久しぶりに船に乗ると、波に揺れる感覚や海や空の青さに懐かしさを感じた。久しぶりに任務以外で外出できると喜ぶデリンジャーやベビー5と一緒に、シャボンディパークの本を開いて予習をしておいた。
「私、ルシーさんとショッピングに行きたいです!」
ベビー5の提案に、私の頭が動いた。ショッピングで試着となるときっと護衛のセニョールもラオGも服屋に入ってこない。その隙にベビー5とデリンジャーを連れて逃げることってできるんじゃないの?
「よし、行こう!」
ヴィオラさんにあれだけ応援してもらったんだから、きちんと逃げなくちゃ。
(聖地…)
船ごと移動はできないルートだからと聖地を通ってグランドライン前半に向かうことになった。その途中、誰かの視線を感じた。
「………?」
「ルシー、どうした?」
「なんでもない…」
(……元天竜人のドンキホーテ一族ってのが興味の源?それともヴィオラさんの言ってた、私の婚姻相手が?)
意図は分からないけれど、私に対する視線はあまりに気持ち悪くて、思わず身震いした。寒がっていると思ったのか、ベビー5やセニョールが早々に新しい船へと連れて行ってくれて、そこでようやく気持ち悪い視線から逃れることができた。後を引くように嫌な感覚が残る中、家族たちとシャボンディ諸島を目指した。
「……ん?あれ、兄上なんで船に乗ってるの?七武海会議は?」
あまりに自然だったから気付くのが遅れたけど、七武海会議って言ってたはずでは?首をかしげると、ドフラミンゴはにやりと笑った。
「フッフッフ…ジャヤに後始末をつけに行くだけだ」
(あ、なんか機嫌悪そうだな。……ん?ジャヤ?)
ジャヤ、と言われて思い出すのは空島編だ。
(なるほど。ベラミーを切り捨てるあのシーンか)
確かルフィたちが空島から青海に戻るシーンの合間にそういうのがあったはず。で、切り捨てられたベラミーがその後で空島に行って、ルフィたちがもらい損ねた巨大な黄金の柱をもらってきて、ドフラミンゴに進呈して傘下に戻ることになるはず。
(空島かぁ…いいなぁ。空島まで行ってもドフラミンゴなら追いかけてきそうだけど)
そこが問題だ。どこへ逃げようとこの兄は地の果てまで追いかけてきそうだもの。それならどこに逃げようか。一番安全そうなのは東の海なんだけど、むしろ追いかけてきたドフラミンゴに蹂躙されてしまいそうだし。とすると革命軍ってのも迷惑をかけてしまうだろう。何せ過去何度もドレスローザに仲間を送って、その度にオモチャにされてるくらいだし、今は表立ってドフラミンゴと敵対したくないはず。海軍に逃げるのも意味がない。だってドフラミンゴは七武海だもの、絶対に海軍も兄妹喧嘩に付き合うなんて嫌だと早々に私を投げ出す。
(いつかは追いかけられて捕まるのなら…ロシーのお墓まいりとかしたいなぁ)
お墓があるのか知らないけど。身寄りのない海兵って海に散骨とかなんだろうか。それとも水葬?もしかしたら火葬されてセンゴクさんがお墓でも建ててくれたかもだけど。それとも共同墓地かな。とにかく、場所は不明だ。それなら……ミニオン島かな。ロシナンテの死んだ場所。
(北の海まで逃げて、ロシナンテのお墓っぽいものでも作って、花を添えるくらいなら…したいなぁ)
ついでに母親と父親のお墓にでもしよう。いや、いっそのこと関わった人たち全員分まとめてでも。奴隷の子どもたち、大人たち、下っ端で使い捨てされた部下たち、街の人たち。みんなの。
(それは…なかなか、素敵な生活だよね)
ゆらり、ゆらり、船に揺られながら想像する自由は、魅力的で素敵だった。
「ルシーさん、シャボンディ諸島が見えたわ」
大人っぽくなったベビー5は、デリンジャーのようにはしゃぐことはなくなったけど、それでも心が弾むのか頬を染めて教えにきてくれた。
「ベビちゃん」
「はい?」
「大好きよ」
いつかのようにベビー5に言うと、彼女は花が綻ぶように美しく笑った。
「私もルシーさんが大好きよ」
「うん、知ってる。…一緒に行こうね」
「ええ、もちろん!」
きっとベビー5はシャボンディ諸島で買い物をしたり遊んだりすることを考えての返事だったはずだ。
(絶対、この子達を連れて行く)
後のことなんて知ったことか、とは言わないし言えない。私の力が及ばなければベビー5やデリンジャーを連れて逃亡できないし、そもそも私自身が逃亡できないだけだ。だけどもし、絶好のタイミングを狙って私が逃げられたなら…自由を勝ち取れたなら。好きに働いて、もし機会があれば結婚とかもして、それから…。
(ロシーに会いたいな)
遅くなってしまったけれど、私を守ろうとした家族たちの死を悼むことをしたいと、そう思った。