ウマ娘 プリティーダービー 〜レース前には欠かせない存在〜 作:てこの原理こそ最強
感謝祭が終わってその楽しかった思い出に浸ることもできず「チームリギル」は特訓が開始された。オレは1つ心配があったのでその様子を遠目から見ていた
「グラス!」
グラスがリギルのトレーナーさん呼ばれた。その理由はなんとなくわかる。オレの目からも病み上がりの身体にはオーバーワークすぎる。復帰戦の毎日王冠が迫ってるにしてもあれでは本調子を持っていけない
「それを決めるのは私だ!」
トレーナーさんの怒鳴る声がこっちまで聞こえてくる。トレーナーさんだって、いや、トレーナーさんの方がオレなんかより何倍もわかっているはずだ。でもグラスも自分の頑張りたい気持ちを持ってる。難しいな
「…」
「…」
放課後のグラスの調整はお互い無言のまま続いた。そんな無言の中でもオレはグラスの筋肉の状態を理解していた。その状態は良くはなかった。悪化してるってわけじゃない。でもやはり左足の筋肉は右足に追いついていなかった
その夜、オレは兄に呼び出されてとあるバーに立ち寄った
「いらっしゃいませ」
そこにはバーテンダーと兄、そしてリギルのトレーナーさんがいらっしゃった
「お、来たな」
「あら、奇遇ね」
「どうも。んで、なんか用か?」
「そう急かすなよ」
「この男に同意するつもりはないけど、あなたもどう?久しぶりに」
リギルのトレーナーさん、ここではハナさんとお呼びするべきかな。彼女が勧めるように自分のグラスを少し高く持ち上げる
「そうですね。スクリュードライバーお願いします」
「かしこまりました」
注文をすまして兄とは反対側のハナさんの隣に座った
「今日は見苦しいものを見せたわね」
「気づいてたんですか」
「えぇ。あなたがケガをしてる娘をほっとくなんて考えられないもの。来るってわかってたわ」
「見透かされてますね」
「…グラスの足は、どう?」
「正直言ってよくはないです。悪化はしてないのでご安心を」
「そう…」
ハナさんはカクテルをグッと飲み干す
「スクリュードライバーでございます」
「ありがとうございます」
「さっきと同じのを」
「かしこまりました」
オレのお酒ができたのに続いてハナさんが追加の注文をする
「ところで、調子いいわねスピカ。相変わらずやりたいようにやらせてるの?」
「気持ちよく走ることが結局は1番なのさ」
「その自信はどこからくるのかしら」
「お互い様だろ」
お互いトレーナー同士。自分達のやり方があるんだな
「そういえばあなたはどうなの?」
「?どうとは?」
「そろそろ誰を取るのか決めたの?」
「またその話ですか…前から言ってますが自分はそんなつもりは…」
「知ってるわ。でもね、あの娘達の気持ちのことも考えてあげて」
「…」
ぐっ…なんも言えん…
「ふっ、まぁいいわ」
「ねぇ、おハナさん」
「なによ…っ!」
「大事な話があるんだ」
兄が異様に真剣な表情でハナさんを見つめる
「おごってくれない?」
「…」
「…」
このバカは…
そして毎日王冠当日
『今年の毎日王冠はG2としては異例な大観衆にみまわれています!』
『今の注目は「チームスピカ」のサイレンススズカですね。スピカは今絶好調ですから、「チームリギル」も黙ってはいられませんよ』
♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜
『歓声の理由はわかっております!「チームリギル」の2人がサイレンススズカに追いつけるのか!?』
『そうですね』
『さぁ、10ヶ月ぶりの復活。不敗のジュニアチャンピオン、グラスワンダー!』
『連戦連勝!世界を見据えているエルコンドルパサー!』
『今日も華麗なる逃亡劇を見せてくれるのか!?サイレンススズカ!』
『今日は闘志に満ちている感じですね』
『誰が勝つかわからないレース!毎日王冠!今、スタート!』
復帰戦に挑むグラス、世界を見据えてスズカとグラスとの対戦を選んだエル、そしてエルのように世界を見据え解説の人が言うようになにか闘志を燃やしているように思えるスズカ。そんな3人を含めた毎日王冠がスタートした
『グラスワンダー、少し出遅れたか?』
『しかし落ち着いてますよ』
『先頭を走るのは当然サイレンススズカ!続いてナイスネイチャ、エイシンフラッシュがマーク。エルコンドルパサーも控えている。さぁどこで仕掛けるのか!』
後続と5バ身ほど離して先頭を走るスズカ。しかしいつもより後続と開けてはいない。まだ後続にもチャンスはありそうだ
『グラスワンダー、外から追い上げる!運命のコーナーを曲がる』
コーナーを曲がり切る前にグラスが仕掛けた。スズカとの差をどんどん詰めていく。そしてそれに続いてかエル達他の選手もスパートをかけていく
『完全にサイレンススズカを捉えにいっています』
グラスとエルのリギル組がスズカを追いかける。でもその途中、グラスがスズカとエルのスピードに追いつけなくなった。やはり足が追いついていなかったか
そしてラストの直線。エルがさらに加速
『おっと!エルコンドルパサーがさらに上がっていく!』
しかしエルとスズカの距離は縮まっていない。エルは足の回転をさらに上げるがやはりスズカには届かない
『サイレンススズカ!逃げて差す!なんというウマ娘だー!異次元の逃亡者、サイレンススズカ!今、1着でゴール!!!』
\オォォォォーーーー!!!!!/
テレビ越しに見てもわかるほどの大歓声。そして映ってはいなくてもわかってしまうグラスやエルの心情。スズカの喜び。エルとグラスは初めての負けだ。彼女達が来たときになんて声をかけるべきか…
ゴールしても夢中で走り続けたスズカ。そして止まったスズカの目には「チームスピカ」のメンバーが映った
「みんな、ありがとう。ありがとう、スペちゃん」
そして空を見上げてこう呟いた
「先生、褒めてくれるかな」
それはそれはチームには見せない明るい笑顔だった