綺麗なまま死ねない【本編完結】   作:シーシャ

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83.別れの挨拶

 

(……きた…)

 

今朝の新聞に挟まっていた懸賞金の紙を見て、生唾を飲んだ。麦わらのルフィ、懸賞金額は1億ベリー。つまり、現在空島付近にいるはずだ。原作で言うところの…おそらくベラミーがやられた辺りだろう。つまり、頂上戦争までのカウントダウンが始まったということ。エニエスロビー後に3億ベリーになるはずだから、まだ時間はあるけど。

 

(確か原作の空島後に、ドフラミンゴが直々にベラミーを処罰しに行くシーンがあったよな…)

 

ここからは距離もあるし、たぶんそろそろ向かうんだろう。逃げなさい、と繰り返し言ってきたヴィオラさんを思い出す。私のことを大切に思ってくれているんだろうと、そう分かる言葉だった。彼女は必ず救われると知っている。だけど、私にはまだ迷いがあった。置き去りにしてもいいものか、と。

 

(あの時は勢いで言っちゃったけど、レベッカがいる限りヴィオラさん連れて逃亡とか無理なんだよなぁ)

 

なんたって原作でもコロシアムの実況中継の画面を銃で壊すほどだ。姪が大切な彼女に一緒に逃げようと言ったところで無意味だったのを忘れていた。悶々と悩む私の部屋を、またも誰かが蹴り開けた音が聞こえた。

 

「ちょっと…だれー?」

 

「フッフッフ!七武海会議だ!出かける用意をしろ!」

 

あれっ?なんかデジャヴ?

 

「ん…?七武海会議って兄上この間も行ってなかった?」

 

「可愛い妹が脱走でもしてねェか気がかりでなァ…。あとは仕事の準備をするためだ」

 

「絶対後者がメインだ。……んー、行ってもいいけど、何もないでしょ?兄上待つのもヒマだし、シャボンディパークって所で遊んでたいんだけど」

 

「あ?シャボンディ諸島か」

 

「うん」

 

あのボンチャリってのに乗ってみたいし、噂に名高いシャボンディパークで遊んでみたい。もしかしたら魚人と会えるかもだし。それに…ローに会えるかもしれない。モネのこと、ヴェルゴのこと…ローに伝えておけば、2年後に彼女たちの命を救うことができるかもしれない。あと、冥王レイリーさんにも会ってみたい。可能なら逃亡するためのお知恵を拝借したい。でもってあわよくば麦わらの一味に連絡とかとってみたい。…まあ、連絡をとったところで特に用はないんだけども。念のためにというやつで。

 

「…いいだろう。ただし、おれの店から1人で離れることと護衛無しで出かけることは禁止だ。いいな?」

 

思いがけない提案に驚いた。え、行っていいの?マジで?

 

「………兄上、何か変なものでも食べた?」

 

「フッフッフ!日常が退屈だから逃亡したがるんだってな?なら良い機会だ、シャボンディ諸島で遊んでりゃいい」

 

「え、日常が退屈って……誰からの情報?」

 

「フッフッフ…知らなかったのか?ヴァイオレットは頭の中を覗き見る能力者だ」

 

「えっ」

 

まさか、ヴィオラさんがドフラミンゴにそう報告していたとは。思わず緩みそうになる顔を引き締めて、しかめっ面を作っておいた。

 

(た、助かった…!そういう理由で逃亡したがるってことにしてくれてたらドフラミンゴの警戒レベルも落ちる!)

 

本当に気の利く人だな、と素直に感謝した。

 

「じゃあ…じゃあ…ベビちゃんとデリンジャーも一緒に行きたい!一緒に遊びたい!」

 

「ああ。ただし、護衛には別のやつもつける。いいな?」

 

「うん!ありがとう、兄上!」

 

久しぶりに心からの笑顔をドフラミンゴに向けることができた。ドフラミンゴの方も私が久しぶりにご満悦だと分かったのか、ご機嫌で笑っていた。出かける支度をするからと別れて、部屋で荷物をまとめながら電伝虫でヴィオラさんを呼んだ。手が空いていたからかすぐに来てくれた彼女にシャボンディ諸島に行くことを伝えると、きりりとした表情でいつもと同じように言ってきた。

 

「ルシー、ちゃんと隙を見て逃げるのよ。特にドフラミンゴから離れた後は護衛が付くだろうけど、その時が一番狙い目でしょうから」

 

「…分かった。じゃあ、先に自由になってくるね」

 

彼女の言葉に素直に頷いたのは、これが初めてだ。ヴィオラさんは心から安堵したように笑って、私の背中を撫でてきた。

 

「あなたなら絶対に大丈夫。自信を持って」

 

これが最後かもしれないのに、まだ気遣ってくれるのか。ヴィオラさんの優しさが胸にしみて、じわりと涙で視界が揺らいだ。

 

(これが最後かもしれない…だったら、もう、言ってしまおう)

 

彼女の力になろう。原作を早送りしてしまおう、そう決めた。自分がいなくなった後がどうなってもいいと、そんな思いは全然なかった。私がいようがいまいが、決められた流れは変えることはできないと、そう知っていたから。

 

「…マンシェリーちゃんはこの王宮のどこかにいるの。探して小人たちに伝えてほしい。シュガーを気絶させたらオモチャを人に戻せるってことも」

 

「マンシェリーが王宮に!?…ええ、伝えるわ!」

 

「ただし、時期を間違えないで。トンタッタ族が騙されて口外するくらいなら、クーデターの日まで黙ってるのもいいと思う」

 

「分かったわ。慎重にする」

 

「それと、きっと2年後に麦わらの一味がここに来る。彼らがドレスローザを取り返す力を貸してくれるから、協力してもらうのをオススメするわ。特に黒足のサンジってぐるぐる眉毛の金髪の男性は女性に弱いから、入江に近い街角でダンスでもしていれば必ず会える」

 

他に伝えることはないだろうか。例えば原作で有利に動けるための何か、情報とか。悩む私に、ヴィオラさんは大丈夫だと言った。

 

「…本当はね、時々あなたのことを覗いて、考えを読んでいたの。あなたが葛藤してることも、私たちが救われるって確信を持っていることも知ってた」

 

「ま、まさか全部読んだの!?」

 

まさか前世の記憶まで、と聞き返しかけて、でもヴィオラさんが否定したのでちょっとホッとした。

 

「いいえ、たぶん全部ではないわ。まあ、どこからどこまでを全部というのか分からないけれど。だからね…本当はホッとしていたの」

 

「へ?」

 

「あなたは自分が身勝手な人間だって考えてたけど…でも、私たちが今から2年後に必ず救われるという一点だけは、いつどんな時でも揺るがなかった。それがどれだけ私の救いになったか、知らなかったでしょ?」

 

まさかそう言われるとは思いもしなくて、言葉を失った。だって、ヴィオラさんは私が原作を読んだ前世持ちだとか、そんなことを全然知らない。だからこそ確信を持ってドレスローザは救われると考えていることも。下手するとただの妄信だと気味悪がられてしまうことだろうに、彼女は私に救いを見出していた。その事実が、どれだけ私の罪悪感を軽くしたことか。

 

(結局、私は何も行動してないのに、それでも救われたと言ってくれた…)

 

涙が止まらない。私をこんなにも信じてくれる人が、ロシナンテの他にいるだなんて、なんて私は恵まれているんだろう。

 

「…ありがとう…っ!ヴィオラさん、ありがとう…!」

 

「元気でね、ドゥルシネーア。普通の女性のあなたに王女なんて似合わないわ」

 

ヴィオラさんとぎゅっと抱きしめあって、私たちは笑った。

 

「好きな人を見つけて、好きに生きて。私の姉のように、普通の女性になってきなさい」

 

「さようなら、ヴィオラ王女。あなただって悪の組織の幹部なんて似合わないよ。…まあ、逃亡の失敗したらまたここに戻ってくるかもだけど」

 

「大丈夫、あなたならできるわ。自信を持って!」

 

咲いたばかりの豪奢な薔薇のような美しい笑みで、ヴィオラさんは私の背中を押してくれた。

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