Trinitat   作:文月りんと

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イギリス ヘイ・オン・ワイ


4.まさかまさかの顔合わせ

「ん~っ!ようやく着いたー」

両腕を上げ、大きく伸びをしながら、ヴィータは笑顔になる。

「ここがイギリスでも有名な古書街か~。なぁ、はやて、あっち見に行こーぜ!」

「ちょっと待ってぇな、ヴィータ」

ヴィータに急かされ、はやても早足になる。はやて一行はロンドンから少し離れたこのヘイ・オン・ワイにやってきた。

「シグナム達はここで待っといて」

「わかりました。ヴィータ、主はやての警護任せたぞ」

シグナムやシャマル、ザフィーラの三人は周囲を警戒している。

「わかってるよ!あたしだって、守護騎士だぜ?」

「主はやて。ご自身もどうぞお気をつけて下さい」

シグナムは心配そうにはやてを見つめる。

「あぁ、わかった、わかった。大丈夫や。私かて、もう魔法少女なんやで?」

「そうです、はやてちゃんは私がしっかりと守ります!」

はやての胸ポケットからリインの声がする。

「あぁ、そうだったな。それでは主はやて。また後ほど、お会いしましょう」

「ほなな、また後でなー」

シグナム達と別れ、ヴィータとはやては歩き出した。

 

「さて、あの画像に添付してあった本、ホンマにここにあるんかな?」

「考えても仕方ねぇだろ、下手したら【ロストロギア】らしいんだからよ」

「困ったもんやね。すぐに見つかるといいんやけど…」

キョロキョロと辺りを見回すはやて。

「んんー、私の勘からしたら、あっちの路地裏に秘密の本屋さんがあったりするんやないかなーとか思うねんけど…」

「試しにのぞいてみようぜ」

路地裏に行こうとした直前に、曲がり角から本を片手に読みふけりながら人が出てきた。

「…っと! ご、ごめんなさい!」

「………………」

「なぁ、あんた聞いてるのか? おーい」

「………………」

「こらヴィータ、初対面の人にあんたなんて言うもんやないの。あれ? あなたは…

よ、読子先生!?」

「はい、読子です! あれ? あなたは、八神はやて、さん?」

流石に本を読む手を止めて、読子は呆れた顔をしていた。

「そうです、はやてです。先生、なんでここにいらっしゃるんですか?」

「はやてさんこそ、どうしてここに?」

「ええっと、どう説明したらええんやろ…」

「そうでしたか、では、こちらに住むおばさんに呼ばれて一家で来られたんですね」

嘘をつく形となったものの、読子にどうしてここにいるかをはやては説明した。

「そ、そうなんです~。この場所に来たついでに探してほしい本があるって言われて、姉や妹たちで探しているとこなんですわ」

「そうそう、なかなか見つからなくてな」

うんうんと頷きながら、ヴィータも同意する。

「ちなみにどんな本を探しているんですか?」

読子は興味津々で質問を投げてきた。

「え、えっとー」

「…なぁ、はやて。せっかくだからこのせんせーにも手伝ってもらおうぜ」

「ヴィータ、それはいくらなんでもダメやろ、私らだけで探さんと怒られるで…」

はやてはウィンクを投げかける。

「そ、そうだな。あたしらだけで探さないとな! ってワケで、読子せんせー、あたしらはここでお別れだ」

「…わかりました。この街は広そうで実は狭いと思いますから、また日本でお会いしましょう」

 寂しそうな顔をしながら、読子はカートをガラガラと引いて行ってしまった。

「ふぅ…、危ないなぁもう…」

 見送って、安堵する二人。

《どうかしましたか、主はやて》

 テレパシーでシグナムが声をかけてきた。

《実は学校の先生と、ばったり出くわしてん》

《なんと。ん? ここはイギリスでは…》

《そうなんよ、偶然鉢合わせ。普段から本だけには目が無い先生やからね、それにしても、まさかおるとは思ってなかったわ》

《以前から、話があった変人先生でしたか。ですが、話を聞いている限りでは、悪い人ではなさそうですが…》

普段の読子は、地味で暗そうな印象だけど、教えてくれる教科はわかりやすいと評判だった。その事を思い出すはやては、自然と顔が笑顔になっていた。

《…そうやな。まぁ、また日本で再会するからええんやけど》

 

 はやてとヴィータは、気になっていた本屋の前に来ると、そこで男女の兄妹が

いがみ合っているのを見つけた。

「じゃから、今度こそ、ここから魔導書の匂いがするって言っておるのに、何度言ってもわからんのか、この大うつけ!」

「あーもう、知らねぇよ! 古本娘! おまえのその匂いってのを頼りにきたはいいが、もうこれで何度目の間違いだよ? 入った先々で店主に怒られるわ、探してるもんじゃない贋作を買わされるわで、もううんざりだ!!」

「お主が金を払うのでは無く、あの小娘のプラチナムカードとやらで支払いをしとるんだろうから、別によいではないか」

「いや、今の手持ちが借りたこのカードしかねぇけど、結局報酬から天引きされんだぞ?」

「「む~~~!!」」

額と額を合わせて、キスでもしそうな距離なのにイーッとにらみ合う二人は痴話ゲンカをしているようにも見えた。

「なんやろね、アレ」

「さぁー」

店先でのやりとりに呆れながらも、はやてとヴィータはそっと二人の横を通過していった。

「だーかーら、これで終わりにすると………ん?」

「どうした、アル?」

少女の顔がはやてとヴィータがいた場所へ振り向いた。

「いやな、魔術師の気配がしたんじゃが…。でも、これは………、うーむ」

アルは、腕を組んで考え込んでいる。

「おい、魔術師って、今誰か通ったのか?」

「はぁ…、お主は、これだから…」

やれやれといったジェスチャーをしながら、アルは大きな溜息をついた。

「変な本は多いけど、なかなかな無いもんやなー」

 はやてとヴィータは店内の本を隅々まで調べていた。

「けほけほ。なんや、すごいホコリやね」

「カビくっせー本ばっかだな、この本屋」

「せやねー」

古書店特有の匂いになれない二人は、何百冊もある中から一冊の本を探すのに落胆していた。

「なぁ、はやて、コレじゃないのか?」

ヴィータは適当に近くの棚にあった本を取りだし、はやてに見せつけた。

「ヴィータ。それ、全然ちゃうよ?」

「そうか、あたしにはどれも同じに見えちゃうからなぁ」

「せやろね。ヴィータはいつもマンガばかり読んどるから」

「な、なんだよ! マンガは面白いんだよ! 特に最近は『世界のイジン』って本が面白くて!」

「………あ」

 

少し怒り気味のヴィータの顔を見ていたはやては、急に顔をあげる。そして、ふらふらと歩き出した。

「どうしたんだ? はやて…」

はやては立ち止まる事無く、店の奥へと進むと、おかしな形のドアの前で止まった。

「みつけた…」

ドアは勝手に開くと、はやてが暗闇へ飲み込まれていった。

「お、おい! はやて、待てよ!!」

ヴィータも駆け足でドアの前に向かう。ドアを開けようとドアノブに手をかけひねると、開かない。ガチャガチャと何度もドアノブをひねっても、鍵がかけられているようだった。

「なんだよ、これ…、悪い冗談はよせよ、はやて~!」

何度もドアを叩くが、はやてから返事がない。明らかにおかしいと思ったヴィータは、少し自分の手に魔力を込め、ドアを無理矢理開けようとした。

そんな時、鍵が外れたような音と共にドアが開き、はやては一冊の本を片手に帰ってきた。

「!!? はやて、その本…」

「そうやー。この本やろ?」

はやてはこちらに顔を向け、受け答えするものの、目はこちらを向いていなかった。

明らかにおかしい。魂が抜けた人形のようだった。まるで、本にガッチリと、とらわれているような印象を受ける。

「な、なぁ、はやて。それ、ヤバイ代物だから、あたしに寄越せよ?」

「なにするんや! ヴィータ、いくらあんたでもコレはダメやで!」

はやてから問題の本を奪おうと手を伸ばすも、がっちりを掴んで話さない。ヴィータはただならぬ不安を感じてきてきた。

「さぁ、せっかくやし、開いてみよか? ………」

はやては呪文を詠唱するようにブツブツと言葉を話し始めたが、目の前にいるヴィータにも聞き取ることができない。

「おい、はやて!」

いよいよ、実力行使をしようとしたその瞬間、本から黒い霧のようなものが一気に吹き出した。瞬きをしたそんな一瞬に、空間をごっそりと変えられたような感覚が襲う。

はやてがいた場所をのぞくと、本から大きな鎖が出ており、はやては絡め取られていた。

「畜生、これじゃ、あの時みてぇじゃねぇか! アイゼン!」

ヴィータは胸にかけていたペンダントに話しかける。

『Jawohl(了解)!!』

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