薫「あの姿、どうも厄介っぽいぞ」
巨大な荒魂らしき怪物と遭遇した沙耶香達は御刀を引き抜いて攻撃態勢へと移る。しかしどうも相手の様子はおかしかった。
ねね「ねね~…!」
沙耶香「ねね…まさか…」
ねねの反応を見て沙耶香があることに気づく。
薫「ねねがどうしたんだ?」
沙耶香「ねねは危険を予知している…。それを私達に伝えようとしている」
エレン「それって本当デスカ?」
薫「荒魂であるねねだからこそわかることか…常にオレと一緒にいるあいつの気持ちに気づけなかったのが遺憾だったな」
荒ぶるねねにそっと近づく薫。しかし、ねねの気はすぐには治まらなかった。
薫「もう大丈夫だ。あとはオレ達に任せろ」
ねね「ねね…ね~…!」
沙耶香「それと、あの荒魂のような生物に敏感らしい。今はあれを祓うしかない」
エレン「サーヤの言う通りデス、今すぐやっつけちゃいマショウ」
ここまでのねねの様子を理解した三人はすぐにでも謎の生物を対処しようと行動に移る。ところが…、
ドクン…
頭から響く謎の鼓動が伝わり、沙耶香達の身体の動きが一瞬止まってしまう。一体何が起きたのかさっぱりわからず、ただ足が動かない状態である。
沙耶香「…どうなっているの?」
不思議に思う沙耶香が今の鼓動が何なのか考え込む。しかもこの影響はねねにも及ぼしていた。
ねね「ねね…?」
エレン「どうしマシタねね?」
薫「急にねねの勢いが治まったぞ…」
さっきまで唸っていたねねが突然大人しくなりつつ警戒心が弱くなった。疑問に感じる薫がねねにそっと手をさし伸ばす。
薫「…今の鼓動、オレも聞こえたが…こいつにはどんな影響があったんだ?」
沙耶香「見て、あの怪物の姿が消えていく」
エレン「どういうことデスカ?」
沙耶香は謎の生物が消えていくのを目撃する。謎の生物は特に何もせずに徐々に霧の中へと姿を消す。被害は特になかったが、これでまた一つ脅威が増えたと断言できた。
沙耶香「霧、出てるでしょ?どんどん見えなくなっていく…」
薫「本当だ。一体何がしたかったのか…なぁ、ねね」
ねね「ね~」
薫「ったく、しょうがないやつだ(なでなで)」
エレン「この出来事を今すぐ報告しなきゃデスネ。きっといい手がかりにつながるはずデスし」
沙耶香「証拠写真、撮った。映像もちゃんと録画してある」
薫「仕事はえーな。流石だ」
被害はないため、これにて討伐任務は終了した。三人はすぐに戻るよう急行しつつ、別の居場所で任務に当たっていた可奈美達にも戻るよう連絡を入れた。
姫和「して、その荒魂のような生物はどんな特徴だったんだ?」
沙耶香「見た目は本当に荒魂そのものだった。でもノロの気配は感じなかった」
彼女らの定刻通りの護衛任務や討伐任務が全て終え、折神朱音がこれから入室する部屋へと集まる。沙耶香は可奈美と姫和、そして舞衣に接触した謎の生物について写真と映像を閲覧させる。
可奈美「これって…あの時の大荒魂とはまた違うよね?」
沙耶香「あれに近づいた時、ねねがもの凄く警戒していた」
舞衣「ねねちゃんがそんなことを…?」
薫「まだ確信したわけじゃない。きっとねねにしか伝わらない何かがあるんだろうさ」
姫和「この映像からすれば、大荒魂に通ずる何かはあるということは間違いなし、か」
写真と映像を吟味しながら答える姫和に対して薫は眉間にシワを寄せながら便乗する。
薫「だとすればオレ達が出会ったあの怪物はさっき拝見したノロとも関係あるんじゃねぇか?」
姫和「それも一理ある。ただこの推理を俯瞰にして思う程都合はよくない、最もこの二つが一致すればの話だがな」
姫和は更に自分なりに整理して述べる。任務に当たる前に拝見したノロと関わりがあるならばこの推理は正論かもしれない。ただあのノロについては細かい部分がまだ不明のままであり、色々ギクシャクするところが沢山あるという。
可奈美「私達も直接行っていればもっと詳しく調べられたのに…」
姫和「だが映像を見る限り霧に包まれていたからシルエットがよくわからなかった。これは難航しそうだ」
エレン「ヒヨヨンの言う通りデスね。正体を突き破るのにも苦労しマース」
釈然としないこの空気に更に悩ませる一同。この場の状況ではより一層考え難いようでまだ誰も予測はできない。
可奈美「どうしたものかな…」
朱音「皆さん、集まっていますね」
舞衣「はい。全員います」
朱音「唐突ですが、こちらを用意しました。是非ご覧になってください」
一同が悩む中、朱音が資料を手に持ちつつ入室した。その資料をテーブルに並べて可奈美らに見せる。
薫「すげー量だな。これは何の資料だ?」
朱音「あなた達が先程得た映像の解析の元、この生物についてわかる限り調べました。しかし研究班でもこれくらいの情報しか得られませんでした」
エレン「それでも結構な数はありマスね」
十数枚の資料を両手に取り黙々とチェックしていく一同。そこに姫和が目を疑うような顔つきである項目を頑なに凝視していた。
沙耶香「姫和…?」
沙耶香が気になって声をかけてみるが、反応はなかった。というのも、姫和は自身が最も気になったところを必死になって閲覧していたのだ。
姫和(これは…なんてことだ…)
可奈美「姫和ちゃん?おーい、姫和ちゃん」
姫和「っ!?…可奈美、ビックリするからやめろ」
可奈美が大声で姫和のことを呼ぶと、驚くように反応した。どうやら周りの声が聞こえない状態のようだった。
姫和「みんなに話すのも癪だが、これを見てほしい」
舞衣「何これ…」
沙耶香「…荒魂の系統図?」
可奈美「朱音様、いつの間にこんなものを?」
朱音「解析していたら、偶然にも荒魂と通ずる部分が出てきました。私でも想定外でしたが」
一同が目を通す荒魂の系統図。様々な形のものが存在し、どの姿になるかは突然変異によるものだったり自然とその姿に生まれるものなど色々ある。真っ先におかしい部分があると気づいた姫和が朱音に尋ねる。
姫和「荒魂の系統図が出てくるなんて到底おかしな話ですが?」
朱音「実は私や研究班達も調べていてもこれが出てくるとは思いませんでした。我々人類のまだ知らない領域があるとはとても無粋ですよ」
姫和「メディアに知られることのないことに関してはまだ納得できるが、なんだか歯痒いな…」
薫「大荒魂を思い出すとそういうところにも着目するってことか。姫和らしい考えだな」
訝しむように呟く姫和を、薫がねねを撫でながら凝視する。彼女の様子からすると、表現し難い部分が表に出ているようだ。
朱音「これには我々の知らない細かい詳細もいくつかあります。この情報が間違いでなければ先程皆さんが拝見したノロは荒魂と関わりがある可能性は一理ある、という結果になるわけです」
舞衣「なんだか不思議なことですね…」
一同は未だに納得のいかない顔をしている。しかし沙耶香は少し理解した様子でこう答える。
沙耶香「種族は違うけど、性質は同じだと思う」
舞衣「沙耶香ちゃん…?」
姫和「性質は同じ、か。あながち間違いでもなさそうだな…。私の考えがちょっと偏見的だったみたいだ」
沙耶香が呟いた言葉に一同が耳を傾ける。さりげなく深く考察していた姫和も安堵する。そこで沙耶香が更に自分なりにまとめた意見を告げる。
沙耶香「仮に以前の大荒魂みたいな被害があったとしても、対応は不可能ではないと思う…多分」
姫和「そうか…」
可奈美「きっと大丈夫だよ。私達ならね」
朱音「この件はもっと整理する必要がありますね。しかし今回の話は重要な用途を得られたかもしれません。そこまでとは言いませんが、私も相応の対策を講じます」
薫「まぁそれまで待つにこしたことないな」
それぞれがまとまった感じになり、話がサクサクと進んでいく。すると舞衣がきりのいいところでお菓子を用意した。
舞衣「考えすぎたでしょ?ちょっと甘い物食べて頭を少し切り換えよう」
沙耶香「…チョコ、食べた方がいい」
エレン「頭をリラックスできるからデスね」
可奈美「賛成ー、あーん(モグモグ)」
姫和「たまには悪くないか」
薫「チョコミントないからってしょげるなよ?」
姫和「私がなんでもチョコミントを食べるとでも思うな」
沙耶香「姫和のイメージって感じ」
お菓子を手に取り賑やかなムードへと変わっていく。疲れが溜まっていた一同にとっては嬉しい時間でもある。そこへラングドシャを頬張るエレンがひょんとした顔をしてあることに気がつく。
エレン「ところで皆さんは特別廃棄物なんたらというのをご存知デス?」
姫和「特別廃棄物漏出問題のことか?」
薫「それがどうしたんだ。やけに真面目な態度だなエレン、悪い夢でも見たのか?」
エレン「紗南センセーから危険区域に立ち入るなって通達があったんデス。今は各地の刀使達が処理活動に対応しているとか」
エレンの説明を聞いた一同は一斉に頷く。一方でも一刻も早く対処をしなければならない事態のため、他のところでも救援は要求されるばかりで各地で憤りが生じているという。するとこの話に便乗するように舞衣が質問をした。
舞衣「真庭本部長からこの対策をどうするべきなのか聞いてる?」
エレン「残念ですがそこまでは聞いてマセンね…。でもグランパならいい方法知っているかもしれないデス」
可奈美「フリードマンさんならわかるの?」
エレン「一応内容を伝えておけばきっと対策を練ってくれるはずデス」
エレンが口にした特別廃棄物漏出問題について、一同は一度その内容を把握しているらしい。しかし大まかな解決策は未だに認知できていない。その根本的な解決策をエレンの祖父であるリチャード・フリードマンが知っているのかもしれないという話まで持ち上がっているものの、直接聞き出さない限りは当の本人も答えは出てこないため無策な行動は不可能である。
姫和「謎の生物もそうだし、今はその問題についても寸陰に考えるべきだ。各地の刀使の人手を寸借した方が得策だろうな」
沙耶香「色々と課題はありそう…。でも私達でやるしかない」
朱音「どちらの問題も重要ですし、皆さんのペースでやっていけば大丈夫です」
可奈美「はい、精一杯精進します!」
一同はその後、それぞれでやるべき職務を行いつつ今回の件に関しては一旦終了することとなった。謎の生物の解明、特別廃棄物漏出問題の両方をシェアに入れながら今後の活動に貢献するよう心掛けた。だがこれで一安心するのにはまだ早かったのは誰もが想定できる範囲ではなかった。
~~数日後~~
可奈美「やぁ!はぁ!」
沙耶香「ふっ…」
別の日、可奈美と沙耶香は中部地方の遠征がてらに荒魂と遭遇しつつ撃退を行っていた。二人は丁度鍛錬を終えたところだったためコンディションは良好であり、素早く殲滅させていく。
沙耶香「残りわずか、一気に決めるよ」
可奈美「うん!」
二人の太刀筋が大きく振りかぶり、荒魂を一刀両断する。崩れ落ちる荒魂の全身がノロへと変わり、二人はすぐさま回収を行った。
可奈美「今日も被害なしだね」
沙耶香「迅速な対応が役に立った。それとちょっと疲れた」
可奈美「相当気合い入ってたよね沙耶香ちゃん。結構ビックリしたよ~」
沙耶香「もっと強くならないと意味ないから、私なりの道を進みたい」
ノロの回収を終えた二人は御刀を収め、鎌倉の本部に報告をする。その後帰還命令が下ったためすぐに戻ることとなった。
可奈美「それにしてもこの前の謎の生物出て来ないよね」
沙耶香「いつどこで出て来るかわからない。可奈美も気を引きしてめてほしい」
森林から出ると横断歩道付近で特別祭祀機動隊のメンバー達が市民達と揉め合いになっているところを目撃する。
可奈美「あれ?何やってるんだろう…?」
沙耶香「私、聞いてくる」
そこへ沙耶香がどういうことでこうなったのかを聞いてみる。すると、
老人A「君達があの廃棄物をどうにかしてくれないと困るんだ、大至急片づけほしい」
女性「あなた達がやらないと誰がやるっていうの!」
機動隊メンバーA「我々も全力を尽くしています。ですから落ち着いてください」
老人B「ワシらはこの状態が長く続いているから不満に思うんじゃ!」
機動隊メンバーB「すみません…。私達も常に荒魂の討伐に当たっていまして…」
かなり激しい口論が勃発していた。だからこそ沈着冷静な沙耶香が仲裁役として割り込むことが可能である。
沙耶香「一体何を揉めてるの?」
老人A「あの娘達の対応が遅くてイライラしていたところなんだ」
老人B「君も刀使じゃろ?なんか言ったらどうじゃ」
二人の老人の言葉に耳を傾ける沙耶香。そこへ特別祭祀機動隊のメンバーの一人がこう答える。
機動隊メンバーC「実は特別廃棄物漏出問題について新たな情報が飛び込んで来ました。処理したはずの廃棄物が徐々に広がってある場所へと移動を始めたんです」
沙耶香「ある場所…?」
可奈美(どうしてそんなことが…?)
この証言に二人は疑問を大きく浮かび出す。この事実が本当であれば更なる被害が起こりかねないだろう。
沙耶香(おそらく、あの時の謎の生物と関係あるんじゃ……?)