「なー、はやてぇー。ここが本当にロンドンなのか?」
ロンドン市内を歩く一行。
パンクロックを思わせる黒いTシャツにチェックのスカートを身につけた赤い紙の少女が隣のはやてと呼ばれた黒髪の少女につぶやく。
飛行機に乗っていた時間があまりに長かった為、ふてくされる赤い髪の少女。少女の周囲には、笑顔を絶やさない金髪の女性、周囲に気を配りながら警戒しているスーツ姿の男性と女性が一人ずつ。
「ちょっとは静かにしてぇな、ヴィータ」
「全くさ、どんだけ飛行機ってのに乗んだよ! あたし達なら【魔法で飛んでった】方が早いのに!!」
「こ、コラ! ヴィータ、やたらと【魔法】とか言わんといて!」
【魔法】という発言をしたのを注意しながら、周囲をキョロキョロと見回したが、幸いにも周りの客には聞こえていなかったようだ。
「…なぁ、ヴィータ。あまりにうるさいようなら、少し黙っててもらうよ?」
はやてはそれまで読んでいた本を閉じ、ヴィータに笑いかけた。
「か、顔が笑ってないよ?おーい、はやてさーん…」
「えぇ? よく聞えんなー。ほら、笑ってるよー」
「……ま、まぁまぁ」
二人でもない声がはやての胸ポケットから、聞こえてきた。
「落ち着いて、はやてちゃん」
「なんや、リイン。私は注意しようとしているだけなんやけど」
ひょっこりと現れたのは、女の子と呼ぶには小さすぎる大きさだった。さながら子供が遊ぶような人形サイズだ。
「まーまー。ヴィータちゃんもココは、家の中じゃないんですから、少しは静かにして下さい」
「うう、わかったよ、リイン。はやて、わりぃ」
「………。わかったんなら、ええよ。なー、シグナムも忠告してぇな」
「主はやて、あまりヴィータを怒らないでやって下さい。ヴィータはヴィータなりに、今日の旅行を楽しみにしていたのですから」
シグナムと呼ばれたスーツ姿の女性が答える。
「まったく。おい、ヴィータ。大方腹をすかせているんだろ?」
忠告をするスーツ姿の男性こと、ザフィーラ。
「だって、この国のご飯、あんまり美味しくないんだろ? はやての和食がまた食べたいよー。はぁ…」
ヴィータは溜息を交えながら、答えるのだった。
過去に発生した【闇の書事件】。その事件の中心人物となった、八神はやて。そして、はやてを守るヴィータ、シグナム、シャマル、ザフィーラ、リインフォースⅡこと、守護騎士【ヴォルケンリッター】。事件は高町なのはを始めとする時空管理局の関係者達、そして守護騎士自身の活躍によって終結した。はやて達は自分たちで犯してしまった罪を償いながら、保護観察という扱いで日常を過ごしていた。
そんなある日、現在の上司でもあるレティ・ロウラン提督から日々の功績を讃えられ、能力の制限はあるものの旅行を許可されたのだった。
「なぁ、みんな。あたしら、今も監視されている身とはいえ、やーっと骨休めできるんやし、楽しくすごせなあかんよ?」
「はい、主はやて」
シグナムはすぐに答える。
「そういえば、レティ提督に貰った旅行のチケットと一緒に入ってたこの写真なんなんやろな? 本だけしか写っとらんけど。パッと見たら“夜天の書”みたいや」
実はこの本がはやて達にとって、今回の英国旅行で危険を及ぼすことになるとはその時、知るよしもなかった。