綺麗なまま死ねない【本編完結】   作:シーシャ

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87.やっと会えたね

 

 

(ああーー居た)

 

オークション会場の幕の裏から確認して、私はベビー5とデリンジャーに電伝虫をかけた。

 

「2人とも、今日は一緒にオークション見よう。ってか私の護衛をしてちょうだい」

 

さすがに長期間のシャボンディ諸島生活に飽きていたのか、開始時間までには行くと快く引き受けた2人を待つ間に、できることをしてしまおうと決めた。

 

「ラオG、今日はベビちゃんとデリンジャーと一緒にオークションを見るから、休憩してきて。裏にセニョールもいるし、もう2ヶ月以上何もないから危ない目になんて合わないよ」

 

「……ほ?…おお、そうか?ならばちと休ませてもらうぞ」

 

暖かな陽気の中でうとうとしていたし、きっと疲れも溜まっているのだろう。二つ返事で了承したラオGがホテルの方に戻るのを見届けて密かにガッツポーズをした。

 

(いやー、日頃の行いがいいんだなぁ、私)

 

こんなにも簡単に信じてくれるなんてなぁ。そのままその足で裏に回って、セニョールにも同じことを伝えた。

 

「セニョール、今日はベビちゃんとデリンジャーと一緒にオークション見るから、よかったら休憩してきて。できればラオGにもそろそろ休憩を取ってほしいけど…」

 

「チュパ!…いや、その気遣いだけで十分だ。だが、まあ…そうだな、交代で休ませてもらおうか」

 

「うん。いつもありがとう、セニョール」

 

「気にするな。おれたちは家族だろう?」

 

従業員たちやファンらしい女の子たちに囲まれながらセニョールが裏口から出て行ったのを確認して、ふと息を吐いた。…これで準備はいい。コートを揺らしながら、いつもの席に向かった。そしてその席でくつろいでいる男に声をかけた。

 

「お隣、失礼するわね」

 

「ーーあんた…!!?」

 

ああ、声変わりしてる。懐かしむことができるのは、顔立ちと帽子くらいになっちゃったなぁ。

 

「こんにちは、トラファルガー・ロー。さっそくだけど、あまり声を出さないように。…私の心臓をメスで取り出せる?」

 

「ん?キャプテン、知り合いですか?」

 

クルーの言葉に返答もせず、無言のままローが心臓を取り出したのを確認して、ホッと息を吐いた。これで仲良くおしゃべりしてても、お互いに言い訳が立つ。

 

「じゃあそれ、一応持っといて。…さて、時間はある?ちょっとおしゃべりしようよ」

 

並んで座ると身長の差も際立つ。大きくなったなぁ。ドフラミンゴほどじゃないけど。確か身長は2メートル弱だっけ。立食パーティーのテーブルにすら届かない身長だったのに、こんなに大きくなって…。あっ、なんか感慨深すぎて涙が…。でも感動する私とは真逆に、ローは腰を浮かせて素早く視線を周囲に走らせた。

 

「…なんであんたがここにいるんだ?ドフラミンゴもいるのか!?」

 

「兄上は七武海の招集でここにはいないよ。セニョールがここのオークションの裏、ラオGが私の護衛で入口にいたんだけど…さっき休憩しに行ったからしばらく戻ってこないかな。あとはベビちゃんとデリンジャーがこっちに向かってるところかな」

 

まだオークションは始まりそうにない。人も原作で読んだほどは集まっていないし。…まあ、ベビー5やデリンジャーが来てもいきなりローを攻撃するなんてことはしないだろう。なんたって側にいる私が危機感もなく会話をしているのだから。

 

「元気だった?ロー」

 

「ーーああ」

 

「そう。…ちゃんと仲間もいて安心したよ」

 

原作通りのツナギを着たクルーたち。ペンギンくん、シャチくん、ベポくんまでは分かる。特にベポくん!実物はとびっきり可愛い!モフモフしたい!

 

「おれは………あんたに、伝えなきゃいけないことがある」

 

原作で読んだ感じとは違うというか、ローにしては意外というか。間を空けて、重々しく口を開いた理由は…分かる。ロシナンテのことだろう。雪に埋もれて息を引き取る、原作のあの1ページを思い出して胸がぎゅっと絞られる。それでもローの手前、気にしていないフリをして明るく返した。

 

「ん?ロシーのこと?」

 

「…ああ」

 

「おねーさん、コラさんのこと知ってんの!?」

 

「バッ…!声が大きい!」

 

思いもしない方向から、話題に踏み込んでこられてどきりとした。驚いて振り返ると、そこで口を塞がれて息ができないと暴れるペンギンと目があった。

 

「………なんで、きみがロシーのこと知ってるの?」

 

「だっておれらが看取ったし」

 

「…は?」

 

何?何だって?指先が震える。言葉にできない強烈な感情が湧き上がって、呼吸までできない。何、どういうこと?

 

「……え、…なに、どういうこと?だってロシーは兄上に撃たれて、死ぬまで…ローに、カームをかけたままーー」

 

もう放っといてやれ、あいつは自由だ、そうドフラミンゴに言って、銃で撃たれて死んだんじゃ……なかったの?

 

「……あんたに言われた通り、コラさんを引きずってスワロー島まで連れてったんだ。あんたの荷物の中の道具で輸血もした。けど、おれが能力を使えなかったからコラさんは…っ!」

 

ローの手が、白くなるほど握りしめられている。ああ、そうだったんだ。詰めていた息を、吐いた。息と一緒に、涙もぼろぼろ、溢れて落ちてきた。

 

「ーーあ、あの時…すぐに、死んじゃったんだと…っ!…そっか……そっか、ロシー…少しでも、自由になれたんだ…!よかった…!」

 

ローと一緒に旅をするって目標は達成できなかったけれど。それでも、あそこで、たった独りきりで死んでしまうような…そんな悲しいことにはならなかった。ロシナンテは死んだ。だけど、もう、それだけで十分だった。ドフラミンゴの手から自由になって、ローを救えて、ロシーはどれだけ安心したことだろう。

 

「海軍にスパイがいるからって…もしあの時すぐに海軍にコラさんを預けてりゃ、助かったかもしれねェんだ。…悪かった」

 

「ーー何言ってんの。あんな状況なのに、ローはよくやったよ。ありがとう、ロー。あなたがロシーと一緒にいてくれて、本当によかった…」

 

ローも、ローの仲間になる子たちも、ロシーはちゃんと見届けることができたのだ。それがどれだけロシナンテの救いになったことか。ロシーは死んでしまう間際でも、きっと笑っていられたのだろう。そう思えた。唇を噛み締めて俯くローの頭を撫でてやった。昔のように邪険にされて、手を振り払われるようなことはなかった。ああ、よかった。この子がちゃんと大人になれて。

 

「ねえねえ、もしかしてドゥルシネーアさん?」

 

「…ん?うん、そうだよ、ベポくん」

 

「やっぱり!あのね、あの時食べ物とかくれてありがとう!あれがなかったらおれ、飢え死にしてたかも!」

 

「ううん、むしろごめんね。突然荷物預かって、なんて言われて驚いたでしょう?」

 

「びっくりはしたけど、でも助かったから。あとちゃんと荷物守ったよ!ペンギンとシャチから!」

 

えへん、と胸を張った姿にほっこりした。うーん、デカくて可愛い!ゾウにも行ってみたいなぁ。こんなに可愛いミンク族たちの国とか絶対にパラダイスだ!ガルチュー!

 

「バッ…!なんでバラすんだよ!」

 

「黙ってりゃよかっただろ!?」

 

「すいません…」

 

「ほう…?お前ら、勝手におれ宛の荷物を奪おうとしてたのか?」

 

「キャプテンのだって知らなかったんですって!!!」

 

「知っててもあの時まだ会ってもなかったし!ギャー!」

 

コントみたいにじゃれあう彼らに、思わず笑ってしまった。さっきまでのシリアスな感じ、全部なくなっちゃった。ああ、いいなぁ。私もこんな家族がほしいなぁ。

 

「あはは。まあまあ、許してあげてよ、ロー」

 

「チッ…。で?あんたはこれからどうするんだ?」

 

「へ?今でも私はドフラミンゴから逃げる一択だけど?」

 

「そうか。じゃあ、行くか」

 

「ん???」

 

「約束しただろ。おれも、あんたをここから逃してやるって」

 

あ、と思い至った。ロシナンテがローを連れて出て行った後、電伝虫越しにぶっきらぼうに、助けてやると言っていた。よくあんな昔の話を覚えていたなぁ、と感動した。なんか…さすがは人気キャラ。こんなの絶対モテるに決まってる。

 

「………ローってさ、モテるでしょ?彼女とかいるの?むしろ嫁は?」

 

「は?」

 

あっ、極寒の目つきだ!北の海の冬より寒い!

 

「で、いるの?」

 

「いねェよ!」

 

「なんだ、残念」

 

「ところでおねーさん、誰?」

 

「ああ、コラさんの妹だ」

 

「え!?似てねえ!」

 

失礼な!確かに背丈も顔立ちも似てないけど金髪だけはそっくりでしょうが!モヤッとしつつ、そうだ、と思い出した。ローに会ったら頼まなければならないと思っていたことがあるんだ。

 

「ロー、頼みがあるの」

 

「あ?」

 

「…来年か再来年、パンクハザードでモネって子の心臓を取らないで欲しい。それか、もし取ったとしても、後でこっそりシーザーから奪い返してほしい。でないとシーザーがモネの心臓をスモーカーさんのと勘違いして潰してモネを殺すから。あと、ヴェルゴの頭と胴だけでいいから爆発から守ってほしい。命だけ助けてくれたなら、そのままスモーカーさんに渡してくれたらいいから」

 

「ーー何の話だ?」

 

「いいから。…お願いします」

 

「……わかった」

 

「よかった…」

 

よく分からない、と言いたげな顔のまま、ローは素直に頷いてくれた。よしよし、ここで拒否されたらどうしようかと思った。やっぱりなんだかんだで優しい子だもんなぁ。

 

「あ!ああ、あとね、後で来るルフィくんとかキッドくんと仲良くするのよ?特にルフィくんはこの後の頂上戦争で死にかけちゃうから、回収してローが治してあげて。女ヶ島のハンコックさんがルフィくんに惚れてるから後で渡せばいいし。それから冥王レイリーさんがここでコーティングやってるから何なら頼るといいってのと、あと、来年にローが七武海に加入しても兄上と喧嘩しないようにってのと、天竜人がもうすぐここに来るってのと、それからそれから…」

 

「落ち着け!あんた…ますます頭がおかしくなってんじゃねェか!!?」

 

医者が他人の頭の心配とか…ガチすぎて怖いんだけど!

 


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