「ん~っ!ようやく着いたー」
両腕を上げ、大きく伸びをしながら、ヴィータは笑顔になる。
「ここがイギリスでも有名な古書街か~。なぁ、はやて、あっち見に行こーぜ!」
「ちょっと待ってぇな、ヴィータ」
ヴィータに急かされ、はやても早足になる。はやて一行はロンドンから少し離れたこのヘイ・オン・ワイにやってきた。
「シグナム達はここで待っといて」
「わかりました。ヴィータ、主はやての警護任せたぞ」
シグナムやシャマル、ザフィーラの三人は周囲を警戒している。
「わかってるよ!あたしだって、守護騎士だぜ?」
「主はやて。ご自身もどうぞお気をつけて下さい」
シグナムは心配そうにはやてを見つめる。
「あぁ、わかった、わかった。大丈夫や。私かて、もう魔法少女なんやで?」
「そうです、はやてちゃんは私がしっかりと守ります!」
はやての胸ポケットからリインの声がする。
「あぁ、そうだったな。それでは主はやて。また後ほど、お会いしましょう」
「ほなな、また後でなー」
シグナム達と別れ、ヴィータとはやては歩き出した。
「さて、あの画像に添付してあった本、ホンマにここにあるんかな?」
「考えても仕方ねぇだろ、下手したら【ロストロギア】らしいんだからよ」
「困ったもんやね。すぐに見つかるといいんやけど…」
キョロキョロと辺りを見回すはやて。
「んんー、私の勘からしたら、あっちの路地裏に秘密の本屋さんがあったりするんやないかなーとか思うねんけど…」
「試しにのぞいてみようぜ」
路地裏に行こうとした直前に、曲がり角から本を片手に読みふけりながら人が出てきた。
「…っと! ご、ごめんなさい!」
「………………」
「なぁ、あんた聞いてるのか? おーい」
「………………」
「こらヴィータ、初対面の人にあんたなんて言うもんやないの。あれ? あなたは…
よ、読子先生!?」
「はい、読子です! あれ? あなたは、八神はやて、さん?」
流石に本を読む手を止めて、読子は呆れた顔をしていた。
「そうです、はやてです。先生、なんでここにいらっしゃるんですか?」
「はやてさんこそ、どうしてここに?」
「ええっと、どう説明したらええんやろ…」
「そうでしたか、では、こちらに住むおばさんに呼ばれて一家で来られたんですね」
嘘をつく形となったものの、読子にどうしてここにいるかをはやては説明した。
「そ、そうなんです~。この場所に来たついでに探してほしい本があるって言われて、姉や妹たちで探しているとこなんですわ」
「そうそう、なかなか見つからなくてな」
うんうんと頷きながら、ヴィータも同意する。
「ちなみにどんな本を探しているんですか?」
読子は興味津々で質問を投げてきた。
「え、えっとー」
「…なぁ、はやて。せっかくだからこのせんせーにも手伝ってもらおうぜ」
「ヴィータ、それはいくらなんでもダメやろ、私らだけで探さんと怒られるで…」
はやてはウィンクを投げかける。
「そ、そうだな。あたしらだけで探さないとな! ってワケで、読子せんせー、あたしらはここでお別れだ」
「…わかりました。この街は広そうで実は狭いと思いますから、また日本でお会いしましょう」
寂しそうな顔をしながら、読子はカートをガラガラと引いて行ってしまった。
「ふぅ…、危ないなぁもう…」
見送って、安堵する二人。
《どうかしましたか、主はやて》
テレパシーでシグナムが声をかけてきた。
《実は学校の先生と、ばったり出くわしてん》
《なんと。ん? ここはイギリスでは…》
《そうなんよ、偶然鉢合わせ。普段から本だけには目が無い先生やからね、それにしても、まさかおるとは思ってなかったわ》
《以前から、話があった変人先生でしたか。ですが、話を聞いている限りでは、悪い人ではなさそうですが…》
普段の読子は、地味で暗そうな印象だけど、教えてくれる教科はわかりやすいと評判だった。その事を思い出すはやては、自然と顔が笑顔になっていた。
《…そうやな。まぁ、また日本で再会するからええんやけど》
はやてとヴィータは、気になっていた本屋の前に来ると、そこで男女の兄妹が
いがみ合っているのを見つけた。
「じゃから、今度こそ、ここから魔導書の匂いがするって言っておるのに、何度言ってもわからんのか、この大うつけ!」
「あーもう、知らねぇよ! 古本娘! おまえのその匂いってのを頼りにきたはいいが、もうこれで何度目の間違いだよ? 入った先々で店主に怒られるわ、探してるもんじゃない贋作を買わされるわで、もううんざりだ!!」
「お主が金を払うのでは無く、あの小娘のプラチナムカードとやらで支払いをしとるんだろうから、別によいではないか」
「いや、今の手持ちが借りたこのカードしかねぇけど、結局報酬から天引きされんだぞ?」
「「む~~~!!」」
額と額を合わせて、キスでもしそうな距離なのにイーッとにらみ合う二人は痴話ゲンカをしているようにも見えた。
「なんやろね、アレ」
「さぁー」
店先でのやりとりに呆れながらも、はやてとヴィータはそっと二人の横を通過していった。
「だーかーら、これで終わりにすると………ん?」
「どうした、アル?」
少女の顔がはやてとヴィータがいた場所へ振り向いた。
「いやな、魔術師の気配がしたんじゃが…。でも、これは………、うーむ」
アルは、腕を組んで考え込んでいる。
「おい、魔術師って、今誰か通ったのか?」
「はぁ…、お主は、これだから…」
やれやれといったジェスチャーをしながら、アルは大きな溜息をついた。
「変な本は多いけど、なかなかな無いもんやなー」
はやてとヴィータは店内の本を隅々まで調べていた。
「けほけほ。なんや、すごいホコリやね」
「カビくっせー本ばっかだな、この本屋」
「せやねー」
古書店特有の匂いになれない二人は、何百冊もある中から一冊の本を探すのに落胆していた。
「なぁ、はやて、コレじゃないのか?」
ヴィータは適当に近くの棚にあった本を取りだし、はやてに見せつけた。
「ヴィータ。それ、全然ちゃうよ?」
「そうか、あたしにはどれも同じに見えちゃうからなぁ」
「せやろね。ヴィータはいつもマンガばかり読んどるから」
「な、なんだよ! マンガは面白いんだよ! 特に最近は『世界のイジン』って本が面白くて!」
「………あ」
少し怒り気味のヴィータの顔を見ていたはやては、急に顔をあげる。そして、ふらふらと歩き出した。
「どうしたんだ? はやて…」
はやては立ち止まる事無く、店の奥へと進むと、おかしな形のドアの前で止まった。
「みつけた…」
ドアは勝手に開くと、はやてが暗闇へ飲み込まれていった。
「お、おい! はやて、待てよ!!」
ヴィータも駆け足でドアの前に向かう。ドアを開けようとドアノブに手をかけひねると、開かない。ガチャガチャと何度もドアノブをひねっても、鍵がかけられているようだった。
「なんだよ、これ…、悪い冗談はよせよ、はやて~!」
何度もドアを叩くが、はやてから返事がない。明らかにおかしいと思ったヴィータは、少し自分の手に魔力を込め、ドアを無理矢理開けようとした。
そんな時、鍵が外れたような音と共にドアが開き、はやては一冊の本を片手に帰ってきた。
「!!? はやて、その本…」
「そうやー。この本やろ?」
はやてはこちらに顔を向け、受け答えするものの、目はこちらを向いていなかった。
明らかにおかしい。魂が抜けた人形のようだった。まるで、本にガッチリと、とらわれているような印象を受ける。
「な、なぁ、はやて。それ、ヤバイ代物だから、あたしに寄越せよ?」
「なにするんや! ヴィータ、いくらあんたでもコレはダメやで!」
はやてから問題の本を奪おうと手を伸ばすも、がっちりを掴んで話さない。ヴィータはただならぬ不安を感じてきてきた。
「さぁ、せっかくやし、開いてみよか? ………」
はやては呪文を詠唱するようにブツブツと言葉を話し始めたが、目の前にいるヴィータにも聞き取ることができない。
「おい、はやて!」
いよいよ、実力行使をしようとしたその瞬間、本から黒い霧のようなものが一気に吹き出した。瞬きをしたそんな一瞬に、空間をごっそりと変えられたような感覚が襲う。
はやてがいた場所をのぞくと、本から大きな鎖が出ており、はやては絡め取られていた。
「畜生、これじゃ、あの時みてぇじゃねぇか! アイゼン!」
ヴィータは胸にかけていたペンダントに話しかける。
『Jawohl(了解)!!』