ウマ娘 プリティーダービー 〜レース前には欠かせない存在〜 作:てこの原理こそ最強
「んっ…!」
「あっ、すいません。痛かったですか?」
「い、いえ…だい、じょうぶ…です…」
「そうですか。もうちょっとなんで我慢してください」
「はい…んぁっ…!」
先に言っておくがここはそういういかがわしいお店とかでもましてや自宅でもない。れっきとした学校の一室、メディカルルームだ
「はい、終わりましたよ。お疲れさまでした」
「はぁ…はぁ…ありがとう、ございました…」
「やっぱり痛かったですか?」
「いえ…その、気持ち…よすぎて…」
体操着に身を包んだ彼女は頰を赤らめ息も少し荒げてうつ伏せの状態から起き上がった
今まで行なっていたのはメディカルチェックを含めたマッサージだ。背中、足、腕と言った筋肉をほぐし、身体の体調を整える効果がある
「そうですか?ならいいですけど」
彼女が大丈夫と言っているのでこれ以上の問いかけは逆に失礼と感じてそこで終わらせた。そして部屋に備え付けられている背もたれ付きクルクル回るイス(今命名)に座る
「いよいよ明日は
「はい」
「緊張していますか?」
「少しだけ…」
「そうですか。過度ではない緊張は逆にいいとも聞きますし、なにより楽しんだもん勝ちですよ」
「そうですね。それよりも
「はい?」
「いつも言ってますが、敬語やめてくれませんか?」
「これは自分の性分と言いますか。なので諦めt「先生…」…うぐっ!」
彼女はベッドに両手をつきながら若干こちらに体を倒しつつ今にも泣きそうな表情でこちらを見ている
「先生。私は少しでも先生と仲良くなりたいんです。でもこのままだと距離を感じちゃいます…」
「それは先生と生徒という間柄、距離感は保たなくてはと…」
「先生…」
「くっ!」
女性の涙目による懇願はどうしてここまで破壊力があるのだろうか。間違ったことは言っていないはずなのに罪悪感がすごくてならない
「…わかった。これでいいか…?」
「はい!」
さっきと打って変わって口角がくっと上がり目もうっとりとした笑顔になった。やはり女性は笑っている方がいい
「身体の調子はどうだ?」
「先生のおかげでとっても軽いです」
「それはよかった。他に気になることはないか?」
「先生ともっとお話していたいです」
「こら、先生をからかうんじゃないの。さっきも言ったが明日はレースだろ?寮に戻って早めに寝な」
「はい…」
イスを回し机に向き直って再度体調の面を確認する。すると彼女がからかうような言葉を言ってきたので早く帰って休養するようにと伝え彼女を見るとまたシュンッとしてしまった
「…まぁ放課後は忙しいけど昼休みとかは暇だから、いつでも来るといい。そのときにゆっくり話をしよう」
「っ!はい!」
再び笑顔を取り戻した彼女は立ち上がり部屋のドアの方に歩いていく
「先生」
「ん?」
「明日のレース、見に来てくれますか?」
「あぁ、そういう約束になってるからな」
「なら、最高のレースにしなきゃですね」
「この職業柄一人だけを応援はできないが期待してるよ、”サイレンススズカ“さん」
「スズカ…いつものようにそう呼んでください」
「おっと、こいつは失敬。スズカさん」
「さんがなければ100点でした」
「さようで」
「まぁいいです。明日必ず見に来てくださいね」
「あぁ。今日は早く寝ろよ?」
「わかってます。それでは」
彼女、スズカはドアをスライドさせて帰って行った
オレが勤務しているこの場所はトレセン学園のメディカルルーム兼カウンセリングルーム。トレセン学園は国民的スポーツ・エンターテイメント「トゥインクル・シリーズ」への参加を夢見る“ウマ娘”達が特訓に励む場所である。そしてこのメディカルルーム兼カウンセリングルームで働いているオレの仕事は生徒達の怪我の処置やメディカルチェック、メンタル面でのサポートとなっている。例を挙げると先ほどのようなマッサージによる疲労の軽減、あとは悩み事の相談なんかもしている
この学園に通っている”ウマ娘“とはオレのような普通の人間とは違いさっきまでいたサイレンススズカさんのように腰から馬のような尻尾が生え、馬のような耳が頭頂部付近にある。超人的な走力を有するが、それ以外は普通の立派な女の子である
彼女達が目指している「トゥインクル・シリーズ」とはウマ娘が競い合うレースの名称で、国民的娯楽として定着している。参加するにはチームに入ることが必須であり、また、チームに入ってもチームメンバーが5名以上でなければ参加はできない。ちなみにサイレンススズカさんが所属している「チームリギル」は学園で最強と呼ばれているチームでありそうそうたるウマ娘のメンバーが揃っている。紹介などは次の機会にしよう
「せーんせ」
「こらこら、無闇に男性に抱きつくもんじゃありませんよ?”マルゼンスキー“さん」
「んもぅ〜。相変わらず先生はお堅いのね〜。こんなことするの先生にだけよ」
スズカが帰って行ったドアの方を向いていると後ろからスルッと腕を回され抱きつかれた
「とりあえず離れてください」
「ぶ〜、先生のイケず」
「イケずでもナマズでもなんでもいいです。それにどっから入って来たんですか…?」
「え?あそこだけど?」
渋々離れてくれたマルゼンスキーは腰に手を当てつつ窓の方親指で指差した。その先には開けっ放しの窓があった。この保健室は一階。まぁ侵入も容易かろう
「はぁ…それで?どこかケガでもされたんですか?」
「いいえ。練習が終わったから先生に会いに来ただけよ」
「練習が終わったなら早く寮に戻って身体を休めてください。ただでさえリギルの練習はキツいでしょうに」
「そんなのもう慣れちゃったわ。それに今日は一回も先生に会ってなかったのよ?こんなんじゃ夜も眠れないわ」
何を言ってるんだこの人は、と言いたいが心に留めておこう。彼女はマルゼンスキー。学園最強のチーム、「チームリギル」に所属しているウマ娘の一人だ。周りからは怪物と呼ばれているが温厚な性格で気さくで明るく、キレイで優しい。一見ステキなお姉さまウマ娘。しかしセンスは少し古臭く、世間とほんの少しずれているよう。本人も気にしていて、何度も相談を受けたことがある
「入ってくるにしてもちゃんとドアから入って来ましょうね」
「は〜い」
「はい。では気をつけて帰ってくださいね」
「え〜。少しお話でもしましょうよ〜」
「きちんと身体を休めなさい。リギルのトレーナーさんに報告しますよ?」
「それはやめてほしいかな〜。う〜ん…あ、じゃあ相談に乗ってよ」
「じゃあって…まぁいいですよ。何か悩み事でもあるんですか?」
「えぇ、実はそうなのよ」
「その内容は?」
「先生と全然会えないのよ」
「帰りなさい」
ここにいる娘達は個性的である