧にはなかった。今でも思う事がある。
ある意味、うらやましいと思った事もあったんじゃないかと。草加一人ではない、救えなかった命はこれまでもあった。その度に重く巧の心にのしかかっていた。
敬介と出会ってからは、海を見る事で心の気持ちが軽減されていった。
巧は両手で自分の頬を叩いた。
「うだうだ考えるのはもうやめた。神さん、それで居場所がわかったってのは?」
「なんだ。おまえ、急に良い顔になりやがって…」
「いいから、どこにあるんだ?」
「この近くだ。財団Xのヤツら、まずは身寄りの無い老人達から試していてな。成功例が出た事を確認したら、今度は孤児の施設を利用して、引き続き実験を行なっているらしい。おまけにリフォームと称して、地下施設まで増築したって話だ」
その事を聞いた巧は、真理や草加がいた流星塾という養護施設を思い出した。
流星塾はオルフェノクの王を捜し出す実験場でもあった。彼らのような過ちを繰り返させるワケにはいかない。
「面倒な事はアンタに任せるから、早く居場所を教えてくれ!」
「そう焦りなさんな。オレだってすぐに行きたいのは山々だが、準備ってもんがある。それにいざって時におまえがやられたら、おまえがさっきまで考えていたヤツに顔向けできんぞ?」
「…そう、だな」
「それに今回は、助っ人にも声をかけておいた」
「助っ人?」
「あぁ、おまえも知ってるヤツだ。海堂直也っていうな」
「あ? 海堂だって?」
海堂とは昔、敵対もしたが、最後は仲間だった男だ。そんな奴の名をまさか敬介から聞けるなんて、思ってもみなかった。
「彼もおまえのような苦しみに耐えながら今まで生きてきた。だから、合流してからどうするかを話そう」
「わかった」