16.こんにちは、新しい家族
ゴミ捨て場のあばら家には父親の死体(首から下)が放置状態ということで、そんな家に戻りたいとも思えず、結局私はドフラミンゴに手を引かれて未来の幹部4人のアジトに移住することになった。もちろん一番足が遅いのは私なので、遅いペースで手を引くドフラミンゴの足並みに合わせて彼らもゆっくり付き添って歩いてくれた。時々鼻水を垂らしつつトレーボルが顔をニヤニヤと覗き込んできたり、おでこに絆創膏をつけたピーカが心配そうに振り返ってきたり、ディアマンテが野ウサギを串刺しにして夕飯にしようと言ったりしていた。でもなぜかそれらに構うような余裕がなかった。なんだかだるいし、しんどい気がする。足取りが重いというか、頑張っても早く歩けない。息がすぐに切れる。ぜえぜえと息を切らして必死について行こうとする私を見かねてか、頬に焼きそばパンをくっつけたヴェルゴが仕方なさそうにもう片方の手を握って引っ張ってくれた。
「ゼェ……ヴェルゴ、さん……あり、がとう…ございま……ゲホッゲホ…!」
「…大丈夫か?」
「…ぁい……ゼェ……ゼェ…」
おお、優しい。未来でコラさんをボコボコにしてローにぶった切られる人物と同じには見えない。引っ張ると私が転ぶと思ったのか、私の歩みに合わせてヴェルゴもドフラミンゴと同じく遅いペースで歩いてくれた。手の大きさとかは全然違ったけれど、ロシナンテの手を思い出してちょっと目頭が熱くなった。別れたばかりだというのに、我が心の天使、ロシナンテが早くも恋しい…。
「ゼェ……ゼェ……」
なんだか視界がぐるぐると回っている気がする。なんだろう、気のせいかもしれないし、ガチで気絶一歩手前な気もする。今ここに布団があったら頭からダイブする。絶対にする。
「あ"ーーー……だっっ……っるい……ゲホッ…一生…ゼェ……寝て、たい…ゼェ…」
「オイオイ、ドフィ…本当にコイツは妹なのか?お前の妹だってのにグダグダじゃねェか」
「…珍しいな」
遠くでディアマンテが私をディスる声が聞こえた。おいちょっとドフラミンゴ、ちょっとは否定しろよ。お前の妹がグダグダとか言われてんだぞ。気持ち的には元気いっぱいなので内心で反抗していたら、ドフラミンゴの手のひらがぴたりと額に当てられた。そして口をへの字に曲げたドフラミンゴが突然大声を出してきた。
「熱が出てる…!ルシー、乗れ!オイおまえら!アジトに寝床と水、あと医者も用意しとけ!」
「熱?ああ、分かった。なら俺は先に行ってるぞ」
ドフラミンゴが私の前にしゃがみ込んだ。体力切れでダウンした私をいつものように背負って連れて行こうとしているのだ。ディアマンテはウサギの耳を掴んだまま、街の方へと走って行った。ガラが悪くて確実にカタギでない大男が、自分の兄である子どもの命令を聞いて行動している様は、なんとも言えない奇妙さがあった。
「ドフィ〜、王たるもの軽々しく膝をつかないでくれェ」
「うるせェ!黙ってろ!」
「ドフィ〜…」
トレーボルが眉を顰めてドフラミンゴの行動をたしなめた。けれどドフラミンゴの一喝でトレーボルはすごすごと引き下がり、今度は気遣うような顔で私の顔を覗き込んできた。そこで、こいつのせいで!と私を睨んだりしない辺り、ドフィのことを心底大切に思っているのだと伺えた。役立たずと分かっていても王にしようと決めた子どもの妹を蔑ろにはしないとか、なかなかできることじゃない。ヴェルゴに肩を支えられながら、ドフラミンゴの背中に乗ろうとした時、ふと大きな影が隣にしゃがんできた。
「おいお前、俺の背中に乗れ…!」
「へ…?」
奇妙なソプラノボイスが私に向けて発せられたのは自己紹介以来2回目だ。…元気だったら笑ってたかもしれない。
「ん〜?そうだなァ。べっへへへ…それならいいだろう?ドフィ」
「……あァ…」
わざわざドフラミンゴが背負う必要はないとトレーボルが笑った。確かに、ガタイ的にもドフラミンゴよりもピーカに背負ってもらうほうがいいだろう。あまりドフラミンゴに甘えていると、そのうち彼らに見殺しにされそうだ。ヴェルゴに押し上げてもらいながらピーカの背中に…背中っていうかむしろ肩?に乗って首に腕を回した。えっ首回り太…腕が回りきらない…だと…?末恐ろしい子どももいたものだ、と内心ガクブルした。後から聞いたら11歳らしい。マジかよ…どんだけ発育いいんだ…。
「ピーカさん……ゼェ…ありが、と…ゲホッ……」
「ルシー、もう喋るな」
ご迷惑をおかけします、と言った方がよかっただろうか。でも口を開くなとドフラミンゴに制されてしまったし。とりとめもなく考える私の顔を、ピーカやヴェルゴは不思議な生き物を見るような顔で見ていた。ニヤニヤしてるトレーボルは知らん。鼻水垂らしながら顔近付けんな。
「…寝てろ。ちょっと揺れるぞ」
「…はい……」
ピーカの背中は広かった。大きな背中と走る振動から、2年前の放火から逃げる時に背負ってくれた父親の背中を思い出した。そう思えばとても遠い所へ来てしまったものだ。