ウマ娘 プリティーダービー 〜レース前には欠かせない存在〜 作:てこの原理こそ最強
スズカの復帰レースを喜んだのも束の間、秋の天皇賞の開催ががすぐそこまでやってきていた。今回再起を目指すスペシャルウィークさんや北海道の札幌レースを制覇したセイウンスカイさんなどが参加する予定であり、オレも調整に念を入れた。もう絶対にスズカのような悲劇が起きないように手に力を入れる
そして秋の天皇賞当日。スピカのメンバーはスペシャルウィークさんの応援に会場に行っているのだが、スズカは学園に残り自主練習を行なっている。オレはそれを丘の上で見守りながら携帯で天皇賞の行く末を見させてもらうことにした
『盾の栄誉をかけて秋の天皇賞、今スタートしました』
天皇賞のスタートと同時に時計をチラッと見たスズカもスピードを上げた
『スペシャルウィークは後方から。どこで仕掛けるのか』
『4コーナーを回った。今だ後方、大丈夫なのかスペシャルウィーク!勝負は最後の坂へ!一気に上がってくる!』
そしてスペシャルウィークさんがここで追い上げてきた
『負けじとセイウンスカイ追い上げる!ここから巻き返すことができるか!しかしスペシャルウィーク上がっていく!』
半バ身ほど前を行くスペシャルウィークさんに離されまいとついていくセイウンスカイさん。前を行くキングヘイローさん、そしてトップ集団との距離をじわりじわりと詰めていった。そして...
『スペシャルウィーク!堂々の一着!』
『スペシャルウィーク!新たなレコードを樹立!次のジャパンカップにも大きな期待がかかります!』
「スペシャルウィークさん、勝ったみたいだぞスズカ」
「そのようですね」
走り終えたスズカはオレの隣に腰を下ろした
「あんま驚かないんだな」
「信じてましたから」
「そうか」
仲間でありライバルでもある。そんな関係が出来上がってるのかな、この二人には
「そういえば人気者みたいだなスズカ」
「?」
「学園内スズカのことで持ちきりじゃないか」
「そうですね」
「なんだ?嬉しくないのか?」
「そんなことないです。でもちょっと恥ずかしくて」
「羨ましい悩みじゃないか」
「む、先生にだけは言われたくないです」
「どういうことだ?」
「人気、という点では先生の方がそうじゃないんですか?」
「そんなことあるわけないじゃないか」
「はぁ...先生の無自覚さはもう罪を越して大罪ですね」
「おっと無期懲役ってか?」
「そうですね。いっそ厩舎にでも監禁しましょうか」
「おいおい冗談はよしてくれ」
「ふふっ」
まったく冗談きついぜ
「足の具合はどうだ?」
「はい、もう大丈夫です。違和感はもちろん気持ちでも」
「そうか」
「先生のおかげです」
「今回に関してはオレじゃなくてスズカのトレーナーの方だろ?」
「確かにトレーナーさんのおかげで吹っ切れたのは事実です。ですが根本は先生って思ってます」
「そうか。んじゃそれは復帰レースの結果で見せてくれよ」
「っ!はい!」
「そうは言っても気合入れすぎないようにな。トレーニングに身を入れすぎてアフターケアを忘れないように。あと食事と体調管理な」
「わかってます。トレセン学園に来てから何度も先生から言われてきてるんですから」
「そうだったか?」
「そうです」
スズカは一度おれに笑顔を向けこちら側に体を預けようとしてきたのでオレは立ち上がるとスズカはそのままポテっと地面に倒れた。オレはしてやったりとした顔を見せるとスズカはプクッと頬を膨らませこちらを見上げた
スズカの復帰レース。オレはいつも通り学園で観戦しようと思っていたところ、とある人に呼ばれて会場に足を運んだ。事前に話が通っていたのか関係者専用の札を係員から渡され奥への部屋に通された
「やぁ、久しぶり」
「お久しぶりです。今日はまたどうして」
「サイレンススズカの復帰戦。せっかくなら君と観戦したくてね」
「そうですか」
オレはその男性と再会の握手を交わし隣同士の席に座った
「レースが始まる前に彼女の一ファンとして感謝するよ。あの娘を助けてくれて本当にありがとう」
「よしてください。自分がもっとしっかりしていればスズカをあんな目に遭わすこともなかったんですから」
「それでも起こってしまうことはあるさ。君はそんな絶望に追いやられたサイレンススズカをレースに戻って来させてくれた」
「自分の力ではないです。頑張ったスズカとトレーナー、それとチームや他の友達のおかげかと」
「君の過小評価は相変わらずのようだね。ま、君の言った中に君自身も入ると思っている人がいるって思ってくれればいいさ」
「はい」
「僕も去年のあの日はショックでやけ酒してね、人生で初めて潰れたよ」
「あなたのような方でもそんなときがあるんですね」
「僕だって人さ。お、彼女が出てきたみたいだな」
レース場の出入り口に目をやるとスズカがものすごい歓声で出迎えられていた
「みんな彼女を待ち望んでいたからね」
「はい。自分もその一人です」
「僕だってそうさ。彼女は君がここにいることは知っているのかい?」
「いえ、急遽のお呼ばれでしたので自分がここにいることは誰も知らないはずです」
「そうか。最後に何か声はかけたのかな?」
「まぁ三つだけ」
「ほぉ。ちなみになんと伝えたんだい?」
「“スズカはもう大丈夫”“君を待っていた人達が大勢いる”“レースを楽しんでこい”とだけ」
「君らしいね。それは彼女にとって何よりの言葉だったんじゃないのかな」
「だといいですね」
『あの日の沈黙を破りサイレンススズカが今ゲートに入ります』
一年ぶりのレース。一着を願うもの、怪我を心配する者、無事に走り切って欲しいと願う者。いろんな思いが蔓延る中オレも背筋を正してレースを見守る
『本日のメインレース今スタートしました。あとサイレンススズカ出遅れた!最後方からのスタート。サンバイザーはいい位置と言えます』
「彼女は、最近調子がいいと言われている」
「そのようです」
『サンバイザーいい走りだ。今回二番人気だが実力は本物。サイレンススズカ最後方で苦しそうだ。やはりあの怪我は大きかったか抜け出せません』
『サイレンススズカこれはいつもとは違う展開。ここまで後方だと苦しいですね』
「どう見ますか?」
「うーん単に調子が出ていないのか様子を見ているのか。まだわからないね」
『サイレンススズカ尚も最後方。苦しい、苦しい走りです』
もうダメか...やっぱり怪我が...ここまでのレース展開にそう思ってる人も少なくないかもしれない。でもオレは
「そろそろかな」
「え?」
『このすごい声援の中サイレンススズカが追い上げてきた。眠れるサイレンススズカが目を覚ました!一つ、また一つと順位を上げていくサイレンススズカ!』
『走ってスズカ!』
最後のコーナーを曲がったところでスズカのスピードが急加速。どんどんと追い抜き更には先頭のサンバイザーに迫った
『何ということでしょう!あのサイレンススズカが全ての選手を抜き去りトップに立ちました!信じられません!さらに加速しました!サイレンススズカトップを独走!』
戻ってきた。いやさらに力をつけたサイレンススズカが帰ってきた
『一着はサイレンススズカ!奇跡の大復活を遂げましたサイレンススズカ!終わってみれば圧倒的な勝利でした。タイレコードで完全勝利!』
『走りもそうですが精神面の強さに驚きました。本当に素晴らしい復活劇です!』
アナウンサー実況を含め会場の全員がスズカの勝利を祝福
「おかえり」
「君はわかっていたのかな?」
「そんなことありません。ただ練習よりもペースが遅かったなって思っただけです」
「そうか。よく見てるんだね」
「それが自分の仕事ですから」
「兎にも角にもサイレンススズカの復活。こんなに嬉しいことはない」
「そうですね。自分もそう思います」
「君...」
オレはもう今どんな顔をしてるかわからん
「今日は来てくれてありがとう。今度は今日のことを祝して一杯やりたいものだね」
「ぜひ。こちらこそ呼んでいただいてありがとうございました。豊さん」