『第一体育館で乱闘が発生。手の空いている風紀委員は至急お願いします』
「1年司波です。了解しました」
「1年島波です。了解しました」
音声ユニットから聞こえた真由美の声に、達也と海道は別々の場所にいながら同時に返答した。今日からの7日間は新入生を各クラブがこぞって奪い合う。故に風紀委員にとって最初の大仕事となっている。
毎年大なり小なりの事件が絶え間なく頻繁に発生するため、普段だらけきっている風紀委員も今週だけはまともに活動する。これは第一高校特有の事情ではなく、武を第一に掲げる第三高校では厄介な出来事がある。
「そいつをよこせ!」「そいつは俺たちが先に目を付けたんだ!」「愚民共が俺の言うことを聞け!」
などなど。少々精神年齢が低いのは否めない発言が校内のあちらこちらから聞こえてくるのだが、教師は見て見ぬ振りをしている。
曰く「年頃なのだからはっちゃけさせたほうが互いの刺激になる」。曰く「生徒の事情に介入するべきではない」。
あんたたちはそれでも魔法師で教師かと言いたくなるが、その気持ちは、東京から470km近く離れた金沢まで届くはずもない。
閑話休題
2人がクラブ勧誘の巡回を命じられたのは、今から遡って2時間前のことである。
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「今年もあの馬鹿騒ぎの1週間がやってきた。この中には去年事態を収拾しようとして余計に悪化させた奴がいたが、今年は出ないことを期待する」
放課後、風紀委員会本部で行われている巡回前のミーティングで、摩莉が風紀委員全員に対して熱弁を振るっている。達也も海道も上級生ばかりの本部で萎縮せず毅然としていた。というより2人が醸し出す真面目さの空気が、少しばかりだらけている空気を飲み込んでいた。
「今年は幸い卒業分の補充が間に合った。紹介しよう。2人とも立て」
摩莉の言葉に達也と海道は、椅子の音を立てず静かにその場で立つ。
「1-A 島波海道と1-E 司波達也だ」
「…使えるんですか?」
「心配するな。島波の魔法力は教師及び1年一科生からのお墨付きがある。それに司波の腕前は会長からの推薦だぞ。それでも文句があるならお前が世話するか?」
「…遠慮します」
摩莉の高圧的な言葉に文句を言った2年生の風紀委員は、面倒くさそうに話を強制終了させた。
「異論は無いな?司波と島波は残ってくれ。では、出動!」
達也と海道以外が右拳を握り、左胸叩いて本部を後にする。残った2人は説明を受けるのだと理解していた。
「まずはこれを渡しておく。カメラが出るように左胸ポケットに入れといてくれ。差し込むだけでカメラが出るように作られている。あとこれをもだ。これが風紀委員の証であるから、左腕でも右腕でも構わないので見える場所に巻いてほしい」
摩莉はレコーダーと腕章を2人に手渡しつつ説明を続ける。
「レコーダーの録画スイッチは右側面にあるが、撮影をそこまで気にすることはない。風紀委員の目撃証言は原則的に証拠としてそのまま採用されるからな。それから最後にCADのについてだ。風紀委員はCADの学内携行が特別に許可されている。使用についても一々誰かの許可を仰ぐ必要も無い。だが不正使用が判明した場合、委員会除名の上に一般生徒より厳重な罰が下される」
確かに委員が好き放題に使ってしまったら、校内が魔法バトルロイヤルになりかねないだろう。より厳しく罰せられるのは当たり前である。出動した委員が魔法を好き放題にぶっ放すことはないと信じているので、今は頭の片隅に置いておこう。
「質問があります」
「許可する」
「CADは委員会の備品を使用してもよろしいですか?」
「構わないがあれは旧式だぞ?」
「旧式ではありますがエキスパート使用の高級品ですよ。使いにくいと敬遠されていますが、使いこなせれば今のCADとなんら変わりなく使用できます」
「それなら別に構わない。好きに使ってくれ」
「では俺も」
海道が達也と同じようにCADを巻くことに、摩莉は少しばかり以外だと片眉だけを上げていた。
「君はそれを使いこなせるのか?達也君はCADの調整をしているから簡単に使いこなせるかもしれんが」
「一度使えば慣れますよ。それに俺の評価が高いのは、学校の評価に則った結果です。外に出れば俺の評価など半人前がいいところですから」
海道は魔法を使うのがそれほど得意ではない。【固有魔法】はいつでも自由にタイムラグ無しで使えるのだが、CADを使った普通の魔法はいまいちなのだ。
海道は一科生の中でも学年トップ10に入る猛者だが、それはあくまで国から定められた評価基準に沿った結果だ。実戦における基準に照らせば、良くて二流、悪く言えば三流である。だが【固有魔法】あるいは「本来の姿」の海道であれば、達也と同等かそれ以上の戦果を挙げるだけの実力を有している。儚げで悲しげな笑みを浮かべる海道に摩莉はマズイと思ったようだ。
「すまない悪気はなかったんだ」
「構いませんよ。委員長が俺を傷つけるつもりで言ったのではないとわかっていますから」
「そう言ってくれると助かる。じゃあ巡回を頼んだ」
「「はい」」
2人は返事をした後、本部を出て巡回を始めることにした。
「海道、聞きたいことがあるんだがいいか?」
「どうした達也?」
本部のドアを閉めて達也と別れようとしたが、達也に引き留められた。
「お前は魔法が苦手なのか?」
「【固有魔法】以外はあまり得意じゃない」
「俺より使えるのに苦手とはいい気なもんだ」
「事実なんだから仕方ないだろ?」
達也の言葉には棘が生えておらず、むしろ優しげで心が温かった。
「お前の【固有魔法】。それは森崎に二度使ったやつか?」
「ご名答と言いたいけど、あれは身体的な能力が大半だよ」
「あれだけの動きを体術で済ませたと?」
「…まあ過去にいろいろあってね」
歯切れの悪い答えに、達也はこれ以上踏み込むべきではないと思い聞き出すのをやめた。もしかしたら踏み込んだ際に友人としての関係が終わってしまうのではないかと危惧したのかもしれない。
「これ以上は聞かない。聞いても悲しいだけだろうからな」
「そういうことにしてくれたら助かるよ。じゃあ俺は行くから頑張れよ。魔法ぶつけられないようにな」
軽く言いながら反対方向に歩いて行く海道を見送り、達也も巡回に向かった。
「魔法をぶつけられるね。それだけは余計だよ」
苦笑しながらも達也の心は少しばかり浮ついていた。
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俺は第一体育館に行た向かうために構内の道を使わず最短距離で森の間を縫っていたのだが、走っていると魔法が自分に向けられていることに気付いた。正確には俺ではなく俺の足元の地面なのだが、狙われていることは事実なので文句は勘弁してほしい。
木々の隙間から魔法を放とうとした人物に向かって《
魔法発動を阻害された生徒は、普通ではありえない速度で逃走を開始した。同じように《自己加速術式》を使えば捕まえられただろうが、その人物からの視線には明確な嫉妬や殺意が含まれていた。追えば刺激することになりかねないと判断する。
想子を使ったので想子観測機には計測されているが、向こうの魔法も検知されている。元々風紀委員の目撃証言は原則的に証拠として認められるということなので、そこまで気にする必要はない。犯人の手がかりになるものがないか探してみると、その人物が立っていた辺りの地面に、青と赤で縁取られた破片が落ちているのに気づいた。
「どっかで見たことあるんだけどな。なんだろうこれ」
拾い上げながら見ていたが、会長のお願いがあったことを思い出す。その破片をレコーダーの入っている左胸ポケットに入れてから第一体育館に向かった。
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思いがけない襲撃によって到着が遅れたので、俺が着いた頃には事態が解決していた。何故か連行されて行く達也を見て不思議に思い、目立つ赤毛の友人に声をかけることにした。
「エリカ、一体何があったんだ?」
「あ、海道君もお疲れ様。簡単に事情説明すると演舞をしてた剣道部の生徒に喧嘩をふっかけた剣術部の生徒が、魔法を使って達也君を攻撃したけど、返り討ちにされたってこと」
「その割には疲労困憊の先輩方がいるんだけど?」
俺とエリカの前の床には息を荒げて、酸素を補給する群青色の揃いの道着を着た先輩方が倒れている。普通ではありえない光景に疑問を感じた。
「これも達也君のせい?おかげ?まあ、つまりはそういうこと」
「まったく理解できないんだが?...もしかしてエリカってお調子者?」
「お調子者?ひどーい!」という文句を無視して倒れている先輩方を観察する。倒れ方はそれほど問題ではなく、倒れている場所つまり配置に意識を置く。
演舞していたと思われる場所で、剣術部の先輩方は円を描くように倒れこんでいる。つまり真ん中で達也は倒れこんでいる剣術部の生徒全員から攻撃を受けたが、すべてを捌ききったことになる。
二科生である達也にそんな技量があるのかと疑問に思うが、魔法を使わずに捌く方法は他にもあるのでそれを気にする必要はない。むしろ何故剣術部が演舞中の剣道部に喧嘩をふっかけたのかが問題だ。スケジュールを見れば剣術部の演舞まではまだ1時間以上もある。時間を間違えたとは考えにくい。ならば理由は何か。恨み?妬み?それとも早く演舞をしたかったからだろうか。
どれも現実味がないのでこれ以外の理由があると思われる。
「達也は証言を取るために連行されたのか。それじゃあこれを見せられないな」
「海道君、それは何?」
左胸ポケットから取り出した青と赤の線で縁取られた破片を取り出しながら呟くと、エリカが興味深そうに覗き込んできた。
「ここに来るまでに襲撃を受けてな。怪我はないから別にいいんだが、襲撃者の立っていた場所にこれが落ちていた」
「絵の具で色をつけたわけじゃなさそうだね。それになんか柔らかいし」
エリカの言う通り、この破片は指で曲げられるほど柔らかい素材でできている。匂いを嗅いでもゴムのような匂いしかしないので嗅覚・視覚・触覚では判断できない。だからといって成分分析をしなければならないほど重要とは思えないので懸念は後回しだ。
「いろいろ聞いて悪かったな。また後でお礼はするから見学楽しんでいてくれ」
「了解〜。海渡君も仕事頑張ってね〜」
少しばかり軽い応援に微笑みながらも、手を振って巡回に戻った。
少し短いですが1巻の終わりと文字数がちょうど良かったのでここで切りました。
今回は海道の魔法について少しだけ説明させて頂きました。もしかしたら海道の魔法について感づいていたり予測できていたりするでしょうがご内密にお願いします。