兵士よ、安らかに Die Ruckkehr des Soldaten 作:文月りんと
シュトロハイムからの質問に対し、少女は真摯に応えた。それを聞いたシュトロハイムは、最初、泣き叫びもしたが、次第に冷静を保っていった。
『取り乱してしまってすまなかったな…。私が敗れた1943年のスターグリングラード戦線から、もう五十年も経過しているのか』
状況の把握が出来たのか、少女も武器をしまい臨戦態勢を解いていた。
「あなたが起きた直後は、機関銃みたいな質問の応酬にビックリしたけど、
もう慣れちゃった。しかしまぁ、そんな状態でよく喋れるわね?」
『フッ、我がドイツの科学力はぁ!!!
世界いッ、ゴホゴホゴホッ!』
カプセルの中でシュトロハイムがむせ返る。
シュトロハイムの行動に呆れながらも、少女はじっと顔を見ていた。
「…なんだ? 私の顔になにかついているのか?」
『いやね、そういうわけじゃ無いんだけど、本当に良く喋るなと思ってさ。まるであたしと二人きりの時のおじいちゃんみたいだったから』
シュトロハイムの声や顔立ちからして、自分よりも何歳も年上なのがわかった。そして、不思議と憎めないそんな雰囲気もあった。
『…そうか。君の名を聞いてなかったな。よければ教えてくれるか?』
「あたし? あたしはクレア。
………クレア…ダヴィデューク」
クレアは本名だが、あとの名前はいつも使う偽名を名乗った。本当の名前を教えたら、この人との会話が終わってしまう、そんな気がしたからだ。
『クレアか…。私を目覚めさせてくれた礼に、ひとつ昔話をしてもいいか?』
急に真剣な顔つきになった彼の目を、クレアは見逃さなかった。
「いいよ。あたしも昔話って、嫌いじゃないから」
『ありがとう。それでは、私が五体満足だった頃の話を君にしよう…』
◇◇◇
気がつけばもう深夜。
シュトロハイムは軍人として、
ジョセフ・ジョースターを初めとした”波紋使い”の仲間達と共に【柱の男】達と戦った事を話した。
『…すまない。喋りすぎてしまったな』
「いいよ。面白い話ばかりだったし。おかげであなたがその身体になった経緯もわかったからね。ジョースターって人、今はどうしてるんだろうね?」
『アイツならきっと元気でやっているさ。私が言えた義理じゃないが、ヤツもしぶとさでいえば、【柱の男】達には比べ物にならんからな』
「ふーん。信頼してんだね、
そのジョースターさんを。…せっかくだからさ、あたしここに泊まってもいいかな?」
クレアは探究心が勝ると、身なりのことは二の次になってしまうのが悪い癖だった。昔から祖父と生活をしていたのもあり、雑魚寝で寝る事にも慣れてしまっていた。
『構わんがいつ何時、ここを襲ってくる賊が出てくるかわからんぞ? 私も頭部だけになってしまったし、今は紫外線照射装置も装備していないのだからな』
そう彼自身、今どうやって生きていられるのか、理解に苦しんでいた。このカプセルもいつまで保つか、わからない。メンテナンスが行き届いてない中で、五十年という時間を生きてこられたのはやはり自分の信頼するドイツの科学力のおかげだろう。
「へーきへーき。おじいちゃん譲りのスナイピングと、おじいちゃん譲りの格闘術で
悪者は懲らしめますから」
クレアは笑顔でそう答える。
『そうか、ならば許可しよう』
「ありがと。ふわぁぁぁっ、それじゃおやすみ」
一言告げると、クレアはすぐに寝息を立ててしまった。
『…おやすみ、フロイライン。続きはまた明日だ』
そんな少女の様子を見て、シュトロハイムは、なぜか漠然とクレアに対して伝えなければいけないそんな気持ちに駆られていた。
(…こんな状態の俺がなにを伝えられるのだ?)
どうしていいか、わからなかった。でも、少女と話をしている間、気がついてしまった。自分の運命が燃え尽きようとしている事を。
僅かな時間しかない状態で、何を伝えられるのだろうか? 自問自答する中で、すぐには答えが見えなかった。
すやすやとした少女の寝顔を見ながら、彼もまた目蓋を閉じるのだった。