「妹でなく姉として生まれていたら」の天竜人続行ルートです。
両親への批判過多です。ご注意を。
野口八緒さん、リクエストありがとうございました。
「父上、母上。私、嫌だからね。絶対ここから出て行かないから!」
ドンキホーテ・ドゥルシネーア、12歳。現在猛烈に反抗期中。頭の中がお花畑な両親を説得するも敗北。泣く泣く天竜人のチップを………
「渡しません!」
「る、ルシー!何を言ってるんだ!?」
「ルシー、あなたもちゃんと分かってくれていたじゃない…!」
「確かに『分かった』って言った。父上と母上に何を言っても無駄だと『分かった』ってね。…チップのない父上と母上はもうただの下々民です。私に命令することは、できない!」
強い悲しさを感じながらもそう宣言すると、見守っていた海兵たちが銃口を父親と母親に向けた。息を飲んだ両親を庇うようにドフラミンゴが怒鳴って、ロシナンテが私にしがみついてきた。
「あ、姉上やめてーっ!」
「姉上!何をするんだえ!」
青ざめた親にバカだなと、小さな弟たちを可哀想だなと、そう思って私は何度もした質問をもう一度した。
「…まだ、下々民の生活をしたい?」
「……私たちは、同じ人間なのだよ、ルシー」
悲しみをたたえた目をしている両親を見ていると、救いようのなさに吐き気がした。同じ人間?同じ人間だって?それならどうして命の重さに違いがあるのよ。
「ドフラミンゴ、ロシナンテ。あなたたちは戻ってきなさい」
「っ!嫌だえ!こんなことをする姉上のところになど、戻らないえ!」
「ぼ、ぼく…母上たちといたい…!ねえ、ぼく、姉上もいっしょがいいよ…っ!」
反発心で怒鳴りかえしたドフラミンゴと、親が好きだからと返したロシナンテ。どちらもが、可哀想でしかたがなかった。自分の未来とか、そういうことをちゃんと考えて出した答えなのかと、問い詰めてやりたいぐらいに。でも、私が懇々と諭した所で意味はないのだろう。『身をもって』体験しないと、理解できないはずだ。だって彼らは、愚かなのだから。
「そう。なら、好きにしたら」
「ルシー……」
とうとう涙を零して私の名前を呼んだ母親に、少しばかり思うことがあった。前世の知識がある私には、彼女が近い将来死んでしまうと…分かっていたから。
「………電伝虫、回線は切らないから。助けが必要になったら連絡してきたらいいよ」
「姉上…?」
潤んだ目で不思議そうに見上げてくるロシナンテの頭を撫でた。可愛い素直な子なのに。可哀想に。遥か高みから『家族』たちを見下して、心の底から哀れんだ。
「『下々民ごっこ』なんてあなたたちには無理だと、そこでじっくり思い知ればいい」
私の中に残る僅かな罪悪感ごと、そう吐き捨てた。縋るロシナンテの手を払い落として、タラップを登る。私の名前を呼ぶ家族を視界に入れないで。
あれから2年が経った。周囲から異常だと気味悪がられつつも、前世の知識をフル活用して一家の主人としての立場を確立させた。後ろ盾をしてくれるミョスガルド聖の一家なんかは、ドンキホーテ一族から裏切り者が出たことをかき消すように、優秀な人材を輩出したと私をやたらと持ち上げてきてるけど。
(まあ、お互い上手く使い合えばいいよね)
天竜人らしく奴隷を買って、天竜人らしく散財してればいいだけ。仲間に対する周りの目は案外甘いものだし。そんな生活をしていたある日、今までインテリアとなっていた電伝虫が着信を知らせてきた。涙ながらに暮らしが辛い、迫害されて殺されてしまう、なんて切々と訴えてきた。
「おかしらー。これから地上に行くけど、どうする?解放したげよっか?」
「いや、まだ全くマリージョア内部を把握できていないからな。あと数年は世話になるぞ」
「オッケー。聖地襲いに来るときはちゃんと教えてよー?」
「おう」
それより何でおれがおかしらなんだ、とぶつくさ言われたけどムシムシ。未来じゃ御頭になるんだからちょっと先取りするくらいいいでしょー。魚人の奴隷なのに反骨精神で暴れていて、食事抜き鞭打ちはもちろん、体を焼かれたり、銃の試し撃ち、刀の試し斬り、皮剥ぎ、同じ奴隷の男たちに犯さ…あっ、これ以上はR18になるか。とにかくすんごいことをされてたので、私がもらってきたのだ。まさかフィッシャー・タイガーがこの時代からマリージョアにいるとは思わなかったからめちゃくちゃ驚いたけど。忌々しげに名乗られた時に、たぶん目を剥いて3度見はしてたと思う。
「それより…普通のやつはお前が異端だと知らん。護衛はつけるだろうが…気をつけろよ」
「はいはーい」
「返事は一度だ!」
「はぁーいー!……私、一応天竜人なんだけどなぁ…」
なんかもう…親より親みたいだ…。だって今は現実を見て夢から覚めたであろう親たちだけど、あの人たちは自分のエゴを押し付けて善行をしたと満足感に浸るだけの人たちだったんだもの。私はアレを親とは呼びたくない。
「あっ、ドゥルシネーア宮!お出かけですか?表の桜が見頃ですよー!」
「ドゥルシネーア宮、お菓子焼けましたよ!自信作です!」
「ああちょっとアンタ!襟が曲がってるじゃないか!まったく、手のかかる子だねえ!」
先月他の天竜人から引き取った手長族のお姉さんが遠くからニュッと手を伸ばして襟を正してきた。
「あんたらは私のカーチャンか!」
思わずツッコミを入れると、周りの奴隷たちからゲラゲラ笑われてしまった。なんでうちの奴隷たちってこうも我が強いんだ…!
「ドゥルシネーア宮!海軍本部より護衛が到着いたしました!」
「ちゃんと指定した人たちが来てくれた?」
「はっ!」
海兵の後ろに並ぶ面々を確かめて、よし、と内心ガッツポーズをした。彼らならまず間違いはありえない。
「うん。ご苦労さまです」
緊張してガッチガチに強張ってる海兵を労って、片目を潰された奴隷の子からカプセルを受け取った。ありがとう、と言うとくすぐったそうに首をすくめて笑った。こんな可愛い子を売り飛ばす親がいるなんて、世も末だなと思う。
「私これから北の海に行くけど、誰か一緒に行きたい人いるー?」
「ドゥルシネーア宮、私一回家に帰りたいですー」
「あ、おれも!でもまだ金溜まってねェから来月くらいに迎えに来てくれよ」
「もう一回奴隷市場に出品されて来たらァ?」
「違いねェ!」
ゲラゲラ笑ってブラックジョークを飛ばしてる奴隷たちを、年若い海兵は戸惑った目で見ていた。
「あんたたち、私の奴隷になって不幸せ?」
「「「まさか!」」」
私は親のようにはならない。自分のエゴを押し付けて善行をしたと満足感に浸るだけの天竜人になど、ならない。海兵の後ろで面白そうにこっちを見ているガープと厳しい顔で睨んでくるサカズキに、それじゃあ行きましょうか、と声をかけた。