綺麗なまま死ねない【本編完結】   作:シーシャ

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104.行き着く場所はここしかない

ギャッツと助手の女性、2人の姿は少し向こう側で、私がこのまま真下に降りれば通り過ぎてしまいそうだ。方向を修正しないと、と突き出た石の柱に一度降りた。その時だ。向こう側でボコボコと巨大な石の彫刻が出現した。

 

(ピーカ…)

 

ピーカがまっすぐに向かっているのはリク王の所なんだろう。

 

「"キラーボウリング"!!!!」

 

私よりほんの少し上の場所で、気合の入った声が飛んできた。そして弾丸のように何か黒い塊が、ピーカめがけて一直線に吹き飛んでいったのが辛うじて見えた。ゾロがピーカの元へと行ったんだ。瞬きほどの間に、ピーカの体が横に、縦にと分断される。やがて腕がいくつかに輪切りにされてーー。

 

「"キィーーーングパァーーーンチ"!!!」

 

落ちる残骸を、ゾロが投げられたのと同じ場所からの衝撃波が吹き飛ばした。私がいる場所にまで伝わる力に気を抜けば吹き飛ばされてしまいそうだ。石の柱にしっかりくっついて、その衝撃を逃した。

 

「(……っ、ごめんなさい…)」

 

きっとヴィオラさんやリク王は無事だろう。もしかしたら、今こうやって泣きそうな私のことも見えているかもしれない。ヴィオラさんの安全を喜ぶよりも先に、ピーカのことを思った私を、どうか許してほしい。彼もまた、私の大切な家族だったのだから。

 

(っ、だめだめ!今は早くギャッツさんの所へ行かないと!)

 

これ以上向こうに走って行かれると修正しきれなくなる、そう思って足に力を入れた。その時だ。

 

「(ひっ!!?)」

 

バリバリッ、と凄まじい圧が空から降ってきた。肩から転がり落ちそうになるトンタッタの2人をとっさに受け止めて、腕の中に抱き込んだ。

 

(これ……これが、ルフィとドフラミンゴの覇気の衝突!?)

 

間近にいるローの体が飛ばされるほどの物とは知っていたけれど、まさかここまでとは。ぐらぐらと揺れる頭に喝を入れる。ここで気絶なんてしたくない。歯をくいしばっていると、ふっ、と圧が途切れた。

 

「(2人とも無事!?)」

 

トンタッタの2人は、と腕の中を見ると、呆然とした顔で空を見上げていた。目に涙を浮かべてさえいる。

 

「(ーー…)」

 

「(ーーーーーーーーーーーーー…!)」

 

彼らにかけた能力のせいで何を言っているか分からないけれど、とにかく覇気の衝突では無事なようだった。王宮からもうもうと上がり始めた土煙を見て、ドフラミンゴとルフィの戦いが激化したことを察した。このままじゃこの辺りも危ない。ドフラミンゴがルフィに叩きつけられるし、ドフラミンゴが台地にダメージを加えるのだから。だいたいドフラミンゴのせい。

 

(ってことはここ登ってるギャッツさんたちもじゃんか!)

 

そりゃいかん、とランダムに生える石の柱を蹴って上下移動を繰り返しつつ、なんとかギャッツの所までたどり着いた。能力を解除して、突然現れた私に腰を抜かす2人に詰め寄った。

 

「ここはもうすぐドフラミンゴに潰されます!早く下へ…!」

 

「し、下!?いや、しかしここが鳥カゴの中心で…」

 

「いいから引き返して!…もうすぐルフィくんが地面に落ちてきます。だから、彼をーーっ!!?」

 

どおん、と間近に衝撃が走った。地震か発破か、と思うような衝撃に、足がずるりと滑った。いや、足場が崩されていた。イエローカブたちが一斉に空に向かって飛んだおかげで、なんとか私の落下は免れたけれど。

 

(しまった、ギャッツさんたちが!)

 

「ぎゃーっ!!!」

 

「きゃああぁっ!!!」

 

台地をまるで滑り台のように滑り落ちていく2人の姿が視界に入った。落ちる先を見ても障害はないし、あの分なら無事に地面にたどり着けるだろう。だけど、まだ私は避難誘導を頼めていない。

 

「待っ…」

 

「ドゥルシネーア様、あそこ!」

 

トンタッタの小さい指がある一点を示す。台地に叩きつけられ、ドフラミンゴが、そこにいた。感覚はないのに、背中がひやっとした。やばい。見つかったらどんな目に合うか!

 

「あ、明日に向かって退却!下に行くよ!"凪"!」

 

「えっ、何れ(ーー?)」

 

「なんだかカッコイイ(ーーー!)」

 

きゃあきゃあと楽しげなトンタッタの声が途切れた。このまま真下のギャッツさんの所まで行くのはめちゃくちゃヤバい。あの2人と違って兜を被ってない私は、これから落ちてくる数多の瓦礫で頭を打って気絶する可能性が高すぎるからだ。安全第一なヘルメットが欲しい!急いで台地を蹴って街へと向かった。その背後で、ドフラミンゴが台地を砕く音が聞こえた。怖い怖い怖い!!!瓦礫に紛れながら、ぶつかってきそうな瓦礫はトンタッタの2人がドカボコと尻尾で跳ね返しながら、どうにかこうにか住宅街の屋根に降り立つことができた。

 

(しっ、死ぬかと思った…)

 

今日一日でどれだけ心臓に負担がきたか考えたくもない。ルフィはよくもまあこんなことを日常的に繰り返しているもんだ。大きく息を吐き出して、ドフラミンゴが降り立った場所に目を向けた。……あ、見つけた。ここからは離れてる。糸が目印のように空に振り上げられるのが数回。まだ街の人々の悲鳴は…途切れなく聞こえる。

 

「(私が……っ!)」

 

息を整えて、立ち上がる。トンタッタ2人が引き止めるように服を引っ張ってきた。その必死な顔を見て、ダメだと知りつつも嬉しくなってしまう。どうしてみんな、こんなに優しいんだろう。どうしてドフラミンゴはこんなにも優しい人たちを利用して、足蹴にするんだろう。優しい人は、やっぱりかわいそう。能力を解除して、2人の小人をぎゅっと抱きしめた。

 

「頼みがあるの。ギャッツさんに伝えて。国民を工場かコロシアムに避難するように、電伝虫で避難誘導するように、って」

 

「ドゥルシネーア様は一緒に行かないんれすか?」

 

「ええ。私は、やることがあるの」

 

「なら、ぼくが一緒に行くれすよ。まだまだ危ないれすから」

 

「私は大丈夫だから、2人とも行って。イエローカブ、ありがとう。すごく助かったわ」

 

手に巻きつけていた紐を解いて、2人に託した。ヴィオラさんとの約束があるからか、2人はまだまだ動こうとしない。唇を噛み締めて、じっと私を見上げていた。

 

「お願い。この国の人たちを守ってあげて。私じゃ…できないの」

 

「…危ないこと、しないでくらさいね!」

 

「すぐ…すぐにまたもどってくるれす!だから…っ!」

 

「ーーありがとう。あなたたちも、気をつけてね」

 

涙目で鼻をすすりつつ、2人はイエローカブで飛んでギャッツのいた方向へと向かった。これでいい。この先は、トンタッタにはあまりに危険だから。

 

(ドフラミンゴを止めてこいなんて、無茶だよなぁ)

 

足がすくむ度、あの兵の言葉を何度も頭の中で繰り返した。折れそうな足と心を奮い立たせるために。走って走って、とうとう息が切れて、倒れそうになった、その先で。ドフラミンゴへと歩み寄るマント姿の誰かがちらりと見えた。そしてこっちに来るレベッカの姿も。

 

(ヴィオラさん!?ちょっ…ドフラミンゴに近付くのはダメだってば!)

 

「あっ!あなたは…ドフラミンゴの!!!」

 

建物に寄りかかって息を整える私の姿を認めて、レベッカが鋭い眼差しを向けてきた。そりゃそうだ、この国を乗っ取ったドフラミンゴの妹のことは噂で聞いてるだろうし。協力者になったんだからあいつのイメージアップをしておいてやるか、と気を利かせるキュロスなんて想像できない。

 

「はっ……は、っ………はぁ……。…落ち着いて、聞いて。私は兄を…説得してみます。無理かもだけど…やってみるから……あなたは、早く避難を…」

 

息を整え、唾液を飲み込んで、か細くもなんとか言葉を絞り出した。胸の奥が痛い…気がする。視界の端でチカチカと星が飛んでる。今にも倒れてしまいそうだ。だけど、二本の足で必死に踏みとどまる。私の横を通り抜けようとするレベッカの前に立ちふさがって、ドフラミンゴの所へ行こうとするのを防いだ。

 

「退いて!私があいつを止めるの!ルーシーが復活するまで…少しの間だけでも!!!」

 

「退かないわ!絶対に退かない!」

 

「っ!!!邪魔をするなら……あなたを倒してでも…っ!」

 

すらりと抜かれた剣が首筋に押し付けられた。ディアマンテが言った通り刃が潰れている。こんなの全然怖くない。本当に怖いのは、民衆から向けられる憎悪だ。こんな、可愛い女の子が戸惑いながら向けてくるものなんて、怖くなんてない。刃の潰れた剣を握り込んで、ぐっと横に押しやった。まさか私がそんなことをするなんて思わなかった、と言いたげに怯えた目が見開かれる。ああ、小さい頃のグラディウスもこんな風に私を見たことがあったなぁ。にっこりと女神のように慈愛たっぷりで微笑んでやった。

 

「あなたが危ない所に行っちゃうと、私がキュロスさんに怒られちゃう。いい子だから、ここで待っていて」

 

「え…どうしてあなたがお父様を……あっ、待って!」

 

動きの止まったレベッカを建物の影に押し込んで、彼女に背を向けた。いざとなったら彼女の母親のセリフを言って混乱している間に、と我ながらクズな考えをしなかったわけじゃないけど、今の彼女にはキュロスの名を出すだけでも効果があったようだ。よかったよかった。走り出したその先に、ドフラミンゴがヴィオラさんに向けて怪しく指を動かそうとするのが見えて、私は大声を出した。

 

(怖くない、怖くない……怖い、怖い怖いっ…けどっ!)

 

さっさと行って兄貴止めてこい、と声が背を押す。止まれない。ここで私が立ち止まることは、もう許されない。

 

「兄上、やめて!」

 

「っ、ルシー!!!お前、なぜここに……」

 

ハッとした顔でドフラミンゴが私を見る。崩れるように地面に倒れたヴィオラさんを見て安堵の息を吐いた。まだ何もされていない。ああ、よかった!ヴィオラさんに駆け寄った私を見て、サングラスの奥のドフラミンゴの目が変わった。何度か目にしたことがあるあの目はーー家族に向ける目じゃない。

 

「……ルシー…お前、どうやってここまで来た」

 

「兄上…もう、やめようよ」

 

「っ!!!」

 

「だめっ、ルシー逃げてっ!!!」

 

ピシュッ、と空気を切る音が左右から聞こえた。何が起きたんだ、と驚いた私の視界の端で、やっと伸びてきた髪がばらりと舞い散っていくのが見えた。何にも飾られない私の耳と足を見てドフラミンゴが顔を歪めた。鈍い私はそこでようやく、サイドの髪を切り捨てられたらしいと気付いた。ドフラミンゴがたかが髪とはいえ私に危害を加えてきたのは、ピアスの穴に次いでこれが二度目だ。それだけ切羽詰まっているということなんだろう。

 

「お前も…おれを裏切るのか、ルシー」

 

「だめ、だめよルシー!逃げなさいっ!」

 

私を背に庇おうとするヴィオラさんを押しとどめて、逆に背に庇った。大丈夫、私は大丈夫。だって私にはまだ"価値"がある。天竜人との繋がりを作ろうと2年以上も前から計画してきた、そんなドフラミンゴがみすみすこの場で私を殺すわけがない。ドフラミンゴの頭の中には、まだ華やかな未来への計画が描かれているはずだ。ルフィやローを倒し切らず、こんな所でパラサイトなんてしてるぐらいだ、まだ、敗北という言葉を想像してすらいないはずだから。だから、私が彼に殺されるわけがない。

 

「……私は兄上を裏切らない。敵には絶対にならない。だけど……ねえ、兄上。兄上ならもう分かってるんでしょ?もう、これ以上は無理なんだよ」

 

視野の狭まったドフラミンゴにもちゃんと見えるように、私は胸にできた銃痕に手を寄せた。それを見て驚いたように開けた口を、ドフラミンゴは歯を食いしばって閉じた。感情を強烈な怒りで上書きする姿は、昔から何度見ても慣れなかった。

 

「まだだ……まだ何も終わっちゃいねェ!!!この国も!生きているやつらも!全て消し去ればいいだけの話だ!!!」

 

「もう、夢を見るのは終わりだよ…兄上」

 

「っ!?あっ!!!いや、だめっ!ルシー、逃げて!!!」

 

何年と付き合いのあるヴィオラさんのこんな悲鳴を初めて聞いた。その途端、身体中の神経が張り詰めるのを感じた。背後のことなのに、ギュゥン、と視界がねじ曲がって見えた。ヴィオラさんが目に涙を浮かべてナイフを振りかざす姿を、驚くほどくっきりと感じた。まさかドフラミンゴが私を傷つけるなんて、と思わなかったわけじゃない。けれどドフラミンゴが自分の修復能力とマンシェリーの治癒能力でなんとでもできると過信しているのは、手に取るように分かった。ドフラミンゴはそういうキャラで、そういう兄だから。

 

(ヴィオラさんと私、両方とも動けなくするつもりか…!)

 

私たち2人を直接パラサイトで操ったり拘束しないのは、単にドフラミンゴの趣味だろう。心を折って、動けなくする、そういう手口がお好きなようだから。けれど、ドフラミンゴは未だに私を甘く見ていた。少なくともこの時点では、私の動きを封じるということはしなかった。原作でヴィオラさんの動きを封じたように。

 

(だから足元すくわれるんだよ、兄上)

 

今でもまだ、私は母親と同じように体が弱く無力な女に見えるんだろうなぁ。『ナイフがまっすぐに突き立てられる』のを感じて、私は体を捻って避けた。避けて、そのまま体を回転させてヴィオラさんを拘束した。この時足をもつれさせることなくとっさに動けたのはヴェルゴやラオGから受けた訓練の成果だったとしか思えない。才能がない私の訓練と、不完全な覇気。それらは合わさることで、ようやく意味をなした。

 

「きゃあっ!?えっ、ルシー…!?」

 

「!!!なぜだ……なぜ避けられる!?お前の能力でそんな動きはできねェはずだ!!!」

 

「…訓練の成果だよ、兄上」

 

ドフラミンゴのそんな顔を、この世界に生まれてきて初めて見た。してやったり、という気持ちと、やってしまった、という気持ちがごちゃ混ぜになる。

 

『さァ皆さん!!!もう少しの辛抱だ!!!』

 

狭くなった鳥カゴの中、ギャッツの声が大きく響き渡った。

 

(ーーきた…!)

 

私の顎から汗の雫が垂れた。手のひらにも背中にも、じっとりと汗が滲んでいることだろう。ドクドクと空洞の胸が強く脈打つ。こんなに高揚したのは、前世でも今世でも初めてだった。だけど奇跡は何度も起こらない。次はもう攻撃を避けるなんて芸当は無理だろう。見聞色のあの奇妙な感覚も消えた。それでもーー。

 

『"スター"は蘇るっ!!!ーーあっこら何をする!ギャーッ!こ、ここっ、小人っ!?』

 

『みんな早く避難してくらさいっ!工場に逃げてくらさーいっ!』

 

『早く避難してくらさいーっ!あっ、キャーッ!エッチー!』

 

『ぶへぇっ!』

 

『キャーッ!ギャッツさんーっ!!?』

 

緊張感のカケラもないアナウンスに、思わず笑みがこぼれた。

 

(あの子たち、やってくれたんだ!)

 

たぶん、このアナウンスを聞いた人たちがちゃんと避難誘導に従ってくれるかというと、そんなことはないだろう。戸惑いながらもまだ鳥カゴの中心を目指そうとする人がほとんどだろう。だけど、もう、それでもいい。ここまで私は時間は稼げたんだから、これでもう心残りはない。ドフラミンゴに向かって、私は余裕ぶって笑って見せた。

 

「訓練をやめさせたり、勝手に結婚相手を決めたりして!もううんざりなのよ!私の人生を…私の価値を!あなたが決めないで!!!」

 

「ルシー!!!」

 

ドフラミンゴを煽る言葉を次々と言うギャッツに触発されてか、今までにない鋭さで、ビリリ、と覇王色の覇気がぶつけられる。ふっ、と意識が途切れかけた時、まるで映写機の映像が切り替わるように急に視界が変わった。

 

「っ!?」

 

これは…前にも一度経験したことがある。どさっと体が地面に叩きつけられた振動に驚いていると、荒く呼吸するローがちらりとこちらを見た。

 

「…ハァ……ハァ……ったく、あんた…何してんだ!やっぱ頭がどこかおかしいだろ!いつか絶対にオペしてやるからな!覚悟してろ!!!」

 

怒涛の勢いでまくしたてられた。覚悟してろ、の声音が本気すぎてドフラミンゴの覇気並みに怖かった。医者が他人の頭の心配とかガチすぎて本当に、本っっっ当に、怖いからやめて!幼少期に何日も昏睡しちゃうくらいの暴行受けてるし、頭の異常に関しては心当たりが多いんだから!

 

「トラ男、なんかおれのじーちゃんみてーだなァ…」

 

「あ、やっぱりガープさんってこんな感じなん………え、ルフィくん生きてる!?」

 

「ってオイ!!!勝手に殺すんじゃねえよ!」

 

失敬なやつだな!と声だけは威勢よく主人公が怒った。ふらつきながら立ち上がる姿を見ていると、ギャッツのカウントダウンはちょっと秒読みが早すぎたんじゃない?と思うほどだ。

 

(って、レベッカ何してんのー!!?)

 

原作と同じ光景が遠くに見えた。レベッカが剣を手に、縛り上げられるヴィオラさんに向かって歩み寄っている。一つ違うのは、レベッカとヴィオラさんの距離がそれなりに遠いということだけ。

 

「ロー、ヴィオラさんとレベッカもこっちへ!この国の王女様たちだよ!」

 

「っ、簡単に言うんじゃねェよ!麦わら屋!いけるか!?」

 

「ああ!頼む!!!」

 

「"シャンブルズ"!」

 

パッ、と遠くにいたヴィオラさんの姿が掻き消えて、代わりにルフィがドフラミンゴの前へと飛び出した。ぐいんと伸ばした腕が、レベッカの剣を地面へと叩き落としていた。

 

「……!?」

 

「ヴィオラさん!」

 

私の側に落とされたヴィオラさんは、突然のことに何が何だか分からない、と目を白黒させていた。けれど直後に隣に落ちてきたレベッカを、ヴィオラさんはとっさに抱きとめていた。原作にはなかった光景だ。ぎゅっと抱きしめ合った2人の姿が、なんだかとても羨ましかった。

 

「……もうすぐ、兄上が街を糸に変えるわ。空に飛び上がった兄上を地下港まで叩きつけたら、落ちる前にルフィくんを回収してあげて」

 

「ハァ…ハァ……分かった…!」

 

空に、大きな蜘蛛の巣がかかる。逃がさない、逃すものか、そんな執念を感じさせるようなドフラミンゴの糸がーー大きな、とても大きな拳に、打ち砕かれた。

 

「………あぁ……」

 

知らず知らず、唇から息が漏れた。燃えて輝いて燃え尽きて、やがては流れ落ちる星のように、ピンクの塊が地を抉り地下深くへと堕ちる。

こうして、ドフラミンゴの支配は幕を閉じた。


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