綺麗なまま死ねない【本編完結】   作:シーシャ

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17.みんなで一緒にごはんを食べよう

 

 

未来の幹部4人は身内に引き入れた者には実に甘かった。…というか、ドフラミンゴの妹である私に対して甘かった。ちょっと咳き込めば夜中でも医者を銃で脅して連れてきたし、花屋の花を綺麗だなと言えば次の日には部屋中に花が溢れかえっていた。どこにそんな金が……アッ、圧倒的なパワー(銃)のおかげですね、ハイ。そうそう花屋といえば、2年ぶりに自由に街を歩くことができるようになった。あまりに人里離れたゴミ捨て場での仙人暮らしが板につきすぎていたので、命の危険に怯えず好きに出歩けるようになったことがここ数年で一番嬉しかった。二番目に嬉しかったのはお風呂に入って清潔な服を着れたことだ。ああ、臭くなくてダニとかで痒くないって素晴らしい!…まあ、外出に関しては幹部二人に左右から挟まれて、という制限はあるんだけど。

 

「おいルシー、何か食べたいものはあるか?そうだな…あァ、あそこのパンはどうだ?焼きたてらしいぞ」

 

「えっと…私は大丈夫」

 

「オイ!遠慮すんじゃねェ!」

 

4人が4人とも、私の名前をちゃんと呼ぶようになった。それと同時に、私にも名前を呼べと強制してきた。彼らの理論で言うと、私たちは対等なのだそうだ。だから敬語もさん付けもしなくていい、と言われた。……年上のヴェルゴを呼び捨てなんてしたら原作みたいにボコられて殺されんじゃないの?と思ったけれど、本人がいいと言ったんだから仕方がない。でもって、彼らの個性もなんとなく掴めてきた。例えば、ディアマンテは自分の言動を肯定されると喜ぶ。褒めて伸ばして欲しいタイプらしい。

 

「あーっと…えっと、でもね、ドフィたちに買って帰ってあげたいなぁ」

 

「ウハハハハ!そりゃァいい!とびきり美味そうなやつを選ぶとしよう!」

 

ディアマンテがゲラゲラと笑いながら剣を抜いてパン屋に向かって行った。あの人…物を買うって意味分かってんのか…?そういえば驚くことにこのディアマンテ、大人顔負けの貫禄なのにまだ15歳だった。見えねぇ…。

 

「ルシー、疲れたら言えよ。背負ってやるからな」

 

「うん。ありがとう」

 

対してピーカはまだ可愛げがある。迷子にならないようにと私の手を握って、私の歩幅に合わせてゆっくりゆっくり歩いてくれる。最初は自分勝手だったドフラミンゴもだんだん歳下の妹に気遣うことができるようになっていったけれど、ピーカのように最初から気遣いのできる人は珍しい。優しいロシナンテだって最初は私をどう扱うべきか狼狽えていたのになぁ。……ロシナンテに会いたいなぁ…元気かなぁ。

 

「……元気ないな。どうしたんだ?」

 

「うん…ロシーに会いた……………アッ、いやいや、何でもない何でもない!」

 

ここで会いたいなんて言ったら武力行使でロシナンテを探そうとするかもしれない。それこそ島中の人間一人ひとりを拷問にかけたりしながら。…それはマズイ。店で暴れるディアマンテの方に早く行こうと、ピーカの手を引っ張った。

 

「は、早く行こう!ディアマンテを止めなきゃ、お店がなくなっちゃう!」

 

「ああ、そうだな」

 

ピーカのソプラノボイスは独特だ。本人もとても気にしていて、何度か喉を潰そうとしたけれど失敗して今の声に落ち着いたのだと聞いた。そんなヘビーな話を聞いてしまうと、ソプラノボイスを聞いても笑うに笑えなかった。でもあの笑い声はまだちょっと笑いそうになる。…ゴメン。

 

「ねえピーカ、兄上は?」

 

「ドフィはヴェルゴと訓練をしている。大丈夫だ、ヴェルゴはドフィに怪我をさせない…」

 

「うーん、そっかー」

 

それは別に心配してないんだけどなぁ。両腕に山のようにパンを抱えたディアマンテが、早く帰らないと焼きたてじゃなくなる、とか言い出したのでピーカに背負ってもらって帰ることになった。アジトでは息を切らしたドフィとヴェルゴが水を飲みながら会話していた。

 

「ただいま、兄上、ヴェルゴ」

 

「ああ。…ディアマンテ、何だそれは?」

 

「焼きたてのパンだ!!!」

 

木箱で作ったテーブルの上にはヴェルゴがドヤ顔でパンを置いたけれど、いくつかは乗りきれずにテーブルから転がり落ちた。ああ、もったいない…。落ちたパンを軽く払って食べようとしたら、ヴェルゴに怒られた。

 

「オイ、ルシー!落ちた物を食べるな!」

 

「へ?…あ、つい」

 

ハッとした。そうだ、何で私、落ちた物を躊躇いもなく拾って食べようとしてるんだ。3秒ルールは別として、前世じゃ床の上、しかも土足で踏みしめる床に落ちた物なんて食べようと考えすらしなかったはずなのに。生きるか死ぬかのゴミ捨て場生活がとことん身に染みてしまったらしい。かくいうドフラミンゴもハッとした顔をしているし。…私はドフラミンゴとロシナンテが持って帰ってきた生ゴミを食べて生き延びていたけれど、ドフラミンゴなんかはガチでゴミ漁って食べてたし。

 

「いや、でもほら、床に虫が這ってるわけでもないし、泥水吸ってるわけでもないし、カビてないし、焼きたてだし。せっかくディアマンテが取ってきてくれたのに、もったいないじゃない?」

 

「…先にテーブルのを食べるんだ。わざわざ落ちた物から食べる必要もないだろ」

 

「それもそっか」

 

当たり前のことを言われて、改めて納得した。ああ、この下がりきった価値観はちゃんと直さないと。落ちたパンを置いて、机の上のパンにかぶりついた。甘くて、真っ白でモチモチしてて…香ばしくて、柔らかい。海軍の船に乗った時だって、毒を盛られないようにと缶詰、干し肉、ドライフルーツぐらいしか食べていなかったから、こんな美味しいものを食べるのは本当に久しぶりだった。ドフラミンゴたちも各々パンを食べて、わいわいと盛り上がっている。食事を食べて、賑やかに笑いあっているなんて、久しぶりすぎて、気が付いたら視界がぼやけていた。ああ、これで温感が戻ってきていたらなぁ。きっと、あたたかさが分かったはずなのに。

 

「……オイオイ、どうしたんだ?ルシー」

 

「ううん…なんか、幸せだなーって思っただけ」

 

「つくづく、変なヤツだなァ…お前は」

 

ディアマンテが大きな手のひらで頭を撫でてきた。後から取り立てを終えて戻ってきたトレーボルも一緒にパンを食べて、内容は物騒極まりないものだけど賑やかに今後の…未来の話を語り合って、眠るまでずっと、この粗末な食卓を囲んで、みんなで一緒に過ごした。この薄暗いアジトは私の家なのだと、心から思えた日のことだった。

 


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