綺麗なまま死ねない【本編完結】   作:シーシャ

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82.私の行く末

 

 

私の逃亡は、現在はパフォーマンスと化しつつある。というのも、以前嵐の夜に飛び出して以来、ドフラミンゴがヴィオラさんに私の監視を命じたからだ。ドフラミンゴの信を得るため、ヴィオラさんは私の行動を報告することに了承せざるを得なかっただろう。もうあと2年ほどでドフラミンゴの統治が終わる。原作でいうドレスローザ編になると分かった時点で、6年間頑張っても逃げられない、もう足掻いても無駄だと諦めつつある。ただ、最後で最大のチャンスとして、頂上戦争でドフラミンゴが留守にするからそのタイミングを狙おうとしている。だというのに。

 

「ルシー、すぐにここから逃げて!」

 

「なして?」

 

ヴィオラさんが私の逃亡グッズを引っ張り出してきて、私に外套を渡してきた。え、なんで?

 

「ドフラミンゴがあなたの婚姻の話を進めているわ!おそらく、次の世界会議にあなたを連れて行くはずよ!」

 

「…まじか」

 

頭が痛い。なるほど、30代半ばになってまだ結婚とか無縁なのかと思いきや、影で着々と婚姻話を進めていたというわけか。世界会議ということは、どこかの国の王族か?確かに政略結婚とかさせられるんだろうなと思ってはいたけれど、まさか海賊との同盟でなく国家間での同盟に利用されるとは思わなかった。そこまでスケールが大きくなるとは…。

 

「どこの国の人なのか分かる?」

 

「……違うわ」

 

「ん?」

 

「国の要人じゃない。……相手は天竜人よ」

 

びし、と体が硬直した。え、天竜人?天竜人ってあの天竜人?マジ?嘘だろ、と見るもヴィオラさんは目を合わせてくれない。滑らかな頬に冷や汗が流れ落ちた。

 

(…なるほど。前回世界会議に出席しないのかって聞いてきたのはそういう意図があってか…!)

 

おそらく、あの時聖地に連れて行かれていたら、その場で品物を評価するように見られて即決されていたのだろう。それでもドフラミンゴのあの言い方からして、私にも選ぶ権利が発生していたに違いない。

 

(普通に考えて、私はもう子どもを産むには年齢的にハイリスク出産にあたる。悠長に選ばせる時間はないと判断したのか)

 

ドフラミンゴが選んだ相手だ、普通の天竜人ではないのだろう。私の知識では全ての天竜人を把握でいていないし、子どもの頃に会った天竜人も全てではない。なにより30年近くも前の話だ、顔つきだって何だって変わっているだろうし、なにより私がはっきりと覚えてない。相手が分かったところで、ドフラミンゴが計画した時点でもう決定事項なんだろう。

 

「私の婚姻について、家族は?」

 

「知らないわ。私も知ったのは彼の頭を覗き見たからだもの。さあ、行って!」

 

「っ…あなたも行こう!」

 

目を見開くヴィオラさんに手を伸ばした。けれど、彼女は微笑んで、ゆるりと首を横に振った。

 

「私にはまだやることがあるわ」

 

「ーー私の婚姻は次の世界会議の時だって言ったよね」

 

「ええ」

 

「ならまだあと2年ある!私たちはお互いが協力者でしょ?」

 

今まで逃げようとしていたのは、私の自己中心的な考えでだ。ヴィオラさんのことを協力者と言いながら、私は私のことしか考えていなかった。そのことを、今、彼女の善意によって暴かれたのだ。自分が恥ずかしい。情けない。いつか必ず救われるからと、今も苦しみ続けている彼女のことを私は見殺しにしていたのだ。

 

(クソッタレ!!!)

 

荷物を床に投げつけた。ガシャン、と貴金属が音を立てて袋からあふれ出した。

 

「ルシー、あなた…!」

 

「行かない!」

 

「い、いつも逃げようとしてばかりなのにどうして!?」

 

「私、この人生で友だちができたことがなかったの」

 

今までずっと、対等な存在のいない人生だった。唯一それに近かったのはロシナンテだけだった。だから、勘違いしてた。自分の価値を、自分の価値観を、他人の存在を。私は全て、軽視していただけだった。

 

「今さら、友だちを置いて逃げるわけにいかないでしょ!」

 

肩を掴んで揺さぶると、ヴィオラさんはぐっと唇を噛み締めて、目を潤ませていた。何かを言い募ろうとして口を開いて、でも何も言わずに弱々しく微笑んだ。

 

「ーーバカね…」

 

伏せた目の端から、ポロポロと涙が落ちていた。

 

「……逃げなさい、ルシー。あなたがいなくても私には何の問題もないわ。逃げて、もう二度とここには戻ってこないで」

 

私の手を払いのけて、彼女は笑った。

 

「私を友だちと言うのなら、お願いだから私の願いを聞いてちょうだい」

 


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