完全なるギャグ
もしセンゴクさんに保護されて養子扱いで万年三等兵の海兵になっていたら
「へ?私が?お見合い?ですか?」
朝食の席で突然保護者にそんな話を出されて、頭の中いっぱいに疑問符が飛び交った。お見合い?なにそれおいしいの?いや、もしかしたらとんでもなくクソまずいものかもだけど。え、私がお見合い?マジで言ってんの?最近家に帰れないくらいに仕事が忙しすぎてとうとう頭沸いちゃった?
「ここのところ家にも帰れず寂しい思いをさせただろうと思ってな。だが同じ寂しさならわしを待つよりも夫を待つ方がいいだろう?」
「え、そんなの気にしてたの?今さら?てか兄上は何て?」
「…ロシナンテにはまだ言っとらん」
気まずげにスッ…と目をそらしたセンゴクさんに胡乱な目を向けてしまった。おいおい…身内に内緒で見合い話進める気だったわけ?張り飛ばすぞ?けれど気を使ってくれているということは分かったし、あと個人的な興味でお相手が誰かものすごーく気になったので聞いてみることにした。
「…で、誰か候補でもいるんですか?」
「ああ。こいつらなんだが」
複数かよ。ってか釣書多っ!どこから出したと悲鳴が出るほど、ごっそりと束で渡された。ひーふーみー……あっ、14人もいる…。ごはんを口に入れながら行儀が悪いぞとたしなめる声を無視して1枚目の表紙をぺらりとめくりーーーむせた。
「ゴッフ!!?」
「どうした!?」
「ど、どど、どうしたもこうしたも…!ちょ、おとーさん!これ!この釣書!本人たちから許可取ってもらったんでしょうね!?」
「?ああ。義娘の見合い相手にどうだと聞いたら自分たちから進んで持ってきたぞ」
「…マジでぇええ?うそだろ…いや、ぜってー嘘だろ…」
ざっと目を通して、いよいよ本格的にめまいがしてきた。なんでこんな錚々たる面子のちょっと気取った写真ばかり…。サカズキさんに始まり、クザンさん、ボルサリーノさん、キャンサーさん、ストロベリーさん、ラクロワさん…モモンガさんまでいる…。あっ、ヴェルゴ!?ちょ、これドフィに私とロシーのことバレてね!?
「おおおとーさんおとーさん!」
魔王が!魔王が追いかけてくる!
「騒がしいやつだな…。良い男でもいたのか?」
「良い男揃いすぎて恐れ多いわ!…じゃなくて!こ、これ…みなさん、義娘が私って…ご存知なの?」
「?ああ、お前の釣書と引き換えにしたからな」
詰んだ。私とロシーの居場所、ドフィにバレた。これ原作ブレイクすんじゃん。詰んだ…。
「何勝手に義娘の釣書配ってんだこのクソおかき親父ィィィィ!!!」
「すまなかった!落ち着け!話せばわかる!」
「問答無用じゃー!!!」
包丁はさすがにヤバイので、まな板と漬物石を投げつけてやった。顎にクリティカルヒットしてぐったりしたので、迎えにきた部下に適当に渡しておいた。ざまあぁぁぁ!……アッ、キャンサーさんチーッス。あっ、ちょ、頬染めないで。まだあなたと見合いするって決めたわけじゃないから!
「……私が万年三等兵ってみなさん知ってるだろうに…なんでオッケーしたのかね…」
特に後の三大将や中将たち…訓練でボロボロにされる私とか何年も何年も見てるだろうに。ハッキリ言って訓練中は女捨ててるから。首だけになっても食らいついてやろうと汗だく泥まみれで獣みたいに唸って海楼石の鞭と銃を振り回してるから。そんなの相手によくもまあ…。
「……でも、こうやって見るとやっぱイケメンよね」
全員しゃちほこばってるのは置いといて、迫力があるというか、貫禄があるというか。てかサカズキさんの帽子オフとか珍しい。…海軍記録に残すための写真を使いまわしたのではなく、釣書のためにわざわざ撮影したのだろう。クザンさんも見たことのない新しそうなスーツでキリッとした顔をしているし、ボルサリーノさんはいつもより穏やかで優しそうに見えるし。
「そういえば、最近になってやたらと話しかけられたりお菓子とか花とかくれたりしてたな…」
サカズキさんも忙しいのに能力無しで稽古つけてくれたし、クザンさんは自転車の後ろに乗せて海の上に連れて行ってくれたし、ボルサリーノさんは流行りのお菓子を腕いっぱいにくれたし、他の人たちも花だとか昼食だとか、不自然なほどなんやかんやと……。…ちょっと待て、いきなりこんなに釣書が集まるわけがない。もしかしなくてもこの釣書、前々から集めてた…?いつからだ…!?
「おはようございまーす!宅配便でーす!」
「あっ、はーい」
「ドンキホーテ・ドゥルシネーアさん宛てです」
「私?あっ、ご苦労様です」
巨大な重い段ボール箱を何とか引きずって部屋に入れて、何か注文していただろうかと開けて…絶句した。中に入っていたのは赤、青、黄、それぞれのカラーのアクセントが入った淡い色の着物たちだったのだ。しかも重厚な桐箱に入れられて。つまり、センゴクさんの狙いは私とあの未来の三大将の誰かとの見合いだと。
(あ、あのおかきオヤジ〜っっ!!!)
企みやがって、と怒りが湧いたものの着物に罪はない。シワになるとダメだからせめて吊るそうと桐箱から着物を取り出した。刺繍で紅色と蘇芳と桃色の桜が舞い散る柄の白い着物…ヒェッ!よく見たら元々白い生地に白銀で幾何学模様が描かれてる!手描き!?…を持ち上げ、大きなため息を吐きながら衣紋掛けに吊るした。
「可愛い…可愛いけど袖を通したら負けな気がする…!」
次は素朴で可愛い……ち、違う!白い生地を下から紺、藍、青、空色、瓶覗とグラデーションになるよう染めた…うわっ、これ総絞りだ!細かっ!しかも袖とか裾にさり気なく雪の結晶の柄の染めをしてる!?
(これはクザンさん向けか!キャラをイメージした着物とか…オーダーメイドにもほどがあるだろ!?)
めまいがしつつ最後に取り出した着物は黒い生地に白と黄緑で草の柄を描いて、金糸の刺繍をふんだんに使って蛍の柄を施したずっしり重く華やかなもの……ウヒッ!裏地が黄色!金糸で縞柄にしてる!これ絶対ボルサリーノさんのスーツ意識してる!
(露骨な裏地……まさか!?)
他2つの着物の裏地も見てみると、サカズキさんをイメージした着物の裏地は紅色の生地の端に白い薔薇一輪だけの染め、クザンさんイメージの着物の裏地は青地に銀糸で可愛い雪の結晶が降り落ちるように刺繍されていた。
「い、一着幾らなの…?」
腰が抜けそうだ。帯もそれぞれ赤青黄色の絢爛豪華なオーダーメイド。前世で成人式の着物を探すときにぼんやりと着物の種類を知った程度の知識でさえ、腎臓売るくらいじゃ帯一枚にも手が届かない額のものだと分かる。包装紙を握りしめて呆然としていたら、ガラガラと玄関の戸が開けられる音が聞こえた。
「ルシー、ただいま」
「ぎゃああああ!!!兄上おかえりなさい帰ってきちゃダメー!!!」
玄関までダッシュしてロシナンテの背中を外に押し出して後ろ手に戸を閉めた。せ、セーフ!!!あんな着物見られたら一発で見合いだとバレる……あっ!釣書どこに置いたっけ!?
「は…?どうしたんだ?家に入れてくれないのか…?おれ、何かしたか?それとも、ルシー…おれのこと嫌いになったのか…?」
「ち、違うんだけどさああああ!!!」
メソメソしだしたロシナンテを慰めつつ、何で私がこんなに焦らなくてはならないのかとぐったりとしてしまった。
「あのおかきオヤジ…ぜってーぶっとばす!」
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