灯りのついた小屋に、テーブルを囲み二人組の青年がトランプゲームをしている。
「なぁお前、聞いたか、美味しい話」
「あぁ、聞いた。聞いた。なんでも、良い金になるって話だろ?」
テーブルに置いてあったトランプの束から一枚引き、手札のカードと見比べる。同じ数字のカードを手札に確認すると、引いたカードと一緒にテーブルに放り投げた。
「それがよー。そうでもねぇんだよ」
「あん? どういうこった?」
「なんでもな、仕事を紹介してくれる人間についていくとな、そのまま帰ってこなくなるって話だぜ」
「ホラ、美味しい話にはやっぱ裏があるじゃねぇか」
「じゃあよ、俺がその仕事を紹介してくれる人間と知り合いだって言ったらどうする?」
「マジか? よし、この勝負でお前が勝ったら乗ってやるよ」
「よっし、ぜってぇ勝つからな」
結局、美味しい話を提案してきた青年が勝ち、問題の仕事紹介を受ける事になった。だが、彼らにとっては、それが自分達の身を滅ぼす原因になってしまう事はこの時、知る由も無かった。
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青年達が失踪した次の日の夜。すやすやと眠る子供達を見届けると、キャンプ近くに停めておいた自分のバイクにまたがり、剣崎は夜の見回りに出かけることにした。
難民キャンプ内でも、人が失踪しているという噂が囁かれていた。それが本当なのかを確認するためでもあった。向かった先は失踪したとされる青年達がいた村だった。
(多い時は村の人達全員が、なんて話も聞いたけど、ご飯や生活をしていた形跡からそんな短時間でやるには個人じゃ厳しい。もし、これが組織的な犯行だったら、オレもあの姿になる準備をしとかないと…)
そんな事を思いながらバイクを走らせていると突如、目の前に黒い影が横切った。
「危ない!!」
間一髪、影とぶつかりそうになったのを回避し、停車する。ぼんやりとした影がバイクのヘッドランプに照らされて姿を現していく。そこには頭から血を流し、今にも倒れそうな青年が立っていた。
「た、助けて……」
どこかから命からがら逃げてきたのか、服装もボロボロだ。剣崎を確認すると、その場に崩れ落ちてしまった。よく見ると失踪したと聞いていた青年だった。剣崎はバイクを降りて、すぐに青年へ駆け寄る。
「しっかりしろ! もう大丈夫だからな!」
「あ、ありがとう。でも、ダメだ。あ、アイツも、【石】になっ、ちゃった。お、俺も、たぶ……ん……」
「おい! しっかりしろって! おい!」
「………」
剣崎に抱きかかえられて安堵したのか、笑顔のまま青年は事切れていた。
「………ちくしょう!」
自分の拳を地面に叩きつけ、剣崎は怒った。また救えなかった。腕の中で冷たくなっていく人を見送るのは何度目だろうか。この時だけはいつも慣れない。
「なんなんだよ、【石】になるっていうのは…」
青年の亡骸と共に難民キャンプまで戻ってきた剣崎だったが、彼の目に映ったのはキャンプが見るも無惨な姿に変わり果てた姿だった。
「なんだ、これ…」
剣崎がこの地を離れたのは、僅かな時間だったハズだ。なのに、どこを見渡しても、人が見当たらない。
「一体、誰がこんな事を…」
「その答えには私が答えましょう」
「!?」
背後に気配なんてなかった。でも、背中から声が聞こえてきた。それは以前、耳にしたある人物の声だった。
「久しぶりだな、剣崎君。あぁ、今はこう呼ぶべきか、もう一人のジョーカー君」
「どうしてオレが、ジョーカーだと知っている? アンタはオレが…オレ達が倒した後で、アンデットに殺されたはずだ! そうだろ、天王路博史!!」
剣崎の後ろに立っていたのは、アンデット復活の原因を生み出した黒幕、天王路博史その人だった。彼は剣崎達との闘いに敗れた直後、逃げた先でギラファアンデットの手によって殺されたはずだった。
でも、今の目の前にいるのは紛れもない彼自身だった。
「君がそこまで驚くのは無理もない。私自身、こうやって五体満足で復活するとは思ってもみなかったのだから。つい先日、とある組織に甦らせてもらったばかりでね」
「組織だと? 天王路、アンタこのキャンプ場にいた人たちをどこへやった!」
「まぁまぁ、そう焦らなくてもいいだろう。剣崎君も耳にしたことはないかね、財団Xという名を…」
「財団X?」
「おや、その顔は知らないようだね。ならば、教えよう。君が私との闘いに勝てたらの話ではあるがね」
天王路が顔を覆うように自分の手を重ねていく。その手には不思議な指輪がはめられていた。みるみると姿が変わっていく。それは以前、天王路が変身した人造アンデット、ケルベロスのような姿に酷似していた。だが、所々強化改造されているのか、バズーカやマシンガンなど歪な装備が目につく。
『フフフ…これが今の私のもう一つの姿。私が以前産み出した人造アンデットを財団Xのデータベースにあった知識と融合し、パワーアップした姿だ。正にケルベロスの進化形とでもいうべきだ。そうだな、あえて言うならケルベロスカノーネとでも名付けようか』
(どうする? みんなと別れる時にカードやバックルは橘さんの元へ預けてきた。だから、オレが今なれるのは!!)
対する剣崎も姿を変えるべく両腕をクロスして構える。
「変身ッ!」
身体が一瞬にして変貌し、緑色の怪人へとなった。だが、目の色は青色で不思議と落ち着いているようにも見える。
『ほう、それが君の本当の姿か。実に興味深い』
『御託は後にしてくれ、今はオマエを倒して、いなくなった人々の行方を教えてもらうぞ!』
ケルベロスカノーネを一瞥し、その場から消えるジョーカー。
『速いな。でも…まだまだだ』
ケルベロスカノーネもまたその場から消え、空中で何度か激突音が木霊した。次の瞬間、ジョーカーが地面へと叩きつけられる。
『ぐはっ!!』
『おや、いくらなんでも遅すぎないかね? 君の本気をもっと見たいのだが…』
やれやれといったモーションをして、ジョーカーを挑発するケルベロスカノーネ。ジョーカーは頭に血が上っているのか、また突撃をしようとしている。
『私も少しばかり本気を出してみるとしよう。さぁ、これが避けられるかな?』
ケルベロスカノーネの右肩に装備されたバズーカから光り出す。なにかをチャージしているようだった。その様子を見ていたジョーカーは直感で、あの攻撃を食らったらいけないことを理解した。しかし………。
『そら、時間切れだ』
その言葉を最後に目の前が光に包まれ、ジョーカーの意識は途切れる。
ジョーカーとして不死身となった剣崎だったが、ケルベロスカノーネが放った一撃で腕や足が千切れてしまった。その攻撃は直線的な砲撃というより散弾銃のようにも思えた。
「次はもう少し愉しませてくれるかな、剣崎君。フフフ…ハハハハッ」
変身を解き、ケルベロスカノーネから天王路へ戻った彼はそうつぶやいた。