「くそっ………‼︎もう追いついてきやがった……‼︎」
隠れ場所だった岩を破壊し、強襲してきた異形に杏をかばいながら球子が相対する
「タマっち先輩‼︎無茶だよ、その怪我じゃ……」
「無茶でもいい‼︎杏だけでも逃げろ‼︎」
「嫌、そんなの嫌だ‼︎」
杏も球子に並んでボウガンを構える
「私だって……タマっち先輩を……‼︎」
『ゴショミョデェエ‼︎』
異形が長剣を振り上げる
「杏‼︎」
球子が盾を構えて杏の前に立ち塞がり、長剣から放たれる衝撃波を受け止める
「くっ……そぉっ……‼︎」
たった一発の斬撃を受け止めただけにも関わらず腕がビリビリと痺れ、傷口に腕が千切れそうなほどの激痛が走る。だが、これならギリギリ防ぎきれる
『フゥン‼︎』
ゴギィン‼︎
そう判断した球子の顔が再び剣を振り抜いた異形の姿に絶望に塗り替えられた瞬間、鈍い音と共に球子と後ろにいた杏が水平に吹き飛ばされる
二撃目は衝撃波ではなく、直接の斬撃だった
ズガァン‼︎
「かっ………⁉︎」
ボギンッ
再びの鈍い音と共に杏もろとも球子が太い木の幹に叩きつけられる。今の鈍い音は恐らく盾を構えた左手が脱臼した音、他にも骨が折れたかもしれない
「杏……大丈夫か……?」
ボロボロになりながらも背後の杏を心配し、声をかける球子
返事は返ってこない
「………杏……?」
なんとか振り返った球子が見たのは頭と口から血を流しながら虚ろな目で虚空を見つめる杏だった
「杏……?杏ッ‼︎」
よく見ると息は弱々しいがまだしている。叩きつけられた時に頭をうったのだろう。まだ他にも怪我をしているかもしれない
ザッザッザッ……
背後から異形が近づく足音が近づく
それでも球子は振り向けない。今杏から目を離したら杏が死んでしまうかもしれない。それだけは嫌だ、絶対ダメだ、ぐるぐると球子の思考がひたすら空転する。その間にも杏の呼吸が浅くなっているような気がする
その時だった
『グッ……⁉︎オッ……⁉︎』
異形の苦悶の声が響く。杏の肩を抱きながらなんとか振り返った球子が見たものは
灰色に光る小さな3つの球体のようなものに攻撃され、翻弄されていた
しばらく異形を攻撃してこれを吹き飛ばした球体は球子たちから見て左手側に戻っていく
『…………』
そこにいたのはまたしても球子たちが見慣れない異形だった。だがこちらは先程の異形と比べてどこか機械的な灰色の体をしていた
どこか先程若葉がともに戦っていたバロンと名乗っていたヤツに似ていた
『シェデョミョ……‼︎ フォフェミャファファン‼︎』
更なる怒りをたぎらせた異形は灰色の異形に声を荒げる
灰色の異形はふふっと微笑むような仕草をしてみせると悠々と口を開く
『シェフンショフォエファファンフィ…デェムシュ。ジュシュフンシュ アバリャショ ファンフィ。 フフッ……』
ノイズがかかっているが灰色の異形が発した言葉は間違いなく赤い異形が話していたものと同種の言語だった
『シェデョミョ……ジェイ ショ⁉︎ シェデョミョ……‼︎』
どこか驚きが混じった怒声で赤い異形が応える
『シャンミエデョジュ……グランシュミャ、ジェショボリャカ ジフェエビリェジョ』
灰色の異形が赤い異形に手を向けると周囲を回っていた灰色の球体が再び赤い異形に襲いかかり翻弄していく
『グッ………ォオオン‼︎』
分が悪いと判断したのか地面を思いっきり殴りつけた赤い異形は長剣で球体を吹き飛ばし森の奥へと姿を消す
一瞬の出来事であった
つまらなそうに灰色の異形は首を傾げ、右手を開いたり閉じたりすると踵を返してこちらも森の奥へと歩みを進めていく
「おい、おい待ってくれ‼︎杏が、杏が死にそうなんだ‼︎ 助けてくれよ‼︎」
我に返った球子が灰色の異形に叫ぶが異形は気にも留めず去って行った
「そん……な……‼︎」
「タマっち………せ、んぱい……」
杏が弱々しい声をあげ少しだけ手を持ち上げる
「ど……こ……?」
「ここだ‼︎ここにいるぞ杏‼︎だから死ぬな‼︎しっかりしろ‼︎」
球子が杏の手を強く握る。だが球子の意識も朦朧としてきた。よりにもよって今先程までの無理がたたってきたのだ
「杏……‼︎死ぬな……‼︎死なないで……‼︎」
薄れていく意識の中、幻聴のように声が響く
「主任‼︎ ………主任‼︎ ……に、……が2名‼︎ ……て……ます‼︎」
「何?………大丈夫か‼︎……しろ‼︎」
「ぁ……う……」
突如揺さぶられて朦朧としながら球子の口から声が漏れる
「まだ……がある、………を…べ‼︎」
意識が途切れる数秒前、球子が最後に見たのは
赤い奇妙なベルトをした白い人影だった
讃州中学校そばの寄宿舎・裏庭
「うっし、こんなもんかな?」
絋汰は額の汗を拭いながら自分がやった仕事の出来栄えを眺める。材木たちは綺麗に切り揃えられている
以前に工事現場などでバイトしていた経験がまさかこんなところで活きてくるとは思いもよらなかった
「お、お疲れさまです、絋汰さん……」
「お、ありがとう樹ちゃん」
樹が差し入れてくれたお茶で喉を潤しながら近くのベンチに腰掛ける
あの激動の一日から4日。相変わらず帰る方法は見つからず、凌馬やこちらに来ているはずの戒斗とも連絡がつかない絋汰は勇者部臨時部員として彼女らの手伝いをしていた
若葉、高嶋、千景はすぐに退院し、高嶋や千景とも改めて挨拶はしたがああいった別れかたをしたせいか3人の表情は曇っていた
球子、杏、銀、須美、小学生の園子は未だに行方不明が続いている
探そうにもクラックがあれから発生していない以上ヘルヘイムに行く手段はロックビークルしかないが、こちらも機能しなかったから正直絋汰としても勇者部の面々にしても八方塞がりである
「すみません、色々手伝ってもらっちゃって…」
「大丈夫、腕っぷしはそれなりに自信があるから。それに何にもしてない方が落ち着かないからな」
「絋汰さん、向こうでは何をされていたんですか……?」
「俺?フリーターだよ、まだ。ダンスチーム卒業してからは仕事探しばっかりだ……色んな経験はできたけどな」
絋汰が苦笑すると樹もはにかみながらも笑みを返す
風の自慢の妹(ソースは風自身)というこの樹も勇者として戦うという。この世界での戦闘でバーテックスやインベスをロープのような武器で拘束していたのが彼女らしい。東郷と同じ後方支援型なんだろう
この4日で随分距離が縮まったが、絋汰になれるのには勇者部の中で一番時間がかかったのを見るに引っ込み思案な子なんだろう
「樹ー‼︎絋汰ー‼︎調子はどう?もう終わったかしら?」
学校の方からやって来たのは勝気そうなツインテールの少女、三好 夏凛だ
本人いわく完成型勇者らしく勇者としてあることに責任と誇りを持っていることがうかがえる
言葉の端々にトゲはあるが、彼女なりに勇者部の面々を大事に思っているだろうこともうかがえる
「ああ、今持っていくよ」
「冗談半分にああ言った手前、ほんとにこき使ってるみたいでなんか申し訳なくなってくるわね……」
「いいっていいって、こういう力仕事は男の俺の方が得意だしさ。ていうか、いつもはこういう仕事誰がやってるんだ?」
「友奈と風よ」
「成る程な……」
なんか得心がいってしまった
「うし、それじゃ行こうか‼︎」
「はい…!」
材木を抱えた絋汰と樹が夏凛と一緒に校舎側に向かっていった
勇者部部室
「持ってきたよ〜」
「絋汰さんありがとう!」
勇者部では現在お芝居の準備が鋭意進行中であった
なんでも幼稚園とかで発表しているらしい
「助かりました絋汰さん。これで大道具もバッチリね」
「いや〜逞しい男手があると助かるわね〜ホント」
「いや、風と友奈ならいつもこれくらいしてるでしょ…」
部室では衣装作りやら小道具作りが進んでいた。若葉たちも今日は手伝いに加わっている
発表は来週と迫ってきているから大忙しだ
というのも発表に参加するはずだった球子、杏、銀が行方不明になってしまったばかりに劇の内容も大幅に変更せざるを得なかったのだ
「友奈と東郷は練習中か?」
「ああ、別の空き教室で練習中らしい」
「あの二人なら練習しなくても息ピッタリな気はするけどね」
劇は友奈と東郷の二人劇になっている。役者二人も急な変更ながらしっかりやっているあたり勇者部の面々のたくましさが伺える
「しっかし……ふつうに部活やってる私らが言うのも何だけど、ここまで何もないと不気味ね……」
「たしかに妙ね……そのクラックやらインベスやらはともかく、バーテックスたちまで出てこないなんて異常よね……」
この4日間、不思議なことに異変はたしかに起こっているというのにこちらは不気味なほど平和だった
クラックの出現も、インベス、バーテックスの出現もない
バーテックスの出現は元々不定期ではあるらしいがそれでも不気味だと若葉や東郷も漏らしていた
「たしかに不気味だが、何事もないならそれでいいんだがな…」
「クラックとやらは球子さんたちの捜索のためにも開いてほしいところなのだけどね」
とその瞬間
ピロロロロロン、ピロロロロロン‼︎
風たちの持っていた携帯が鳴り響く。以前皆から聞いていた樹海化の合図だ
「言ってるうちにおいでなすったわね‼︎」
「ようやくか…‼︎」
「若葉たちはいいわ。まだ病み上がりなんだから後方支援してなさい」
「でも……」
「心配すんな、俺もいく。クラックが開いたら俺が入って調べてくるさ。俺の方が向こうには詳しいからな」
心配そうな高嶋に絋汰が微笑む。同じく心配そうに見ていた若葉と千景もそれに頷きを返す
「頼む、もし手がかりがあれば調べておいて欲しい」
「私からも頼むわ、絋汰さん」
「おう!」
こうして絋汰は勇者部の6人と共に樹海化に再び飲み込まれた
樹海化が終わった先でこちらに向かってきていたのは長い尻尾のようなものを持ったバーテックスと地面をまるで水中のように泳いできているバーテックスの二体だった
「蠍座と魚座……2体同時とはね」
勇者服に変身した風が大剣を構え直して二体を見据える
「どっちも中々厄介なのよね……嫌な組み合わせだわ」
同じく勇者服に変身した夏凛がため息を漏らす
「厄介なのか?あいつら?」
オレンジアームズに変身した鎧武が夏凛に伺う
「片方は鋭い毒針、もう片方は地中から引きずり出さなきゃダメ、どっちもどっちでめんどくさいやつよ」
「魚座はわたしがなんとか引き上げれば……」
「……魚座なら俺がなんとかできるかもしれない」
鎧武がはたと手をあげる
「いやいや、絋汰のアーマードライダーがいくら強くてもあのサイズをただ引き上げるのは……」
「大丈夫だ。こっちはでかくなれるからな!」
と鎧武が取り出したのはスイカロックシード
《スイカ‼︎》
解錠と共に今までの鎧とは比べものにならない巨大さのスイカ型の鎧が鎧武の頭上に出現する
「「デッカ⁉︎」」
「お、大きい……‼︎」
「あ、ちょっと下がってな、危ないから」
と驚く3人を下がらせた鎧武はスイカロックシードの力を解放して装着する
《スイカアームズ‼︎》
《大玉!ビッグバン‼︎》
巨大な鎧が鎧武を潰さんと落下し鎧武に被さると巨大な鎧が変形し巨人武者の如き姿をあらわす
「「すごっ⁉︎」」
「これならアイツでも引っ張り出せそうだ」
「よ、よーし、なら身軽な夏凛は蠍座の方引きつけといて。魚座を絋汰と私らでサクッと倒して向かうから無茶は禁物よ‼︎」
「わかってるわよ!」
風の指示のもと別れて2体のバーテックスそれぞれに向かう
鎧武が向かうのは絶賛地面遊泳中の魚座、ピスキスバーテックスだ
「水泳の時間は、終わりだぁ‼︎」
一瞬出てきたピスキスの一部を掴みスイカアームズ鎧武が強引に持ち上げる。もがきながらもその巨体が露わになる。魚というよりかは白さも相まってなんだかイカのように見える
「よーし、持ち上げたぜ‼︎」
「樹、よろしく‼︎」
「うん‼︎」
樹が手をかざすと腕の輪っかから蔦のようなものが飛び出し、スイカアームズごとピスキスをぐるぐる巻きに固定する
「でぇりゃ‼︎」
ゴインっ‼︎
身動きを封じられたピスキスの身体を風の大剣が一気に削ぎ落とす。ピスキスは一層暴れだすがスイカアームズと樹の拘束は簡単には引き剥がせない
「おとなしく、しろっ‼︎」
だが風の攻撃は確実に聴いており、ピスキスの中から心臓部らしい逆三角錐の結晶が覗く
「うし、あと少し‼︎」
「行って、お姉ちゃん!」
樹と風が勝利を確信したその時、
《キィ、キィッ‼︎》
何者かが空から樹に襲いかかる
「きゃあっ⁉︎」
すんでのところで避けた樹が見たのは以前鎧武と友奈が撃破したインベスという怪物によくにたコウモリ人間のような異形だった
「インベス⁉︎ なんでまた……クラックが開いたのか?」
コウモリインベスは更に執拗に樹に攻撃を仕掛けていく。樹はなんとか対応しているが、そのせいか拘束が緩み始める
「なんちゅうタイミングでお邪魔虫が出てきてんのよ……⁉︎」
風が唇を噛みしめる。樹に加勢したいが、下手をするとピスキスの拘束が解けてしまう今はピスキスを先に倒すべきだが
「……ッ‼︎わたし、だって……‼︎」
しばらく防戦一方だった樹だが、もう片方の腕の輪っかを構えコウモリインベスに向き直る
《ギィィッ‼︎》
「……ひぃっ⁉︎」
迫ってきたコウモリインベスに樹は確かな恐怖を感じた
樹たちはバーテックスと今まで何度も戦ってきた。一度怖気づいたが、仲間や姉のために奮起しその恐怖も振り切ってバーテックスと戦ってきた
だが、バーテックスよりも遥かに小さなインベスにはバーテックスにはない表情があった
鳴き声、目線、それら全てがこちらを殺そうと、食い散らかそうと向けられているのが伝わった。バーテックスにはない、剥き出しの殺意
不覚にも樹はそれに恐怖を感じ、へたり込んでしまった
「樹?樹ッ‼︎」
「樹ちゃん‼︎」
風と鎧武の呼びかけに我に返った樹が見たのは
空から目前に迫って来ていたコウモリインベス
「ーあ」
コウモリインベスの鋭い爪が振るわれる、そんな瞬間
コウモリインベスが真横に吹っ飛んだ
「しばらくこの街を探索していたが、どうやらまた厄介ごとに巻き込まれたようだな」
不遜な物言いと共に現れたのは黒と赤のコートを纏った青年。どうやら彼がコウモリインベスを蹴り飛ばしたらしい
「戒斗、お前‼︎」
「葛葉か、貴様もこちらに来ていたのか」
青年ー戒斗はスイカアームズを睨みつける
「ちょっと手を貸せ‼︎こっちのこと調べてるなら俺と風たちで教えてやるから‼︎」
「断る……と言いたいが、その交換条件なら飲んでやろう」
不遜に言い放った戒斗が懐を探るが、何かに気づいたように顔をしかめる
「……あの時あいつに預けたままか……仕方あるまい」
《マンゴー‼︎》
《マンゴーアームズ‼︎》
《FIGHT of HUNMER‼︎》
渋々といった様子でマンゴーロックシードを取り出した戒斗がアーマードライダーバロンに変身、コウモリインベスに手にしたマンゴパニッシャーを向ける
「ー来い」
《キキッ、キィッ‼︎》
「東郷さん、園ちゃん‼︎」
「うん!」
「えぇ、皆と合流しましょう」
別教室で役の練習をやっていた友奈と東郷、園子も樹海化に際し、勇者部の仲間に合流しようと遠目に確認したスコーピオンを目印に向かっていた
そんな3人の目の前にクラックが開く
「⁉︎あれって絋汰さんが言ってた……」
「クラック……」
東郷はクラックを注意深く睨む
(若葉さんたちのことを考えると、銀たちもあの奥にいるかもしれない……)
とクラックに飛び込もうとも考えたが
(私達まで消えたら余計に混乱になるわね……ここは無視するしかなさそう)
そこは踏みとどまり再びスコーピオンに向けて歩を進めていく
「東郷さん、危ない‼︎」
パァン‼︎
聞き慣れた炸裂音と共に友奈が東郷に覆いかぶさる形で東郷を突き飛ばす
あの音は間違いなく銃声だ
「ゆーゆ、東郷さん、大丈夫⁉︎」
園子が二人の前で銃声の方をにらみながら戦闘態勢をとる
銃声は間違いなくクラックの方から響いてきた
クラックの中から歩み出てきたのはインベスに似た姿の異形。赤い甲殻に翼のような意匠があるどこか猛禽のような雰囲気を感じる
手には銃口から煙をあげる長銃が握られている
『………メデュジエシュ。ディンバリャ バエムジャ』
異形は悩ましそうに首を傾げながら意味不明な言葉を紡ぐ
「あれって、インベス……?」
「新手……でも言葉を喋って……」
喋る異形と聞いて東郷の脳裏には若葉たちを襲った異形がよぎる。だが体色こそ同じだがこちらの武器は長剣ではない
『ジョーシンジュジャ………ン、こちらの言葉でよかったか』
驚くべきことに異形が改めて話し出した言葉は間違いなく日本語だった。その流暢な日本語で異形が3人に銃を向けながら機械的に告げる
『ターゲット、確認。ゲームスタート』
前回から間が空きまして申し訳ない……いよいよみんな大好き主任もチラッとですがやっと出せましたw
今回は日常パートが若干メインでしたが、日常って書くの難しい…
今回も灰色の何かやら赤い鳥っぽいオーバーロードやら出てきて混ざり度合いがヒートアップしちゃってきました、書いてる自分でもなんかワクワクしてますw
若干更新ペースが落ちるかもですが、次回もお楽しみにです