ヒロインバトルロワイヤル!   作:ささみ紗々

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エリオット 2人の敵と1人の味方

 海。

 

 辺り一面、真っ青な世界。

 時折吹く風に、彼女は目を細める。潮の匂い。耳に気持ちいいさざめき。

 風に吹かれる長い髪を手で抑えて、エリオットは考える。

 

 ──なぜ私はこんなところにいるのでしょうか。

 

 海より青い髪。髪と同じ色の瞳。薄い唇。

 白いワンピースが風になびく。

 

 こんな状況じゃなければ、嘆息して目が離れないような姿である。しかし彼女……エリオットもまた、ヒロイン候補の1人である。

 彼女は容姿端麗、また頭脳明晰。そんな彼女を見て、人は不平等だと思う。

 

 

「論理的に言って……」

 

 これが彼女の口癖。しかし彼女はいつも思う。論理的な思考なんて、このリュミエール王国で出来るはずがない。なにせ何だってありの不思議な国なのだから。

 

 彼女自身もまた、不思議な存在だった。

 王国の統治下にある森の奥、神秘の世界と呼ばれる花畑。そこは境地と呼ばれ、定められた者しか入ることの出来ないとされている場所だった。

 彼女は幼い頃、森の探検と言ってそこにいつの間にか入っていたのだ。帰ってきた彼女は、そこをエルフの住処だと言った。

 

 他にも彼女の不思議な話はいくらかある。彼女はごく普通の人から生まれたが、実は神の使いだったのではないかとも言われている。彼女の能力は未だに目覚めていない。

 

 そんな不思議な彼女だからこそ、論理的、科学的に説明できる事を好むのかもしれない。

 

 

「……圧倒的に不利」

 

 エリオットは呟いた。

 戦う。ヒロインになれなかった人は死ぬ。残るのはたった1人、ヒロインになれた者だけ。

 まだ力の目覚めていないエリオットにとって、この状況は不利以外の何でもなかった。

 

 

 

「おやおや、おひとりですかい」

 

 静かな波のさざめきの中、異質な声がエリオットの背中を刺した。

 ──敵だ。エリオットはすぐさま勘づく。この声は、もしかすると……1番出会うべきではなかった人かもしれない。

 

「もう、デリーちゃんってば……目が怖いよう」

 

 2人!? 

 

 エリオットは振り向かない。否、振り向けないのだ。

 ケラケラと笑う2人目の声は、甘ったるい鼻にかかった声で煽る。

 

「この子無視だよう、ひど~い」

 

 完全に舐められている。エリオットは下唇を噛んだ。

 戦うのではなかったのか、最後の1人以外は死ぬ、とも。それなのにどうして彼女たちは2人でいるのか。

 

 振り向くべきか迷った末、エリオットは走り出した。体力には自信のある彼女はまっすぐ走る。砂に足を取られることもなく、風の抵抗も受けずに。

 

「あっ、クソっ!」

 

 低い声の叫び声が背後で聞こえたが、エリオットは気にしない。

 

 

 絶対そうだ。あの声は……。

 

「これこそがッッ! 私史上最ッ高に! エキサイティングな出来事だわ!」

 

 エリオットの脳裏に、少し前の出来事が蘇る。あの声。人が死ぬことになんて微塵も辛さを感じず、ただ己の快楽を求める……そんな声。

 捕えられたらおしまい。非現実的すぎる!

 

 足音が一向に聞こえない。諦めたのかと気を抜きかけたその時。

 

 ブゥゥン……

 

 動力の音がした。エリオットの背中に悪寒が走る。

 遠い音は、だんだん、だんだん近づいてくる。その間たった数秒、真後ろに気配を感じた。

 

「追いかけごっこなんて、なかなか勇気があるじゃない?」

 

 バイクである。横に並んだ彼女──デリーは、エリオットの横顔を一瞥する。

 

 ──終わったな。

 

 そう思ったエリオットは、ピタリと足を止めた。

 あれだけなんの抵抗もなかった風が、エリオットが止まった瞬間に大きな旋風を起こした。ほんの一瞬のことで、誰もその風の不思議さには気づかなかったのだが。

 

 デリーの乗ったバイクはエリオットの急な静止には合わせることが出来ず、彼女を少し通り過ぎた後で迂回して止まった。

 

 デリーがバイクから降りる。目にかかる程の長い髪をかきあげて、ニマリと笑った彼女は、まるでそう──悪魔のようだった。

 

「準備は出来てるかしら」

 

「……」

 

「やっと追いついたあ……デリーちゃん、早すぎだよう」

 

 前にも後ろにも敵。もう逃げ場はない。

 

「君をいただくのは私だよ、残念だけどデリーちゃんじゃないんだあ。可哀想だから私の名前くらい教えてあげるね? 私の名前はテリア。テリア=ポワレ。私があなたの力をもらってあげるから、安心して?」

 

「……っ! こんなのっ! おかしいと思いませんか! どうしてヒロイン候補がこうやって殺しあわなければならないのです!?」

 

 エリオットが拳を握りしめ、声を振り絞る。まだ死ねない、死にたくない。そんな感情が渦巻いて、いつもの冷静さでさえもうどこかに消えていた。

 ──お願い私を諦めて。

 

「知るか。別に私はヒロインなんて望んじゃいない……けどさ、こんなにエキサイティングな出来事待ってるなら、やるしかないじゃん? ほら」

 

 デリーがエリオットの顎に触れる。痺れるような痛みが一瞬デリーの手を襲った。静電気だろう、そう思ってデリーは手を離さない。

 ぎゅっと目をつぶって、エリオットはこれから来る苦痛を想像した。意味がわからない……論理的思考に基づいて、この状況は、わからないことだらけ!

 

「いいよ、テリア」「おっけい」

 

 テリアの口がエリオットの首元に寄せられる。顎が持ち上げられているので、いともたやすく到達してしまう。抵抗さえできない自分の無力さに、エリオットは絶望した……その時。

 

 

「どえりゃあああああああああああああ!」

 

 小鳥も魚も飛んでいきそうな大きな声が、遮るもののない海辺に響いた。エリオットが目を開けると、そこにはテリアもデリーもいなかった。

 

「………………え?」

 

 代わりにそこにいたのは、緑の髪をツインテールにした少女。

 

 ──遅刻した人。エリオットは呑気に思った。

 テリアとデリーは、数メートル先に転がっている。

 一体……?

 

「大丈夫!!? 2対1なんて卑怯だよ! ほんとにもう……ほら、行こ! こっちだよ!」

 

 一方的に彼女がエリオットの手を引っ張り、走る。砂浜を抜けて道路に出ると、立てかけてあった箒を手に取りまたがる。

 

「箒なんて、乗れません」

 

 怯えたエリオットが言うと、緑の少女はニカッと笑って言った。「大丈夫!」

 

 

 空高く飛んだ2人が振り向くと、後ろには誰も追ってきていない。

 やっと安心した2人だが、エリオットの胸の中には新たな疑念が湧き上がってきた。

 ──どうして私を助けたんだろう、この子もヒロイン候補の1人のはず。

 

「んあっ! そうだそうだ、名前言ってなかったねえ! うちの名前はネオ! ネオ=ガーレンだよ! さっきなんであいつら倒したのかって不思議に思ったでしょ? うちの体は聞いて驚け! 鋼で出来てるんだっ!! もちろん普段からカタカタなんじゃなくて、ちょいっと力入れたら体が硬くなるってわけ! ヒロイン候補の招待状が来るまでは魔法使いのとこで勉強してたのもあって、箒に乗ったりとかそういう軽いヤツなら私もできるんだ! だから任せて!」

 

 何が任せてなのか、早口でまくし立てたネオは得意げに微笑んだ。

 

「……ありがとうございます。助けてくれて」

 

 なんだか安心できそうな人だと、少し気を緩めるエリオット。

 

「でもどうして私を助けたのです? 私を殺しておけば、候補生は減ってネオさんはヒロインに近づけるのに」

 

「やっだ~ネオって呼んで! それよか、うーん、そっかあ。そうだよね、確かになんて助けたんだろう? でもなんか……胸糞悪かったってのかな? うち、あの子達嫌いだもん! なんか自分強いってひけらかしてるところとか! ホントはもっと早く助けるべきだったんだけどね、どうやって助けようかって見てたんだけどなかなかタイミングが……でも1箇所に固まってくれてよかったよ! ま、うちは君がうちを殺すって言い出すんじゃなきゃ君を殺すつもりは無いし、よろしくしようよ!」

 

「……私の名前はエリオットです。エリオット=ワトソン」

 

「よろしく、エリオット!」

 

「……ええ、ネオ」

 

 

 少し早口でお人好しなネオ。能力が目覚めていないが故に、あまり頼りきれないエリオット。2人は海から遠ざかる。眼下には、森が見えた。




【エリオット=ワトソン】
論理的に説明できる事柄を好む。少し頭が硬い?
まだ能力に目覚めていないが、かつては神の使いと呼ばれたことも。口癖は「~です」「~ます」

【デリー=デュ=フレネ】
スリルが大好き。一言で言うとやばいやつ。
創造魔法で、しっかり思い描けるものたなら自分の力で生み出すことが出来る。少々時間がかかるのが難点。

【テリア=ポワレ】
ぶりっ子。吸血して相手の能力を奪う力がある。
デリーと手を組んでいる。

【ネオ=ガーレン】
緑の髪の少女。1人で喋る。早口。
体が鋼で出来ており、戦うのは基本素手。魔法使いのもとで修行を重ねたこともあり、簡単な魔法なら使える。
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