ウマ娘 プリティーダービー 〜レース前には欠かせない存在〜 作:てこの原理こそ最強
「チームスピカ」に入ったスペシャルウィークさんのデビュー戦は見事1位で終わったらしい。なんでもあのパワー自慢のクイーンベレーさんの体当たりを躱してゴールしたとか。それに教えてもらってもいないのにラストスパートのかけ方が完璧だったとか。それはそれは嬉しそうに話してきた。トレーナーが…
それからもスペシャルウィークさんだけではなく「チームスピカ」の全員がそれぞれの試合で勝利を掴んでいった。もちろん試合前の最後の調整はさせてもらっていた。とても喜ばしいことなのだが…
「でもこれは…」
オレは新聞の記事を読みながら頭を抱えていた。そこにはスズカ以外とてつもない醜態を晒しているスピカの4人がはっきりと載っていた
「あの人はウィニングライブの方もちゃんと教えていたのだろうか…いや、ないな」
まぁ転校してきていきなりデビュー戦だし。ウィニングライブの方に手が回らなかったのもムリはないか。でもルドルフは怒ってんだろうな…はぁっとため息をはいて机の上から2番目の引き出しを開けて大量にある棒付き飴を1つ取り出して封を開けて口に入れる
「さて、次は皐月賞…の前に弥生賞か」
「先生」
新聞を閉じて声がした方を向くとそこには“ナリタブライアン”さんが立っていた
“ナリタブライアン”。一匹オオカミなウマ娘。硬派で頑固。我慢強いところもあり、どんなことがあっても感情を表に出すことはない。めったに笑わないため、周囲からは近寄りがたいと恐れられている…と言われてはいるがオレはそう思っていないのだ。オレの前では普通に笑ってるし結構可愛いところもある普通のウマ娘だ
「どうされましたか?ナリタブライアンさん」
「いや、特に用があったわけじゃないんだ。ただ通りかかったときに皐月賞の言葉が耳に入ったのとその声が先生のものだったから寄ったまでだよ」
「そうですか。やはり”三冠ウマ娘“として気になりますか?」
「気にならないと言えば嘘になるよ。私だってまだまだ未熟者だが、次は誰が三冠を手にするのかワクワクはしているさ」
ほら、笑ってる。確かに感情を出すのが上手い方ではないがそれは初対面のときで、言うなればシャイっ娘なのだ。仲良くなれば普通に接することができる
「先生、私も1つもらってもいいかな」
「ん?」
「それ」
ナリタブライアンさんはオレの口元を指差す
「おっと、これは軽率でした。口止め料としてどうぞ」
「ふっ、なら口止めされるとするかな」
開けた引き出しから1つ取って同じように口に入れるナリタブライアンさん
「こうしているとあのころを思い出すな」
「えぇ。あれは君がまだデビュー寸前のころでしたね」
「あぁ。あのとき緊張を紛らわしてむやみやたらに走り続けていた私に今のように飴をくれたな」
「それからですかね。君が何かを咥えるのがクセになったのは」
「先生のせいと言ってもいいだろうな」
「そいつは手厳しい」
「ふっ。だがそのおかげで私は光栄にも三冠ウマ娘という称号を手にすることができた。感謝してもしきれない」
「いつも言ってます。自分がしたことは君の中の1%にも満たないと」
「しかしその1%がなければ私の99%は生まれなかった」
「…頑固ですね」
「このことに関しては譲る気はないさ。いくら尊敬する先生でも」
「なら、これからも君の活躍に期待しますね」
「あぁ、期待してくれ」
頑固なところは噂通りだ。しかしそれが彼女のいいところでもある。そんなことを去って行く彼女の背中を見ながら考えていた
「盗み聞きとはイヤな趣味をお持ちですね、“ビワハヤヒデ”さん?」
「ヒドいな、先生。たまたまだ」
ドアとは反対方向、少し隙間の空いていた窓の外で下から姿を現したのは“ビワハヤヒデ”さん。葦毛の銀髪がとても美しい。レースを分析し、論理と計算により勝利を導き出す。とても理性的で堅物と思われがちだが、本人は少し軟化したいと思っているためよく相談を受けている。ナリタブライアンさんのお姉さんでもある
「妹が世話になってるな」
「どうしたんですか急に。妹さんと全然接せられなくて寂しいんですか?」
「なっ!そんなことはないぞ!」
あらら、堅物と思われてる人があんなに身を乗り出すほど慌てて。さては図星だな?
「んんっ!そんなことよりも今日は先生にお願いをしに来たんだ」
「おや、何でしょう。言っときますけどあまり過激なのはムリですからね」
「わかっている。これをお願いしたいんだが、いいか?」
そう言って彼女が取り出しのはクシだった
「この時間にですか?」
「不覚ながら今日は少し寝坊してしまってな。髪を整える時間がなかったのだ」
ここでオレは思った。ビワハヤヒデさんは癖っ毛がすごい。正直いつも通りの髪と寝癖がついたのとの違いがわからん、なんて言えない…
「わかりました。こちらに座ってください」
「すまないな」
「いいえ。これでもよくやらされるので自信はあるんですよ」
「ほぉ〜。なら期待しようじゃないか」
「それはさっきの自分のマネですか?」
「どうだかね」
さっきナリタブライアンさんに言った言葉に似たことを今度は言われる方になってしまった
「まずは手櫛からやりますね」
「あぁ、頼む」
まずは彼女のキレイな髪に手を絡ませていく。彼女ほどの癖っ毛でいきなりクシでやると絡まりやすくなる。なので初めに手櫛でほぐす魂胆だ
「んっ…んんっ!」
「癖っ毛もそうですけど量も多いですね。暑くないですか?」
「んっ…別に、んぁっ…大丈夫、だ…んぐっ…」
「さて、そろそろクシ使っていきますね」
「あ、あぁ…」
ある程度ほぐれてきたのでクシも使って整えていく
「くっ…んぁっ!」
「はい、終わりました。って、大丈夫ですか?」
「はぁ…はぁ…先生、本当に…はぁ…上手いのだな…」
ただ髪を梳いただけなのにビワハヤヒデさんは頰を赤くしてぐったりとしてしまっている
「立てますか?」
「す、少し待ってほしい…」
それからビワハヤヒデさんが立ち上がれたのはチャイムがなる3分前だった