綺麗なまま死ねない【本編完結】   作:シーシャ

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100.結末はとっくに知っている

「とはいえ、やれることはやらなくちゃ」

 

この先戦いが激化するまでドフラミンゴは頂上から動かない。家族たちはあちこちで動くけど。つまり、私が家族たちに引きずり戻されないうちはドフラミンゴと会うことはもうない。耳や足からただの装飾品をむしり取った。綺麗なだけで実用的でない真っ白なドレスを脱ぎ捨てて、動きやすいワンピースを頭から被った。

 

(シュガーがやられたってことは、すぐにピーカが地形を変化させるはず!)

 

靴を履いて海楼石のカケラや装飾品もまとめてポケットに突っ込んだ時、窓の外が真っ暗になった。次の瞬間に鼓膜が破れるんじゃないかと思うほどの轟音が鳴り響く。窓際に駆け寄って見下ろした先に、もうもうと土埃をあげながら瓦礫の山ができあがっていた。もしかしてこれが、と恐る恐る見上げた先の、スッパリとカットされて寂しくなった王宮の塔がなんとも言えない。

 

(こっっっわ!!!足でのひと蹴りで本当にこんなことになんの!?)

 

ゾッとした。もうこんなの人間技じゃない。正真正銘の人外バトルが始まる。せめて、戦えない国民たちを避難させなくては。

 

(私にできることなんて、それしかないんだから…!)

 

「"凪"!」

 

震える足を殴りつけて、王宮の外を目指して走った。金の髪、白い服、あの逃亡の日々、それらによって私がドフラミンゴの妹であり偽の王女なのだと誰もが知るところになった。ドフラミンゴが諸悪の根源だと分かった今でも、兵士たちは私をどう扱うべきか分からないのか、走る私を戸惑いながら見送るだけだった。王宮から出てすぐ、空に広がる鳥カゴと街の火の手、人々の悲鳴を聞いて体が震えた。大人しく部屋に戻って震えていれば、と弱い私の心が訴える。だけど、とそんな自分を叱咤した。

 

(ここで私が怯えてどうするのよ…!)

 

本当に怯えているのはこの国の人たちなのに。望遠鏡を手に国民への避難やら何やらで慌ただしく動く兵たちを見つけて、能力を解除して駆け寄った。

 

「ちょっと貸して!」

 

「あっ、ドゥルシネーア王女…!?」

 

半ば奪うように望遠鏡を借りて、周囲を見た。

 

(工場は…あった!……そっか、そういうこと…!)

 

コロシアムの地下から上がってきた工場を見て、ようやく理解できた。工場の周囲は足場がぐちゃぐちゃで、とてもじゃないけど一般人が避難するなんて考えられない状態だ。ただでさえセニョールが…いや、セニョールは途中から工場へと向かったんだっけ。セニョールなら、きっと非常事態だし一般人を……いや、五分五分かな。セニョールもドンキホーテ海賊団のファミリーだ、無情に人々を見捨てる可能性がないこともない。工場長もいるけど、彼女が私に逆らうことはないだろう。だって私はドフラミンゴの妹なのだから。

 

(よし……先手を打つ!)

 

セニョールとフランキーが来る前に、私が工場の鍵を開けて国民たちを避難させる。それが無理ならコロシアムの中へ避難させる。工場の破壊が目的のフランキーでも、さすがに一般人が避難してたらガワは残してくれるだろう。それに、私は国民を避難させる役割だ。ヴィオラさんやキュロス、レオたちと何度も計画を練ったんだから。

 

「ここにいる全員、よく聞いて!」

 

私の王女という肩書きがどこまで通じるのかは分からない。だけど、今だけでいい、私を王女と認めて動いてほしい。

 

「あの鳥カゴは少しずつ狭まってます。数時間後には国民も兵も全員が兄に殺されます!だから、みんな、国民たちに声をかけてコロシアムと工場へ向かってください!海楼石のあの建物の中なら安全です!」

 

「し、しかし、工場の鍵は王が…」

 

下っ端たちにも幹部たちの話し合いの内容は通達されたのだろう。戸惑う彼らに、私はヴィオラさんに用意してもらっていた合鍵を見せた。

 

「私が鍵を開けます。だから、早く!」

 

「「「はっ!」」」

 

慌ただしく動き出した面々を置いて、街へと駆け下りながら私は声を張り上げた。

 

「っ…ピーカ!」

 

ちょうど同化してルフィたちを追い詰めようとしていたタイミングだったんだろう、ピーカが地面から出てきた。

 

「ルシー…!?何故ここにいる!部屋に戻っていろ!」

 

「兄上が、工場の中にいろって…!これ、合鍵!」

 

鍵を掲げて見せると、ピーカは驚いたように目を見開いた。そりゃそうだ、ドフラミンゴが家族たちの目の前で合鍵も含めて2つとも刻んだんだから。だけど工場の鍵がここにある。ドフラミンゴから指示を受けていないからか混乱した様子だったけれど、ピーカは空に展開される鳥かごを見て、工場の中にいる方が安全だと判断したんだろう。

 

「……分かった、途中まで送る」

 

「ううん、道を均してくれたらそれでいいよ」

 

「……ルシー」

 

「ん?」

 

「…いや。……おれたちはいつだって、お前の味方だ。それだけは忘れるな」

 

ピーカまで、ベビー5と同じことを言った。まるで私の心の中を読んだように。

 

「…うん。ピーカも、私の大切な家族だよ。これからも、ずっと」

 

誰に笑われても、バカにされても、私たちは家族だ。送ってくれる気でいるんだろう、ピーカの巨大な石の手が私を包み込むのをただじっとして受け入れた。ぼこぼこと体が震えた数秒後には、工場の前へと送り出されていた。あれだけの距離をあっという間に、なんてさすが。

 

「中に入ったらすぐに鍵をかけろ。…すぐに護衛を向かわせる、いいな」

 

「…うん、わかった」

 

(護衛…?…くそっ、原作通りセニョールが工場に来ることになるのか!)

 

余計なことをしたか、と内心舌打ちした。この場合、私が動いたからセニョールが工場に来ることになるのか。だってドフラミンゴは家族たちに、海楼石だから守る必要はないと断言していたのだから。…いや、違う。私が動かなくても、きっとセニョールは工場に来た。だって、それが原作の流れなんだから。

 

「…ピーカ」

 

「なんだ?」

 

「……、」

 

すぐに戻ろうとするピーカに、何て声をかければいいのか分からなかった。気をつけて?無理しないで?…ここにいて?そんなの、どれもが無駄なだけ。もう、結末は見えているのだから。

 

「ありがとう、ピーカ」

 

「ーーああ。気をつけろよ、ルシー」

 

ついでに、と工場周りを均して、ピーカは消えてしまった。遠く、王宮でピーカの巨大な石像が姿を現わす。最高幹部の中で、彼はとびっきり私に優しかった。熱を出した私を背負って走ってくれた、あの広い背中は今でも忘れない。

 

(さよなら、ピーカ…)

 

滲んできた涙を拭って、私は工場の鍵を開けた。

 

「こ、これは…ドゥルシネーア様!?なぜここに…!?」

 

「工場長を呼んで。…非常事態です、ここは避難所として解放されることになりました。あなたたちもトンタッタも、全員、国民の受け入れを始めて!」

 

「えっ、は、はいっ!」

 

悔やんでいる暇も惜しむ時間もない。さあ、私にできることをしよう。

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