アプリコットちゃんは超初期に殺してしまいましたが、ここから先はヒロイン予想しながらどうぞー!
「くそっ! 誰だよあいつ!!!!」
「逃げられちゃったねえ」
エリオットとネオが空を悠々と飛んでいる頃、デリーとテリアは空を眺めていた。デリーは唇を噛み締めているが、テリアは気にしない風である。まるで違う2人の反応だが、ここまで性格の異なる2人がどうして一緒にいるに至ったのか……。それは、この地に飛んできてすぐのこと。
「おうおう、運がいいのかな私は……ねえあなた、名前を教えて?」
獲物を見つけたような目をして、デリーがテリアに近づいた。テリアは城でのデリーの様子を覚えていたので、もちろん怯える。
「ひっ……わ、わわ、わたしは、テリア=ポワレと申しますでございます」
「ビビりすぎね?」
「いや、でも、その……殺します? 私を」
「んん……そうねえそのつもりだったけど。考えが変わったわ、私の力になってよ」
「へっ?」
「誰かが来た時一対一よりも2人で確実になぶり殺したほうが楽しいじゃない? 違うかしら?」
「わかんないけど……とにかく私を殺さないっていうなら、協力します」
「OK交渉成立ね」
デリーが主導権を握っているようだった。実際そうだった。テリアが強いデリーに従ってついていく形。
しかしその形も、テリアの中ですぐに壊れた。元々自信過剰なところのある女。テリアはすぐにデリーの隣に並ぶことに慣れ、むしろその地位を利用しようと考えた。
──私、相手の力を吸収することが出来るとは言ったけど、その力を自分のモノに出来るなんて行ってないんだよね……。
テリアはデリーを騙しているつもりはなかった。「相手の力を吸収する」そう言えばわかってくれると思ったのだ。
となると、いずれテリアの存在が脅威になるのは目に見えている。しかし何も警戒しないデリーの様子から、テリアはわかった。
──こいつは馬鹿だ。
不思議な存在ばかりが集まるリュミエール王国。テリアは一般家庭で、何も特別な能力がない家系から生まれた。
そんな中テリアの能力が芽生えたのは天賦の才とも言え、奇跡に近かったのだ。ヒロイン候補になるまでは、その能力も使用価値がわからないままだったのだが。
「もっと能力奪っておけばなあ」
ほとんどゼロに近い能力。エリオットの能力も奪い損ねた。誰かの能力にでも頼らないと、デリーは倒せない。この世界では生きていけない。
──ヒロインに一番ふさわしいのは、この私。
テリアはデリーの作った空を飛ぶ絨毯の上で、デリーの背中に向けてほくそ笑んだ。
「ヒロイン」と言えば、国中の誰もが羨む輝かしい地位。それを手に入れるためなら努力を惜しまない。
例外を除き、それは国中の女性に言える。テリアの母だって、ヒロインになれると知ったら今からでも頑張るだろう。その夢を娘に託した。
他の候補者たちもほとんど同じ。たとえその身が朽ち果てようと、手に入れてみせる……!
「追いかけっこか、面白いじゃない? あいつは必ず捕まえるわ……」
「頑張ろうね~」
なるべく闘志を見せないようにしなければ。
☆
「ねぇ、あれ……」「ですね」
ルーシーとキャロルは、小さく頷き合う。2人の視線の先には──パオラだ。不審そうに周りをキョロキョロと見回して歩いている。2人には気づいていない。
先程のメイベルからの連絡で、既に1人死んでしまったと知った2人。
遊びじゃない、殺されるんだ。確実に残り1人となるまで……。2人の頭の中には恐怖が芽生えた。
メアリ女王が言った言葉を深く受け止めていなかったのかもしれない。「死ぬ」と言われても納得出来るはずがないが、さすがにここに着いて早々で1人死んだとなれば、信じずにはいられない。
お互いがお互いを尊敬している存在。殺すともなれば家の名に傷をつける。殺されない、殺さないとわかっているから2人は安心して一緒にいることが出来るが……もし残り2人だけになったら? 戦わなくてはならない。その時は仕方ない。しかしそれで手に入れる名誉というものも皮肉だ。
──とにかく最優先は、殺らなきゃ殺られるってこと。
「あまり乗り気じゃないけど……
ビクっと身体を震わせ、振り返ったパオラ。2人の姿を確認すると、目を見開いて──消えた。
「消えたわ! 追うわよ!」
しかしルーシーは動かない。
「……どうしたの?」
「…………本当に、いいのかしら……」
「何が?」
「人を殺すなんて……」
キャロルは戸惑う。そう、今からキャロルがしようとしているのは、紛れもない殺人……。
「けど……殺らなきゃ殺られるのよ! ルーシーだってヒロインになりたくてここに来たんでしょう! たとえこれが殺人でも、ヒロインになるためには、死なないためには、やらなきゃいけないの!」
ルーシーはぽかんとしてキャロルを見る。そしてゆっくり笑った。
「そうですわね……キャロルも辛いんですわ。私は自分のことばかり。キャロル、絶対ヒロインになりましょう!」
それは、無理だ。どちらかは少なくとも死ぬ。逃れられる方法など、探しているうちに殺されるのがオチだ。
だが、キャロルは答えた。強い意志で。
「ええ、その意気よ!」
2人は走る。街の中を、人混みをかき分けて。
「彼ら、蝋人形だわ」「そのようですわね」
「
キャロルの魔法で爆発が起こり、人々が溶けてゆく。周りにいた人々が消え、魔法の効果が届かなかった人達も悲鳴を上げて逃げていった。
ついに残ったのはキャロルとルーシーだけ。消えたパオラを探そうとするが、あてもなく探すのは……とキャロルは方法を探す。
「
ルーシーが呟いた。
その一瞬で、世界は闇に染まる。
「聖なる光の前には、誰も逃げられないのですわ……
ルーシーがかざした手の平から、小さな光の玉が生まれる。青白く輝くそれはゆらりゆらりと漂って、闇の中をさまよう。
キャロルは初めて見るルーシーの魔法に見とれていた。
光は一点で止まる。
「そこですわね」
またルーシーがつぶやく。
やるしかない。
「
黒い鎖のようなものが、ルーシーの手から伸びる。何も無かったはずの場所に鎖が巻き付く。
「いっ……あ、ぎゃあああああああああああ!」
断末魔の叫び声。キャロルは思わず目をそらす……が、自分がルーシーにああいった手前、逃げていられない。
「
金の炎が、鎖の巻き付いたパオラに向かって放たれる。
パオラの力も弱まり、姿が顕になる。
「いっ……た、す……け」
鎖に閉められて苦しむパオラ。2人は苦しそうな表情だが、逃げるわけにはいかない。
呪うなら、運命だ。
「
ふいにキャロルが炎を放つ。先程の呪文の炎よりはるかに小さいが、それでも
「っ!? 何をするんです!」
そう、その炎はルーシーに向けられたもの。
「間に合った……」
パオラ、キャロル、ルーシー……誰のものでもない呟きが、暗闇の中で聞こえた。
「まぁ、間に合うようにできとるんじゃからな」
ルーシーの魔法は炎の熱さで解けている。ウィルチェはパオラを抱き、後ろに隠した。
「2対1なぞ格好悪いじゃろ? わしが相手になってやろうかの」
ウィルチェが人差し指を動かす。キャロルがルーシーに手をかざす。ウィルチェが手を開く。キャロルの手のひらに力が集まる。
「や……やめてください、冗談でしょう? ねぇ、キャロル?」
ルーシーがキャロルの顔を見つめて、気づいた。
キャロルの目が虚ろだ、と。光を失ったキャロルの目。
「操られているんですの?」
キャロルは何も言わない。
「待って、お願いですわ。キャロル! 目を覚まして!」
「無駄じゃわ」
「
「キャロル!」
ヒュウとルーシーの喉が音を立てた。
「ひっ……熱い、あぁぁぁぁああぁああああああ
!!!!!!!」
ルーシーの体に炎が点火する。真っ赤な炎がルーシーを焦がす。
その隙に、パオラを連れたウィルチェは逃げた。
【Calidum】
周囲に熱を発する。
【Scoppio】
爆発魔法。
【Umbra】
闇魔法。自分の視界が届く範囲を闇に染める。
【Holly】
聖なる光を放つ。相手の魔法や術を一時的に解ける。
【Despair】
闇魔法。闇の鎖で相手を巻き付ける。
【Prometheus】
金色の炎を放出し、相手を燃やす。
【Ignis】
下級の火の魔法。小さな炎を出す。
【Ignited】
対象物に点火する。