邂逅のセフィロト   作:karmacoma

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第8話 強襲 2

三人が霊廟に入ると、石壁に閉ざされた内部はひんやりとした空気に包まれていた。その場で足跡(トラック)を確認するが、せいぜい20体か30体ほどで、大した敵の数は感知出来なかった。

 

 

 

霊廟の奥を見ると、幅20メートル程の大きな下り階段が目に入った。周囲には特に何の飾り付けもなく、薄暗い殺風景な霊廟内部だ。

 

 

 

「状況・ダンジョン。それにしても似てるね」

 

 

 

「ええ。遠い過去、私達が攻め入って来た数多の場所に」

 

 

 

「ルカ様、警戒を怠らずに」

 

 

 

「分かってるよ。俺とライルが前衛、ミキは後衛だ。もしここが何らかの拠点だとしたら、トラップも含め何もかもが向こうの自由になる。全員危機感知(デンジャーセンス)を使用」

 

 

 

「「了解」」

 

 

 

「奥へ進むぞ」

 

 

 

ルカ達は下り階段を降り、地下一階・第一層へと降り立った。目の前には直線の回廊が続いているが、暗視(ナイトビジョン)を使用しても最奥部が見えない。その事から、内部が相当な広さを持つことが見て伺えた。

 

 

 

三人はそのまま通路を直進すると、やがて十字路に差し掛かった。足跡(トラック)と合わせて、敵視感知(センスエネミー)が近距離に敵がいることを知らせていた。

 

 

 

ルカとミキはロングダガーを、ライルは大剣を抜いて、十字路に差し掛かった。すると通路の左右から、ルカ達目がけて何かが飛び込んできた。

 

 

 

(ギィン!)という音を立てて敵の攻撃を弾き返すと、左手のルカの通路には女性型のモンスターが2体、ライルのいる右手通路にも同様のモンスターが2体視認できた。

 

 

 

「これは...ヴァンパイアブライドか。久しぶりに見たな」

 

 

 

「こちらも同じにございます」

 

 

 

ルカ達の脳裏には、前方、背後にいるヴァンパイアブライド4体が放つ敵意が激しく点滅している。十字路の南側では、ミキが何かしらの呪文を唱え殺気を放っているが、それが何なのかまでは把握出来ない。

 

 

 

ルカとライルは背中を合わせたまま呼吸を合わせると、十字路の左右へ同時に飛び出して行った。ヴァンパイアブライドが反応してルカとライルに攻撃を繰り出すが、二人はまるでその場から消え去るように攻撃を躱す。ルカは躊躇なくヴァンパイアブライドの左肩から右腰までロングダガーを振り下ろし、一刀両断にした。

 

 

その後腰を落とし、今度は右にいるヴァンパイアブライドの上半身と下半身を切り離すかのように斬撃を加えると壁面に叩きつけられ、十字路左にいた2体のヴァンパイアブライドは絶叫を上げながら消滅した。

 

 

ライルは2体の攻撃を躱すと同時に、目にも止まらぬ速さで左から右へと大剣を一閃すると、2体のヴァンパイアブライドをまとめて一刀両断し、消滅させた。

 

 

 

足跡(トラック)。どっちかというと、西側に敵が集中してるね。西側に15体、東側に7体か」

 

 

 

「どちらへ向かいましょうか?」

 

 

 

「せっかくだし、敵のいない十字路の北に進んでみようか。マップも知りたいし」

 

 

 

「了解しました」

 

 

 

三人は北側の通路を直進していく。しかし100メートル程進んだ辺りで、前衛に出ていたルカがライルの腰に手を当て、遮った。ルカが天井を見上げると、薄っすらと魔法陣が張られている。

 

 

 

「トラップだね」

 

 

 

「破壊しましょうか?」

 

 

 

「いや...待て、敵がどのようなトラップを張る傾向なのかを確認したい。召喚・暗い産卵(サモン・ダークスポーン)

 

 

 

そう唱えると、ルカとライルの間に悪魔のような角の生えた、真っ黒い漆黒の影が地面から姿を表した。よく見るとその両手は、手自体が鋭い剣のようになっている。

 

 

 

「ダークスポーン、一歩前に踏み出て罠を確認せよ」

 

 

 

ルカが指示すると、何の躊躇もなく天井にある魔法陣の直下へと足を踏み出した。その途端、天井と地面からから無数の刃が突き出し、(ガシュ!!)という音を立ててダークスポーンを串刺しにした。

 

 

 

「ふーん、意外と普通だね」

 

 

 

「しかしこれで、トラップの所在は判別できました」

 

 

 

「ルカ様、これより先は私が先陣に立ちます故」

 

 

 

「いや、いいよ大丈夫。おいで、ダークスポーン」

 

 

 

上下から伸びた刃が元の位置に戻り、ダークスポーンに対してルカが両手を前に広げると、まるで何事もなかったかのように召喚された影はルカの目前へと戻ってきた。

 

 

「ありがと。少し後ろに下がってて」

 

 

 

そう言われたダークスポーンは、ルカとライルの間から後ろに下がった位置まで移動した。

 

 

 

上位封印破壊(グレーターブレイクシール)

 

 

 

ルカがそう唱えると、(パキィン!)という音と共に天井に描かれた魔法陣が砕け散った。

 

 

 

「先へ進もう」

 

 

 

「ライル!これ以上ルカ様のお手を煩わせないよう、我らも警戒!」

 

 

 

「承知した、ミキ」

 

 

 

 

ルカ達が十字路の北を進み続けると、そこは行き止まりのT字路だった。

 

 

 

「よし、じゃあ西へ行こうか」

 

 

 

ルカ達には、現階層の敵の所在が全て把握出来ている。こうした場合、敵の集中しているほうが本命だと、経験則から理解出来ているからだった。

 

 

 

ヴァンパイアブライドに、ワイト。それら全てを難なく撃破し、ルカ達は第二階層への下り階段を発見した。足跡(トラック)をかけると、第二階層には更に多くの敵反応があった。

 

 

 

「降りよう」

 

 

 

短くそう言うと、ルカ達は第二階層へとたどり着いた。

 

 

 

その階段を降り切ると、目の前にはすぐに十字路が目に入った。そしてその先にも、更に十字路...。

 

 

 

その奥に、一際強く輝く敵視感知(センスエネミー)が三人の脳裏に瞬いた。

 

 

 

そこを中心に、大勢の敵が北側へ扇状に展開している事を察知した。

 

 

 

三人は剣を抜いたまま1つ目の十字路を過ぎ、更に前進していく。

 

 

 

2つ目の十字路に差し掛かった時だった。その奥に、小さな人影が見えた。そこから強烈な敵意を感じて、三人は更に近くへ歩み寄る。暗視(ナイトビジョン)を使用している三人には、ハッキリとその姿が視認できた。

 

 

 

全身黒づくめのボールガウンドレスに身を包み、肌は白蝋のように青白く、真顔でこちらを見据える一人の少女の姿を。ルカはそのただならぬ殺気を感じて、少女に声をかけた。

 

 

 

「やあ。しゃべれるかい?」

 

 

 

「異なことを。当たり前でありんしょう?」

 

 

 

「この陵墓を調査しに来たんだけど、そこを通してもらってもいいかな?」

 

 

 

「この領域に気配もなく侵入できるなど、あなた達は只者ではありんせんね。通れるものなら、試してみるといいでありんしょう。伝言(メッセージ)

 

 

 

「?」

 

 

------------ナザリック地下大墳墓 第九階層 執務室

 

 

 

「アルベド、では冒険者の遺体保管は任せる。私はナーベラルと共に再度エ・ランテルに戻り、冒険者組合の依頼をこなしてくるのでな」

 

 

 

「かしこまりました、アインズ様」

 

 

 

その時だった。アインズウールゴウンの脳裏に、糸が一本繋がるような感覚が襲った。

 

 

『シャルティアか、どうした』

 

 

 

『アインズ様、ナザリックに侵入者が来んした』

 

 

 

『侵入者?! 外に配置してあるシャドウデーモンはどうした!!』

 

 

 

『それが、どうやったかは存じませんが、全て躱してきた様子でありんすえ』

 

 

 

『バカな...あれだけの厳戒態勢で、それを擦り抜けるなど』

 

 

 

『アインズ様、侵入者は3人。その全員が私の見立てでは、過去に出会ったほどがない程強者であるかと存じんす』

 

 

 

『シャルティア、まだ戦闘中ではないのだな?』

 

 

 

『はい、彼らは現在私の様子を伺っておりんす』

 

 

 

『しばし待て、すぐに考えをまとめる』

 

 

 

 

何の前触れもなくナザリックに侵入? 何故だ? ピンポイントでここを狙ったのか? 正直訳が分からない。しかし相手の素性を知る必要もある。だがシャルティアはこのナザリック地下大墳墓に置いてほぼ最強の存在...相手がシャルティアに屈するならそれまで。だがもしそれ以上の力を持つ者ならば....。

 

 

アインズはシャルティアに指示を出した。

 

 

 

『いいかシャルティア、その者たちの力を試せ。場合によっては全力を出し、殺しても構わぬ。だがシャルティア、お前の力を持ってしても叶わぬような相手ならば、リングオブアインズウールゴウンを使い、即座に第九階層へ撤退しろ。良いな?』

 

 

 

『承知致しました、アインズ様』

 

 

 

『いいかシャルティア、絶対に無理はするな。お前は一度、世界級(ワールド)アイテムの前に屈しているのだ。それをゆめゆめ忘れるな』

 

 

 

『かしこまりました、アインズ様!』

 

 

 

-----------------------------------------------

 

 

 

「さて、話は終わったかな?」

 

 

 

ルカは目の前の少女を睨みつけ、呪文を唱えた。

 

 

 

瞬間移動(テレポーテーション)

 

 

 

ルカは瞬時に少女の背後に移動し、首筋にロングダガーを構えた。しかしその少女はロングダガーを薬指と親指で挟み込み、首への斬撃を受け止めていた。

 

 

 

 

「自我があるんだね。君の名前を教えてもらってもいいかな?」

 

 

 

「シャルティア・ブラッドフォールン。私が名乗ったからには、そちらの名前をお伺いしても?」

 

 

 

「...もちろん。私の名はルカ・ブレイズ」

 

 

 

 

シャルティアの握っていたダガーを(ギィン!)と強引に外し、ルカはミキ達のいるほうへ飛び退いた。

 

 

ミキとライルが戦闘体制に入る。しかしルカはそれを制止した。

 

 

 

「ミキ、ライル!!この子とは俺一人でやる。絶対に手を出すな。この子が恐らく、プルトンの言っていた真祖(トゥルー)ヴァンパイアだろう」

 

 

 

「そこまで分かっていながら、随分自信がおありでありんすね」

 

 

 

「ああ。君にはご主人様がいるんだろう? 俺はその人と会いにきたんだから」

 

 

 

「...貴様らごとき輩が至高の御方と会おうなぞ、不埒千万。この場で私が叩き潰してくれる」

 

 

 

「やってごらん。やれるもんならね」

 

 

 

「ハッ!」

 

 

 

シャルティアが気を入れた瞬間、彼女の姿は変貌していた。体には真紅の赤い鎧をまとい、右手には一際長いランスを握っていた。

 

 

 

「へぇ、スポイトランスか!懐かしいな」

 

 

 

「そんな減らず口を叩けるのも、今のうちでありんすよ? 清浄投擲槍!」

 

 

 

ルカのみぞおちに、スキルターゲットの魔法陣が浮かび上がる。シャルティアはそこへ目がけて清浄投擲槍を投げ放った。

 

 

 

ルカの眼前に、水色がかった聖なる槍のエフェクトが差し掛かる。だがルカは無表情のまま、(フォン!)と左へ躱した。シャルティアは当たるはずのスキルが当たらず、目を見開いて唖然としていた。

 

 

 

「どうした、これだけか?」

 

 

 

「ふ、ふざけるな!魔法最強化(マキシマイズマジック)朱の新星(ヴァーミリオンノヴァ)!!」

 

 

 

再びルカの胴体に魔法陣が浮かび上がる。しかし当たる瞬間ルカは右へスッと動き、再び魔法を躱した。

 

 

 

 

「バカな!スキルや魔法を躱すなんて...」

 

 

 

「次はこっちからいこうかな...無限の輪転(インフィニティサークルズ)!」

 

 

 

 

ルカが腰を屈めたまま回転し、目にも止まらぬ高速の光波が何重にも重なりシャルティア目がけて飛んでいく。その光波は黑、白、黑と連なっていき、シャルティアの体に叩きつけられた。

 

 

 

「くっぎゃあああああ!!」

 

 

 

光波の勢いで吹き飛ばされたシャルティアの体は、十字路の奥へと消え去った。しかしルカ達3人の脳裏には、未だレッドアラートが消えない。

 

 

彼女は、吹き飛ばされた奥から再びルカ達の方へと近づいてきた。そして彼女は小さく、儚く、一つの呪文を唱えた。

 

 

死せる勇者の魂(エインヘイリアル)

 

 

そう唱えると、シャルティアの体に重なるように白い光が被さり、それが分裂した。ただ残念ながら、ルカ達の世界でのこの行為は、最後の悪あがきでしかなかった。死せる勇者の魂(エインヘイリアル)は、術者の弱点そのものを受け継ぐ上に、スキルや魔法が一切使用できないからだ。

 

 

 

「ミキ、ライル。死せる勇者の魂(エインヘイリアル)潰してくれる?」

 

 

 

そう言われるが早し、ミキとライルは左右から武器による連続攻撃を叩きつけ、向かってきた死せる勇者の魂(エインヘイリアル)を即座に消し去ってしまった。

 

 

 

それと同時にルカもシャルティアの懐に飛び込む。近接戦となり、シャルティアはスポイトランスの連撃を突き立ててくるが、ルカはそれを尽く躱していき、シャルティアの胴体にロングダガーの素早い刺突を5回叩き込んだ。神聖属性の攻撃を受けたシャルティアの鎧の隙間から、白い煙が立ち上っている。

 

 

「くそ、離れろ! 不浄衝撃盾!」

 

 

それを聞いてルカは反射的にロングダガーを正面でクロスさせたが、シャルティアの体から扇状に放たれた衝撃波により、後方へと吹き飛ばされた。

 

 

 

空中で1回転し地面へ着地すると、ルカは立ち上がりシャルティアに声をかけた。

 

 

 

「いいスキル持ってるねー」

 

 

 

「うるさい!生命力持続回...(リジェネー...)

 

 

影の感触(シャドウタッチ)!」

 

 

 

シャルティアが魔法を詠唱し終わろうとした刹那の瞬間、(ビシャア!)という鋭い音と共に、シャルティアの体が黒い靄に覆われた。

 

 

 

「ばっバカな!!体が...動かな...」

 

 

 

「回復なんかさせないよ」

 

 

 

そう言うと同時にルカはシャルティアに向かって突撃した。恐ろしく素早い動きで再度シャルティアの懐に飛び込むと、腰を低くしてダガーをクロスさせる。

 

 

 

血の斬撃(ブラッディースライス)

 

 

 

シャルティアの腕・胴体・足に向かい、目にも止まらぬ速さでロングダガーの10連撃を放ち、全身を切り刻んだ。その勢いでシャルティアの体が後方に吹き飛ばされる。

 

 

 

本来であれば真祖(トゥルー)ヴァンパイアであるシャルティアは、斬撃の傷を受けても即座に傷口が閉じるはずが、一向に回復せず出血が止まらない。その大量の出血は約1分間に渡って続き、大の字に倒れたシャルティアの周りの地面がみるみるうちに鮮血に染まっていく。

 

 

 

ルカは歩み寄りながら、シャルティアの体力を確認した。出血による追加ダメージで、見るも無残にHPが削り取られていく。この子はもうあと一撃で...首筋にロングダガーを一滑りさせるだけで、死んでしまう。

 

 

だが、ルカはそうしなかった。血溜まりの中に倒れたシャルティアの体を抱き起こし、彼女に声をかけた。

 

 

 

「シャルティア・ブラッドフォールン。私の目を見ろ」

 

 

 

「...え?」

 

 

 

「何も考えなくていい、私の目を見ろ。それだけでいい」

 

 

 

「え、ええ。」

 

 

 

シャルティアがルカの目を見た瞬間、弾けるように体が動いた。

 

 

 

「...わかった? 私は同族殺しなんてしないよシャルティア。下等種族は別だけど」

 

 

 

「あ、あなたは、ルカ...とおっしゃいましたね?そんな、あなたは、私の...ご先祖様なのでありんすか...?」

 

 

 

「違うよシャルティア。いや厳密に言えば..元ご先祖様かな」

 

 

 

「で、では、一体その目は...」

 

 

 

「君のご主人様に会えたときに、全部説明する。だから今は、ここを通してもらっていいかい? 私は、君たちのご主人様と話がしたくて、ここに来ただけなんだ。シャルティア」

 

 

 

ルカは抱きかかえたシャルティアの右頬を優しく撫でながら、そう言った。

 

 

 

「...いいえ、そういう訳には参りませぬ。私は一度失敗している。この先へ進みたければ、私を殺して...」

 

 

 

そう言われたルカは、シャルティアを体へ抱き寄せた。

 

 

 

「こら。早く回復しないとどっちにしろ死んじゃうぞ。それにシャルティア、私はヴァンパイアを愛している。この先、生きている限り、ずっと」

 

 

 

そう言うとルカは左手でシャルティアの背中を支え、そっと地面に下ろすと笑顔でシャルティアの目を覗き込んだ。

 

 

 

 

「もう一度言うよシャルティア、ここを通してくれるね?」

 

 

 

「とどめを刺さないのでしたら....も、もう...お好きになさいまし」

 

 

 

 

そう言われたルカは立ち上がり、目の前にある第三階層へと通じる階段を駆け下りた。

 

 

 

 

ルカ達は第三階層のアンデッド達をいとも容易く屠り、警戒していた守護者との遭遇も無く、第四階層まで達した。

 

 

 

その階段を駆け下り、遥か先に見えたのは広大な地底湖だった。足跡(トラック)にも反応は無い。ルカ達の警戒レベルが跳ね上がる。

 

 

 

「各自、足跡(トラック)及び危機感知(デンジャーセンス)を怠るな。何もいないと言う事は、この先によほどヤバい奴が配置されているかもしれん」

 

 

 

「了解。しかし、本当に何もいませんねこの階は」

 

 

 

「油断するなミキ、この感じ、何度か経験したことがある」

 

 

 

 

そう言いながら、湖畔に差し掛かった時だった。三人の脳内に、レッドアラートが鳴り響いた。今目の前には居ない。しかし湖の中心から、空胞が溢れ出ている。

 

 

 

「全員次の指示を待て」

 

 

 

「「了解」」

 

 

 

ルカは湖の中心を見据えた。(ボコボコ)と溢れる空胞の隙間に、見覚えのある角ばった頭部を見つけた途端、ルカは即座に全員へ指示した。

 

 

 

 

「状況・攻城用ゴーレム!!各自即座に背後へ瞬間移動(テレポーテーション)!!距離を取れ」

 

 

 

 

ルカ達は、一気に入り口近くまで移動し、巨大なゴーレムが湖の底から沸き出る瞬間を眺めていた。

 

 

 

 

「考えられないが、この階層はあの攻城用ゴーレムを守護者にしていると思われる」

 

 

 

「いかがいたいましょうか? 我らなら潰せないレベルではないかと存じますが」

 

 

 

「バカいってんじゃねえ! これとまともにやり合うなんざ、2G(2Group)は必要だ。それにやれたとしても体力の無駄だ、こいつは無視する。部分空間干渉(サブスペースインターフェアレンス)で避けて通るぞ!」

 

 

 

「了解しました」

 

 

 

「私は別に、こいつとやっても...」

 

 

 

「うるさいこの筋肉バカ!!お前一人で攻城用ゴーレムを殺せるのか?! やれるもんならやってみろ!!俺にも無理だがな」

 

 

 

「ル、ルカ様申し訳ありません、私にも無理です」

 

 

 

「なら分かったな。不可視魔法準備」

 

 

 

上半身が顕わになり、湖の淵からゴーレムが手を伸ばし始める。

 

 

 

部分空間干渉(サブスペースインターフェアレンス)

 

 

 

その途端、攻城用ゴーレムの動きが鈍った。それを確認した三人は同時に、湖東側の淵に向けて疾走する。そして湖最奥部にある洞穴に飛び込み、次の階層へ侵入した。

 

 

 

 

三人は第五層へと到達した。攻城用ゴーレムなどという半ば反則キャラとは一線を敷いて、この先は部分空間干渉(サブスペースインターフェアレンス)を解き、堂々と行こうと決めた矢先だった。

 

 

急に周辺が寒くなった。氷山が立ち並ぶ氷の世界。開けたフィールドだが、ルカ達はロケーションを確認し合い、慎重に進んだ。

 

 

 

山や氷河で行き止まりにあっては西へ、西も調べ尽くしたなら東へと移動する内に、やがてフィールドの中心近くへとたどり着いた。

 

 

 

そこには、大きな6本の水晶で囲まれた、まるで蜂の巣をひっくり返したような巨大なドームがあった。

 

 

 

三人が前へ進み出ると、ドームの入り口から巨大な阿修羅が姿を現した。いや阿修羅は言いすぎかもしれないが、一つの頭に四臂を持った昆虫のようなモンスターが姿を現した。

 

 

 

ルカはすかさず聞いた。

 

 

 

「やあ、言葉は聞けるかい?」

 

 

 

「無論! 我ガ名ハコキュートス。何ユエニコノナザリックヘ来タノカ、ソノ理由ヲ聞コウ」

 

 

 

「あー、そうなんだ、ここナザリックって言うんだね。初めて知ったよ」

 

 

 

「左様カ。デハ改メテ問ウ。ココヘ何ヲシニ来タ?」

 

 

 

「君たちのご主人様に会うためだよ」

 

 

 

「我ガ主二会ウタメ? ソレハ本当カ?」

 

 

 

「嘘なんかつかないよ、安心して」

 

 

 

「シバシ待テ。伝言(メッセージ)

 

 

 

 

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『コキュートス』

 

 

 

『アインズ様、先程ゴ報告ノアッタ侵入者と相対シテゴザイマス』

 

 

 

『シャルティアが今第九階層へ戻ってきた。かろうじて生きている』

 

 

 

『ソレハヨウゴザイマシタ』

 

 

 

『コキュートス、全力で侵入者を殺しにかかれ』

 

 

 

『?! シカシアインズ様、ココマデ辿リ着イタモノヲ無下二殺スナド。ソレニコノ者達ハ、アインズ様トノ謁見ヲ所望シテオリマス』

 

 

 

『試したいのだ。万が一とは思うが...お前が死んだら、必ず生き返らせる事を約束する。失うものは何もない、分かるな。全力で当たれ』

 

 

 

『カシコマリマシタ、アインズ様』

 

 

 

 

---------------------------------------------------------

 

 

 

(ブシュー!)と、コキュートスは冷気を吐く。

 

 

 

 

「話し合いは終わったかな?蟲王(ヴァーミンロード)

 

 

 

「ホウ、私ノ種族ヲ知ッテイルノカ」

 

 

 

「まあそんなことはどうでもいい。そこをどいてくれない?」

 

 

 

「否!!」

 

 

 

「じゃあやるしかないね。ライル!」 

  

 

 

「かしこまりましてございます」

 

 

 

 

ライルは背中に吊り下げた大剣を引き抜き、正眼に構えた。戦闘態勢に入り、とんでもない殺気を放っている。

 

 

 

コキュートスもその殺気を感じてか、3つの手を中空に伸ばし、合計4つの武器を手にした。右手上腕にハルバード、右手下腕に刀、左手下腕に刀をもう一対、そして左手上腕に巨大な槍。

 

 

 

だがライルは、身じろぎ一つしない。(コオオオー)というお互いの息遣いと共に、二人共互いに飛び込んだ。

 

 

 

コキュートスが右腕のハルバートを叩き込むが、ライルはそれを躱し、コキュートスの左肩へ一刀突き立て、えぐり上げた。続いてコキュートスは左から刀を振り下ろすが、それもライルは容易く躱し、コキュートスの右肩を突き刺して再度えぐり上げる。

 

 

 

「チッ! フロストオーラ!!」

 

 

 

コキュートスを中心に、半球状の衝撃波が弾けるように広がる。ルカとミキは後ろへ高くジャンプし、衝撃波の範囲外まで逃れた。

 

 

 

衝撃波の渦が晴れると、ライルは大剣を盾代わりにして前面に構え防いでいた。再び正眼の構えに戻り、コキュートスへ不敵な笑みを返した。

 

 

 

「残念だったな。我らに氷は効かぬ」

 

 

 

「ナラバ!マカブルスマイトフロストバーン!!」

 

 

 

ライルに4本の武器を向け、巨体に似合わぬ強烈なスピードでコキュートスが突進する。ライルの前まで来ると体を捻り、高速回転と共に4本の武器が順に叩きつけられていく。

 

 

 

ライルの頭・胴体・足と狙いを定め、とてつもなく重い連撃を高速で繰り出してくるが、ライルは後方に下がりながら時には躱し、時には剣でさばき、コキュートスの連撃を全ていなしきってしまった。

 

 

 

「バ、バカナ...私ノ技ヲ全テ避ケキルナド...コノ力ハ一体?!」

 

 

 

「どうしたコキュートスとやら。もう終わりか?ならこちらから行くぞ。悪魔の二輪戦車(デーモンチャリオット)!」

 

 

 

ライルの体が消えたかと思うほどのスピードで突進すると、次の瞬間コキュートスの腹部に正眼のまま深々と剣を突き立てていた。コキュートスはそのスピードに全く反応出来ない。

 

 

 

「グハァ!!」

 

 

 

一万の斬撃舞踏(ダンスオブテンサウザンドカッツ)!」

 

 

 

 

ライルは腹部から素早く剣を引き抜くと、続けざまに容赦ない爆速の連撃をコキュートスに叩きつけた。肉厚の大剣をまるで木枝のように超高速で振り回し、みるみるうちにコキュートスの全身に斬撃の傷が刻まれていく。コキュートスも武器による受け流し(パリー)で回避しようと試みるが、ライルの剣速に全くなす術がなかった。

 

 

 

ライルの連撃が止むと、コキュートスはその場にガクッと片膝をついた。

 

 

 

「相手が悪かったな」

 

 

 

「グッ...ナンノコレシキ...マダマダァ!!」

 

 

 

コキュートスは立ち上がりライルに突進すると、半ば破れかぶれの全腕を使用した総攻撃に入ったが、ライルはそれを回避(ドッヂ)受け流し(パリー)で躱しきり、最後には通常攻撃のみでコキュートスを致死寸前にまで追い詰めた。地面に倒れたコキュートスの喉元に、ライルは剣の切っ先を向ける。

 

 

 

「キ、貴様モシヤ、一刀使イ(ブレードマスター)カ?!」

 

 

 

「...だとしたら、どうだと言うんだ」

 

 

 

「私ハ、多刀使イダ!ソレニレベルモ貴様ヨリ上ノ筈ダ!」

 

 

 

「この不安定な世界で、何故そう言い切れる?」

 

 

 

「ナン....ダト?」

 

 

 

「もう一度よく考えてみろ、貴様が負けた理由を」

 

 

 

「何ヲ考エロトイウノダ!!」

 

 

 

「私はノーダメージ、貴様は死ぬ寸前だ。この理由をもう一度考えてみろ、といっているのだ」

 

 

 

「グッ...!!!」

 

 

 

「はい、もう勝負あったね。コキュートスさん。悪いけどこの場は通らせてもらうよ」

 

 

 

「バッ、バカヲ言ウンジャナイ!マダ勝負ハ...」

 

 

 

「君には悪いけど、これが私との勝負なら、君速攻で死んでたよ」

 

 

 

「言っておくがコキュートス、この我が主ルカ様は、私よりも数段強いぞ」

 

 

 

「...!!!!」

 

 

 

「わかる?別に私たち殺しに来たんじゃないの。どんな所か偵察して、その後君たちのご主人様に会いたいだけ。本当にそれだけよ」

 

 

 

「偵察....ソレデコノ強サダトイウノカ?」

 

 

 

「君たちがどう思おうが自由だよ。でも、通らせてもらうからね」

 

 

 

ルカ達は倒れたコキュートスを後にし、ドームの背後にある第6層へと歩を進めた。倒されたコキュートスが伝言(メッセージ)を入れる。

 

 

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『アインズ様...アインズ様!』

 

 

 

『コキュートスか。どうだ、敵は捻じ伏せられたか?』

 

 

 

『イ、イエアインズ様、申シ訳アリマセヌ。敵ノ力ハアマリニモ強大デ...私一人デハ、防ギ切レマセンデシタ』

 

 

 

『何だと!? お前までもが...。それでは敵は、第6層にまで達したと言うことか』

 

 

 

『恐レ多キナガラ』

 

 

 

『何ということだ...全階層守護者に告ぐ!今すぐ第9階層の執務室まで集まれ!その後に第6階層の闘技場で侵入者との決着をつける。セバスも来い、よいな!!』

 

 

 

『アルベド了解』

 

 

 

『デミウルゴス了解』

 

 

 

『アウラ了解』

 

 

 

『マーレ了解』

 

 

 

『ビクティム了解』

 

 

 

『セバス了解』

 

 

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アインズはある覚悟を決めていた。その上で全員を第九階層に集め、フルバフを終えた後に総攻撃するべきだと。

 

 

 

ルカ達は第六階層に降り立った。辺り一面がジャングルに囲まれ、深呼吸をすると緑の香りが鼻孔を埋め尽くした。足跡(トラック)を確認しながら先へと進む。しかし敵対しない無害生物以外、足跡(トラック)に引っかからない。

 

 

 

そうしてしばらく第六階層の森深くを進んでいるうちに、円形の大きな建物へと辿り着いた。

 

 

 

その入り口は全て開け放たれている。内部に複数の足跡(トラック)反応があるが、特に面倒な仕掛けもないと踏んだルカ達は、そのまま建物の門をくぐった。

 

 

 

長い廊下を抜けると、そこはコロシアムだった。今までにはなかったロケーションだ。しかしルカ、ミキ、ライルの脳裏には、敵視感知(センスエネミー)の赤い光が複数点灯している。奇襲に備えて、三人は武器を抜刀し闘技場に入った。

 

 

 

誰もいない闘技場の中心まで歩み寄り、足跡(トラック)で敵配置を確認する。正面観覧席の上方に1、観覧席下の複数ある門の中に潜んでいる敵が9。合計10人。

 

 

 

しかしこちらが闘技場中央にまで出てきたにも関わらず、動きがない。仕方なくルカは声を上げた。

 

 

 

 

「おーい!みんないるのー!出てきなよ、居るのはわかってるんだからさあ」

 

 

 

 

そう言うと、まずシャルティアが闘技場左端の門から姿を現した。次に右隣の門から、子供の姿をした双子らしきダークエルフの二人が現れ、更にはコキュートス、全身黒甲冑に身を包んだ女性、メガネをかけ尻尾を生やしたスーツ姿の男性と、宙に浮いた胎児のようなピンク色の生物、執事風のスーツに白髪と白髭を蓄えた初老の男性、最後に赤いワンピースを着た女性が現れた。

 

 

 

しかし三人とも足跡(トラック)を怠っていなかった。上を見ると、その闘技場の客席側最奥部にいる、もう一人の誰かが姿を表した。

 

 

 

異形種...金色の杖を持ち、しかも全身を神器級(ゴッズ)アイテムで武装している。死の支配者...オーバーロードだ。と言う事は、エクリプスまで達しているかも知れない。

 

 

 

「ナザリック地下大墳墓へ迷い込んだ諸君!よくぞここまで来た、歓迎しよう。早速だが、まず君たちの意思を確認させてもらいたい」

 

 

 

ルカは即座に答えた。

 

 

 

「意思とは?」

 

 

 

「君たちが、何を思ってここまで来たのかを確認させて欲しい」

 

 

 

「あれだけ敵をけしかけておいて、今更その質問?こっちが聞きたいよ、そっちこそどういうつもりなの?」

 

 

 

「何、君達の力を試させてもらったまでだ。それに侵入者を警戒するのは、私達としては至極当然の事だと思うが?」

 

 

 

「だーから!私達別に襲いに来たわけじゃないって。そこにいるシャルティアにもコキュートスにも説明したんだよ? それでもどかずに襲ってきたって事は...君が伝言(メッセージ)で命令したんだよね?」

 

 

 

ルカの体から、ユラッと殺意が立ち昇る。

 

 

 

「彼らはこのナザリックの階層守護者達だ。侵入者を排除する事が彼らの第一の責務。それで...君達は私との謁見を望んでいたのだろう? 見事その願いは果たされた訳だが、私に一体何の用があるというのかな?」

 

 

 

「単刀直入に聞くけど、君プレイヤーでしょ?」

 

 

 

「なっ...! それは、そのつまり...」

 

 

 

アインズに動揺が走った。

 

 

 

 

「だから、君もユグドラシルのプレイヤーなんでしょ? 私もそうなんだよ」

 

 

 

アインズを含め、その場にいた守護者達全員が驚愕の表情でルカを凝視した。静寂が場を支配する。

 

 

 

「って、何もそんなに驚かなくても...はぁ」

 

 

 

 

ルカは首を振り、自分の眉間を指でつまんだ。

 

 

 

 

「そ、それはつまり、このナザリックにプレイヤーがいると知って、ここへ来たという事なのか?」

 

 

 

「別に知っていたわけじゃない。カルネ村で情報を仕入れてね。村を虐殺から救ったという英雄、アインズ・ウール・ゴウン。...あれは君の事なんだろう?」

 

 

 

「カルネ村で...。しかしこのナザリックの場所までどうやって見つけたというのだ?」

 

 

 

「あれだけ草原に敵を配置してたら、誰だって怪しむと思うけど? まあそれ以前に、この草原だけ私達のマップが埋まっていなかったからね。村の情報がなくたって、いずれはここへ来ていたよ」

 

 

 

「だがしかし、あの軍勢をどうやっ...」

 

 

 

ここでルカは右手を上げ、アインズを制止した。

 

 

 

「待った!質問は山ほどあるだろうけど、その話はもっと落ち着いた場所でしない?こんな階層守護者さん達に囲まれてたんじゃ、おちおち話も出来やしない。私も君に聞きたいことが沢山あるんだ、アインズ。よかったら場所を変えない?」

 

 

 

アインズは顎に手を当てて考え込んだ。

 

 

 

(仮に彼らが本当にユグドラシルのプレイヤーだったとして、その根拠は? ユグドラシル時代にしか無かった特殊なアイテムや課金アイテムを彼らが所持していれば、ある程度信憑性が置けるだろう。しかしその前に彼らの能力...これが一番危険だ。シャルティアやコキュートスをいとも容易く倒してしまった彼ら3人の力...。もし敵意があり、ましてや敵国の偵察者であったならば、迂闊に内部へ入れる事はナザリックの崩壊にも繋がりかねない。しかしそれでも...見てみたい、彼らの力を。それを確認するとなれば、ただ一つ。危険な賭けかもしれない。しかしそれでも...)

 

 

 

アインズは顎から手を離し、ゆっくりと首を上げ、ルカ達3人の方へ向き直った。

 

 

 

「話は分かった。だがしかし、君達3人が本当にプレイヤーなのかという確証が持てない。そういえばまだ名前を聞いていなかったな、聞かせてくれないか?」

 

 

 

「私の名はルカ・ブレイズ。こっちがミキ・バーレ二、こっちの大きいのがライル・センチネル。あ、ちなみにプレイヤーは私だけだから。ミキとライルは、ユグドラシル時代に私が創造した元NPCで、私達の拠点守護者だったのよ。今は、私の最も頼れる仲間ってとこ」

 

 

 

「そうか、ルカ・ブレイズ。君達三人に一つ提案がある」

 

 

 

「何?提案って」

 

 

 

「君達に敵意がない証として、私の部下達9人と試合をしてもらえないだろうか?」

 

 

 

「ええ〜?! さっきそこのシャルティアとコキュートスの二人と戦ったから、もう十分でしょ?」

 

 

 

「いやまあそれはそうなのだが、言わば親睦試合だと思ってくれ。それに見てみたいんだ。君達の力を。そうすれば、君がプレイヤーだという確証が私にも得られると思う」

 

 

 

「別にそれで気が済むならいいけど...。当然試合だから、殺すのは無しって方向でいいのよね?」

 

 

 

「もちろんだとも。私の部下にも君達の事を殺さないよう厳命する。安心してくれ」

 

 

 

「分かった、じゃあとっととやろうか。一応聞くけど、彼らの中にプレイヤーはいないよね?」

 

 

 

「ああ。私達のギルドメンバーが創造した、全員君の言うところの元NPCだ」

 

 

 

「そっか。なら万が一何かあっても生き返らせれるし、安心だね」

 

 

 

「守護者達よ!聞いての通りだ。これより御前試合を取り行う。ナザリックの名に恥じぬよう、各員全力で奮闘せよ!!但し、この3人を殺すことは断じて許さぬ、よいな?!」

 

 

 

「「「「「「「「「ハッ!!」」」」」」」」」

 

 

 

 

闘技場中央でルカ達三人は横一列に並び、身構える。ルカは正面に並ぶ相手9人の姿形から、特性を見計らっていた。その後、ミキとライルに対し伝言(メッセージ)を飛ばす。

 

 

 

 

『各員へ。相手は9人だ。まずは奴さんたちの出鼻を挫く。いいな?』

 

 

 

『『了解』』

 

 

 

『ターゲット。第一目標、杖持ちのダークエルフ。あの杖、恐らくメインクラスはドルイドだ。ヒーラーは速攻で潰す。第二目標、シャルティア。第三目標、メガネの悪魔。こいつ多分アーチデヴィルだ。長居されると厄介だからな。第四目標、コキュートス。第五目標、鞭持ちのダークエルフ、恐らくレンジャーだ。第六目標、執事のオッサン。第七目標、赤いワンピースの女。第八目標、黒甲冑の女。あのピンク色のモンスターは最後だ。戦闘力があるとも思えんが、階層守護者というからには何か特殊な能力を持っているかもしれん』

 

 

 

『かしこまりました』

 

 

 

『殺さず...か。ふん、つまらん』

 

 

 

『そう言うなライル、見返りはデカイぞ』

 

 

 

『は、承知致しました、ルカ様』

 

 

 

 

アインズがゆっくりと右手を上げると、それに反応し階層守護者達が武器を構えた。

 

 

 

「始め!!」

 

 

 

「「「魔法効果範囲拡大・呼吸の盗難(ワイデンマジック・スティールブレス)!!」」」

 

 

 

ルカ達3人が同じ魔法を詠唱し、先制して相手に叩き込んだ。一斉に飛びかかろうとした階層守護者全員の動きが途端にスローモーションとなり、尚かつ守護者全員の体の周囲に、濃い緑色の靄が立ち込めた。

 

 

呼吸の盗難(スティールブレス)は、被対象者に対し30秒間の間、移動速度を15%まで低下させ、合わせて強烈な毒DoT(毒継続ダメージ)を付与するという魔法だった。

 

 

 

それと同時に、ルカ達三人は階層守護者の一人に対し恐ろしく素早い動きで突進する。飛び掛かった先には、杖を構えて後方に下がろうとしていたダークエルフの女の子がいる。思うように身動きが取れず、あたふたしている様子だったが、ルカ達3人は躊躇わなかった。

 

 

 

殺人者の接吻(マーダーズキス)!」

 

 

千の斬撃(サウザンドカッツ)

 

 

破壊者の爪(クロウオブディバステイター)!」

 

 

 

三人の容赦ない連撃が、ダークエルフの女の子を切り裂いていく。ルカは攻撃が終わった後、咄嗟に魔法を唱えた。

 

 

 

生命の精髄(ライフエッセンス)

 

 

 

あと2撃か3撃ダメージを受ければ、この子は死ぬ。倒れたその子に対し、ルカは言葉をかけた。

 

 

 

「ワンダウン。君は終了ね」

 

 

 

ここまで約6秒。ルカ達は踵を返し、第二目標であるシャルティアへと転進した。眼前にルカ達が高速で迫り、シャルティアは咄嗟にスキルを唱えた。

 

 

 

「おのれ!不浄衝撃盾!!」

 

 

 

しかしルカ達は以前に、不浄衝撃盾の効果範囲を見ている。咄嗟に左右へと散らばり、扇状に放たれた衝撃波を躱して、シャルティアの真横へと移動した。

 

 

 

「シャルティア、体力は回復した?」

 

 

 

「そんな事、当たり前でありんしょう!」

 

 

 

「なら遠慮は要らないね...無限の輪転(インフィニティサークルズ)!」

 

 

 

心臓の捜索者(ハートシーカー)!」

 

 

 

結合する正義の語り(ライテウスワードオブバインディング)!」

 

 

 

ルカの神聖属性と闇属性の混合した光波連撃、そしてミキのロングダガーによる超高速20連撃、とどめにライルの高火力神聖AoEを受けて、なす術もなくシャルティアは全身から白い煙を立ち上げ、その場に崩れ落ちた。

 

 

 

「これで2ダウン。次!」

 

 

 

ここまで約15秒。ルカ達は取って返し、メガネの悪魔へと突進した。ルカはこの男が最も厄介だという考えを捨てきれなかった。だからこそ、全力を持ってこのアーチデヴィルを倒す。そう心に決めていた。移動阻害(スネア)の効いている今だからこそ、絶好のチャンスだった。

 

 

 

メガネの悪魔はルカ達が眼前に迫り、身動きの取れない状況でありながら咄嗟に魔法を唱えた。

 

 

 

「くっ!獄炎の壁(ヘルファイヤーウォール)!!」

 

 

 

それを見てルカ達三人は直前で停止した。その隙を見て、メガネの悪魔は三人に対し絶叫する。

 

 

 

「”ひれ伏せ”!!」

 

 

 

彼のスキルである(支配の呪言)だったが、Lv40以下の者にしか効かないこのスキルは、ルカ達3人にはまるで効果がない。それを察したメガネの悪魔は、続けざまに魔法を詠唱した。

 

 

 

石化の視線(ペトリファイ)!」

 

 

 

その言葉を聞いたルカ達は瞬時に反応する。回避(ドッヂ)のパッシブスキルにより、左右へと避けて石化を回避した。

 

 

 

「やっぱり手間がかかるねえ、こいつは。一気に畳むぞ」

 

 

 

「「了解」」

 

 

 

魔法解体(マジックディストラクション)!」

 

 

 

ルカがそう唱えると、メガネの悪魔の周囲に張られていた強烈な火柱が消え失せた。それと同時にルカ達3人が突撃する。

 

 

 

沈黙の覇気(オーラオブサイレンス)

 

 

 

魔法最強化・星幽界の一撃(マキシマイズマジック・アストラルスマイト)!」

 

 

 

一万の斬撃舞踏(ダンスオブテンサウザンドカッツ)!」

 

 

 

 

ルカに言葉を封じられ、魔法を詠唱出来なくなったメガネの悪魔は、ミキとライルの魔法と斬撃を防ぐ術がなかった。まともに食らったメガネの悪魔はその場に倒れ込み、言葉一つ発せずに悔しそうに天を仰いでいた。

 

 

 

ここまで約25秒。ルカ達は再度踵を返し、コキュートスの元へと突進した。先程とは持っている武器が異なるが、それには一切構わずライルが先制する。

 

 

 

「再戦だな。自信は?」

 

 

 

「ナケレバコノ場ニ立タヌ!」

 

 

 

「そうか、では絶望を知れ。弱点の捜索(ファインドウィークネス)

 

 

 

そう唱えると同時に、コキュートスの刺突・斬撃・打撃耐性が一気に下がった。その虚をついて、ルカとミキが畳み掛けるように連撃を繰り出した。

 

 

 

霊妙の虐殺(スローターオブエーテリアル)!」

 

 

絞首刑の木(ハンギングツリー)!」

 

 

 

ルカとミキ、左右からの高速40連撃を受けて、コキュートスは武器を落とし、その場にドサッと倒れ込んだ。ルカ達は第五目標である鞭持ちのダークエルフへ向かって突進した。

 

 

 

その様子を観覧席から見ていたアインズは、拳を握りしめていた。ルカ達が勇ましく戦い、一人、また一人と階層守護者を撃破していく様子を見て、胸が高鳴っていた。まるで、過去共に戦った戦友達を見ているような錯覚にすら陥った。

 

 

 

(彼らが味方につけば...いや、彼らが側に居てくれたら)

 

 

 

 

万感の思いに浸ったアインズの体の周囲に、幾重にも折り重なった魔法陣が現れた。戦いに夢中だったルカ達だったが、アインズの様子を見て咄嗟に後方へ飛び退いた。

 

 

 

死の支配者が両手を広げると魔法陣が更に巨大になり、それと同時に守護者達へ叫ぶように指示を出した。

 

 

 

「守護者達よ、総攻撃で時間を稼げ!!そして私の合図と共に即座に離脱せよ!!」

 

 

 

呼吸の盗難(スティールブレス)の効果が消えた瞬間、闘技場に残った階層守護者5人がルカ達3人に向かって四方八方から、一斉に襲いかかってきた。

 

 

 

「やれやれ、何をアツくなってるんだか....。来るぞ、防衛陣形!ライルは黒甲冑と執事のオッサン、ミキはダークエルフだ!俺は赤いのをやる、反撃のタイミングを見逃すな、魔法を徹底しろ!」

 

 

 

「「回避上昇(エバージョンライジング)!」」

 

 

 

互いを背にした三人は完全に防御に徹していた。その鉄壁の守りは、階層守護者達5人の攻撃を全く寄せ付けないほど、完膚なきものへと達していた。

 

 

ルカは赤いワンピースを着た女性からの激しい攻撃を必死で躱していた。シャルティアとも、コキュートスとも違うこの圧力とスピード、攻撃の重さ。ルカは恐らくこの女性が守護者の中で最強だろうと予測していた。

 

 

 

しかしアインズのあのエフェクト...超位魔法を放つ気だ。試合とか言っておきながら、一体何を考えているのか。

 

 

 

 

「守護者達よ、今だ!!範囲外へ避難せよ!」

 

 

 

 

咄嗟に、守護者全員が周囲の客席に向かって後方に飛び退く。

 

 

 

しかしルカは、闘技場の中央にいながら、アインズに向けて視線を外さなかった。

 

 

 

 

 

「超位魔法・失墜する天空(フォールンダウン)!!」

 

 

 

 

虚数の海に舞う不屈の魂(ダンスオブディラックザドーントレス)!!」

 

 

 

 

 

ルカ達のいる闘技場に巨大な青白い光が落ちた。

 

 

 

 

 

「やった!!」 劣勢だった鞭持ちのダークエルフが思わず言った。

 

 

 

「アインズ様、さすがです!」黒甲冑の女性も声を上げる。

 

 

 

「やりましたな、アインズ様」初老の執事も確信に満ちた声を上げる。

 

 

 

 

しかしその直後。失墜する天空(フォールンダウン)の光が消えないまま、中から声が響いた。

 

 

上位瞬間移動(グレーターテレポーテーション)

 

 

失墜する天空(フォールンダウン)の光が消えた瞬間、ルカ、ミキ、ライルの3人は、アインズウールゴウンのもとまで瞬間移動し、それぞれの武器をアインズの喉元に当てていた。

 

 

 

超位魔法のリキャストタイムもあり、アインズは硬直して動けない。

 

 

 

「動くな!!そこから一歩でも動いたら、お前たちの主人の首を跳ねる」

 

 

 

ルカは大声で闘技場に向けて言い放った。

 

 

 

戦った彼らが一番良く分かっているはずだ。アインズウールゴウンの首を跳ねるという行為を、ルカ達は本当に実行出来るという事を。

 

 

 

敵の動きが止まった。アインズが驚愕の視線でルカに声をかけた。

 

 

 

 

「ばっ...バカな!!無傷だと言うのか?!」

 

 

 

「そうだよ、10秒間パーティー全員を無敵化出来る魔法をかけたからね。それよりあのさあ....試合じゃなかったの?」

 

 

 

「いやまあ、その...君達なら超位魔法一撃程度でなら体力的にも死なないと思って、つい、な」

 

 

 

「ふーん...まあいいや。それより試合は終了って事でいいよね?」

 

 

 

「あ、ああ、もちろんだとも」

 

 

 

「じゃあ守護者たちに、試合終了の宣誓をしてあげて。君が乱入してきたせいで、こんなことになったんだからね?」

 

 

 

 

ルカはアインズの首元からロングダガーを離し、金属製の鞘に収めた。それを受けてミキ、ライルも武器を収める。アインズは一歩前に出ると両手を左右に広げ、闘技場にいる階層守護者達へ向け大きな声で言った。

 

 

 

「守護者達よ、実に見事な戦いぶりであった!!このナザリックの平和を守れるのは、お前たちしかいないと私はこの戦いを見て強く確信した!そして私はここにいる3人の強者達の願いを聞き入れ、互いに有益な情報交換を行う為に会合を開く!各自戦いの傷を癒やすように。これにて御前試合を終了する、みなご苦労であった!」

 

 

 

立っている階層守護者達5人は無言で武器を下ろしたが、どこかしょんぼりとし、悔しさが滲み出ている。それを見てルカ達は観覧席を飛び降り、今だ立ち上がれずにいる子供に歩み寄ると、その横に両膝をついた。

 

 

 

 

「ごめんね、1番最初に倒しちゃって。いま回復してあげるからね。一応確認するけど、君はダークエルフだよね?」

 

 

 

「え、えと、あの、その、はい、そうですけど...」

 

 

 

前髪を少し長めに切り揃えた、金髪の可愛らしいダークエルフの女の子は、どこかおどおどした様子でルカを見上げながら、辿々しく答えた。

 

 

 

「じゃあ人間種だね、OK。魔法最強化・約櫃に封印されし治癒(マキシマイズマジック・アークヒーリング)

 

 

 

ルカはダークエルフの額と腹部に手を置き、目を閉じて魔法を詠唱する。周囲にシャルティアがいる事を考えて、単体回復魔法を使用した。

 

 

 

 

(ブン!)という低い音が鳴り、地面に横たわるダークエルフとルカは瞬時に青白い光の球体に包まれた。その光の中で、ダークエルフの全身に負った深手がみるみるうちに塞がっていく。

 

 

 

ルカの背後で警戒していた黒甲冑の女性と赤いワンピースの女性、そしていつの間にか闘技場に降り立っていたアインズはその様子を見て、驚愕の表情を浮かべていた。

 

 

 

(これほどの力を持ちながら、回復魔法も使用できるとは....)

 

 

 

そんなアインズの心境も他所に光は収束し、やがて消えるとルカは目を開けた。女の子の頭を優しく撫でながら、声をかける。

 

 

 

「大丈夫?他に痛いところはない?」

 

 

 

「...いえ、あの、その、大丈夫みたいです」

 

 

 

「良かった。立てるかい?」

 

 

 

ルカは立ち上がり女の子に手を差し伸べると、恐る恐る手を伸ばし、ルカの手を握った。ゆっくりと引っ張り上げて女の子を立たせると、ルカはその子の髪と背中についた土埃をポンポンとはたき落とす。

 

 

 

「女の子は清潔にしなくちゃね。名前は何ていうの?」

 

 

 

「ぼぼ、僕はマーレ・ベロ・フィオーレと言います!あのその、ルカ..さん、ありがとうございます..」

 

 

 

「そうかマーレ。いいんだよ、ボロボロにしちまったお詫びさ」

 

 

 

マーレの頭をポンポンと軽く撫でると、ルカは次にシャルティアの元へと歩み寄った。地面に倒れたシャルティアの横にルカが膝をつくと、怒ったような顔でプイッとそっぽを向いてしまった。

 

 

 

「そう怒るなよシャルティア。戦ってみて君が強いという事は分かっていたから、倒す順番を2番目に選んだんじゃないか」

 

 

 

「...フン、これで二度目でありんすね」

 

 

 

「もうこんな事はしないよ、約束する。だからこっち向いて、シャルティア。回復してあげるから」

 

 

 

ルカはシャルティアの右頬に手を添えて、ゆっくりとこちらを向かせた。目の前にルカの笑顔が目に入る。それを見てシャルティアは、半ば諦めたような表情になった。ルカはシャルティアの額と腹部に手を乗せる。

 

 

 

「もう、好きなようにやりなんし...」

 

 

 

「そうさせてもらうよ。魔法最強化・大致死(マキシマイズマジック・グレーターリーサル)

 

 

 

(ボッ!)という音を立て、ルカの両手に大きな黒い炎が宿ると、手を触れている額と腹部から膨大な負のエネルギーがシャルティアの体内へと流れ込んでいく。

 

 

 

シャルティアの全身が緑と黒の明滅を繰り返し、全身に負った斬撃の傷が塞がっていった。シャルティアはそれを感じ、静かに目を閉じて深呼吸する。やがて体力がフル回復すると、(ビクン!)とシャルティアの体が痙攣した。ルカは額と腹部に乗せた手を静かにどけて、シャルティアの上体をゆっくりと起こした。

 

 

 

「終わったよシャルティア。他にどこか痛いところはない?」

 

 

 

「...フン、ありんせん」

 

 

 

何故か顔を赤らめているシャルティアは自力で立ち上がり、真紅の鎧に付いた土埃をパンパンと払った。その後、シャルティアの体が一瞬光を帯びると、鎧姿から漆黒のボールガウンドレスへと変貌していた。

 

 

 

「なっ...シャルティア!!敵前で武装解除するなど、あなたは一体何を考えているのですか!」

 

 

 

それを見て怒号を上げたのは、黒甲冑を着込んだ女性だった。そう言われてもシャルティアは身動き一つ取らず、ルカ達と黒甲冑の女性に背を向けている。

 

 

 

「シャルティア!何とか言ったらどうなの?!」

 

 

 

「安心しなんし。その人達は敵じゃありんせん」

 

 

 

「...何故そのような事が言い切れるのですか!!」

 

 

 

シャルティアは振り返り、黒甲冑の女性へと向き直った。

 

 

 

「私はそこのルカ・ブレイズと二度戦ったでありんす。そしてそのどちらも私の負け。あなたもこの人達と正面からやり合えば、その事が理解できるでありんしょう、アルベド」

 

 

 

「...クッ!」

 

 

 

 

黒甲冑の女性・アルベドは、そう答えるシャルティアの顔を見て黙り込んでしまった。彼女は笑顔だった。しかしその目はどこか切なく、儚げな表情を讃えている。そこにいるシャルティアは、ただただ美しかった。

 

 

 

その様子を見て、ルカも自然と笑顔になっていた。シャルティアに歩み寄り肩をポンと叩くと、そのままシャルティアの背後に倒れているメガネの悪魔の元へ行き、横に両膝をついた。

 

 

 

 

「き、貴様...」

 

 

 

「予想通り、手強かったよ君。レベルキャップもあるけど、石化は私達にも耐性が無い。良いところを突いてきたね」

 

 

 

「...今となっては後の祭りだ。さあ、殺せ!」

 

 

 

「ご主人様の言う事を聞いてなかったの?これは試合。アインズは、君達と戦わせることで私達の能力が知りたかったんだよ。君を殺したらルール違反だ」

 

 

 

「では一体何をするつもり...」

 

 

 

ルカはその言葉を遮るように、彼の目に手を覆いかぶせた。そして腹部にも手を置く。

 

 

 

「目を閉じて、回復してあげる。一応確認するけど、君はアーチデヴィルだよね?」

 

 

 

「だったら何だ!」

 

 

 

魔法最強化・約櫃に封印されし治癒(マキシマイズマジック・アークヒーリング)

 

 

 

ウォー・クレリックの放つ聖なる光が二人を包み込む。悪魔の体が微細振動し、覆い隠された目と腹部から、湧きい出てくるように力強い波動が流れ込んでくる。それを感じ取り、悪魔は意図に反するように、硬直させた体を弛緩させた。

 

 

 

ルカは悪魔の目と腹部から手をどけた。まるでダイヤモンドの如き青白く光る目が開くと、目の前には静かに微笑して佇むルカの姿があった。

 

 

 

悪魔は咄嗟に上体を起こし、自分の体に触れて状態を確認した。あれだけの攻撃を喰らいながら、傷一つ、痛み一つすらもない。右を向くと、ルカの顔が至近距離の位置にあった。

 

 

 

「他に痛む所はない?」

 

 

 

そう言うとルカは悪魔の右頬を撫で、直毛気味の髪を無理矢理オールバックにしたような頭をゆっくりと後ろにかき分け、そのまま首の後ろを揉むように優しく握った。

 

 

 

「...あ、あなたは...何故このような力を...」

 

 

 

「後でゆっくり説明してあげるから、心配しないで」

 

 

 

「い、いや、それよりもあなたは...」

 

 

 

「ん、何?」

 

 

 

悪魔は上体を起こしたまま、目の前にあるルカの赤い瞳から目が離せずにいた。自分達とは、全く違う存在...。そう悪魔は直感した。

 

 

 

 

「あなたは、女神なのでしょうか?」

 

 

 

悪魔はゴクリと固唾を飲み、ルカの目を見据えて聞いた。

 

 

 

 

「そんなわけないでしょ。それとは真逆だよ私は。でも...君がそう感じてくれたなら、うれしいよ」

 

 

 

 

ルカは悪魔の顔を両手で掴むと、自分の胸元へ優しく抱き寄せた。悪魔にはレザーアーマーの匂いと、それ以上に強く香るフローラルな香りが鼻孔を満たしていた。悪魔は、癒やされた。最早抵抗しようがないほどに。悪魔は、自ずとルカの背中に手を回した。もっと強く、この感触に浸っていたかったから。

 

 

 

「私はルカ・ブレイズ。君の名前を教えて?」

 

 

 

「...デミウルゴスにございます」

 

 

 

ルカは胸元に顔を埋めるデミウルゴスの頭を優しく撫でると、両脇を掴んでゆっくりと体から離した。

 

 

 

「後でアインズ達と一緒にゆっくり話をしよう。でもその前に、傷付いた他の守護者達を回復させてあげないと。ね?」

 

 

 

「あなた様の事を...ルカ様、とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

 

 

 

「もちろんだよデミウルゴス。さあ立って!」

 

 

 

ルカはデミウルゴスの右手を取ると、グン!と引っ張って立ち上げた。完全回復したデミウルゴスは、自分よりも身長の低いルカの顔を見下ろし、自信に満ちた微笑を讃えている。先程の殺気も嘘のように消え失せていた。

 

 

 

それを見てホッとしたルカは、足早にコキュートスの元へと歩み寄った。(ゼー、ゼー)と息が荒く、危険な状態だと判断したルカは、即座にコキュートスの横へと両膝をついた。

 

 

 

「コキュートス!ごめんね待たせて」

 

 

 

「ハー、ハー、イ、イヤルカ殿、ナンノコレシキ...グフッ」

 

 

 

コキュートスは口から青色の血を吐いた。慌ててルカはコキュートスの額と腹部に向けて手を差し出したが、コキュートスはそれを右腕で払い除けてしまった。ルカはコキュートスの顔の上に被さり、叫ぶように言った。

 

 

 

「コキュートス、もうヤバいんだってば!!お願いだから治療させて!」

 

 

 

「グッ...ルカ殿、アノ者...私ト戦ッタ、ライルハオリマスデショウカ...」

 

 

 

「ああ、ここにいるよ」

 

 

 

それを聞いていたライルが、ルカの隣に片膝をついた。

 

 

 

「私はここにいる。見えるか?」

 

 

 

「ア、アア、見エルトモ。オ前、一戦目ノトキハ力ヲ隠シテイタナ...。アンナ強力ナデバフヲ持ッテイルノナラ、最初カラ私ニ使エバ良カッタモノヲ....」

 

 

 

「だから言っただろう、相手が悪かったとな」

 

 

 

「...クク、コウナッテシマッテハ、ソレヲ認メザルヲ得マイ。シカシ、オ前ニ一ツ頼ミタイコトガアル」

 

 

 

「何だ、言ってみろ」

 

 

 

「...モウ一度、私ト戦カッテクレルカ? 今度ハ、本気デ...オ前ノ全力ヲ出シテ...」

 

 

 

「フッ!いつでもかかってこい。また捻り潰してやる」

 

 

 

「ア...アリガトウ...」

 

 

 

 

コキュートスが気を失った。生命の精髄(ライフエッセンス)で確認している猶予などない。ルカは即座にコキュートスの額と腹部に手を乗せ、目を閉じて意識を集中した。

 

 

 

「もう限界だ!魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)約櫃に封印されし治癒(アークヒーリング)

 

 

 

(ブォン!)という激しい音と共に、ルカ達とコキュートスを中心に青白い球体が包み込む。腹部に手を当てたルカの手のひらに、(ドクン!)という力強い鼓動が伝わった。間に合った。ルカは更に意識を集中させ、ウォー・クレリックの聖なる光をコキュートスの体内に全力で注ぎ込んでいく。

 

 

 

無残に刻まれたコキュートスの全身に広がる裂傷が、みるみるうちに塞がっていく。そしてコキュートスは、目を覚ました。だがしかしそこで異変が起きた。ルカが前面にあるコキュートスの体に突っ伏し、倒れてしまったのだ。

 

 

 

その瞬間、場の空気が変わった。即座にライルは立ち上がり、後方を振り向いた。そのすぐ横に、ミキも立ち塞がる。

 

 

 

ミキ・ライルの正面にいたのは、アルベドと赤いワンピースを着た女性だった。武器を構え、今にも飛びかからんとする勢いだ。そこへ間髪入れずに、アインズが制止にかかる。

 

 

 

 

「やめよ、アルベド・ルベド!!この者たちは約束を守った。我らがそれに報いなくて何とする!!」

 

 

 

「しかしアインズ様、このような危険分子、私とルベドでかかれば...」

 

 

 

「こいつら私よりも強い。危険、危険....」

 

 

 

二人は完全に戦闘態勢だった。ミキとライルもそれを察し、武器を抜いて全身から巨大な殺気を立ち上らせる。アインズは焦った。この殺気、先程の戦いでも彼らはまだ全力を出していなかった証拠だ。今ここで戦えば、ナザリックの崩壊に繋がる。

 

 

 

しかしそこで一人の少女が近寄り、ライルの前に立った。両手をダランと下げ、全身から鬼神のようなドギつい殺気を放っている。シャルティアだった。

 

 

 

そしてもう一人、シャルティアとは異なる冷気の如き凝縮された殺気を放ちながら、何者かがミキの前に立ち塞がった。デミウルゴスだった。

 

 

 

その後ミキ・ライル・シャルティア・デミウルゴスの4人が立つ背後から、巨大な影が立ち上がり、手に持つ武器を地面に叩きつけた。

 

 

 

闘技場の地面が、広範囲に渡って凍りついていく。そしてその巨大な影も、シャルティア以上とも言える巨大な殺気を放っていた。コキュートスだった。

 

 

 

しかしコキュートスは、全ての腕に武器を装備していない。4本の腕の内下腕2本にハルバードと刀を装備し、上腕2本には、ルカの体が抱きかかえられていた。コキュートスは再度殺気をアルベドとルベドに叩きつける。

 

 

 

二者は無言で睨み合いを続けたが、口火を切ったのはアルベドだった。

 

 

 

「...シャルティア、私を裏切ると?」

 

 

 

「裏切ってるのはテメェだろうがボケが」

 

 

 

普段の郭言葉が消え去り、素の口調に戻っている。

 

 

 

「デミウルゴス!!あなたも一体どういうつもり?」

 

 

 

「...私は今まであなた達に、本音を話したことがありませんでした。しかし今! 今ばかりは本音を言いましょう。このルカ様達3人を迎え入れることは、ナザリックに多大な恩恵をもたらすという事。私はそう確信しました。そのような貴重な存在を殺すと言うのならば、私は全力であなた達二人を殺しにかかります...せいぜい覚悟してかかっておいでなさい」

 

 

 

「クッ...コキュートス!!その手にしている者を今すぐ殺しなさい!!」

 

 

 

「...コノ者達ハ、我ラノ遥カ上ヲイク強者。ソシテコノ者タチハ、我ラトノ約束ヲ守ッタ。コノヨウナ高尚ナ存在ヲ殺スト言ウノデアレバ、アインズ様ノ命ニ背イタオマエ達二人ヲ、我ラハ殺ス!!」

 

 

 

「...ギッ!!」

 

 

 

 

いかにアルベド・ルベドと言えども、このナザリック3強を締める三人と戦うのは分が悪い。それに加え、背後にはミキ・ライルが控えている。彼ら二人の能力も未知数、しかもコキュートスは、三人の強者と言った。という事は、伝言(メッセージ)で報告にあった通り、彼ら一人一人がシャルティアやコキュートスよりも戦闘力が上と判断すべきだろう。

 

 

 

「ルベド...」

 

 

 

アルベドは諦めてルベドの手を引き、二人共戦闘態勢を解いて後ろに下がった。それを見るとコキュートスは中空に手を伸ばし、オレンジ色のポーションを取り出した。

 

 

 

「ルカ殿...ルカ殿!目ヲ覚マシテクダサイ」

 

 

 

「う...うーん、コキュートス?」

 

 

 

「左様デゴザイマス、サ、コノポーションヲオ飲ミクダサイ」

 

 

 

「ん〜、これ何?」

 

 

 

上位魔力回復薬(グレーターマナポーション)デス」

 

 

 

「んん、わかった。まだ頭がクラクラする...」

 

 

 

「恐ラクハ、連続シテ高位階ノ回復魔法ヲ使用シ続ケタ影響デショウ。サ、オ早ク」

 

 

 

「OK、ちょっと待ってね...」

 

 

 

ルカは瓶の蓋を開けて、ポーションを一気に飲み干した。その途端、視界も一気に明るくなる。ベッドの上に寝ていたかと思ったが、それにしては妙に視界が高い。正面にいるミキはともかく、ライルの頭までが下に見える。ふと左に手をやると、硬い鎧のようなものに手が当たった。

 

 

 

上を見るとコキュートスの顔、下を見るとコキュートスの腕があった。彼に抱きかかえられているという事実を知り、ルカは足をバタバタさせた。

 

 

 

「ちょ、コキュートス?!何で私お姫様抱っこされてるの?!」

 

 

 

「コ、コレニハ深イ事情ガアリマシテ。後程ゴ説明イタシマスユエ、今ハゴ安静ニナサレヨ。アレダケノ戦イヲツヅケタ身、シバシオ休ミクダサレ」

 

 

 

「ええ?うん、まあいいけど...」

 

 

 

確かにコキュートスの腕は広く、寝心地が良かった。しかしミキとライル、シャルティアとデミウルゴスがこちらを見て、クスクスと笑っている。アインズは?!と思い首を振ったが、アルベドとルベドのすぐ後ろに立ち、顔は骸骨なので無表情だが、口元に手をやり体を揺すっている。

 

 

 

そしてアインズはアルベドとルベドに近寄り、二人の肩を握った。二人がアインズへと向き直る。

 

 

 

 

「アルベド、ルベド。お前達に罪はない。この場合意見が2つに分かれるのは当然の事だからな」

 

 

 

「し、しかしアインズ様!私は、私はアインズ様とナザリックの事を思って...」

 

 

 

「わかっているさアルベド、だがもう良いのだ。私はあの3人と話をする事に決めた。それよりも、私の為に試合をしてくれて感謝する、アルベド・ルベド。素晴らしい戦いぶりであったぞ」

 

 

 

「アインズ様...」

 

 

 

「勿体なきお言葉」

 

 

 

二人がそう答えると、アルベドの全身が一瞬光を帯び、黒甲冑からホワイトドレスを着た美しい女性へと変貌した。武装を解除したアルベドは、右手を胸に当て、その場で片膝をついた。

 

 

 

「全ては、アインズ様の御心のままに」

 

 

 

「うむ、ありがとうアルベド。そしてルカよ、守護者達の回復、感謝する」

 

 

 

コキュートスの腕の上で、ルカはアインズに向かい笑顔で親指を立てた。

 

 

 

 

「それでは場所を移動しよう。アルベド、デミウルゴス、9層の応接間で会合を取り行おうと思う。ついてきてほしい」

 

 

 

「「ハッ!」」

 

 

 

「それ以外の階層守護者達は各階層に戻り、警戒レベルを最大限に引き上げろ。コキュートス、すまないがその大事そうに抱いているルカをデミウルゴスに明け渡せ」

 

 

 

「ギョ、御意!」

 

 

 

何故か顔を紅潮させたコキュートスは、いそいそとデミウルゴスへ歩み寄り、ルカを横にしたままそっと受け渡した。

 

 

 

「え...え?ちょっとやだデミウルゴス!私はもう大丈夫だから下ろしていいよ!」

 

 

 

「いけませんルカ様、まだ安静にしていませんと。それにこの後階層を転移致しますので、どうかそのまま御寛ぎくださいませ」

 

 

 

「だからって、何でこの格好なのよ〜...もう」

 

 

 

微笑を讃えるデミウルゴスの眼鏡がキラリと光る。

 

 

 

「よし、それでは他の二人...ミキとライルは私についてきてくれ。転移門(ゲート)

 

 

 

6人はアインズの開けた時空の穴を通過すると、薄暗く天井の高い廊下に出た。その先左手に重厚な木の扉があり、アインズが取っ手を両手で握ると、左右に大きく手を広げて扉を開く。

 

 

 

その部屋の中央には縦に長いテーブルが置かれており、その左右には5個ずつ、背もたれの大きな椅子が並べられていた。天井を見上げると、豪華なシャンデリアが室内を照らしている。

 

 

 

「君達はそちら側に座ってくれ」

 

 

 

アインズが指を差すと、ミキ・ライル・ルカを抱きかかえたデミウルゴスは向かって右側の席へと移動する。5つの座席中央にある椅子をライルが引き出すと、デミウルゴスは抱えたルカを椅子の上へそっと下ろした。そしてテーブルを回り込み、アインズの隣へと移動する。ルカはフードを下げて、部屋の中を見回した。

 

 

 

アインズが着席すると、アルベド・デミウルゴスもそれに続いて椅子に腰を下ろした。向かって左からアルベド・アインズ・デミウルゴスという並びだ。

 

 

 

「さあ、掛けてくれたまえ」

 

 

 

アインズが右掌を上に向けて促すと、ルカを挟んでミキは右に、ライルは左に腰を下ろし、二人共フードを下げた。既に腰掛けているルカは、相変わらず広い部屋のあちこちをキョロキョロと見回していた。

 

 

 

 

「すごいね、あれだけの広大なダンジョンが上にあるのに、その地下にまだこんな施設があるなんて。ここ相当金かかってるんじゃない?」

 

 

 

「フフ、ナザリック地下大墳墓は、私達のギルドが作り上げた最高傑作だからな。この部屋は第9層の一室に過ぎないが、他にも無数の部屋と施設がある。広さは君達が見てきたフィールドとほぼ同等だ」

 

 

 

「上位ギルドって訳か、圧巻だよ。このナザリックに比べたら、私達の拠点なんて本当にちっぽけなものさ」

 

 

 

「君達にも拠点があるのか?」

 

 

 

「ああ、良ければ今度招待するよ。ちょっと特殊な場所にあるから、普通の方法では行けないんだけどね」

 

 

 

「ほう、それは興味深い。是非ご招待に預からせてもらおう」

 

 

 

「うん、うちの料理長は優秀だからね。最高のメシをご馳走するよ」

 

 

 

「私はアンデッドだから食事は不要だ。代わりに私の部下達に振る舞ってやってくれ」

 

 

 

「あ!ごめん、すっかり自分の感覚で言っちゃった。分かった、そうしよう。みんな連れてきていいからね」

 

 

 

「気にするな、構わないさ。それよりそろそろ本題に入らないか?」

 

 

 

「え?ああそうだね、つい浮かれちゃって。その為に来たんだもんね。でも、何から始めたらいいか...」

 

 

 

 

 

ルカはテーブルに目を落とし、考え込んだ。左右に座るミキとライルが、心配そうにルカを見つめる。アインズ達3人も、ルカが口火を切るのを黙って待っていた。

 

 

 

 

「...そうだな、まずお互い最初から始めよう。アインズ、君はユグドラシルからこの世界に来る直前の事を覚えているかい?」

 

 

 

「? ああ、もちろん覚えている」

 

 

 

「どんな状況だった? 出来るだけ、詳細に教えて欲しい」

 

 

 

 

アインズの眼窩に光る赤い目がテーブルに落ちる。そして一言一言を噛みしめるように思い起こしながら、彼は語り始めた。

 

 

 

「分かった...。あれはユグドラシル最後の日、サービス終了日だった。その時点で41人居たギルドメンバーの大半は既に引退しており、同じ第9階層にある円卓の間で、残ったギルドメンバー達と共にサービス終了を迎えようと私は一人待ち続けた。会いに来てくれたのは3人。しかしサービス終了時刻を迎える前に彼らはログアウトし、私はただ一人ナザリックに残された。もう誰も来ないと諦めた私は、最後を迎えるに当たりギルド武器を手に、NPCである戦闘メイドとセバスを引き連れ玉座の間へと移動してそこに座り、一人ギルドの過去を振り返っていた。

 

 

...楽しかった。本当に楽しい思い出しかなかった。そこにはナザリックNPCの最高指揮官である、このアルベドも同席していた。私は玉座に座り、サービス終了時刻である午前0:00を待った。やがて時刻を過ぎると、一瞬だが意識が途絶えた。私は強制ログアウトされたのだと思い、再び目を開けた。しかしそこは現実世界ではなく、ユグドラシルと同じ玉座の間だった。私がこの世界に転移したのは、その時だ」

 

 

 

 

ルカはアインズの語りを聞く途中で、無意識に読心術(マインドリーディング)を発動していた。彼のユグドラシルに対する熱き思い、過去の思い出、悲しみ...そして混乱。虚偽など一切入り込む隙間もないほどの強い感情が一気に流れ込んでくる。それを感じて、アインズを見つめるルカの目にうっすらと涙が滲んでいた。

 

 

 

「何と...そのような事が...」

 

 

「で、ではアインズ様、至高の御方々はやはりお亡くなりになられたと?!」

 

 

 

 

両隣で聞いていたアルベドとデミウルゴスが、驚愕の表情を浮かべる。彼らにとって、初めて聞かされた話であった。アインズは右手を上げて二人を制止する。

 

 

 

「案ずるなアルベド、デミウルゴス!私がこの世界に転移する前、お前達の創造主であるギルドメンバーとはほぼ全員と連絡が取れている。つまり彼らは、こことは別の世界で今も生きているという事だ」

 

 

 

「おお...それは何よりでございます!」

 

 

 

「.......」

 

 

 

 

デミウルゴスはそれを聞いて素直に喜んでいる様子だったが、アルベドは何故か複雑といった表情で、無言のまま下唇を噛み締めていた。

 

 

 

三者三様の様子だったが、話が終わったのを見計らい、ルカは再度質問を続けた。

 

 

 

 

「教えてくれてありがとう、アインズ。もう一つ聞きたいんだけど、ユグドラシルのサービスが終了した年月を覚えているかい?」

 

 

ルカは椅子を引き寄せてテーブルに近づけ、ズイっと前に乗り出してアインズを見つめる。

 

 

 

 

 

「? ああ、覚えているとも。2138年11月9日に、ユグドラシルは終焉を迎えた」

 

 

 

「やはりそうか...。アインズ、よく聞いてくれ。私は.....いや私達は、2350年からこの世界へ転移して来たんだ」

 

 

 

「....2350...年?」

 

 

 

「そう。つまり君達より212年後の世界だ」

 

 

 

 

アインズは空いた口が塞がらなかった。頭の中が真っ白になった。正面にいるルカの顔を見ると、口を真一文字に結び、目には悲壮感を漂わせている。それを見て我に返ったアインズは、右手を額に当てて首を振った。

 

 

 

 

「...それは途方もない話しだ。ルカ、つまり2350年にもユグドラシルは存在していると?」

 

 

 

「そう。公式サービスはとうの昔に終了しているが、ユグドラシルを愛する技術者達が総力を結集し、リバースエンジニアリングにより復活させた、いわゆるエミュレーターサーバだ」

 

 

 

「...そんな事が、本当に可能なのか?あの荒廃した世界で...」

 

 

 

「2130年代、何が起きていたのかは全て知っている。軍産複合体や巨大複合企業が地上を支配し、彼らの台頭と平行するように地球の環境破壊が急速に進んだ、つまりはディストピアだった。そうだよね?」

 

 

 

「...ああそうだ!俺には家族もいない、友人もいない、空気も汚い...あんな暗くて辛い世界にはもう...二度と帰りたくない!!」

 

 

 

アインズは、この世界に転移する前の現実が脳裏に蘇り、両手で頭を抱え絶叫した。突然の主人の変わりように、アルベドとデミウルゴスは絶句し、声をかけられずにいた。

 

 

 

「アインズ...アインズ!私の手を握って、お願い」

 

 

 

ルカはテーブルを挟み、アインズに右手を伸ばした。それを見たアインズは、左手で頭を抱えながら縋るように右手を伸ばし、ルカの手を強く握った。アインズは無意識に欲していた。自分という存在を理解してくれる、同じ人間(プレイヤー)の温もりを。

 

 

 

「アインズ大丈夫、落ち着いて。これから全部説明するから。その前にこの武器を鑑定してみて。君にこれから話すことを信じてもらう為に」

 

 

 

ルカはアインズの右手を握ったまま、左手でロングダガーを逆手に引き抜き、アインズの前に差し出した。柄から切っ先まで、全てが漆黒の武器を目の前にし、アインズはルカの右手を離してそれを受け取った。

 

 

 

 

「い、いいのか?武器の性能を知られるという事は、お前に取っても致命傷になりかねないというのに」

 

 

 

「気にしないの。その為に私はここへ来たんだから」

 

 

 

「....分かった、そこまで言うなら。道具上位鑑定(オールアプレイザルマジックアイテム)

 

 

アインズの脳裏に、膨大な情報が流れ込んでくる。

 

 

 

 

 

---------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

アイテム名 : エーテリアルダークブレード・オブ・ザ・ヴァンパイア

 

クラス制限 : イビルエッジ専用装備

 

装備可能スキル制限 : ダガー300%

 

攻撃力 : 3090

 

効果 : 闇属性付与(150%)、闇属性Proc発動確率10%(Proc=付随追加効果)、エナジードレインProc発動確率50%、即死(Lv90以下)、麻痺効果発動確率10%、命中率上昇200%、付随攻撃力+800

 

 

耐性 :世界級耐性120%

   毒耐性80%

   闇耐性150%

   氷結耐性70%

 

アイテム概要 : 人の心を捨て、闇の技を極めし者のみが装備を許される漆黒の刃。この呪われた強力なダガーは、数多くの人外の手に渡り勝利を与えてきたが、同時にそれ以上の不幸を与えると噂されている。

 

 

修復可能職 : ヘルスミス

必要素材 : サルファー10、オブシディアン30、ミスリル20、ダイヤモンド5

 

------------------------------------------

 

 

 

 

手にしたロングダガーの恐ろしい効果に、アインズは目を疑っていた。攻撃力や付与効果、Procの発動確率にも目が行ったが、何よりも耐性に世界級(ワールド)耐性と書かれている表示は、初めて目にした。このような表示は、ユグドラシルでは明言されていなかったはずだ。

 

 

 

そして一番の謎は、装備制限にある(イビルエッジ)というクラス名称だ。これもユグドラシルでは存在しなかったクラス名だ。アインズは、この強力な武器の持ち主であるルカの顔を見やった。アインズの視線に気づき、(ん?)と笑顔で首を傾げるルカを見て、その恐るべき世界級(ワールド)アイテム・エーテリアルダークブレードをルカに返した。

 

 

 

 

「強烈な武器だな、これは」

 

 

 

「フフ、でしょ? ミキにも全く同じものを装備させてるんだよ」

 

 

 

「複数所持が可能という訳か。それにしても、ユグドラシルでは見たことのないステータスがいくつかあった。例えば君のメインクラス・イビルエッジに関してだ」

 

 

 

「知らないのも当然だよ、それを見せたかったの。少しは信じてくれた?」

 

 

 

「信じるというより、驚愕だったがな」

 

 

 

「うん。落ち着けたなら、これから現実世界の出来事と平行して私達の事を全て話すけど。準備はいい?」

 

 

 

「ああ、取り乱してすまなかった。話の続きを聞かせてくれ」

 

 

 

 

ルカはアインズから返してもらったロングダガーを鞘に収めると、目をつぶり深呼吸した。そしてアインズを見つめ、脳内に収められている歴史を一つ一つ、詳細に語り始めた。

 

 

 




■魔法解説

召喚・暗い産卵(サモン・ダークスポーン)

暗殺用のシャドウ系モンスターを召喚する魔法。モンスターのLvは45程度


影の感触(シャドウタッチ)

対象の敵を9秒間麻痺させる魔法。120ユニットという長距離から撃てる為、逃げる敵に追撃を加える際にも使う。また敵の魔法詠唱中に放てば相手の魔法がキャンセルされる為、敵に取っては非常に脅威度の高い魔法


呼吸の盗難(スティールブレス)

対象の動きを30秒間15%の速度まで低下させ、高レベルダメージの毒DoTも与える移動阻害魔法。魔法効果範囲拡大(ワイデンマジック)による効果範囲の拡大も可能という優秀な魔法でもある


結合する正義の語り(ライテウスワードオブバインディング)

術者の周囲30ユニットに渡り敵の神聖耐性を40%下げ、その後に強力な神聖属性AoEを頭上から叩きつける範囲魔法


沈黙の覇気(オーラオブサイレンス)

周囲50ユニットに渡り敵の声を封じる範囲魔法。これにより魔法詠唱を封じるのみならず、伝言(メッセージ)やチャットも行えなくなる為、敵グループの連携阻害としても役に立つ。効果時間は60秒


弱点の捜索(ファインドウィークネス)

敵単体に対し、刺突・斬撃・打撃耐性を20%まで一気にに引き下げるデバフ属性魔法。これにより通常攻撃時でも大ダメージを与える事が出来る


回避上昇(エバージョンライジング)

ローグ系クラスの持つパッシブスキル”回避(ドッヂ)”の回避率を150%まで上昇させる魔法。但しこれをかけると、武器による攻撃速度が40%まで低下するという側面も持つ。効果時間は15分


虚数の海に舞う不屈の魂(ダンスオブディラックザドーントレス)

パーティー全体に対し、10秒間無敵化のシールドを張る魔法。この時間内に違う魔法を使用すると効果が解除されてしまう。但し課金アイテム使用による魔法はこの対象には入らず、同時詠唱が可能

■武技解説

無限の輪転(インフィニティサークルズ)

神聖属性と闇属性の光刃を敵に向かって無数に飛ばす技。中距離から打てる為、火力と共に距離を詰める為の牽制目的で撃つ場合が多い


血の斬撃(ブラッディースライス)

対象に超高速10連撃の物理属性と流血属性のダメージを与える。この流血は1分間続き、しかも攻撃者のINTが高ければ高い程流血ダメージが上がる為、この武技を食らった敵に取っては一撃で致命傷にも成りかねない危険な武技


悪魔の二輪戦車(デーモンチャリオット)

刺突属性の突撃系攻撃。超高速で相手との距離を詰め、剣を腹部に突き立てる技


一万の斬撃舞踏(ダンスオブテンサウザンドカッツ)

全方位からの超高速斬撃を浴びせる武技。ちなみに一万の斬撃とあるが、実際は20連撃程度である


殺人者の接吻(マーダーズキス)

ダガーによる超高速20連撃を浴びせつつ、敵の命中率を大幅にダウンさせる武技


千の斬撃(サウザンドカッツ)

ダガーによる超高速20連撃と合わせて、敵の攻撃速度を大幅に下げる効果も持つ


破壊者の爪(クロウオブディバステイター)

剣による10連撃を浴びせると共に、敵のINT、DEXを大幅に下げる効果を持つ


心臓の捜索者(ハートシーカー)

ダガーによる超高速20連撃と共に、敵への朦朧状態を引き起こす効果を持つ


霊妙の虐殺(スローターオブエーテリアル)

ダガーによる超高速20連撃を加えると共に、敵の防御力を-80%まで引き下げる効果を持つ。また武器属性付与・神聖(コンセクレートウェポン)等のProc発生確率を70%まで上昇させる事により、瞬間火力を高める効果も合わせ持つ


絞首刑の木(ハンギングツリー)

ダガーによる超高速20連撃と共に、敵の刺突耐性を30%まで引き下げる効果を持つ
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