綺麗なまま死ねない【本編完結】   作:シーシャ

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活動報告よりリクエストをいただきました。
「妹でなく姉として生まれていたら」の天竜人続行ルート4です。
「ガープ、レイリーとの関わり」です。

※注意※
・海兵ドフラミンゴ出してしまいました…

天然水さん、リクエストありがとうございました。



続続続・もしドンキホーテ家の長子に生まれていたら

 

テゾーロさんとステラさんを探してまとめて引き取って、2人の背中に焼き付けられた焼印の手当をしてあげた。ステラさんはひどく弱っていたけれど、テゾーロさんが看病しているし優秀な医師もいるから大丈夫だろう。奴隷たちに留守を預けて、私は海軍の船に乗り込んだ。定期的にフレバンスの医師団の視察に行くようにしているのだ。

 

(ミョスガルド聖一家はフレバンスに近付くなと言ってたけど。あれ、露骨だよな)

 

フレバンスの話題を出すだけであんな態度をしているなんて、あそこに毒があると公言しているようなものだ。いや、知っている私だからこその違和感か。

 

(そもそも上質な珀鉛が無害でただ美しいだけなら、マリージョアが珀鉛で彩られないわけがないんだし)

 

白い町は本当に美しかった…今は閉鎖しちゃったけど。それでも害があることは公共の場で言っていないから、よく裏稼業者が珀鉛を採掘しに来るらしい。供給があるということは、つまりは需要があるということに他ならない。愚かだと思う。珀鉛を買い求める人たちは、なぜフレバンスの人たちが急に珀鉛から距離を置くようになったのか、知ろうともしないのだから。供給を担う裏稼業者たちはその辺りのことを知った上で珀鉛を売ったりしてそうだけど。まあその辺は海軍がいつかまとめて捕縛してくれるだろう。ああ、不正な利益がフレバンス住人に行き渡るように手配してもらわないと。

 

「それではガープさん、本日もよろしくお願いします」

 

黒髪の似合うガープさんに頭を下げると、おう、と威勢のいい返事が返ってきた。

 

「今日は…あら、ドフィ?」

 

10代半ばともあってかなり背の伸びた弟が海兵たちの中に並んでいた。サカズキさんはいないんだろうかと見回すも、姿が見えない。おや?もしかしてドフィのお目付役が嫌になった?

 

「サカズキなら今日は私用でな。オハラに向かっておる」

 

「オハラ…ああ、バスターコールですか」

 

「相変わらず妙によく知っとるのう」

 

「恐れ入ります」

 

なるほど、オハラが地図から消えるのか。

 

(ドフィを連れて行かないのは…万が一にも国宝のことや天竜人の成り立ちを知られないようにするためか)

 

自分の持つ情報に価値があると確信を持ったら、ドフラミンゴはどんなことをしだすか分からない。『最悪』の事態も想定される。サカズキさんはそう考えたのだろう。賢明な判断だ。

 

「行きましょう」

 

「挨拶せんでいいのか?」

 

「今のあの子はただの海兵です。必要ありません」

 

「なんじゃ。つまらんのう」

 

つまらなくて結構。さあさあさっさと行きましょう、とガープさんを急かして出航した3日目。事件が起きた。ぐらっと大きく揺れた船と、海兵たちの大声が深夜の軍艦に響き渡る。

 

「…何?」

 

急に天候が荒れたというわけではなさそうだ。海楼石を敷き詰めた船だしガープさんもいる…海獣でもなく、海王類でもないだろう。まさか人でもあるまい。海軍の軍艦相手に喧嘩売るようなバカはまずいない。

 

(…避難船に移動した方がいいかな)

 

避難用にと軍艦にはシャボンでコーティングされた潜水艦を積んでいる。怯える侍女たちに先に避難するよう命じた。危ないからと必死になって止めてくる彼女たちに再度命令して、ガープさんを探しに出た。

 

「ガープさん!ガープさん、どこにーー」

 

私の予想は大外れだったらしい。深夜の美しい星空の下、私の乗る軍艦は、軍艦に比べれば小さな船と対立していた。それも、海王類を間に挟んで。ガープさんは海兵たちに大砲の弾を用意させて、次々と打ち込んでいる。対する船からも斬撃のようなものなどが飛んできて、空中で大砲の弾を正確に爆散ささている。間に挟まれた海王類も瞬く間に傷だらけになって、とうとうその巨体を海に沈めてしまった。その衝撃は、凄まじかった。

 

「っ、ひゃ!?」

 

軍艦を海面から大きく跳ねさせるほどに。ーー私の体が軽く飛ばされて海に落ちるほどに。

 

「っ!!!姉上!!!」

 

声変わりしたドフラミンゴの声が、私を呼んだ。あの子はまだ、私を姉と呼ぶのか。

 

(死ぬ…!)

 

慣れない浮遊感と、内臓をキュッと持ち上げられるような感覚に死を覚悟した。のに。

 

「おっと!」

 

(ひっ!?)

 

背中を何かに包まれて、浮遊感が一度止まった。夜の海水の冷たさを覚悟したのに、体を包み込むようにした何かはとてもあたたかい。すぐあとにまた浮遊感が襲ってきて、自分を包む何かに縋るようにくっついた。浮遊感はすぐに終わって、地面に到達した時には、とん、と軽い音がした。人が落ちたにしては、あまりに軽い衝撃に何事かと目を回してしまった。

 

「ふふ。怪我はないかね?お嬢さん」

 

深みのあるイイ声が、すぐそばから降ってきた。ふわ、と香る芳醇な酒の匂いと海風の染み込んだ匂いが、私を包む熱いほどの温度に乗って香った。

 

(人…?海兵?)

 

酒の匂いがするということは休息中の海兵か。私を名前で呼ばないということは侍女の誰かとでも間違っているのか。そんなことを思いながら顔を上げて、礼を言おうとした。

 

「あ、はい、ありがとう、ござい…ます…っ!?」

 

「なに、礼には及ばんよ。半分はこちらの責でもあるからね」

 

満点の星空を背に笑顔を見せるのは、あのシルバーズ・レイリーだった。特徴的な髭の形だから、間違えようもない。身を硬くした私を、笑みを浮かべた眼鏡の奥から検分しているのが分かる。

 

(やばい…まずい!天竜人だとバレたら海に投げ出される!?)

 

冷静に考えれば、レイリーさんがそんなことをするキャラではないと分かるのに、その時の私は命の危険を無駄に感じてそこまで頭が回らなかった。

 

「た、助けていただき、ありがとうございました。あの、下ろしていただけ…ぎゃんっ!?」

 

ビシュッ、と空を切る音がして、私の体に再び浮遊感が襲ってきた。何事!?悲鳴をあげる私を宥めるようにレイリーさんが背を撫でてきたけど、いや、そうじゃない、それは求めてない!私を!下ろして!

 

「テメェ…!姉上を離せ!」

 

「ほう?海兵の姉か。私はてっきり君が天竜人だと思ったのだがね」

 

(バレテーラ!)

 

殺される?海に投げられる?身を硬くした私を見て、レイリーさんが楽しげに笑った。

 

「お嬢さん。君の名前を聞かせてもらいたいのだが」

 

「いい言えません言えません!」

 

「ふむ…。ではこのまま連れて帰るとしようか」

 

「こっ、困りますーっ!」

 

「はっはっは」

 

「下賎の身で姉上に近付くなっ!」

 

笑い事じゃねえええ!!!海王類の死骸の上を動き回ってドフラミンゴの攻撃を避けつつ、レイリーさんは着々とオーロジャクソン号に近付いていく。これ、まさかの誘拐される感じ!?血の気が引いてきた私の姿を目視できたのか、軍艦から海兵たちが叫んでいた。

 

「ガープ中将落ち着いてくださいーっ!大砲投げちゃダメです!!!」

 

「ドゥルシネーア宮に当たったらどうするんですか!!?」

 

「レイリー!!!その手を離さんかッ!!!」

 

(名前呼ばないでーー!!!)

 

詰んだ。顔を覆ってさめざめと泣く私を、レイリーさんはじっと見た。こ、殺される?

 

「なるほど。君が変わり者の天竜人、ドンキホーテ・ドゥルシネーアか。なんだ、普通のお嬢さんじゃないか」

 

「へ?」

 

納得がいった、と言わんばかりにレイリーさんが頷いた。そして私を海王類の上に下ろして、頭を撫でてきた。え、どういうこと?

 

「君は知らないだろうが、君からの縁で救われた者は多い。私もその1人でね」

 

「どういうーー」

 

「姉上!」

 

「おっと」

 

追いついたドフラミンゴに向けて私を体を押して、レイリーさんは船へと身を翻した。ふらついた体をドフラミンゴに支えられながら、不安定な足場の上で私は目を白黒させるしかできなかった。

 

「ではな、我らが救いの女神。またどこかで会おう」

 

「行くぞ、レイリー!」

 

「ああ。待たせて悪かったな」

 

そんなやりとりをして、オーロジャクソン号は離れていった。ガープさんが打ち込む大砲の弾を、ことごとく無効化させながら。

 

(なんか…嵐みたいな人だったな)

 

彼が嵐となれば、ますます私の予想が大外れだ。ああ、避難船に乗った侍女たちは無事だろうか。それにしても…。

 

「…救いの女神、だって」

 

なんとも、凄まじい名前で呼ばれたものだ。しかしレイリーさんをも助けるってどんな?

 

(…もしかして、御頭?)

 

レイリーさんが助けられたというとハチの存在が思いつく。御頭がまだ年若いハチに何か入れ知恵でもしたんだろうか。そのハチにレイリーさんが助けられた?…まさか、そんな偶然あるわけ…ないよね?悶々と考え込む私に、ドフラミンゴが話しかけてきた。

 

「姉上……ドゥルシネーア宮、艦に戻るぞ」

 

強張る仕草や声音に、ちょっと気が緩んだ。あれだけ不遜な態度がデフォだった弟の鼻を、サカズキさんはよくもここまでへし折ってくれたものだ。また今度お礼をしないと。この前と同じように盆栽とバラの花でいいだろうか。一級品の剪定道具にした方がいいだろうか。

 

「…ええ。私をあそこに連れて行って、ドフィ」

 

昔の愛称で呼ばれて、ドフラミンゴの口元が驚きで一瞬緩んだ。それを引き締め直して、ドフラミンゴは私を軍艦へと連れ帰ってくれた。

 


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