CADを向ける相手の両目は
『達也、俺はどこで道を間違えた?どうすればこうならずに済んだと思う?』
そう問いかけてくるのはかつて同じ夢を持った友人だ。何故このようなことになったのだろうか。どこで己の道を外したのか。遠い記憶にあるようなそんな重い現実。
『達也、ありがとう』
そう言った友人に知らず知らずの間に
《
『〇〇、俺を、俺を許してくれ…ああああぁぁぁぁぁぁ!』
想い人が消え去り、絶望して崩れ落ちる少女たちの前で達也は信じられないほど大きな声を出しながら
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翌日の校内では有志同盟のメンバーが校内を走り回っていた。海道はそれを同じクラスの深雪・ほのか・雫と一緒に、教室のドアから外を覗き込んで見ていた。
「何故こんなに慌てているんでしょうか?」
「予想外のことでも起こったんだと思うよ」
「海道さん、それはどのような根拠があって仰られているのですか?」
深雪は達也が昨夜、再従姉弟とともに【ブランシュ】が拠点としていた廃工場を首謀者の司一を残して
海道が何故そんなことを口にしたのかを聞きたくなったのだ。自分達・八雲・四葉一族・一部の関係者しか知らない出来事に、気付いているのかもしれないという危惧もあったのかもしれない。
「彼等の表情から読み取っただけだよ。あそこまで蒼白で挙動不審になっているのは、頼るべき存在がなくなってどう行動すれば良いのかわからなくなっている者のそれだ。自分達では何も出来ないということを如実に示しているのと同じだけどね」
「表情だけでそこまでわかるとは思えない」
「ま、俺の予想だから証拠たるものは何一つ無いよ」
「それでも凄いです海道さんは!」
雫の批評に負けずとばかりにほのかも体を乗り出して、ここが教室だと言うことを忘れて叫ぶ。
「ただ。ただ一つ言えるのは、彼等が有志同盟として活動しても何も得られないということだよ」
ドアのレールにもたれながら海道が呟いた言葉の重みを質問した深雪、辛口な評価を下した雫、テンションが高めなほのかの耳に、吸い込まれるかのように入り込んだ。
4人は慌ただしく走り回っている有志同盟のメンバーらを、厳しい表情をしながら見ていた。
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放課後に行われた公開討論会は真由美の独壇場となり、有志メンバーはその堂々とした立ち振る舞いに心打たれて、自身の敗北を受け入れた。
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7月中旬、国立魔法大学付属第一高校は学生と名のつく少年少女にとって避けられない敵である定期試験を、2週間前に終えたことで少々浮かれていた。
といっても浮かれていられるのは僅かな時間しか無い。何故なら夏の長期休暇の間に行われる全国魔法科高校親善魔法競技大会通称〈九校戦〉の準備があるからだ。
そのせいか今回の試験で成績上位者になった生徒たちは、選出されることを待ち望んでいるため、少しばかり不安が倍増している。まあ、そんな感情とはほど遠い人物も一部いるが…。
「みなさんイライラされてますね」
「そろそろ〈九校戦〉出場者が公表されるから不安なんだろうさ」
「海道さんは気にならないんですか?」
海道の席に集まっているのは、深雪・雫・ほのかのいつも通りのメンバーである。美少女に囲まれてもいつも通りの状態でいられることが不思議だ。そんな不思議海道があまり気乗りしていない様子だったので、ほのかがドキドキワクワクした瞳を向けながら問いかける。
「出ようが出まいがどっちでもいいよ。選ばれたら選ばれたらで全力で競技に挑むだけさ」
「1年一学期定期試験でトップ10に入った海道さんが選ばれないとは思わない」
「上位だからって必ず選ばれるわけじゃないのよ雫。魔法特性とか得意魔法とかで出場種目は変わるもの」
深雪が〈九校戦〉に詳しいのは生徒会に所属しているからだ。1年生の出場選手の選出は深雪と達也に一任されているため、誰がどのような種目に出場するのかを把握している。だがここでそんなことを言う必要は無い。何故ならあと一時間もすれば、掲示板に全出場者が張り出されるからだ。
「深雪がそう言うならそうなのかもしれないね」
「緊張するね」
「「今から緊張してたら本番まで保たないぞ(わ)」」
海道と深雪の言葉にほのかも不安がとれたのか。先程より明るくなって会話が弾む。
「今年勝てば三連覇なんですよね?」
「『今年勝って初めて本当の勝利だ』って口癖のように委員長が仰っていたよ」
海道がその話を知っているのは、真由美と鈴音に昼食時に生徒会まで来るようにと言われているからである。呼ばれるのは週に2回程度だが、最近は準備があるためほぼ毎日連行されている。
「そのためにも万全の状態で挑まないとダメだろうね。今回は苦戦する予定だから」
「何故ですか?」
「エンジニアが不足しているのよ。3年生は実技方面に人材が偏っているからバランスがね」
「じゃあ、達也さんはどうですか?」
「達也は決定しているよ。でもそれを言っても時既に遅しだ。とはいえ達也のおかげで最低限度のエンジニアが揃ったから、なんとか今日の発表日に間に合ったんだ」
簡単に海道は話しているが、決定するまでにはかなりの混乱を極めた。「二科生には相応しく無いだの」「信用なら無いだの」くだらない理由で参戦を断っていた上級生がいた。まあ、達也はその期待を良い意味で裏切って参戦を勝ち取った。本人の意思はマイナスだが…。
「1時間後の発表と明日の発足会まで気長に待とうよ」
海道の言葉がきっかけになったのか生徒たちは落ち着きを取り戻し、実技の授業を受けるために移動を開始した。
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いよいよ〈九校戦〉会場に向かう日がやってきた。一高は開会式の前々日に会場入りすることになっている。前日は設備点検と懇親会があるので、到着日の数時間程度しか体をコースに慣らすことは出来ない。
何故一高がぎりぎりになってから向かうかというと、遠方の高校に使用権が優先されるためで、一高は近いから後という理不尽な理由ではないことを示しておく。
真由美の家の事情で予定より大幅に遅れて一高を出発した。
八王子から会場までは3時間弱の予定であり道中は暇である。高校最初の大型行事ということと友人と泊まりができるということで、生徒たちはテンションが上がっていた。
だからこれから起きる事態に素早く対処できなかった。
「危ない!」
2年生の千代田花音の言葉に全員が驚愕する。
「ふっとべ!」
「止まって!」
「消えろ!」
パニックを起こさなかったのは褒められることだが、今回は事態を余計に悪化させた。どういう原理かはわからないが、対向車がガードレールを越えてこちら側の車道に飛んできた。急ブレーキをかけたバスは止まるが、向こうは横滑りをしているため、速度を緩めず燃えさかってこちらに突っ込んでくる。
それに対して防ごうと魔法を3人が放った。否、放とうとしたが放てなかった。魔法式を消すかのように発生した自分たちより強力な領域干渉がバスを覆う。立ち上がって右手を伸ばした少年が掌から魔法を放った。魔法が大型のオフロードカーをみじん切りにして何もかもを切り裂く。唯一無事なのは運転手だけだ。
「なんだ、今のは…」
「…車が切り刻まれた?」
摩莉と真由美が驚愕しているのを横目に、海道は真っ先にバスを降りていく。
「会長、誰もバスから降ろさないで下さい。それから全員の怪我の状態の確認をお願いします」
「え?あ、うん。任せて」
真由美は言われたように生徒の確認を始めた。海道は歩いて地面にうつぶせで倒れ込んでいる男に近寄る。慣性を消さずにそのまま外に飛び出したのだ。下手をしたら死んでいても可笑しくはないが、どうやら気絶しているだけのようだ。すると不意に僅かだが甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「この匂い…なるほどそういうことか」
「海道、そいつの状態はどうだ?」
独り言を呟いていた海道は、話しかけてきた達也に振り返る。
「頭を少し強く打ったみたいだがおそらく大丈夫だろう。ところで五十里先輩は?」
「交通規制を行ってくれている。それよりさっきの魔法は一体何だ?見たことないが」
「俺の【固有魔法】だよ。詳しくはまたあとで話すから今は置いといてほしい」
「そうだな私情は後回しにすべきだ。どうせこのことについて話さないといけないだろうからな」
放った魔法について話さなければならないのは確定事項だ。でないと生徒たちの不安を取り除くことなどできない。結局、〈九校戦〉会場に到着したのは昼過ぎだった。それほど問題はなかったため、そのことについて文句を言う生徒は1人もいなかった。