シャボンディ諸島でドフラミンゴを見送り、さっそくデリンジャーとベビー5に連れられてシャボンディパークに行った。
「おおお…!遊園地だ!!!」
原作と同じ観覧車もあるし、コーヒーカップもある!念のため、と周りを見回してもルフィたちの姿なんてもちろんなかったけれど。やっぱりテンションはだだ上がりした。だって原作のあの場所だし!
(って言うならドレスローザもだけど)
あそこは別。居心地悪いし。
「ママ早くっ!ほら行くよ!」
私以上にテンションだだ上がりなデリンジャーに担がれて、ジェットコースターに向かった。いきなりジェットコースター?そういやデリンジャーはメインディッシュから食べる子だったわ。ベビー5なんて呆れるばかりで止めてくれないし。
「…デリンジャー、ほどほどにね?」
「もちろんよ!こればっかりで遊ばないでとりあえず全部まわるに決まってるでしょ!」
「まじか」
決定事項だった。途中でベビー5が抑止力になってくれたものの、見事に三半規管がやられて、ルフィたちみたいにゲロを吐く手前ぐらいまて追い詰められた。
(きっ…気持ち悪ぅうう…!)
幸い船酔いなんてしない体質だったし、今まで家族たちが体調を気遣ってくれていたからはしゃぐようなこともなく、三半規管をいたぶられるようなことのない人生だったのに。…もしかしてこれ、この体に生まれて初めての酔いってやつ?地味にショックを受けつつベンチでへばっていたら、デリンジャーに文句を言われた。
「ママってばまだ半分も残ってるのに!」
「仕方ないでしょー…私はデリンジャーみたいに強くないんだよ…」
「もー…。じゃあ一人で行ってくる」
「無茶しないでね…電伝虫持ってる?」
持ってる、と雑に返しながら次のアトラクションに走って行ったデリンジャーを見送り、ベビー5と一緒に少し休憩をとることにした。
「ねえルシーさん、どこか行きたいところはある?」
「ん?そうねぇ……バーとか行きたいかな」
「バーね。どこにあったかしら…」
ガイドブックを開こうとしたベビー5に先んじて場所を教えてあげた。もちろん、さりげなさを装って。
「13番グローブにあるみたいよ」
「13番?治安が悪そうね…セニョールかラオGにも付いてきてもらいましょうか」
「そうだね。セニョールはまだ仕事があるだろうから…ラオGかな」
夜も遅いし、この頃はだいぶ耳も遠くなってきている。きっとラオGの目なら盗むことはできるだろう。満足げに戻ってきたデリンジャーも一緒に一度ホテルへ戻った。案の定セニョールはヒューマンショップの経営についてまだ話すことがあるからということで、ラオGとベビー5と共にバーへ向かうことになった。
「デリンジャーは行かない?」
「あたしまだお酒飲めないもーん」
むしゃむしゃと大きな肉の塊にかぶりつくデリンジャーには留守を頼むことにした。
(手紙、書いたけど…レイリーさんに渡せるかな)
ぶっちゃけて言うと、レイリーさんに用はない。けれど、今後ケイミーやハチがヒューマンショップで危険な目に合う可能性が高いこと、麦わらの一味にコーティングをしてあげてほしいこと、頂上戦争があること、ロジャーの息子のエースが処刑されることぐらいは伝えてもいいはずだと判断した。ルフィに関しては、レイリーさんが自分の目で見て判断するだろうから言わなくてもいいかとも思ったけれど。
(余計なお世話だろうけど…でももし、レイリーさんがエースのことで後悔することがあるのなら、防げるかもしれないから)
原作ではそんな描写はなかったし、きっとかつての船長の忘れ形見であるエースが自分で決めた道だからと容認しただろうけど。もし……もしも、助けに行きたかったけど間に合わなかったのだと後悔するかもしれないのなら。ぼったくりバーのドアを開けた。軽快に鳴るドアベルの音の奥から、気だるげにシャクヤクさんが声をかけてきた。
「いらっしゃい」
「ーーこんばんは。3人、よろしいですか?」
「ええ。好きなところへどうぞ」
何人かいるガラの悪そうな客の側を避けて、カウンターにかけた。値段の書いていないメニュー表を見てちょっと笑えた。さすが、ぼったくりバー。しばらくグラスを傾けていると、だんだんとベビー5の口数が減り、二人ともがうとうとし始めてきた。そりゃそうだ、船旅でものんびりしていた私と違って、二人ともずっと働いていたのだし。…まあ、それを狙ったのもあるけど。
「お代わりは?」
タバコを咥えて空いたグラスを片付けに来たシャクヤクさんに、大丈夫です、と返した。ああ、年齢不詳だけど美人だなあ。
「こちらに、レイリーさんはご在宅ですか?」
「ーーどういったご用件で?」
顔色も声色も変わらない。ロマンチックなジャズと客たちの声をBGMに、私はシャクヤクさんに手紙を差し出した。
「私、レイリーさんとシャクヤクさんのファンなので。ラブレターをお渡ししたかったんです」
もちろんこっちの歴史なんてあんまり知らないから、原作の、という意味だけど。好きだという本気度が伝わったのか、シャクヤクさんは一瞬間をおいてだけど、微笑んで受け取ってくれた。
「あら、ありがとう。王女様にファンだと言ってもらえるなんて光栄だわ」
さすが情報通。私のこともとっくにお見通しだったのかと笑えた。
「レイリーさんにはお会いできません?」
「ええ、4ヶ月前に出ていったからそろそろ戻ってくるかもしれないけど」
世間話を装って、私は煮豆をつまみつつシャクヤクさんに話しかけた。どうやら話に付き合ってくれるようで、タバコの煙を吐きながら彼女は答えをくれた。
「じゃあ…あと2ヶ月後にですね。レイリーさんのビブルカードが必要になると思います」
レイリーさんが半年は戻ってきていない、とシャクヤクさんは原作でルフィに言っていたし。まだルフィたちもロングリングロングランド、ウォーターセブン、エニエスロビー、スリラーバークと旅を続けるわけだし、時系列もそんなものだろう。意外と島から島への旅は短い期間だし。
「あと、ちょっとした騒ぎにも。お気をつけくださいね」
「まるで未来を見たかのように言うのね」
「ええ。未来を読んだんです」
最後の一粒まで食べてしまって、水をぐびりと飲み干した。荷物から貴金属を出して、いくつかをシャクヤクさんに渡した。
「お代、足ります?」
「…ええ。十分よ」
「よかった。足りなかったらどうしようかと思いました」
「ふふっ。またいらっしゃい…今度は2ヶ月後に」
「ええ、ぜひ。…ベビちゃん、ラオG、そろそろ起きて。ホテルに行くよー」
「ええ〜……まだまだ…飲みたいぃ…」
雰囲気に流されて…あと私が勧めるがままにめちゃくちゃ飲みまくったから、完全に目閉じてグデグデになってるのにまだ飲みたがってる。そんな無防備にしてたら変な男にひっかかるぞ!
「フガッ?…おお、もう朝か?」
「まだ夜だよ、ラオG」
「おお、そうか」
おじいちゃんまだ夜よ、と言いかけた言葉を飲み込んだ。うーん…ラオG、歳をとったなぁ。ベビー5を背負ったラオGと一緒に店を出て、空を見上げた。澄んだ緑と海の匂いが気持ちいい。
(あと2ヶ月か…)
逃亡の狙い目は、決めている。ドフラミンゴのヒューマンショップに張り付いて、ローと会話して、その後で来るルフィが天竜人を殴って大将黄猿が来る時の、あの混乱に乗じて逃げるのだ。必要なら客に金を払って一緒に逃げさせてもらえばいい。それまで大人しくヒューマンショップに通い詰めていれば、きっとセニョールもラオGも油断して監視の目を緩めるはずだ。現に今も2人ともウトウトしていたから逃亡するチャンスはあったのだし。今までドレスローザで毎日のように逃亡していた私を覚えている分、彼らなら私が大人しくなったと油断する。
(…ああ、護衛がグラディウスやトレーボルじゃなくて本当によかった)
グラディウスやトレーボルの目を欺くのはきっとめちゃくちゃ大変だっただろうから。