ありきたりな女たちの見かけの話   作:小栗チカ

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ブティックは熱帯魚を美しく見せるガラスの水槽にもなれば、
野の鳥を閉じ込める鳥籠にもなる。
角野 幸博


第四話

放置市街区域に到着し、護送車を出れば、容赦なく照りつける太陽の日差しに、ゴーグルをしているにも関わらず思わず目を細めます。

光に慣れる間もなく感じるのは、心臓を貫くような鋭い殺気と、その殺気をも震わせる銃撃音と爆撃音、不吉なエンジン音と咆哮。

事前の情報では、天然のトラ二匹と小型アブダクター、そして天兵がいるとのことでした。

そして、マスクをしているにも関わらず感じる、血と肉と、鉄と火薬と、この戦場を濃密に満たす死の臭い。

既に、他のチームは持ち場で激戦を繰り広げているのでしょう。

始まったばかりで継戦力はまだ減ってはいませんが、できればこの数を維持したいところ。

建物の影に隠れ、安全確認をしながら慎重に持ち場へと向かいます。

しかし、です。

後ろにつく後輩三人組、普段の戦場とはあまりにかけ離れた雰囲気に完全に飲まれていることは、振り向かずとも察することはできました。

それは仕方がないにしてもです。

 

「やべぇ、やべぇよ。俺、ロストしちゃうかも」

 

感覚の鋭いビルさんは、死の気配を他の二人以上に感じてしまい、素直な気持ちが口から出てしまったようです。

気持ちはわかりますが、その言葉はいただけません。

 

「ジャックトゥリー、ちょっと来て下さーい」

 

手招きして彼を呼び寄せると、腰を低くして、素直にヒョコヒョコとやってきました。

瞬時に右手の拳を固めて振り上げ、左足を踏み切り、同時に頭めがけて一気に拳を振り下ろす!

 

「イッ、でえええええっ!!」

 

頭をかかえ、うずくまるビルさん。

踏み切りから振り下ろしまでのタイミング、角度、打点。

ここ数ヵ月なかった会心のゲンコツ、会心の一撃でした。

その威力に、私自身がビックリです。

 

「おおおおおお、おほおおおおおううううう」

 

悶えるビルさんの姿に心がちょっぴり痛みますが、ここで彼を気遣うことはできません。

心をオニにして口を開きます。

 

「弱音はくの禁止でーす。それと、敵に見つかっちゃいますからねー。静かにして下さいねー」

「イエス……マム」

「その呼び方はやめましょうね」

「アイマム……」

 

涙目で応じるビルさん。

そして、この有り様にドン引きしている後輩二人と、置物のように待機するアクセサリたちを見やりました。

今さら後には引けず、再び心をオニにして口を開きます。

 

「お二人も景気付けにいっときますか?」

 

無言で同時に、同じ調子で首を横に振る二人。

ですよねー。

 

「では、アクセサリさん、ルートの再チェック」

「了解しました。目的地までの推奨ルートを確認中。……確認完了。目的地までの推奨ルートに敵性反応は無し」

「了解。引き続き、迅速かつ慎重に持ち場へ向かいましょう」

 

物陰に隠れながら移動再開。

背後の三人はと言えば、とりあえずいつもの調子を取り戻したようで何よりです。

そして、ようやく持ち場の二階建ての建物が見えてきました。

二階の外壁の一部が破壊され、内部がほぼ丸見え状態なのですが。

 

「止まって」

 

歩みを止めて、物影に隠れながら建物を観察します。

いる。

背後で、ハリエットさんの気配がそろりと動きました。

 

「ジャックワン。持ち場に標的が三つ」

 

彼女、とても目がいいのです。

 

「ええ。アクセサリさん、周辺の敵は」

「七時にいる大型アブダクター一体が、友軍と交戦しながら、こちらへ接近中」

 

アクセサリさんの報告に、持ち場の制圧を急ぐ理由ができました。

 

「一時の、資材置き場の敵性反応は」

「現在はありません」

「よし。資材置き場を経由して強襲します。まずは資材置き場まで進みましょう」

 

そうして資材置き場まで到着しました。

残り百メートル弱。

ここからは遮蔽物がないので、荊で一気に距離を詰めます。

 

『報告。天兵三名、目的地の建物二階に依然待機中。装備はパルサーと緑荊二、アリサカと白荊一』

「了解です」

 

ハリエットさんの報告に頷きます。

固くしぶとく狙撃で削る構成ですか。

安全と安心の構成ではありますが、やられる側に回ると嫌らしいことこの上ないです。

 

「手順はいつも通りにいきます。敵は固いですから、念入りに弾を食わせてやって下さい。それと、制圧が完了しても次が来ます。気を抜かないように」

『了解』

「アブダクターの到達まで、後三分五十四秒です」

 

恐らく友軍もこちらに気づいているのでしょう、よく食い止めてくれています。

ここから南のもう少し離れた場所でも、もう一体のトラと戦っているチームがあり、マップで見る限り安定して戦っているように見えました。

ウィルオードライブから、AR-7/Customを取り出します。

呼吸を整えて、集中。

 

「では行きますよー」

 

左腕の緑荊を射出し、一気に建物までの距離を詰めます。

四人と四体がそれぞれの場所まできたことを確認し、建物の裏手に回ると、元は扉があったであろう裏口を発見しました。

 

『屋内に障害物の類い無し』

 

ウィルオー通信によるアクセサリさんの報告に、思わず唇の端が上がります。

防犯に無頓着で不用心なお宅は、問答無用で押し入られるのが宿命なのです。

ウィルオードライブから、先程のボランティアで手に入れたフラッシュG──残り一個──を取り出し、こっそり屋内へ侵入。

階段から二階へ向けてそれをポイっ。

その閃光が状況開始の合図となりました。

そして一分もかからず、敵の排除は完了。

こちらの被害はなく、初の天兵との交戦は上出来と言えましょう。

 

「思った以上にタフだったわね」

「だな。真っ向から戦っていたら、ちょいヤバかったかも」

「だから、安全と時短のためにも、単独行動はするな、一体に対して複数で戦えと言ってたんだよ」

 

天兵の持っていた武器を回収し、二階に設置されていたAMMOボックスで、弾薬の補給をする三人。

 

「補給をすませたら、すぐに所定の位置について下さいね」

 

声をかけたその時です。

 

『こちらヘンリーワン。ジャックチーム、聞こえてる?』

 

外部チャンネルから、友軍の通信が入りました。

ヘンリーチームのリーダーは、声の調子から年若い女性のようです。

 

「こちらジャックワン。感度良好です。今更ですが、今日はよろしくお願いします」

『よろりんぱ。で、早速で悪いんだけど、手負いのトラ一匹、そっちへよこすから構ってやって』

「了解です」

『ここらの天兵潰したら合流するから、それまで頑張って。むしろ合流する前に倒しといて。今朝、お気に入りのピアスなくしちゃって、全然テンション上がんなくてマジしんどいの。だからあたしに楽させて』

 

言うだけ言って、通信は切れました。

 

『何だよそれ。勝手なヤツだな』

『全くだ』

 

地上に降りて所定の位置についたビルさんとオリビエさんが、チーム内の通信で自分たちのことは棚に上げてぼやきます。

 

「まあまあ。あ、来ましたよ」

 

建物の影から飛び出してきた白い影。

日頃の貢献活動で見かけるコウシン、通称トラと呼ばれているアブダクターです。

ここからでも視認できる、白い躯体を彩るウィルオー色の光が、私たちのいる建物に向かって、一直線に向かってきます。

ウィルオー通信から送られてくる対象のライフゲージは、半分ほど残っていました。

右の翼は落ち、お腹の鳥篭も多少ダメージを与えているようですが、まだまだ健在と言えましょう。

このチーム初の天獄産アブダクターとの対決は、それなりに歯応えのある内容になりそうです。

 

『ジャックワン』

 

前触れもなく飛び込んでくる、ヘンリーワンからの通信。

 

『その建物ね、天兵の出現ポイントなってるっぽいの』

「え」

『定期的に湧くから気をつけて。蘇生の手間増やさないでね』

 

通信が切れるよりも先に背後を振り向けば、今まさに天兵が出現、即座に発砲しました。

大きく吹っ飛び、階段を転げ落ちる天兵に向かって攻撃を続け、どうにか仕留めることに成功です。

しかし、リロードする間もなく、背後にさらなる気配を感じ、踵を返しつつ全力で踏み切り、身を屈めてタックル。

銃を構えていた天兵もろとも床に倒れ込みました。

その拍子に、天兵の持っていた武器の銃口から火が吹きます。

 

『ジャックワン!』

「こちらは大丈夫です。ジャックトゥ、しばらくそちらは頼みましたよ!」

『了解!』

「アクセサリさん、対人重視」

「了解しました」

 

押さえつけに抵抗し、顔と体を数回殴り付けて起き上がろうとする天兵に、殴られたショックと恐怖と痛みは、怒りへ自動変換。

その怒りを力にして、銃で殴り返してウマ乗りになります。

その後も立て続けに殴り続けると、例のヘンテコなマスクの目の部分が割れて、天兵と目が合いました。

怒りと恐怖で輝く黄色の目。

その目を見据え、リロードすると躊躇うことなく発砲。

頭を吹っ飛ばされて動かなくなったと同時に、その横で再度天兵が出現しましたが、アクセサリさんの攻撃によって程なくして沈黙しました。

 

「建物内にいた全ての敵対勢力の排除を確認しました」

「了解。天兵のリスポーンまで待機です」

 

服の袖でゴーグルについた返り血を拭い、殴られた部分は、サポートボックスのファーストエイドで回復することにします。

努めて冷静に振る舞いながら、それでも体中からドッと嫌な汗が吹き出すのだけは止められませんでした。

おお、ヤバかった、ヤバかったですよ!

ヘンリーワンの忠告が後もう少し遅れていたら、大ケガどころではすまなかったかもしれません。

ノロノロと回復しているライフゲージを眺めながら、呼吸を整えます。

地上に目を移せば、後輩三人組がトラとの戦闘に入っていました。

 

『今からコイツを拘束するから、真っ先に翼を潰せ。翼を潰してダウンを取る!』

『OK! 頼んだぞ!』

『了解! ちゃんと当てなさいよ』

 

武器をアリサカに切り替えて地上を見れば、三人と三体が連携しながら戦っていました。

フォーメーションも動きも理想的です。

二階からアリサカで援護射撃を行うと、チャージが完了したオリビエさんの赤荊による拘束が成功。

一斉に翼への攻撃を行い、拘束が解ける前に特殊ダウンを取ることができました。

狙うは、普段は狙いにくい鳥篭です。

 

「ミーティア。天兵のリスポーンまで、後一分三十秒です」

「了解」

 

トラのライフゲージは残り四分の一。

天兵のお相手の合間に、トラにちょっかいを出すスタイルで戦うことにしました。

せわしないけど、仕方ないです。

AR-7に切り替えて弾の補給をしていると、外部の通信が入りました。

 

『こちらインディアワン。トラをクリア。引き続き周辺の小物の排除を行う』

 

街の端っこでトラの相手をしていたチームリーダーは、一瞬男女の判断に迷う中性的な、でも女性らしいツヤのある声の持ち主。

 

『おっつー。そっち任せた』

「こちらジャックワン。ありがとうございます。今日はよろしくお願いします」

『こちらこそよろしく頼む』

 

ヘンリーワンに続いて声をかけると、生真面目な調子で応じました。

声の調子で判断するのもアレですが、戦い慣れていそうな頼もしい雰囲気です。

 

『ところでジャックワン、キミたちのチームは対人戦は得意か?』

「いえ。それどころか、私以外のメンバーは、天罰戦すらほぼ初めてです」

 

私たちのチームで対人戦を得意とするのは、私とオリビエさんだけ。

他の二人は心理的な抵抗が強く、どちらかと言えばアブダクター相手の方がよい動きをするのです。

 

『そうか』

 

すると、通信の向こうでインディアワンが頷いたようでした。

 

『それはさぞ不安なことだろう。でも大丈夫だ。我々は一人ではない。ここにいるチーム全員が協力しあえば、必ず皆で生き残れるはずだ』

「はい」

 

いいこと言いますね。

気遣いに感謝の言葉を述べようとして、

 

『だから、トラを片付けたらこっちに来て天兵の相手をしてくれないか。正直、コイツらの相手は飽きてな。的が小さくて当てづらいし、固いし、めんどいし。的の大きいアブダクター相手に、頭カラッポで心置きなくヒャッハーしたいんだ』

 

は?

 

『ちょい待ち』

 

ヘンリーワンが、会話に割り込んできました。

 

『先に手を付けたのはあたしだし。こっちのクソ面倒な天兵の相手、ジャックチームに全部に任せようと思ってたのに』

『貴様の事情なぞ知らんよ。この件は、私のチーム全員の希望でもある』

『それはこっちも同じだってーの』

 

……うふふふ。

おほほほほほ。

今日の友軍の皆さんはとても正直で、しかも、楽な方へ楽な方へと流れていきたいの方々のようです。

揃いも揃ってこれですか。

 

「ミーティア。天兵リスポーンまで、後三十秒です」

 

思わず口元が綻ぶ状況ですね。

 

「ヘンリーワン、さっさと片付けてこっちに合流して下さいねー。蘇生の手間が増えますよー。インディアワン、ここから思い(ウィルオー)を込めて応援してますからねー。頑張って下さいねー」

『チッ』

 

揃って舌打ちをするリーダー二人。

何がチッですか、油断もスキもありゃしない。

 

『何だ今日の友軍は、クセ者ぞろいか!』

『ホント勝手に奴らだよな!』

 

自分たちのことはやっぱり棚に上げてぼやく、オリビエさんとビルさん。

 

『ジャックトゥリー、ナイス回避!』

『な!  俺、今調子いいかも!』

『後もう少しだ。その調子で討伐まで持ち込むぞ』

『了解』

 

出現した天兵を片付けつつ、その合間に聞こえてくる三人組の様子は良好のようです。

 

「損壊率、規定値を突破。一時的に機能を停止します」

 

そして、こちらはいつも通りです。

立て続けに出現する天兵を片付けて、アクセサリさんの機能を回復させました。

ついでに緑荊の力で、傷も直しておきます。

 

「敵アブダクターを撃破しました」

『よっしゃあ!』

『よし!』

『良かった! 二人とも、今のうちに怪我治すからこっち来て』

 

どうやら三人で、天獄産のコウシンを撃破できたようです。

ビルさんの調子がいいことで、他の二人にもいい影響があったのでしょう。

ただし、天罰はまだ始まったばかりです。

 

「皆さんお疲れ様です。補給を済ませたらすぐに配置に付くように。まだまだ続きますからね」

『了解!』

 

私自身も補給を済ませて、次の天兵のリスポーンに備えようとした時です。

 

『シ一一〇号作戦を展開中の全チームに告げる』

 

外部通信から入ってきたのは、直属の上司にあたる上級市民の声。

 

『先程、市民を捕獲したα型のコウシンが、そちらの区域に向かっているとの情報を得た』

『げ、マジで』

 

応じたのはヘンリーワンです。

上級市民相手にも、その態度ですか。

 

『進行方向から、ジャックチームの持ち場に出現すると予想される。ジャックチームは、まず敵の足を止めろ。ヘンリーチームは敵の排除を完了しだい即座にジャックチームと合流。共に市民を奪還せよ。以上だ』

「了解です」

『了解。元々そのつもりだったしね』

 

そうして通信は切れました。

ヘンリーチームが展開している区域を見れば、敵を示すマークが結構残っています。

普段であれば救援に向かうところですが、市民を捕獲したαがこの場に現れると知った今、ここを離れるわけにはいきません。

さらに、インディアチームの展開する区域を確認しようとして、

 

『敵アブダクターが出現しました。速やかに排除して下さい』

 

今まさに、インディアチームの担当区域にアブダクターを示すマークが表示されました。

……嫌な感じです。

 

『千客万来だな。しかもまたトラか』

『すごいじゃん。モテモテじゃん』

 

ぼやくインディアワンに、ヘンリーワンがからかい混じりの声を上げます。

 

『二足歩行もできないお固い連中にモテても何も嬉しくないがね。固いのはヒトの下半身のサオだけで十分だ』

 

……この時間のこのタイミングで、何を言い出しているんでしょう、このヒト。

 

『え。アンタ、そういうこと言うヒトだったの? チョー意外なんだけど』

『戦場で過ごす時間が長ければ、嫌でもそうなるさ。嫌なら控えるが』

『大丈夫。ちょっと驚いただけだから』

『というか、コイツら、サオどころかケツ穴もついていないけどな』

『あったらさぞご立派なモノだったんじゃない?』

『……フフッ、滾るな』

『うわぁ、変態のタイカンキョホー主義者かー。よし、生きろ。そんで天罰終わったらくたばれ』

『酷い』

 

ケラケラ笑い合う二人ですが、私は呆れて声も出ません。

この状況でこのヒトたちは!

 

『なぁ、コイツらバカだろ? バカだよな?』

『お前にバカ言われるとは向こうも心外だろうが、確かにバカだな』

『あんたたちも日頃、おバカな下ネタ連発しているくせに何言ってんの』

『ナニな話だけにってか』

『お黙り』

 

こっちもこっちです。

チームのチャンネルで言いたい放題の彼らに、手で顔を覆いたくなりました。

いえ、こういう会話は、緊張を緩和し、士気を維持するのに有効なのは承知しているんですけどね。

 

「ミーティア、天兵リスポーンまで後三分です」

 

アクセサリさんのどんな時も変わらぬ態度が、羨ましいような、疎ましいような。

後ろに控えているアクセサリさんに、顔を向けることなく呼び掛けます。

 

「アクセサリさん、αがこちらに到達する時間はわかりますか」

「目標は索敵範囲外にいるため正確な時間は不明です。しかし、コウシンの移動速度と安全保障局の情報から、後四分二十秒ほどで到達すると予想します」

「了解」

 

私は状況に集中すべく、目に力を込めて顔を上げました。

 

「はいはーい、お二人とも、恩赦ポイントの足しにもならない情報提供は結構ですから、さっさと敵を倒しちゃって下さいねー。αが来ちゃいますよー。早く来ないと、市民奪還の手間に加えて、蘇生の手間が増えますけど、いいんですかー、いいんですねー」

『ダメ。 許さない』

「では、どのくらいで合流できそうですか?」

 

一瞬の間。

 

『五分ね』

「三分でお願いできませんか?」

『治療と補給、移動を含めての時間なんだけど』

「わかりました。では三分四十秒後に合流ということで、よろりんぱ」

 

言って外部チャンネルを切りました。

ついでにチームチャンネルで、意識して冷静に、静かに、しかし有無を言わさぬ態度で告げます。

 

「皆さん、強敵が来ますから集中するように。いいですね」

『了解』

 

揃って応えた三人の声は、生真面目なものになっていました。

それに構うことなく、私は先程から感じている嫌な感じの正体を探ろうと、愚かでポンコツな頭を働かせます。

αと交戦するなら、四人と四体で戦った方が確実に安全です。

しかし、到達時間が読めない上に、天兵のリスポーンもあります。

天兵を速攻で排除して、αの到達に備えたいところ。

そうなると、天兵と戦うヒト、あと一人増やした方がいいかな。

 

「ミーティア。天兵リスポーンまで、後一分です」

『ジャックワン』

 

呼び掛けたのは、周囲を哨戒中のオリビエさんです。

 

「何でしょう」

『天兵の相手、後もう一人増やしたらどうだ。よければ俺が行くが』

「そのことで少し迷っていたところでした」

 

オリビエさんの申し出に決断します。

 

「ありがとうございます。ですが、ジャックフォウアと哨戒を続けて下さい。ジャックトゥリー、天兵の掃討を手伝って下さい」

『了解!』

 

そもそも今回は、そういう組み合わせで戦うことになっていましたから、予定通りに進めるのが一番いいでしょう。

何かあった時は、ビルさんを向かわせればいいのです。

ビルさんがこちらに到着したと同時に、再び天兵が出現。

再び対人戦となりました。

二人と二体なら、一人の天兵相手では余裕です。

なのに、なのに。

この猛烈に嫌な感じは何。

 

「敵増援、接近損壊率、規定値を突破。一時的に機能を停止します」

 

えっ、もう!?

確かに、ミニマップには敷地内に新たなアブダクターが出現していました。

しかし、天兵の排除とアクセサリさんを起こす作業があり、目視で確認ができません。

 

『……ちょっとこれ』

『ジャックワン、コイツαじゃない。ただのトラだ! 市民の姿も確認できない』

「は、何、どういうことおおっ! アッブネーじゃねーかっ、このバカ野郎が!!」

 

敵の攻撃を機敏にかわし、反撃するビルさん。

アクセサリさんの機能回復しつつ、舌打ちしたくなる衝動をこらえます。

まずい!

このままでは、コウシン二体との乱戦になります。

ただのコウシン二体ならまだしも、αが入ってきたら、市民奪還どころか、このチームだけでは持ち場を維持できません。

即座に外部チャンネルを繋げます。

 

「こちらジャックワン。目標外のトラと接触。交戦を開始しました。ヘンリーワン!」

『ハイハイハイハイわかってるって!』

 

アクセサリさんの機能を回復を終えると、続けて出現した天兵を二人と二体で再び片付けました。

 

「よし、掃除完了!」

「OKです。いい動きでしたよ」

「あざっす、マム!」

 

ゴーグルの向こうに見える鮮やかなウィルオー色の両目。

その目の輝きは、彼が高い集中力を維持し、絶好のコンディションであることを告げていました。

この状況下において、それは紛れもなく幸運なことです。

 

「ジャックトゥリー、ジャックトゥたちと合流して、トラの相手をして下さい。ただし、この後にαコウシンが来ます。ヘンリーチームと合流するまで、こちらの損害を極力押さえつつ、このトラのライフを削るように。いいですね」

「イエスマム!」

 

難しい命令(オーダー)にも関わらず、彼は元気に敬礼して快諾。

補給を済ませると、彼は荊を使って地上に降り、トラと交戦を開始しました。

私も武器をアリサカに変えて、彼らの援護を始めます。

 

「敵増援、接近中。まもなく会敵します」

「本命で間違いありませんか」

「はい。敵アブダクターから市民の反応を感知しました」

 

予想よりもお早い到着のようです。

戦場では絶対なんてものは無いとわかってはいますが、今回はトコトン天獄側に有利な方へ流れている印象。

天罰ですから、そんなものでしょうけどね。

 

『ジャックワン、そこにいるトラをこっちへよこして。乱戦だけは絶対に避けなきゃ』

「了解しました。ジャックトゥ、聞こえましたね。そのトラをヘンリーチームの方へ誘導して下さい」

『了解した。俺がヘイトを稼ぐ。二人はサポートを頼んだ』

『了解!』

 

トラは、ヘイトを稼いだオリビエさんを追って移動を開始しました。

それを見計らって私は地上へ降り、物陰に隠れてミニマップを確認します。

三時から、中々のスピードでこちらに接近してくるアブダクター。

誘導が完了するまで、時間を稼がなければ。

しかし、敵のシールドジェネレーターが健在なら、遠距離武器しか所持していない私は、攻撃によるダメージを与えることはできません。

対α用のバーバラを持ってくれば良かったと、そう嘆いたところで現実は変わらず。

なのでその時は、アクセサリさんと共に囮役をキチンとこなすことにしましょう。

しかしです。

それ以上気になるのは、先程の嫌な感じがまだ続いていることです。

何か見落としがあるのでしょうか。

不安と恐怖に苛まれそうになる心と体を、規則正しく呼吸をすることで落ち着かせます。

不安は水で、恐怖は砥石。

それらをもって、全ての感覚という刃を研ぎ澄す。

いよいよコウシンの気配が近づいてくるのを感じ、アリサカを構えました。

来る。

そして、私の背よりも遥かに高い鉄柵を飛び越えて現れた、白くて青くて黄色に輝く、機械とは思えないしなやかな巨体。

背には体と同じ色の翼。

そして、シールドジェネレーター。

目標のαコウシン、無傷のようですね。

腹部の鳥篭には、確かにヒトの影が見えました。

 

「こちらジャックワン。目標と捕獲された市民を目視で確認。これから交戦を開始します」

 

それに応えるかのように、αコウシンは顔を上げ、この区域に轟くような咆哮を上げました。

その咆哮は、周囲の空気を震わせて風をおこし、砂塵が吹き荒れるほどの威力。

当然そんな暴力が、人体に影響がないわけがなく、ハウリングキャンセルがなければ、咆哮一つでその暴力に屈していたことでしょう。

規則正しく打っていた心臓の鼓動と、それに連動する呼吸は、音圧の影響で一瞬だけ乱れますが、それは折り込み済み。

瞬時に呼吸を整えると、腰を落としてαの行動に備えます。

ジグザグのステップで襲いかかってきたαを、荊で交わして背後へと回り込もうとしたほんの一時。

鳥篭の市民の姿を改めて捉えた瞬間、心臓がひときわ大きく跳ね上がりました。

その市民さんに見覚えがあったから。

……イネスさん?

いえ、彼女の姿は市民なら誰でもなれる姿ですから、別人の可能性もあります。

でも、あれは──。

乱れ迷う心を振り切り、アリサカを構えます。

彼女であろうがなかろうが、市民を奪還するのがお仕事。

ならば、それを果たすまでのことです。

ためらいなく発砲。

弾は当然シールドジェネレーターによって完全に無効化されますが、ヘイトを稼いでこちらに注意を向けさせ続けることが目的です。

なぎ払い、ダブルクロー、突進、ソニックウィング、空間転移攻撃、その他もろもろ。

あらゆる攻撃を観察し回避に専念。

スキがあったら攻撃という、初見の敵の基本中の基本の立ち回りで対応します。

それだけなら、まだいいのですが、

 

『ミーティア。天兵の出現まで、後三分です』

 

厄介なのがいるわけですよ。

一人じゃさすがにしんどいかな。

 

『こちらヘンリーワン。ジャックチームと交戦中のトラを確認。戦闘を開始する』

 

早い!

無茶振りをした三分ほどで到着するとは。

 

「ヘンリーワン、ありがとうございます!」

『どういたしまして。このトラと天兵を片付けたら本命へ向かうから、それまで地面を舐めずによろりんぱ』

「了解です」

 

リーダーが怠け者なだけで、本気を出せば優秀なチームなんですね。

 

『ジャックワン、今からそちらへ合流する』

「了解です」

 

オリビエさんの通信に応じながら、突進をかわします。

四人揃うまで、もうひと踏ん張りです。

ヘンリーチームが対応しているトラから少しでも引き離すべく、持ち場から少しずつ離れながら攻撃を捌き続けます。

 

『タリホー! おおっ、あれがαか! 生意気にピカピカしやがって!』

『αを目視で確認。交戦を開始します』

 

三人と合流を果たせました。

多少手負いではあるものの、どうやら堅実に戦ったようで致命的なところまではいかなかったようです。

彼らの成長を喜びたいところですが、それは後回し。

 

「まずはシールドジェネレーターを叩いて下さい。空間転移攻撃に注意して」

『了解。私がいきます』

 

ハリエットさんの緑荊がシールドジェネレータに接続。

瞬く間に飛びつき、溶断を開始します。

近接武器を持つ他の二人に攻撃を任せ、私は緑荊でサポートに回ります。

皆のライフを回復させ、時おり機能停止になるアクセサリたちを起こして回ります。

 

『ウィルオー残存量減少、荊の使用限界が近づいています』

 

荊でのサポートに回るとすぐこれです。

これこそが、私がどれだけ努力をしても成長させることができない弱点の一つ。

それが、自前のウィルオーの容量の少なさと回復の遅さです。

普段はブースターで賄えているのですが、激戦が続く場合、こんなこともあるのです。

おクスリ──Will'Oパック──に頼らずいきたいところですが、敵が敵ですし、チームの練度が足りないこともあります。

ウィルオードライブからおクスリを取り出して回復。

ノロノロとですが、荊ゲージが回復を始めました。

考えれば考えるほど、得体の知れないおクスリと自分の体です。

そうこうしている間に、ハリエットさんが溶断を完了させました。

 

『シールドクリア!』

『ナイス!』

『さすが溶断バンチョー! 手際良すぎだろ!』

『その呼び方やめて』

 

シールドジェネレーターを破壊して、一気にチーム内の士気も上がります。

再び吠えるαの音と衝撃に対し、今度は揺らぐことなくやり過ごせました。

 

「翼を落として特殊ダウンを狙います。ジャックトゥ、チャージ攻撃お願いします」

『了解!』

 

どうやら三人組も、咆哮に怯むことはなかったようです。

この調子で、良い流れを掴みたい。

そうして攻撃をしかけようとしたその時です。

 

『こちらインディアワン、こちらのトラが我々を振り切ってジャックチームの方へ向かった!』

 

え。

 

『はあっ!? ちょっと何やってんのよ!?』

『ヤツの様子が急におかしくなったんだ。詫びなら後でいくらでもする。ジャックチーム、十分に気を付けろ! 我々も回復しだいすぐに向かう』

「了解です」

 

インディアワンも、ヘンリーワンも、そして私も、予想外なトラの行動に驚きを隠せません。

ミニマップを確認すれば、確かに大型のアブダクターがこちらへ向かってきている上に、インディアチームはほぼ半壊状態です。

 

『何でこっちに来ようとしてんだ?』

「ジャックトゥリー集中」

『アイマム!』

「アクセサリさん、トラがこちらに来る時間は」

『後二分程で到達します』

 

特殊ダウンを取れるかどうかの瀬戸際。

せっかく乱戦から逃れたと思ったのに、また乱戦の危機です。

 

「ジャックトゥ、チャージ攻撃中止。トラの進行方向から少しでも離れます。ジャックフォウア、十一時へ誘導して」

『了解!』

 

ヘイトを稼いでいたハリエットさんが移動をすると、αも移動を開始しました。

ミニマップを改めて確認し、息を飲みます。

トラが、進行方向を変えてαの方へ向かってきている!

 

「こちらジャックワン、例のトラ、αに合流しようとしています!」

『……まさかコイツら。まずい、インディアチーム急いで!』

『言われずとも急いでいる!』

 

しかも、ヘンリーチームのトラとの距離も縮まっているような。

でも今は、こちらに来ているトラと合流された時のことを考えないと。

この先の曲がり角の、さらにその先の行き止まりへ、αか合流したトラを追いやるしかなさそうですけどね。

と、誰かの流れ弾を受けたのでしょうか、αの翼の一つが宙を舞いました。

αは腹部をさらしてダウン。

この瞬間、私に流れる時間が恐ろしくゆっくりになりました。

腹部をさらしているということは、鳥篭がさらされている状態。

格好の攻撃チャンスにして、市民奪還のチャンスでもあることはご存知の通りです。

ですから、誘導していたハリエットさんが振り向き、距離が離れているにも関わらず、その目の良さから鳥篭にいる市民の姿をはっきりと確認できてしまい、

 

『イネスさん!?』

 

そう叫び、鳥篭に向かって荊を射出。

私が止める間もなく、一直線に鳥篭へ向かっていくハリエットさんと、そこに飛び込んでくる手負いのトラ。

荊で移動中の上に、目の前の知人の姿に集中しているハリエットさんに、それを避ける術はなく、まともにトラと接触。

ここから、時間の流れが再び元に戻りました。

 

『ハリエット!!』

 

叫ぶ後輩二人と、吹っ飛ばされ、宙に緑と赤の帯を引き、地面に叩きつけられ転がる彼女の姿。

そして、ミニマップに無情に表示されるバツ印。

 

「ジャックトゥ、カバー!」

『っ、了解!』

 

ハリエットさんのことは、オリビエさんと彼らのアクセサリに任せ、トラたちに向き直ります。

未だダウンしているαの前に立ち塞がる、手負いのトラ。

牽制の咆哮を上げるのと、私が荊を飛ばすのはほぼ同時でした。

ええ、怯んでなんてやるものですか。

続いて赤い荊がトラの体に巻き付きます。

 

「引き倒しますよ!」

「イエス! マアアアム!」

 

瞬時に私に続いてドラッグダウンしかけたビルさん。

しかし、インディアチームとの戦いで散々仕掛けられたせいでしょう、耐性がついてしまい、中々引き倒すことができません。

 

「クソがっ! カッコつけて粘ってんじゃねーよおおおおおっ!!」

 

吼えるビルさんの意思を乗せ、彼の赤い荊がいっそう輝きます。

しかし、トラの向こうでαが再び体勢を立て直しました。

まずい! まずいまずいまずい!

 

「ジャックトゥ、気を付けて!」

 

叫んだと同時に、αが大きく跳躍。

オリビエさんたちの方へ向かったと思ったら、彼らを素通りして走り抜けました。

疑問に思ったのはほぼ一瞬、αの意図に気付きます。

 

『やっぱりそのクソトラ、足止めか。舐めた真似しやがって!』

 

ヘンリーワンの怒りの声は、私が気付いたものと同じでした。

αが私に構ったのは何かしらの理由があった『お遊び』で、でも、形勢がまずくなったから本来の仕事を果たすべく、トラを呼んで囮にし、逃げだしたということでしょうか。

腹立たしい限りですが、事態は別の意味でまずくなりました。

このままでは、市民の奪還ができず作戦が失敗してしまいます。

 

「ちきしょおおおがああああっ!」

 

ビルさんの怒りの意思が通じたのか、ようやくドラッグダウンに成功。

私はすぐさま荊を飛ばして、αを追います。

 

「ジャックトゥリー、しばらくそのトラを足止めしてください! ジャックトゥ、処置が終わったらジャックトゥリーの援護!」

『了解!』

 

間に合え、間に合え!

 

『ウィルオー残存量減少、荊の使用限界が近づいています』

 

こんな時に!

こんな時に、自分のどうにもならない弱点が足を引っ張りますか!

おクスリでは回復が間に合わない。

ならば、この足で走るしかない。

目指すはこの先の変圧器、そしてα。

移動のフローを即座に組み立て実行。

立ち塞がる障害物を、移動技術を駆使して乗り越え、比喩でもなんでもなく真っ直ぐに、決して止まることなく前へ前へ。

いつもの服が、ブーツが、手袋が、ゴーグルとマスクが、体を縛る拘束具のよう。

それでも早く、速く!

眼前に見えた青く輝く変圧器に飛び移り荊を接続、クスリよりも早くゲージが回復しました。

目線を下げれば、走るαの姿が。

ここで荊を飛ばしαに接続できれば、もう一度チャンスが生まれます。

しかし、αは急に走るのをやめると顔を上空へと向けました。

空間転移攻撃!

そして、私の周囲に赤い光がいくつも出現。

この数ではかわせない!

でも、このままではαを逃してしまう!

瞬時に覚悟を決め、荊をトラに向けて射出。

接続と同時に一気にトラに向けて跳躍します。

赤い光に接触し爆発に体勢を崩しながらも、αにしがみつくことができました。

しかし、体勢を崩していたことと、爆発のダメージが大きく、αが全身を大きく揺さぶったことで、呆気なく振り払われてしまいました。

受け身で着地の衝撃を逃がしつつ立ち上がろうとして、

 

「ギッ!」

 

体を走り抜ける激痛に、悲鳴を上げそうになるのを歯を食いしばってこらえます。

これは、肋骨を何本かやったか。

ごまかしが全くきかない痛みに立ち上がることができず、呻き声を漏らし、荒い呼吸を整えながら顔を上げれば、行き止まりの壁を飛び越えてαが姿を消したところでした。

ああっ!

思わず目を閉じ、うなだれます。

イネスさんが──!

いえ、イネスさんじゃないかもしれない、別人かもしれない。

いえ違う、そうじゃなくて!

早く報告をしなければ。

 

「こちらジャックワン、目標は作戦区域外へと逃走しました」

 

体を苛む激痛と、その内で荒れ狂う感情の波に耐えてどうにか報告します。

 

『そう。わかった』

 

私の報告に、ヘンリーワンが表情のない声で応じました。

 

『それじゃ、元の作戦の続きをしましょ。回復と補給を済ませたらすぐに戻って来て。上への報告はあたしがする』

「了解です」

 

ヘンリーワンのドライな態度に、私の中で即座に気持ちが切り替わります。

そうです。

天罰は始まったばかり。

戦いはまだ続くのです。

 

『クソが!』

『ジャックトゥリー、集中しろ』

『わかってるよ!』

 

悔しげに吐き捨てるビルさんに、オリビエさんがことさら冷たい声でたしなめます。

 

『ごめんなさい。私が──』

「それ以上言ったらゲンコツですよ」

 

ハリエットさんの台詞を遮り、出来る限り平静な声で続けます。

 

「気を取り直して、目の前のトラを叩きましょう。戦いはまだ始まったばかりですからね」

『……了解です』

 

応じたハリエットさんの声は、気丈なものでした。

初めての天罰戦での失敗です。

ただでさえ、作戦の失敗は士気を大きく下げるもの。

しかし皆で生き残るためには、ハリエットさんもビルさんも、ここは踏ん張ってもらわなくてはなりません。

ラージファーストエイドを使い、ノロノロと回復するライフゲージを見つめます。

……彼ら以上に、私が踏ん張らなくては。

ええ、そのために、私は自分のできることに集中し、余さず全て実行することにしましょう。

 

こうして、出だしから大きく蹴躓いた今回の天罰ですが、逆に蹴躓いたことで各チームとの連携が上手くいくようになり、一人も死者を出すことなく、天罰は終わりました。

護送車で帰還中、直属の上司のグスタフさんから聞いたPTの被害は、ざっくりと言うなら、序列からは大きく後退し、後ろから数えた方が早いところまで落ちたとのこと。

そして、前回の大規模天罰よりはましな状況である、とも言っていました。

実際PTに戻ってきて、目の前に広がる光景に言葉をなくす三人組でしたが、私からしてみれば、確かにPT自体の被害は前回よりもましな状態でした。

どちらかと言えば、PTの被害よりもモザイク街の被害に胸が痛みます。

建物の全壊、半壊は数知れず。

砂と、瓦礫の埃と、火災の煙の臭いが充満する広場には、避難してきたモザイク街のヒトたちが身を寄せあっていました。

その中には怪我人の姿も見られ、その救護にあたっている人が忙しく立ち回っています。

街自体は未だに火災が発生している所もあり、元気なヒトが立場や身分を越えて消火活動を続けていると、広場で救助活動の指揮をとっていたグスタフさんが教えてくれました。

唯一の朗報は、ビルさんの家族が全員無事であることを確認できたことでしょう。

グスタフさんは、市民奪還の失敗を責めることはなく、ねぎらいの言葉を一言かけてくれました。

そして、彼の命令で私たちは今晩は休むことになりました。

手伝いを申し出る三人組でしたが、グスタフさんが首を縦に振ることはありませんでした。

これから当分の間は復旧作業で激務が続きますから、休めるときにはきちんと休むことも、立派なお仕事なのです。

実際、彼らも相当疲れていたのでしょう。

グスタフさんの再度の命令で、三人組は素直に引き下がりました。

挨拶をして三人組と別れた後、私は独房に直行。

私の独房のあるフロアは、若干煙の臭いが残っているものの無事でした。

独房で一通りのことを済ませて眠りにつこうと横になったとき、イネスさんのことを思い出しました。

私の目の前で連れ去られた女性市民が、彼女でなければいい。

そう思う自分に、少しだけ自己嫌悪を抱きます。

見ず知らずの市民より、ほんの一時でも食事をして言葉を交わした市民の方に情を寄せてしまうのは、仕方がないことなのでしょうけど。

あの女性市民さんが、別の部隊に救出されていることを願う以外に今の私にできることは、しっかりと休むことです。

深呼吸を繰り返し、私は眠りに落ちました。




ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
初めて書いた天罰の戦いです。
ゲーム内のイベントとムービーのせいか、どうにも町中やPTでのイメージが強い天罰ですが、実際の天罰はほぼPTの外です。
そんなわけで、放置市街区域での天罰戦となりました。
クセの強い二級市民二人をリーダーに据えての複数チーム戦と、物語用に多少賢く立ち回るコウシンが見所? でしょうか。
前回、前々回の話より、スムーズに制作が進んで楽しかったことが印象に残っています。
構想の段階で書きたかったシーンを書くことができて満足です。
次回は最終回になります。
最後までお付き合いいただけましたら幸いです。
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