綺麗なまま死ねない【本編完結】   作:シーシャ

13 / 125
オリキャラ(老医師)が出ます


13.せめて早送りができたなら

 

 

ドフラミンゴは海軍の船に乗っていた一番偉い人を人質に、船を出させようとした。けれどその人が部下に自分を見捨ててこの子どもを殺せと言ったから、ドフラミンゴは容赦なく自害させた、次に偉い人にも同じことをしたら、その人は我が身かわいさに船を出すことを了承した。たぶん天竜人としてまだ現役の親戚がいると、ドンキホーテの名前を名乗ったことが大きいと思う。下手に天竜人の親戚を殺して何が起こるか分からないと怯えたのかもしれない。…だって、海軍は街で私たちが受けた暴行のことをまだ知らないのだから。

 

「さて…ルシー、足を診せろ」

 

「足?」

 

「コイツらに治療させるんだ」

 

「ああ、そういう。でもドフィ兄上もでしょ?」

 

「あ?おれは治った」

 

「いやいや、そんなまさか。……おいうそだろ」

 

治ってた。いや、僅かに赤みが残っているけれど、ほとんど腫れが引いて治っていた。昨日の今日で?あっ、違う、私昏睡してたから数日前か。いやいや、それにしても数日でそんな治る?さすがはワンピース世界の超人、恐ろしい限りである。

 

「すみません、診てください」

 

「あ、ああ…構わんよ」

 

私が頭を下げると、船医長を名乗った老医師は戸惑った様子で頷いた。そんな驚かなくても、天竜人だって頭下げたりするよ…元だけど。でもその前にロシナンテを休ませてあげようと思った。極度のストレスで限界だろうから。

 

「すみません、そこのベッド借ります。…ロシー、おいで」

 

「………」

 

「ちょっと休もう。さあ、横になって」

 

「……ルシー…」

 

「大丈夫…大丈夫…何も、怖いことはないから…」

 

血と肉片がこべりついた靴を脱がせて布団の中に押し込み、背中を軽く叩いて子守歌を歌ってあげた。私が前世持ちの人間だと証明するための歌を、お母さんに歌ってもらった時のように、優しく、ゆったりと。前髪を上げてちゃんと眠ったことを確認して、私は足の火傷を診てもらった。包帯を外して火傷の重症度を確認した後、老医師は化け物を見るような目で私を見て言った。

 

「……よく、生きているものだ」

 

「私もそう思います。あと、脳に障害が出たのか、神経が切断されたのか分からないんですけど、触覚と痛覚と温感がなくなりました。あとは空腹も」

 

「そいつはまたえらいこった…!しかしなぁ、脳となると私は専門外だ。専門の病院で診てもらうべきだろうが…」

 

「…まあ、無理ですね。じゃあ、足だけでいいです」

 

老医師は難しい顔をして唸りながら足を泡でそっと洗って、薬を塗りつけ包帯を巻いてくれた。時々私の顔をチラチラ見て、痛さで泣き出したりしないのを確認してはため息を吐いていた。

 

(この人は、使えるかもしれない)

 

まだ大海賊時代も迎えていない年代の海軍の船医とはいえ、割と大きな船の船医長になるまで勤め上げたのだから、ある程度は顔がきくはず。

 

「…あの、あなたにお願いがあります」

 

「何かね?」

 

せっかく海軍の船にいるのだから、このまま海軍に保護してもらうのが一番だと思ったのだ。もちろん、私とロシナンテの2人を。…ドフラミンゴは、保護を願い出るには、海兵を殺しすぎている。きっと速攻で懸賞金を付けられるのがオチだ。ドフラミンゴも保護してもらえるかも、なんてことはありえない。

 

「海軍の偉い人にセンゴクという名前の方がいるかと思います。その人に会わせてください」

 

「センゴク…センゴク中将か?」

 

「おかきをよく食べてると思います」

 

「ならば中将のことだな。しかし、一体何の用だね?」

 

「兄と私を保護してもらいたいんです」

 

「なにィ!!?」

 

目玉が飛び出て顎が外れそうなほど仰天されてしまった。

 

「し、しかしだね、君たちはマリージョアに行くのだろう?」

 

「はい。でも、きっと天竜人には戻れないんです。戻れたとしても私とそこにいる兄に天竜人の生活はできません。だから、私たちを保護してもらいたいんです。海兵として研鑽します。だから…!」

 

話すほどに、老医師の目が穏やかになっていく。静かに凪いだ海のように。私は、自分が久しぶりに敬語で喋っていることに気が付いた。目の前にいるこの人は前世の年齢を加えたとしても私よりずっと年上なのだ、そう気付いた。久しぶりに心が落ち着いていく。生まれてから今までずっと、私の心は周囲から弱火でじっくりと嬲られるように、常時荒れていたのだ。冷静になって、自分が突拍子もないことを初対面の人に言っていると気付いた。

 

「すまないが、私の一存ではそれは決められない」

 

「そう、ですか…」

 

そりゃまあ当然だよなぁ。なら、ロシナンテが自然とセンゴクさんに会うまで待つしかないのか。

 

「…だが、連絡はしてみよう」

 

「へっ!?」

 

「言っておくが、期待はするんじゃないぞ」

 

「あ、はい!ありがとうございます!」

 

まさかダメ元ででも連絡をしてくれるだなんて思いもしなかった。あまりに嬉しくて頭を下げると、老医師は困ったように笑って言った。

 

「キミ、本当に天竜人の子かね?」

 

「あはは……まあ、一応…?」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。