やはり俺の夜廻はまちがっている。   作:青木々 春

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月一で投稿したいといってから、約2ヶ月ぶりの投稿。
受験が近くなり本格的に忙しくなってきました。
今年の冬は暖かいと言いますが、お体には御気を付けください。



宵の口:かくして、彼と彼女は巡り会う

「……っいっつ!」

 

突如感じた後頭部の痛みによって、無理矢理目を覚ます。

思い瞼を開きながら、同時にだんだんと意識がはっきりとしてくる。

 

俺は…確か、よまわりさんに捕まった様な気がしたが…。

 

気を失う前のことを思い出しながら、辺りを見回す。ただ見回しても闇が広がっているだけで、街灯どころか月明かりもなく、まだ目が慣れていない俺は自分の姿すら確認出来なかった。

 

周りは見えない。自分の姿も確認出来ない。不安要素は多いが、それでも意識があって体があるということは、俺は生きているということだ。てっきり殺されるとでも勘違いしていたが、噂通りよまわりさんはあくまで、『連れて行く』ということだけらしい。

 

生きている実感があるだけで、こんなにも嬉しいなんてな…。

小町を探して帰ったら、プリキュアを見ながらマッ缶を浴びる様に飲もう。

 

なんて楽しみを作りつつ、現状を分析する。

よし、まず自分がどこに居るのかを把握しなければ動きようがないな。

俺がよまわりさんに捕まったところから、ここまで。そんなに離れて居るとは考えにくい。

 

この町の住人は夜になると必ず外を出歩かない。

それは言葉の通りこの町の住人だけであって、他の町は多分違う。

いや、他の町のことなんてよく知らんが、どの町もこんな化け物がうろついているはずなんてない。そしたら国際問題だろうしな。

 

ならここも俺の知ってる、俺の生まれ育った町。そう考えるのが自然だ………

 

……なんて推測をたてて、結局確信なんてないし、決め手になる証拠も一つもない。

ただの希望的観測にすぎないが、冷静に物事を見られないよりは何倍もマシだ。

 

考えているうちに少しずつ暗さに目が慣れてきた俺は、とりあえず腰をあげる。

よく目を凝らすとここは部屋の中だ。いや、部屋と言って良いものかは分からんが、いわゆる囲いの中。

と言っても閉じ込められているわけではなく、外に通じる扉もしっかりある。

 

その扉は硬い金属で出来ていて、更に鍵付きの豪華な仕様。

なーんて、そんな豪華な鉄扉も錆びてしまって機能してないがな。

 

そう、ここはコンテナの中だったのだ。暗闇に手を伸ばした時にあたった手の感触で分かった。

冷たい金属の壁に、錆びついたザラザラとした感触。

 

コンテナは外鍵だったが、よまわりさんが掛け忘れでもしたのか、鍵は閉まってない。

 

錆びついていたから多少力は入れたが、比較的簡単にコンテナの扉は開けることが出来た。

 

コンテナの壁に手を付き、這わせながら慎重に進む。コンテナの外を覗くとそこもまだ屋内なのか、月明かりは入っていなかった。

懐中電灯持って来ればよかったな…。そんな悪態を吐きながら外に出る。

周りを見渡しても、まだ夜を徘徊するナニカたちの姿は見えない。自然と小町の姿も探してしまうが、もちろん見当たらない。

 

でもよまわりさんに小町が遭遇しているなら、ここに居る可能性もある。

 

この謎の場所からの脱出の手立てを探しながら小町も探してみるか。

 

コンテナから外へ踏み出て、とりあえず右へ進む。クラピカ理論でな。

しばらく歩いて思ったが、ここは工場かなにからしい。

思っていた以上に広く、そこらに工具の様なものが乱雑と置いてある。見たこともない大型の機械も置いてあって、結構の規模の大きいものだろう。

 

ただそんな大きな工場も機能していないとなれば、ただの廃墟に過ぎない。

 

そう、ここは廃工場だ。

 

コンテナだけでなく、工具や機械のそれらが全て錆びついていて、最近使われているようには思えない。

埃も被っていて、手入れされている形跡も全くない。そんな不快な空間でも、今の俺にはこの状況は非常に良いものだった。

 

ここが廃工場なら、同時に覚えがある。

 

俺の家の南の方にたしかに廃工場があった。それも結構の大きさの。

いつからだったか、それこそ随分前から既に廃工場で、物心ついた時には既に廃工場となっていた。

中学に入った時にはもう錆の塊のようになっていた気がする。

 

それでも土地主の意向か、経済的なものか、とにかく壊されることなくずっと廃工場のまま残っているのだ。

 

周りには住宅街くらいしかないから特に気にしたことも、行ったこともなかった。

 

その廃工場に監禁されたとなれば、事態がわかって安心したと同時に不安も込み上げてくる。

この廃工場はとにかくでかい。遠目で見てもその大きくそそり立つ煙突に、子供ながら恐怖していた記憶がある。

風力発電のアレみたいなもんだ。

 

そんな不安要素を抱えつつ、錆臭く埃臭い機械の間を縫うように前へ進んで、ここまで来てようやく気づいた。

ここから出ることに夢中になっていて気づかなかった、ただ明らかに聞こえる異質なノイズ。

 

後ろから、俺のものとは明らかに違う足音が聞こえるのだ。

 

ほら、今もまた──

 

 

───コツコツ………コツコツ…………

 

 

俺が歩くと同時に聞こえる足音。決して工場に俺の足音が反射して遅れて聞こえる訳ではない。

なぜって?そんなもん聞いてれば分かる。

 

いや、この状況。この場所で。革靴やハイヒールなどの硬い靴でもこの足音は出せない。

 

何故なら今俺が歩いている地面は、コンクリートでもなんでもない。

長年の老朽化による劣化か、工場の地面のコンクリートはひびが割れ、コンクリートの下の土のようなものがチラチラと見えている。

特に俺が今歩いている場所は完全にコンクリートが剥がれ、そう、

 

 

 

土がむき出しになっているのだ。

 

 

 

整備も整地もされず、踏みならされてもいない柔らかい土の上。どんな靴であろうと、この場でこの音を出すには無理があるだろう。

つまりだ、後ろから聞こえてくる足音は、人の物ではない…。

 

 

…いや、ここに人が居る方が可笑しな話だろ。

 

自分で自分を嘲笑しつつ、必死に恐怖を頭から追い出し、足を早める。

 

 

 

 

──コツコツ……コツコツ……

 

 

 

 

俺が速度を速めると同時に、後ろの足音も速度を速めたように足音と足音の感覚が狭くなって来ている。

 

 

 

──コツコツ…………コツコツ…………

 

 

 

何故だろう…足音が聞こえるたびに息が荒くなる。

どんどん加速する足音に比例して、俺の心臓もバクバクと脈を打ち、加速していった。

 

 

 

──コツコツ…コツコツ…

 

 

 

それでも足音はついてくる。

どこまで歩けばいいのか。工場を出るまでか。家に着くまでか。夜が明けるまでか。もしくはこのまま一生走り続けなければならないのか。

暗闇で前は見えないが、いつのまにか俺の足は思いきり地面を蹴っていた。

 

 

──コツコツコツコツ…コツコツコツコツ…

 

 

それでも後ろなんて気にする余裕もなかった。

早くなっていく呼吸を必死に整えながら、進めそうな道があったら何も考えずにそちらに向かう。

突然のことで頭が回らないのもあるが、それ以上に考えたって仕方がないのだ。

話も通じなければ何を考えているかなんて分かるはずもない。

ぐるぐると思考が頭を巡っても、結局は全て無駄に行き着く。

そんな奴らを相手に出来るのだろうか?

 

複雑な感情を持っている癖に、自分に不都合なものを排除しようとする単純な人間。

 

怒りしか感じられないのに、襲ってきたり襲ってこなかったりと、謎だらけの夜を廻るナニカたち。

 

否、相手にしても無駄だ。言葉が通じるはずもない。

だから今俺に出来ることは必死に逃げることだけなんだ。

 

自分の考えをまとめ、またわけのわからない方向に無我夢中に走る。

 

 

 

 

 

──コツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツ!!!

 

 

 

 

 

もう体力も持たない。くそっ、マッ缶で水分補給くらいさせてくれよ…。

これもまた無駄な悪態を吐きながら最後の体力と糖分を振り絞って走る。

すると…

 

 

「マッ…テ……オ……」

 

 

「っ…」

 

 

夜の町をしばらく巡って、どこからか声がするなんて珍しくもなかった。

電柱に向かってブツブツと何かを呟いている黒い影。

訳の分からない奇声を発しているウサギの着ぐるみ。

なんら珍しくないその声に、俺はつい立ち止まってしまった。

 

 

──……………………

 

 

俺が止まったからか?もう足音は聞こえない。

止まってからもう5秒くらい経っただろうか。それでも足音の主はなにかをしてくる気配は全くない。

恐る恐る振り向く。振り向いたらダメとかああいう系のものだったら多分俺はこの後死ぬが、それでも俺の振り向く首は止まることはなかった。

 

そしてそこに見えたのは………………

 

 

 

 

 

 

「誰!?」

 

「うぉっ!?」

 

俺のすぐ右にあるコンテナから聞こえてきた甲高い女性的な声。

コンテナの影から姿を見せたのは、俺と同じくらいの少女。

やめろよ…びっくりさせんなよ。ホントに振り向いたらダメとかああいう系だと思っちゃったじゃねーか。

 

 

…………いや、まずなんでこんなとこに人が居るんだ?

 

「って…比企谷君?」

 

「…………へ?」

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

「あー…で、誰だっけ?」

 

「一応隣の席なんだけどな…」

 

隣の席ねぇ…席ったってなんの席だよ。この間行った仮面ライダーの映画の席とか?…ないか。

今一度少女の全身をくまなく見てみる。いや、いやらしい目的じゃなくてね?

 

肩にかかる程度の髪に、整った顔立ち。茶色っぽい髪色をしているが染めている様子もなく、着飾っている様子もない清楚なイメージな……なんか変態みたいだからこれ以上はやめておこう。

えーと…他の情報といえば、御守りを大事そうに握っているのと、なぜか片方靴を履いていないのと、俺と同じ中学の女子制服…………あぁ…。

 

『ねー「ことの」。今日遊べる?』

 

『えーっと、ごめんね。今日はちょっと私用で立て込んでて…』

 

『また妹ちゃん?なんか「ことの」ってさー、お姉ちゃんってよりお母さんっぽいよね。ウケるー!』

 

あぁ…思い出した。確かに隣の席だわ。他人なんぞに興味はないから全く覚えていなかったが、確かにこんな様な奴は居た気がする。

 

折本に告白して黒歴史を作る以前。

適当に優しくされ、そして勘違いして。いつも通り玉砕する前だ。

なんとなく折本を目で追っていたから、折本と多少仲がいいこいつのことはなんとなく覚えていた。

 

というかあの場面でウケる要素はあったのか?折本さんよ…。

 

「えと、ことのさん…だっけ?」

 

名前はこれで合っているはずだ。もちろん上の名前なんざ知らないからな。

 

「うん、正解!」

 

こんな状況でも天使の様な笑顔を見せることのさん。眩しいです…!

ただそんな笑顔もすぐ曇って、少し警戒の色を見せながら口を開く。

 

「比企谷君は…なんでここに居たの?」

 

あぁ、なるほどな。疑うのも無理はない。

こんなにも摩訶不思議生物がうろつくこの町だ。人間に化けて出るナニカが居てもなんらおかしくない。

にしても疑い深い気がするがな。温厚そうな第一印象と違って案外注意深いのかもしれんな。

 

「あー…妹を探しててな。そしたら化け物がうろついてて、成り行きでこんなところに…」

「成り行きって?」

 

おおぉう…随分と食い気味だな。

 

「もしかして…………

 

 

 

 

 

よまわりさんとあったりした?」

 

「……………なんで分かる?」

 

少しピリッとした緊張感が走る。急に出てきた彼女の冷たい声に驚いて、返す言葉に間が空いてしまった。

こんな廃れた工場にいる時点でお察しだったのかもしれないが、この少女、ことのはなにかを知っている。今の一言で確信した。

よまわりさんにあったというのは、こいつの同じ状況だったからその結論に辿り着いたと言えば簡単に説明がつく。

ただその立ち振る舞いや表情が物語っていた。

 

彼女はこの町の夜を多少なりとも知っている。

 

ここまで来たんだ。俺の推測が本当なら聞き出さない手はないし、小町のことも何か分かるかもしれない。

 

「よまわりさんについて、何か知ってるのか?」

 

今度は逆に俺が聞いてやる。

 

「…………なんでそう思ったの?」

 

さすがにまだ警戒の色は消えない。それどころか強まっちゃったくらいだ。

 

「いや、理由はないけど…なんとなく?」

 

よく考えると理由らしい理由なんてなかったが、全く怯えている様子のないその目つきに、余裕のある表情。

ただどこか不安そうな表情にも見えて…………これ漫画とかだったら絶対強キャラだよ。

 

「なんで疑問形…?」

 

少し呆れた様にジト目になる彼女だが、すぐに表情を戻し、廃工場に広がる何も無い虚空を見つめる。

何かを案じている様な、そんな表情をしながら口を開いた。

 

「ごめんね、よまわりさんについては私も何も知らないの。でも…………

 

 

 

何も分からないということを知っている。だから恐ろしいのかも」

 

何も分からないのが恐ろしいね…。

いや、全くその通りだと思うぞ?無知というのは一番危険だ。

人間は自分の知らないことが身の周りで起きてしまうと混乱してしまい、やがて何も出来なくなってしまう。

それほど知らないというのは恐ろしいことだ。

 

知って安心したい。

 

だからこそこの欲望は誰しもが持っているもので、それでいてその欲望はとてつもなく危険だ。

知らなくていいことなんてたくさんあるし、知って後悔することや、知ってしまったから後戻り出来なくなることだってある。

 

「そうか…。それはそれとしてなんで俺を付けてたんだ?」

 

ただ知らなきゃ安心出来ない。だから今の俺のように真実を求めようとするのだろう。

 

「付けてって、私ずっとここにいたんだけど…?」

 

怪訝そうに、そして申し訳なさそうに言った彼女の言葉に耳を疑う。

この言葉通りなら、今の今まで俺の後ろから聞こえてた足音は、やはり人ならざる彼らの仕業ということか?

 

 

…………ほらな?やっぱり知らなくていいこともあるんだよ…。

 

 

 




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次の投稿もなるべく早く出せるよう、努力はします。
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