ウマ娘 プリティーダービー 〜レース前には欠かせない存在〜 作:てこの原理こそ最強
凱旋門賞はヨーロッパでの競バシーズンの終盤に開催され、その年のヨーロッパ各地の活躍バが一堂に会する中長距離のヨーロッパチャンピオン決定戦とされている。今、その最高峰のレースに日本の期待を背負ってこの大舞台に足を踏み入れようとしている
朝からオレとエルとの間に会話はなかった。エル自身集中でいつもの甘えてくるエルの雰囲気は皆無だった。その目はもう優勝の2文字しか入っていなかった
そして凱旋門賞でそんなエルの最大、もしかするとこれまで出てきたレース最大の強敵になる存在がいる。"ブロワイエ"。フランスレース界のトップを張るウマ娘。広幅のマントのついた、古式ゆかしき衛兵のような勝負服に身を包んだ風貌は一国のプリンスのようにも見えると容姿の人気も高い
この機会に少し彼女について調べてみた。その人気はさることながらそれに見合う実力は本物のようだ。オレは最初彼女は真剣勝負で相手を打ち負かす、そういうタイプに見えた。しかし本来の彼女は試合前に相手選手に挑発まがいなこと言うらしい。しかし実力があるため強者の余裕とも取れる。エルが変な挑発に乗ってないといいけど...
そしてお互い言葉を発さないまま迎えた凱旋門賞。エルが先行する形のスタートとなった。後続と3バ身ほど離したまま第4コーナーを回ってラストスパートをかけるエル。このまま前代未聞の優勝劇、とは行かなかった…後ろからエルとの距離を猛烈な勢いで縮めてきたのがブロワイエ。ゴール前にしてエルはブロワイエに捕まり、そして抜かれてしまった
「エル…」
多くの人が思っただろう、『やはりブロワイエか』と…でもオレが見たエルの顔は死んでいなかった。エルが諦めない限りオレもエルを信じる。手を強く握りしめ一瞬のまばたきも惜しんで観戦していた。一度抜かれたエルは懸命に巻き返し同着でオレの目の前を通り過ぎてゴールした。結果は写真判定。観客からはどっと歓声が上がりオレは掲示板を見つめていた
掲示板の一位の場所に出たのはブロワイエの数字。惜しくもエルは負けてしまった。優勝したブロワイエはエルに手を差し伸べエルがその手を取って握手した。ブロワイエの優勝とエルの大健闘、そして2人への賞賛に盛大な拍手が巻き起こった
ホテルに戻りクールダウンも含めたストレッチとマッサージをしている中、朝同様2人の間に言葉はなかった。それが終わると報告も兼ねて日本で応援してくれていたであろうメンバーに電話をするとのことなので一旦部屋を出る
少し時間をおいてから再びエルの部屋の前に立つとまだ電話中でその声は震え泣いているように聞こえた。電話が終わってドアをノックしてから部屋に入るとエルは涙を流していた
「センセー…」
「…」
ズボンを握りしめ悔しさを露わにしているエルはオレを見てさらに涙を流した
「エル…」
「ワタシ…頑張りマシタ…」
「あぁ…」
「途中まで…一位だったんデス…」
「あぁ…」
「もう少し…だったんデス…」
「観てたよ…」
エルはベッドから離れオレに抱きついてきた。それを受け止め頭を撫でる。少し勢いが強くて衝撃が痛かったのは秘密…
3分後…
「エヘヘ〜」
さっきまで泣いていたのが一変、だらしのない顔でスリスリしてくるエル
「センセーの匂いデ〜ス」
「あんま嗅ぐなよ」
「エヘヘ〜。いやデ〜ス」
まったくこの子は。前にスズカとレースした後もだったけど、なんでこんなにも切り替えが早いのか。いいことではあるんだろうけど…
「ほら、明日の夜には日本に帰るんだから用意しときな」
「そうデシタ!早く用意して明日は1日センセーとデートデス!」
「はいはい…街見るくらい付き合ってやるから」
「ムゥ〜…」
なにが気に入らなかったのかむくれるエルを引き離して自分の部屋に戻った
次の日はちゃんとエルの観光に付き合って学園のみんなへのお土産を買った。もちろんオレのポケットマネーで…
「到着デ〜ス!」
「やっぱ遠かったな〜」
「センセー!早く学園に帰りまショウ!」
「わかったからそう急かさないでくれ」
スーツケースが2個に大量のお土産。しかも早く早くと急かすエル。なら少し持ってくれ
空港を出ると既に学園の方からマイクロバスが到着していた。運転手の方も荷物を乗せるのに手伝ってくれた。エルは飛行機の中であんなに寝ていたのにも関わらずバスの中でも眠りについていた。オレはスマホでこれまでのレースの結果を見ていた
学園に到着すると、そこには「チームリギル」のトレーナーさんとメンバー全員が出迎えてくれていた
「エル!お帰りなさい!」
「あとちょっとのレースだったね」
「確かに惜しかったですけど2着は2着。次は1着取れるよう早速トレーニングデス!」
軽めの挨拶を終えてエルはグラウンドで見つけた「チームスピカ」の元へ行ってしまった
「君もご苦労だったな」
「いえ」
「せんせ〜」
「おっと」
リギルのトレーナーさんと話している中にスキーが飛び入り参加してきた
「どうした?」
「どうした?って、何日間か先生に会えてなかったのよ?先生成分がもうすっからかんよ〜」
「その先生成分ってのはなんなんだ…?」
「私にとって1番のやる気の源に決まってるでしょ〜」
「決まってるのか」
「マルゼンスキーさんだけズルいです!」
「そうだぞマルゼンスキー。それに先生は長旅で疲れているだろ」
「あらなに〜?グラスも会長もヤキモチ〜?なら2人も私みたいに先生に抱きつけばいいだけのことでしょ〜?」
「そそそ、そんなことこんな公の場でできるわけないだろ!」
「公の場じゃなければするってことね。会長も意外に大胆なのね」
「揚げ足をとるなあー!」
「きゃ〜」
スキーがルドルフをからかって怒ったルドルフがスキーを追いかけてグラウンドへ下りてしまった。するとグラスがゆっくりとオレに近づいてなにも言わずにオレの手を取って自分の頭に乗せた
「先生…」
「はいはい」
「ふふっ♡」
「あれ、止めに行かなくていいのか?」
「そうですね、行ってきます」
あれというのはスピカのスペシャルウィークさんと話すエルのことだ。明らかにスペシャルウィークさんのテンションが下がっている。おそらくエルが余計なことを言ってしまったんだろう。無意識なのがタチが悪いけどな。それを止めるべくグラスを出動させる
「センセー!お帰りなサーイ!」
「マルゼンスキーではないがやはり先生がいないとレース前に身が引き締まらないんだ」
グラスが離れていくとシャルとブライアンが近づいてきた
「君は相変わらずだな」
「よしてください」
その光景にリギルのトレーナーさんからからかわれてしまった