ウマ娘 プリティーダービー 〜レース前には欠かせない存在〜 作:てこの原理こそ最強
「…ここは」
「スズカさん!」
「スペちゃん…」
「スズカさん…ちょ、ちょっと待っててください!トレーナーさん呼んできます!」
勢いよく飛び出して行ったスペ。扉が閉まるのを確認したスズカは今の状況を把握しようと足元を見た。左足はギブスと包帯で固められ病院と思われる部屋のベッドで横になっている
「よっ」
「トレーナーさん」
「おい!まだムリはするな!」
起き上がろうとするスズカを大声で止めるトレーナー
「トレーナーさん…私…」
「なんにせよ、お前と話せてホッとしてる」
トレーナーとスペが部屋に入り、他のスピカのメンバーは部屋の外からソワソワしながら中の様子を伺っている
「骨折…」
「今までハードなスケジュールだったし、しばらく休養だな」
「骨折ということは、治りますよね?」
「あぁ、もちろん」
「走れるように…」
「まぁな」
「レースに出て全力で走れるようになりますか?」
「そのことなんだがな…前と同じように100%力を出し切って走れるかどうかはわからない…」
スズカ自身はもちろん、自分のことではないトレーナーでさえその結果に悲しみを感じている
「いえ、走れます!」
しかしそれを力強く否定したのがスペだった
「絶対走れます!ほら、スズカさん私と約束したじゃないですか」
「約束?」
「スズカさんがレースで100%、いえ、120%の力で走れるように私これから協力します」
「スペちゃん…」
「リハビリはすごく大変ですけど、スズカさんならきっと大丈夫です!」
『お、押すなってば!』
覗きながら聞き耳を立てていたテイオー、ウオッカ、スカーレッド、ゴルシ、マックイーンの5人が雪崩のように部屋に倒れこんできた
「みんな」
「お前ら聞いてたのか!?ったく、病院でケガすんじゃねぇよ」
「スズカー!」
「俺、すごく心配で…」
「ごめんねみんな、心配させて」
「本当だよ!でも、スズカの顔見たらホットしちゃった」
心配してくれていたチームメイトの笑顔にスズカ自身も自然と笑顔になっていった
「入るわよ!」
そこへドアが壊れるくらい勢いよく開けて入ってきたのはリギルのトレーナーだった
「おハナさん、どうした?そんな血相変えて」
「あの子が、あなたの弟が
「…え……」
リギルのトレーナーの放った言葉に部屋にいる全員の顔から笑顔が消えた
「消えた…先生が…」
「ちっ!あの馬鹿は!」
スピカのトレーナーは立ち上がり携帯で当人に電話をかける。しかし電源が切れているのか繋がらない
「くそっ!」
「先生が…そんな…私の、せいで…」
「スズカ。どうしてあなたのせいだって思うの…?」
リギルのトレーナーの後ろにはリギルのメンバーが全員揃っていた。その中でも特に先生への尊敬が強いメンバーの表情は暗いものだった。しかしそんな中でスズカの発言に疑問を投げかけたのはマルゼンスキーだった
「私が、先生の言った通りに…しなかったから…」
スズカは下を向き頭を抱え自分のせいだと涙を流した
「…自惚れないでほしいわね」
「っ!マルゼンスキーさん…」
「あなたが1番先生のことを想ってるような発言はやめてほしいわ。確かに今回のことが完全に関わってないってことはないけど、スズカのせいで先生がいなくなったってのは違うと思うわ」
「マルゼンスキー、すまんがなぜそう思うか教えてくれないか…?本当なら今すぐ町中を走り回ってでも先生を見つけ出したいが…」
マルゼンスキーのさらに後ろ、シンボリルドルフが口を開いた
「それは私なんかよりおハナさんとスピカのトレーナーさんの方が詳しく知ってるんじゃない?」
「その言い方からして君は知ってるようだが、なぜ知ってるのか聞いても?」
「そんなん先生が好きでもっと先生のことを知りたかったからに決まってるじゃない。でもそれはここにいる娘達も一緒のはずよ」
スピカのトレーナーが周りを見ると真剣な眼差しでいる娘達がいるのがわかった
「…はぁ。口止めされてんだけどな」
「ちょっと!話す気!?」
「仕方ないだろ、あいつのことを慕ってくれてる娘がこんなにいるんだ。あいつにはそんな娘達をほっぽってどっか行ったっていう自覚を持たせるためにも話す必要はあると思うが、どうだい?おハナさん」
「…はぁ。わかったわよ」
「感謝するぜ。みんな、これから話すことは聞いて楽しいものじゃない。強制ではないから聞きたくないやつは部屋を出るんだ」
そうは言ったものの誰一人微動だにしなかった
「あいつは幸せもんだね。これから話すこと、他言はしないでくれ。頼む」
「言われなくともそのつもりだ」
「助かる。じゃ、始めるぞ」
特に先生を尊敬、また特別な感情を持つ娘達の手の握る力が強くなる
「今から6年前の話だ。あいつは今みたいに学園の先生ではなく、ちゃんとしたチームの専属メディカルトレーナーだった。そのチームは今のリギルみたいに最強のチームでな」
「そんなある日、とてつもない逸材がチームに新加入した。そのウマ娘はみるみると力をつけていき、連戦連勝と人気も上がっていった」
「そんな中でその年の日本ダービー。ある事故が起こった」
“事故”という言葉にみんなが固唾を飲む
「その娘にレース前の調整で異常が見つかった。どんな異常かまでは聞いていないが、あいつがそんな状態でレースに向かわせるわけがない。あいつはチームのトレーナーにレースに参加させないことを進言した」
「でもチーム的に今波に乗っている状況での欠場を当時のトレーナーが許さなかった。天狗になってたんでしょうね」
「みんなも感づいてる通りあいつの進言は却下。そのウマ娘は身体の異常を抱えた状態でレースに挑むことになった」
「そのレース展開は今回のスズカのレースに似ていたんだ」
「私の…」
「あぁ。その娘はそれ以前には出なかった速度で駆けていった。しかしそこで身体の異常が現れてしまった」
「猛スピードで走っている最中にバランスを崩して、
『っ!』
全員がわかってしまった。高速で走るウマ娘がそのままの速さで転倒すればどうなるかを
「幸い命に別状がなかったものの、そのウマ娘はそれからの選手生命を絶たれてしまった」
「それに対してあいつは自分のせいだと言って聞かなかった。誰もあいつのせいだなんて思ってねぇのに」
「その状態のあの子を見て、そのウマ娘も自分のせいと思い込み病んでしまった。それが原因で病気になって、一昨年亡くなってしまった…」
『…』
自分達と同じウマ娘が亡くなる事実を聞かされたみんなの表情を重いものだった
「だが、あいつはウマ娘と関わることを辞めなかった。それはあいつの思いもあるし、亡くなった娘の遺書に書いてあったこともある」
「遺書…」
「えぇ。その遺書に書いてあったそうよ、“ありがとう”って」
「その言葉であいつはトレセン学園に来たってわけさ。一応これで終わりだ」
話が終わり、どう言葉を発していいやらわからないウマ娘達はただただ黙ったままだった
「あなた、いる場所に心当たりないわけ?」
「あるっちゃある。まぁこれから行ってくるよ」
「そう。ちゃんと連れ戻してこないと許さないわよ」
「わかってるよ。これでもあいつの兄だ。たまには兄らしいところも見せてくるさ」
スピカのトレーナーは連れ戻してくるべく病室を後にした
「全員、顔を上げろ!」
『っ!』
未だ俯いてる全員に対してリギルのトレーナーが大声で叫ぶ
「今お前達にできること。それはお前達が尊敬するあの子を信じ、慕い、そしてこれからもし続けることだ!」
「信じ…」
「慕い…」
「続けること…」
「あの子の言う通りに、あの子の調整を受けていれば滅多にケガなんてしない。それにトレーナーに言えないこともあの子には言えるでしょ」
リギルのトレーナーの言葉が全員への活になり、全員そこで心に決めたと言う。先生が帰ってきたらまず“感謝“を伝える、と…
しかしその時点では誰も気づかなかった。あるウマ娘がそこにはいないということに…