時刻は夜7時半になり、艦娘達の食事の時間になった。
艦娘の食堂は深海棲艦とは違い、専用の料理人がいるそうで、人間のだった頃にもあった食券を渡して料理を貰うタイプらしい。
しかし今日は私の着任祝いということで、今回はテーブルの上に大量の料理が設置せれ、バイキング形式になっていた。
続々と艦娘が食堂にやってくると、食堂正面に私を連れて提督がやってきた。
「ということで、今日からこの鎮守府に着任する事になった艦を紹介する」
「秋月型防空駆逐艦、一番艦、秋月です。訳あって白髪赤目ですが、よろしくお願いします」
自己紹介を終えると、艦娘達から拍手が送られた。
提督がビールの入ったグラスを持つと、艦娘達もジュースやビール、ワインの入ったグラスを持つ。
「さて、明日は海軍大演習に出場する艦娘を決める為にテストが行われる。明日に向けて英気を養うように。乾杯!!」
「「「乾杯!!」」」
自己紹介を終え、料理を取りに行こうとすると、私を囲うように艦娘が集まってきた。
なんの食べ物が好きなのか、どこで建造されたのか、夜戦は好きなのかなどの質問がやってきた。
私は質問に答えながら料理を皿に盛りつけていき、席に座ると、一瞬のうちに駆逐艦達に囲まれてしまった。
そしてまた質問攻めになってしまった。
そんな私を少し離れた位置から見ている艦娘の姿が何隻かあった。
「ほぉ…あれが蒼龍を一撃で轟沈寸前まで追い詰めた駆逐艦か」
「しかも空母二隻が放った艦載機を全て撃墜したらしいよ?もし敵だったらと思うとたまったもんじゃないね…」
「どうやら鎮守府近くの砂浜に倒れていたそうですよ?」
「そして、所属不明…記憶も抜けているらしいわ。」
「ガツガツガツガツガツガツ……」
「赤城さん…少しはこちらの話題に耳を傾けてくれませんか?」
「ガツガツガツガツガツガツ……」
「無理そうですね…」
「ふふふっ…面白そうだな、少し可愛がってやろう」
「え!?流石に止めた方が…怪我させちゃいますよ?」
「なぁに、心配するな。大和型二番艦として全力で相手してやる」
「いや手加減しないかの問題じゃありませんよ!?」
そして1人の艦娘が立ち上がると、こちらに向かってきた。
「よぉ、あんたが飛龍を一撃で大破させた駆逐艦か」
1人の艦娘がやってくると、私の側に集まった駆逐艦達がゆっくりと席から離れていく。
「私は大和型戦艦、二番艦の武蔵だ。この鎮守府では新しく着任した艦娘と腕相撲で力比べをする行事があるんだが、今回は私が相手をしてやろう」
すると、周りに居た艦娘達が何か小声で話し始めた。
「あぁ、今回も怪我人出ちゃうか…」
「どうしてこんな行事ができちゃったんだろう…」
「捻挫で済めばいいけど…」
どうやら悪名高い行事らしい。すると隣にやってきた照月が小声で話しかけてきた。
「秋月姉、逃げた方がいいよ…武蔵さんの相手をして、怪我をした艦娘が絶えないから…」
「なるほどね…」
これが俗に言うパワハラと言うやつか…私の働いていた職場ではそんな事が起きなかったから少し新鮮である。
しかし納得はいかない。相手が戦艦や重巡ならまだしも、駆逐艦や海防艦にまで武蔵の相手をさせるのはどうかしている。
「…分かった、受けて立つわ」
すると、周りに居た艦娘全員がざわめき始めた。
「ただし、条件があるわ。私が勝ったら、この行事を止めなさい」
「ほぉ…この武蔵が勝ったら?」
「私を好きにしていいわよ。パシリでも、サンドバッグでも、何でもね?」
「言ったな?言ったからには、恨みっこ無しだぜ」
2人はカフェテーブルに移動すると、駆逐艦からの声援が聞こえて来た。
「やっちゃえー!!」
「武蔵さんを倒せーっ!!」
「秋月期待してるぞー!!」
テーブルに腕を置き、お互いの手を握る。
「さぁ…そろそろ始めようか!!」
「…ひとつ言っておくわ、私はまともにやるつもりはないわ」
「それなら私が審判をしよう」
提督がやってくると、2人の間に入ってくる。
「それでは、準備はいいか?」
「ええ、いいわよ」
「ああ、私もいいぞ」
「それでは…始め!!」
ズシンッ!!
次の瞬間、武蔵の腕は勢いよくテーブルに押し付けられた。
武蔵が腕に力を込めようとした瞬間、武蔵の右足に激しい痛みが走ったのだ。
この時、武蔵にはこの痛みが何か分からなかった。
この隙を逃さんと私は腕に力を込め、武蔵の腕をテーブルに押し付けた。
あまりの勢いに床に倒れそうになり、テーブルの下が見えると、痛みの正体が判明した。
弁慶の泣き所に秋月の蹴りが当たっていたのだ。
「言ったでしょ…私はまともにやるつもりはないって」
あまりに一瞬の出来事で、辺りにいる艦娘達は一体何が起きたのかとザワつくと、提督は冷静に私を掴んだ。
「勝者、駆逐艦秋月」
提督が秋月の腕を上げると、駆逐艦達から歓声が沸き上がった。
「秋月……今の蹴りは…」
武蔵が脚を押さえながら聞いてくると、提督が秋月の側で話し始めた。
「残念ながら、反則ではない。元々この行事にはルールが無いからな」
「なっ!?」
「さて…約束通り、この行事は止めてもらうわよ。異論はあるかしら?」
すると、床に座っていた武蔵が口を開く。
「…フッ…ふははははっ!面白いやつだ!秋月だったな」
「ええ、悪かったわね…卑怯な真似して」
「いいんだ、むしろ気に入った。これからは約束だったこの行事を止めるとしよう」
こうして、唐突に始まった腕相撲と私の着任祝いは終わりを迎えた。
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初投稿から何年経ったか分かりませんが、消えてしまった前作から見てくれる人、この作品から見てくれている人も、ありがとうございます!これからも「新タナ私ハ防空棲姫」をよろしくお願いします!