綺麗なまま死ねない【本編完結】   作:シーシャ

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86.さながらサロメのごとく

 

計画通り、胸糞の悪くなるようなオークションを毎日毎日眺める。とはいえ大オークションは月に1回なので、毎日開催されるのは小規模で種族も人間だけの競りなんだけど。それでも毎日毎日飽きもせずぼうっと眺めているだけの私を見ていて逃亡しなさそうだと安心したのか、セニョールもラオGもベビちゃんも各々の仕事や買い物などをして動いているようだった。あ、デリンジャーはとっくに飽きてシャボンディパークとショッピングと海を泳いで遊ぶのを繰り返しているようだけど。

 

(まあ、号外で頂上戦争の知らせが来る頃に2人を側に呼び寄せたらいいか)

 

そのままベビー5とデリンジャーを連れて逃げられるようにしなくては。私のためにVIP席を用意しようとしたディスコに要らないと言って、毎回入り口に近い客席に座っている。もちろんそこは、ローたちが座っていた席だ。最初は泣き叫んだり自殺しようとしたりする奴隷一歩手前たちを見て吐き気すらしていたけれど、だんだんと感覚が麻痺してくるのか胸糞が悪い程度にまで落ち着いてきた。

 

(汚い世界だなぁ…その金で私も食ってるんだよなぁ…)

 

彼らの人権や命と引き換えに得た金で、美味しくごはんを食べて綺麗な服を着ている私は、もうとっくに汚れきっている。今日の目玉商品が高値で売れた辺りで、ふと慣れ親しんだ香りがした。

 

「イイコにしてたか?ルシー」

 

ピンクのモフモフが通路を歩いてきたので、席を一つ移動しようとしたらそのまま抱え上げられた。私が座っていた所にドフラミンゴが座って、久しぶりに膝の上に座らされた。

 

「おかえりなさい、兄上。もちろん、毎日のんびりしてたよ」

 

「何か欲しい商品でもあるのか?」

 

「んー………人魚か魚人、かな。デリンジャーの友達にしたいし」

 

っていうか本当はケイミーを私が競り落とせたらいいんだけど。麦わらの一味に恩を売れるし。でもデメリットがなぁ…天竜人を怒らせたり大将黄猿が来ないから混乱に乗じて逃げる計画がパーになるし。そもそも私が何かしなくてもルフィが上手くやってくれるんだし。

 

「人魚か魚人、なァ?まあ、ルシーの気に入ったもんがあるなら競り落としてもいい。イイコにはご褒美をくれてやるさ」

 

「え、いいの?とんでもない額になるかもよ?」

 

「フッフッフ!どうせその売り上げはおれの元に来るんだ。構わねェさ」

 

「あー、なーるほどー」

 

ってんなら私が奴隷一歩手前たちを競り落としまくっても問題ないってことか。ドフラミンゴの元に金が回らないだけの話なんだし。てか原作の流れ的にも、スマイルに仕事内容を移してるからそろそろヒューマンショップは店じまいを考えているようだし。

 

(そういやこの間、セニョールがヒューマンショップの売り上げが伸び悩んでるとか言ってたな)

 

私を嫁がせればヒューマンショップなんてなくても天竜人との太いパイプができるわけだし、その辺も決め手なんだろう。

 

「ねえ、兄上は七武海会議に行くんでしょ?私、もうしばらくここで遊んでてもいい?」

 

「…そうだな。まあここならそれほど影響しねェだろうしな」

 

「影響?」

 

「フフ…もうじき"新時代"がやって来るのさ!」

 

(新時代…ああ、なるほど。ジャヤでベラミーを潰しながら言ってたあのセリフは、事前に頂上戦争のことを知ってたからこそのセリフだったってことね。そういやラフィットが黒ひげを七武海に推薦しに来た時にエースを捕獲したって知ったんだしなぁ)

 

ご機嫌なのはそういうことか。あれから2ヶ月たつし、そろそろ超新星も集結してくるだろうし。…ドレークさんとか会ってみたいなぁ。あの人、なかなか私のタイプなんだけど。でもその前にーー潰せるものは潰しておきたいかな。

 

「ねえねえ、兄上。私、お土産が欲しいなぁー」

 

「フッフッフ…ルシーは何が欲しいんだ?」

 

恥ずかしさも何もかも投げ捨てて、声をツートーンぐらい高くして、私はドフラミンゴにすり寄った。この人生で一番じゃないかってぐらい甘えてみせて、とびっきりのおねだりをした。

 

「黒ひげの首が欲しいわ!」

 

サロメのように母親の望みでもなく、欲しがる首は聖人とは真逆の裏切り者で犯罪者の首だけど、私は朗らかに笑って無邪気を装ってねだった。ドフラミンゴは一瞬笑みを消して驚いたような顔になったけれど、自分の妹が生まれて初めて他人の命を消して欲しいとねだったことに良い感情を持ったのか、オークションの最中だというのに楽しげに哄笑した。

 

「フッフッフッ!!!ああ、分かった。ただし確約はできねェ。いいな?」

 

「やった!ありがとう、兄上!」

 

ドフラミンゴに抱きついて、私は心からの笑みを浮かべた。さあ黒ひげ、目一杯困ってしまえ。無力な私が、前世で好きだった白ひげ海賊団にできることなんてたかが知れてる。だけどその中でも最善の手を打ってやる。殺せたなら良し、殺せなくても原作の流れが続くだけの話なんだから。

 


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