「おい、お前達! そんなにはしゃいだら、また転ぶぞ!」
自分の目の前を駆けていった子に対して、青年は声をかけた。
「カジュマ! コッチー!!」
「判ったよ、すぐ行くから待ってろよ!」
今、青年がいるのは、中東にある国だ。この国では内戦が続いていた。三ヶ月ほど前、青年はふらりとこの地へやってきた。
青年曰く、雑用でもなんでもいいので手伝いたいと希望してきたため、人手不足だった難民救済のボランティアメンバーは二つ返事で了承した。
「でもなー。オレの名前、カジュマじゃなくて、カズマなんだけどな。ま、いいか。何度言ってもわかってもらえないみたいだし」
昔から、滑舌についてツッコまれる事には慣れていた。少しだけ溜息をついて、青年は周囲を見渡す。先程まで見ていた小さな希望とは裏腹に、ここが紛争地域だという事をイヤと思い知らされる光景が待っていた。目線の向こうに村の建物があったが所々、銃撃や爆撃などで壁や屋根も破壊され、痛々しい傷痕が目につく。
(いつになったらこの内戦は終わるんだ。確か、オレがこの国に来る前から続いてるって話だろ…)
「カジュマー! ハヤクー!!」
「わかった、判ったから!」
切ない気持ちを抑え、青年は子供達の元へ駆け出した。
「カジュマー。指に緑のペンキがついてるよ?」
「!?」
子供から指摘された指をズボンにこすりつけ、ごまかす。
「あぁ、ごめん。ありがとう!」
これは決してペンキではない。青年の指から流れたソレは紛れもなく自分自身の血だった。どこかで指を切ったのか気がつかなかったけれど、一瞬でも正体がばれていないか焦ってしまった。
(危なかった…。今の反応を見る限り、気づかれてないみたいだな…)
青年は人ではない。青年の名は剣崎一真。
十年ほど前、日本で復活したアンデットと呼ばれる不死の生命体。そのアンデットとの戦いの中で親友や、人類を助ける為に彼は人であることを捨て、自らがアンデットとなる事を選んだ。以来、死ねない身体となった彼は世界中を旅しながら、時には人ならざる者を倒しながら、時には今のように困っている人々を助けながら日々を過ごしてきた。
(そういえば、何度か日本にも帰ったけど、結局、橘さんや睦月達には会わないままだったな…。今頃、みんなどうしてるんだろう? オレの事なんて忘れちまったかな?)
どうして今になって、仲間達のことを思い出したのか、剣崎にはわからなかった。でも、何か前兆のような気もした。