「ルシーさん、お待た…せっ!?ロー!!?なんであんたがここにいるのよ!!!」
「えっ、ロー兄ィ!?キャー!やだ、ほぼ記憶にないーっ!」
「………」
両手いっぱいに買い物袋を下げたベビー5と、5段ほど積み重なったアイスを持ったデリンジャーがきゃあきゃあと華やかに騒いだ。ハートのクルーたちは圧倒されてるし、ローは無表情だけど若干目つきが悪化してる。あーあー…周りのお客さんたちにも迷惑になるってのに…。
「はいはい、そこまで。ロー、この子たちも一緒によろしくお願いします」
「…………は?おい、嘘だろ?こいつらも連れて行くだと!?」
「あ、無理ならいいよ。元々この子たちを連れて飛び出す計画してたから」
「えっ、ルシーさん?飛び出すって…」
「ママ、また逃げようとしてたの?」
ママ?ママだと?コラさんの姪?いや、甥?なんてザワザワしてるクルーたちはあえて放置。年齢的に産んでても問題ないけど実子じゃないから。ちゃんと母親がいるって教えてたのに、いつの間にかママとか呼ばれてただけだから。でも説明が面倒だから!放置!
「また?」
「うん。ここ6年ほど脱走しまくってたけど全戦全敗でね。でも今日は大将黄猿も来るし、混乱に乗じて逃げられるかな、って思ってて」
大将が来る?とまた後ろでザワザワしてる。いやいや、さっき説明したじゃん。天竜人も来るって言ったじゃん。この分だとネタバレ全部がデマだと流されてたな…。
「まあ、そういうわけだから。ベビちゃん、デリンジャー。私の護衛ってことで一緒に行くわよ。文句言うなら引きずってでも連れて行くから」
「で、でも若様に何て言われるか…っ!」
「そうそう!きっとものすごーく怒られるんだからっ!」
「本当の家族なら相手の幸せを願ってナンボよ。兄上のような束縛して操ろうとする人を何て呼ぶか知ってる?毒親ならぬ毒兄って言うの!ーーそんなにあの毒男が好きで私と一緒に来るのが嫌だって言うなら、もういい。好きにすれば?」
「それは嫌っ!」
「イヤ!あたし一緒に行く!」
今まで甘やかして甘やかしてどろどろに可愛がっていた2人に、露骨な私の考えを初めて突きつけてみると、驚くほど動揺して首を振った。きっとこれ、勢いで嫌だって言っているだけだ。それでも今はこれでいい。一緒に自由になって、その先で広い世界を見て、自分のやりたいこととかをしっかり考えられたなら。その上でドフラミンゴの元に帰りたいっていうなら止めたりなんかしないし。
「というわけで…よろしくお願いします」
「…ハァー……そういやあんたはコラさんの妹だもんなァ…」
ワガママだと言いたいのならドフラミンゴの妹だと言うべきだろうに、ローはそう言って呆れていた。それでも帽子の陰で薄く笑っているのが見えて、ちょっと笑えた。
「ええ。私は兄上の妹だもの。強欲なのよ」
涙で潤んだ目のベビー5を抱き寄せて、頬を膨らませて拗ねているデリンジャーの手を握った。予想外の方向になったけど、逃げる算段がついた。でもせっかくだからと、オークションを見物してから出て行くことになった。
(麦わらの一味に会える最後のチャンスかもだし)
この後私が逃げたなら、きっと二度と会うことはないのだから。15人目が競りにかけられた頃に後ろを振り返って、思わず口元が緩んでしまった。キッドや麦わらの一味を生で見られて、めちゃくちゃテンションが上がる。あああ生の麦わらの一味!握手してください!サインください!…って私はバルトロメオか!
(ローが助けてくれるってことは…大将黄猿が来る必要はなくなった。パシフィスタも。でもくまさんは元々シャボンディ諸島でルフィたちをバラけさせる予定で動いてたっぽかった。つまり…ルフィに天竜人フルボッコ事件を起こさせなくてもいい感じ?あ、でもハンコック……うーん…)
まあ元々ハンコックの件は天竜人の件がなくてもなんとかなりそうっちゃなんとかなりそうだし、いいか。そう判断して、私は手を挙げた。
「6億ベリー」
しん、とした空間で周囲から視線を浴びる。うわー、なんか気持ち悪い。
「おい、何やってんだ!」
小声でローから怒られた。いやいや、この過程が今は必要なんだって。
「7億ベリーだえ〜〜!!!」
(そこまでして人間の血税で人魚を競り落としたいのかよ、クズだな…)
「8億ベリー」
「き、9億ベリーィ〜!!!」
「10億ベリー」
「邪魔をするのは誰だえ!」
(ふっ…勝った…!)
「ルシーさん素敵!」
「ママったらやるじゃない!」
「ふっふっふー!ドヤァ!」
原作でもクッッソ腹立つな、と思ってたやつを合法的に負かせてスッキリした。ああ、オークションっていいなあ!あえて無視して、奥から顔を覗かせる父親の方にだけ会釈をした。
「ーーごきげんよう?ロズワード聖」
「貴様…もしやドンキホーテの者かえ…!?」
「ええ。確か…幼少期に聖地でお会いしましたね?」
「さすがだのドゥルシネーア…相変わらずの化け物らしさよ。お前に会ったのは出生後すぐだったが…よくもまあ覚えておるものだえ」
「…恐れ入ります」
マジか。ハッタリって言ってみるもんだな。天竜人として生まれた時とか誕生日の時とかに、確かにめちゃくちゃ色々な天竜人たちに囲まれてたけど。まさかこの人もあの場にいたのか。ってことはもしかしたら北の海の元屋敷の庭に埋めてる金銀財宝の出所はこの人も含まれてたりして?
「さて。そちらの人魚、私が競り落としたということでよろしいですね?」
「……そうなるえ」
「お父上様!!?」
「あらあら?もしかしてご子息は2年後のことをご存知ない?」
ちょっと含みを持たせて言ってみた。天竜人との婚姻なんてまだまだ先のことだし確定した話でもない。圧倒的にあちらが有利なのは変わりない。だからこれは単なる私のハッタリだ。ここで何のことだと言われれば意味深っぽく頷いて引けばいい、その程度の考えでいたのに、ロズワード聖には思い当たることがあったらしい。
「…チャルロス、今回ばかりは諦めるんだえ」
「なんでだえ〜!?」
「相手が悪いえ」
(…マジかよ)
内心ドッキドキだった。だってまさか、天竜人が引く?私相手に?私の背後にいるドフラミンゴがそれほど天竜人に対する発言権を持っている?それとも…私の婚姻相手がそれほどに厄介な相手とか?…まさか。天下の天竜人が身を引くような相手とかあり得る?もしかしてイム様とかいうやつ?原作まだ途中だから知らないんだよなぁ、その辺の事情!
(でも、チャンス!)
「ふふ。ご英断、痛み入ります。…そこのみかん色のお嬢さんたち」
「!な、何!?」
「あなたたちの友だちでしょ?早く連れて帰りなさい」
「えっ!?あ、ありがとう!サンジくん!」
「あ、ああ!ケイミーちゃん、待っててくれーっ!」
バタバタと舞台へと走る彼らを見送りつつ、大きく息を吐いて席に戻った。
「…いいのかよ?」
「ま、恩を売って損はない相手だし。そもそも兄上のお金に戻るだけだし?あはは」
「なんか…性格の悪さに磨きがかかってねェか?」
「まさか。元から私はこんなもんだよ」
肩をすくめて見せると鼻で笑われてしまった。それにしても、ルフィ来るの遅くない?だけどその疑問はすぐに解決する。ディスコが木槌で落札宣言をした直後に空から悲鳴が降ってきたから。
「ケイミー探したぞ〜〜!!!よかったーーーー!!!」
「ちょっと!!!待て麦わら!!!」
「……あっ、ちょ、」
舞台に向かって走るルフィとそれを止めようとするハチ、2人を止めようと声をかけたけど見事に無視されてーーーハチが魚人だと即座にバレた。
「…魚人?魚人だえ!お父上様、魚人だえ!!!」
「…っんの、バカ…!」
VIP席から離れて銃を撃ったチャルロス聖が喜んで踊っている。そして私を見上げて小馬鹿にしたように笑う姿を見て、決心がついた。
(もう大将が来るとか知ったことか!)
行け、主人公!ボコってやれ!