新タナ私ハ防空棲姫   作:深海提督

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記憶ヲ持タヌ重巡

「よし、今日はこれくらいにすっか……」

 

「はぁ…はぁ…了解…」

 

日が沈み月が昇り始めると、指導役の天龍が無線機越しに摩耶に声を掛け、傍に寄っていく。

 

「ふぅ……命中率30%…目が覚めてから1ヶ月の割にはいいんじゃねぇか?」

 

「そうか…?2年前のあたしだったら、50%いかなかったら納得しないぞ?」

 

「そうだよな……お前だったら納得するまでやり続けるだろうな……」

 

鎮守府に戻りながら話していると、ふと思い出したかのように摩耶が天龍に問いかける。

 

「……天龍、2年前のあたしって…どんな感じだったか…教えてくれねぇか…?」

 

「!?ゲホッゲホッ……それ今聞くか…!?」

 

吸ってたタバコの煙を思わず吹き出してしまい、海面に落ちそうになった紙タバコをキャッチする。

 

「ダメなのか?」

 

「いや、そうじゃねぇけど…どうしても聞きたいのか…?」

 

「まぁな……」

 

「…分かった、消灯時間前にお前の部屋に行くからその時にな…」

 

 

 

▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫

 

 

「摩耶、来たぞー」

 

ノック音が扉から聞こえ扉を開けると、短パンTシャツの天龍が缶ビールとツマミを持ちながら入って来た。

 

「あのなぁ…晩酌する気じゃねぇか…」

 

「まぁな、思い出話を語るんだから少し位はな」

 

ベッドの側に置かれたちゃぶ台にビールとツマミを置くと、2人は胡座をかきながら座る。

 

「さて……2年前のお前の話だな…」

 

「あぁ、出来る限りでいいから頼むぜ」

 

 

 

 

▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

これは今から3年前の話だ。3年前、この鎮守府に2隻の重巡洋艦が着任した。

 

それがお前と鳥海だった。2人は性格が正反対だったけど、仲が良くて相性が良かったな。

 

当時重巡洋艦が不足していたが、2人が来てくれたおかげで深海棲艦から海域を奪い返していった。

 

2人は徐々に戦績を上げ、戦艦と同じくらいの強さとも言われていた……2人が着任してから1年経つまではな……

 

ある日、泊地棲鬼と言われる深海棲艦が制圧していた海域を奪い返そうと2人と俺、駆逐艦3隻で出撃した。

 

泊地棲鬼までの道のりに現れた深海棲艦に苦戦する事もなく、泊地棲鬼の元に辿り着いた。

 

だが……泊地棲鬼とその護衛にいたル級とタ級だけは違った……

 

いくら砲撃しても大きなダメージを与えられず、奴らの砲撃を必死に避ける事しか出来なかった…

 

その時、1隻の駆逐艦に泊地棲鬼が放った砲撃が命中しそうになった。

 

俺が躱すように伝えた時にはもう徹甲弾が側まで飛んで来ていた。

 

俺は思わず目を閉じて、駆逐艦の事を諦めそうになった時、1隻の艦がその駆逐艦の前に飛び出して来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

飛び出した艦は鳥海だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が目を開けると、駆逐艦の前に立ち、全身から血を流している鳥海の姿があった。

 

鳥海は私が囮になるから全速力で撤退するように無線機越しの俺と摩耶に伝えた。

 

摩耶は鳥海も一緒に撤退しようとしたが、鳥海からの頼みで、俺が摩耶を押さえつけながら全速力で海域から撤退した。

 

 

▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫

 

何とか安全な海域まで撤退し、無事鎮守府に帰投出来たが、摩耶は止められながらも再び出撃しようとした。

 

陸奥や飛龍、提督にも押さえつけられ、何とかして止めようとすると、希望を失ったように気絶して、再び出撃しないようにドックに暫くの間、修理と言う名の監禁をされた。

 

それから3週間後、何とか落ち着き、鳥海はまだ何処かで生きていると考えていた摩耶は、鎮守府付近の砂浜を歩いていると、錆び付いた主砲が流れ着いていた。

 

主砲を拾い上げ、何処の鎮守府の艤装か刻印されている識別番号を見ると、そこには……

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府 重巡洋艦鳥海と記されていた

 

 

 

 

 

識別番号が目に入った摩耶は、思わず錆び付いた主砲を手から落としてしまい、その場に膝を突き絶望した。

 

今まで生きていると信じていた摩耶にとって、この錆び付いた主砲は、鳥海が沈んでしまったと思わせるのに十分過ぎる力を持っていた。

 

摩耶は1人泣き叫び、砂浜に拳を叩きつけると、深海棲艦に対しての憎悪が湧き出し、泊地棲鬼に対して復讐を誓った。

 

 

▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫

 

 

そして、それから1週間後、摩耶は深夜に無断で缶と艤装を装備して、泊地棲鬼の制圧している海域に1人で出撃しちまった。

 

その時、夜戦の訓練をしていた俺が、摩耶の姿を見つけて、急いで提督に連絡した。

 

提督に摩耶の事を伝えると、6隻編成を4つ、24隻もの艦を使って摩耶の捜索に出た。

 

1日中捜索し、夜中になると、俺が担当した泊地棲鬼の制圧した海域の側で、水上電探に摩耶の反応が出たんだ。

 

俺は提督に連絡して、急いで摩耶の近くまで進んでいくと、6隻の深海棲艦に囲まれて、血塗れになりながら沈んでいく摩耶の姿があった。

 

急いで摩耶を救おうと近づいたが、砲撃が激しく、近づく事も出来なかった俺は、撤退しながら、摩耶の轟沈を確認した連絡を提督に入れた……

 

 

▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫

 

そして、摩耶が轟沈してから月日が流れ、今日から1ヶ月前に遡る。

 

出撃していた主力艦隊が、海面に浮上してきた謎の紫色の貝を発見した。

 

巨大なシャコ貝のような見た目をした貝が、ゆっくりと口を開くと、中にはお前……摩耶が入っていたんだ。

 

裸のまま眠りに就いていた摩耶が目を覚ますと、自分の名前や鳥海の記憶以外を全て忘れてしまっていたんだ。

 

自分が沈んだ事や、俺達の事も全部な……

 

 

 

「……こんな感じだ…どうだ……聞いて後悔しなかったか……?」

 

「…いや、ありがとな、天龍……大丈夫、何となく分かったさ……」

 

「おう……それならいいんだ…」

 

「……確かに、鳥海に対しての悲しみはあったが…今は…あたしは……今でも鳥海が生きているって信じられるからな…」

 

すると、摩耶は缶ビールを開けると、天龍と共にビールを飲み始めた。

 

 

 

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